第107話 弱者の抵抗/限られた選択(17)
あの日、斬り棄てた
けれど、今を生きる
祈りに
斬刃の軌跡に乱れが生まれる。石火散らす抵抗。狂える音律。斬断の
植生の暴圧に果てはない。軍勢は、飽くことなく
死地に拓いた生存圏が縮退する。
擬神は、尽きず絶えない
つまるところ、世界ひとつを否定し尽くすのに、――たかが、
もとより、この
求めたのは、ひとつの
視点を上向ければ、展開した斬刃の領域分のみ、――
開けた空。眩しい青。雲一つない蒼天を越えて、彼は手にした兵器群へと咆哮する。
皮肉な話だ。古来より、獣の叫びは魔を
『エブニシエンッ! 鈍らだ! 二振り目! あの出来損ないを寄越せッ!!』
“承知しました……旦那様”
陰々たる思惟。
ジョンの総身に“巨人”の
途端、鉛のような重みが
まるで地に在りながら墜落するかのよう。鉛直を指向する
不条理をもたらした巨人に悪意はない。届け物をする以上、
“どうぞお気をつけを、……潰れたりなどなさりませぬよう”
気遣いは、喜悦に濡れている。
『アニスッ! 吹雪で森を覆え! 凍らせて留めろ!!』
“わかったよ! 旦那! 一緒にディアドラのやつ、ぶっ
返る応えは、
一点の曇りもない。
一方で、ジョンは、――軽やかに弾む
おかしな話だ。不様と言えた。わずかとはいえ、さらしたのは、失笑にすら値しない不覚悟だ。
この期に及んですら“
否定、否定と、つまらない言葉の
理解しているだろう。
この事態は、明らかに
喪われた幻想。まだ色を持たなかった、透明な
すこし離れて、そっと見て、ただ微笑んでいた
過ぎ去りし残照、――思い出を、いつまでも棄てることができない幼稚。それこそ
『バーゲストッ! さっさと来い!! 火を貸せ!!』
叫びは炎に似ていた。あるいは、
黒狼からの応えはない。ただ、わずかに嘆息の気配がそよぐ。無駄口はない。そもそも狼なのだから話さない。
感傷を理解はすれども、過度に付き合わない。想定された事態が発生した以上、――かの黒狼は、爪牙と炎によって為すべきことを為すだけだ。
『野郎ども! 来るぞ!! エブニシエンと協力して、アニスを守れ! 森から出て来た化け物ども、一匹の残らず始末しろ!!』
集めた
只の人。災いの前には、何の力にも成り得ない有象無象だが、――怪物の助力があるのなら話は別だ。
悪の下で悪事に手を貸した罪人ども。さあ
少なくとも近くの都市に住まう民よりは、災いの誘因性に優れているはずだ。
いやはや、守るものがあるというのは、とても大変だ。
本性を
最終目標は、強襲戦。
しかし、もとより防衛戦もまた想定された事態。未だ不安定な
想定したとおり、万事うまく事を運ぶ必要がある。それがおとぎばなしの
しかし、もし仮に想定を超えた
いや、呼べない。
因果応報の奈落。
素体は、紛れもなく騎士のそれ。等級は至上。おそらくは廃絶された血統。なのに、怪物にも似て、おそらく神の側面をも備える。そして、――
ここに、
あらゆる
いくら死んでもよみがえる応報の外典。
噛み合い過ぎるこの二つが、殺し/殺される関係に陥ったとき。
果たして、どこに行き着くのだろう。
最悪の予想が的中したとき、
もちろん、この仮定には、実証されていない条件がいくつもある。
しかし、一度始めてしまえば、止められない。
死解の
時間はない。いつだって時間は
破綻が始まるその前に。
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