第16話 転落


【サイド:五味】



 いやぁ、おれってばすっかり有名人になっちゃったなぁ。

 いつの間に俺こんなに強くなってたんだろうか。

 やっぱり日頃の行いがよかったからかなぁ。

 どんなモンスターにももはや負ける気がしないぜ。


 全部ワンパンで倒せてしまうからな。

 それに、なんとマーマレードさんを助けてしまったからな。

 おかげで俺の切り抜き動画はめちゃくちゃバズりまくってる。

 俺のSNSのフォロワーもどんどん増えるし、テレビ取材なんかもきやがった。


 それに、これを機にマーマレードさんとお近づきになれるのがでかいぜ。

 あの乳はやべえからなぁ。

 マーマレードさんといえば、かなりの美人配信者で有名で、雑誌にグラビアがのったこともある。

 あんな美人の乳を好き勝手してみたいもんだぜ。

 俺はマーマレードさんを助けたおかげで、彼女と連絡先を交換することができた。


 最高だぜ。

 マーマレードさんを抱くまで、あともう少しだな。

 マーマレードさんは、ぜひ俺にお礼がしたいと言ってきた。

 さっそく今度デートする約束もしたからな。

 今から勃起が治まらないぜ。

 マーマレードさん、はやくあいたいなぁ。

 げへへへ。


 すると、俺のTwitterに連絡があった。

 マーマレードさんからだ。

 うれしいなぁ。

 もしかしてえっちな自撮りとか送ってくれたのかな?


 俺はワクワクした気分で、メッセージを開く。

 すると、そこにはなんとこう書かれていた。


【失望しました。あなたがそんな人とは知りませんでした。さようなら、気持ち悪いです。今後一切かかわらないでください】


 と、メッセージがあった。

 は……?

 ど、どういうことだ……?

 なんでそうなるんだ……?

 なにがあった……?


「このクソ女……!!!!」


 しかも、ご丁寧にブロックまでされている。

 くそ、俺がなにをしたってんだよ。


 すると、他にもいろいろとメッセージがとんできていた。


【五味、死ね】


「はぁ……?」


 そのほかにも、いろいろと俺に誹謗中傷のメッセージが飛んできている。

 意味が分からない……。

 なんでこんなことに……?

 なんか俺の直近のツイートが拡散されて、炎上みたいになっている。

 なにがあったんだ……?


【五味は逮捕されろ】


「はぁ……? なんだこいつら、ふざけんな!」


 なにがあったのか把握するために、俺は自分の名前でエゴサする。

 すると、ある動画が流れてきた。

 こいつが原因か……。

 どれどれ。


【恐怖!五味武の本性!お見せします!すべて暴露します!】


 という動画タイトルだ。

 いったいどこのバカがこんな動画作りやがった。

 ふざけんな。

 訴えてやる。


 暴露屋チャンネルだとぉ……?

 どうせ嘘ばっかいってんだろうな。

 みんなもこんな嘘に騙されて馬鹿だな。

 どれ、少し動画を見てやるか。


 動画を再生すると、なにやら変な仮面の男が映っている。


【はいどうもー暴露屋チャンネルです】


「なんだこいつ……?」


【今日はですねぇ。今人気のダンチューバーである、五味武くんのことを暴露するよ!】


「勝手にいってろよ。ゴミクズが」


 くだらねえ動画だ。

 次の瞬間、俺の肝が冷える。


【なんと五味は、他の底辺冒険者をダンジョンの中でいじめていたのです! ここにばっちりと証拠もありますよぉ?】


「は……! 証拠なんてどこに…………」


【はい、今から動画を流しますねー?】


「は…………? ちょ…………これ……マジのやつかよ……!?」

 


===========================

「おいお前! ここは俺たちの縄張りなんだよ。死ね!」

「で、でもそんなルールはないはずだけど……」

「うるせえ! 俺は最近いろいろあって、むしゃくしゃしてんだよ! 口答えするようだったら、マジで殺すぞ?」

===========================



 そこには、ダンジョンの中で冒険者を殴る俺のすがたが映し出されていた。

 嘘だろ……。

 こんなのいつとったってんだよ。

 てか、これはまずくないか……?

 さすがにばっちりと俺の顔映ってるし……。

 これ、もしかして炎上するんじゃ……?

 ていうか、すでにしてるのか……。


 いや待てよ、落ち着け。

 こんなの合成動画とか、はめられたとか、まだ言い訳はできる。

 こいつのほうが間違ったことしている、悪いやつなんだ。

 みんな、善良な俺のことを信じるに決まってるさ。

 俺はなにもしてねぇんだからよ。

 とにかく、続きをみるか……。


 ――バキ! ドゴォ!


 やべえ、探索者を殴ってるところがばっちり映ってるじゃねえか……。

 どうしよう…………。


 ちょっとコメントを見てみるか……。


 そこには、目を塞ぎたくなるような誹謗中傷のコメントが書かれていた。


【うわ、こいつ最悪だな】

【ダンジョンの中でいじめとか、やるやついるってきいてたけど、本当にいるんだな】

【親の顔が見てみたい。どうせカスみたいな毒親なんだろうな】


 くそが、親のことは関係ねえだろうが!

 うちの親はまともだ!


【うわぁ……いかにもなDQN顔してるもんな……】


 うるせえ! 顔は関係ねえだろ!


【死んでほしい】


 うるせえお前が死ね。


【これふつうに犯罪だろ? マジでやるやついるんだな……。こうやって動画にとられてすぐばれそうだけど、よく今までバレなかったな】

【マジでやるやついるんだ。頭悪そう】

【死んだほうがいいよ】

【クソDQNだな】

【こいつマーマレードさん助けていい人ぶってたけど、カスじゃねえか】

【マジで幻滅したわ、ブロックした】

【なんでこんなことしながらいい人ぶれたんだろう?二重人格?】

【マーマレードさん助けたのも売名じゃね?】

【ちょっと強いからってイキんなよなだせえなあ】

【前の配信見てファンになってたけど、死ね】



「うわああああああああああああああああああ!!!!」


 さすがの俺も、自分に向けられた悪意の数々に、頭がどうにかなりそうだった。

 なんだってんだ。

 なんで俺がこんな目に……!?


 もうやめてくれよ……。

 俺がなにしたってんだよ……!


 動画の中の声は、俺のすがたを見ているかのように、淡々と続ける。


【まだ終わらないよ?まだまだこんなもんじゃないよ?俺はもっとやるよ?お前をおいつめるためにね?泣いてもゆるさないからね?五味くぅ~んwwwwwwねえ、今どんな気持ちぃ?】


「くっそおおお! 死ね死ね死ねゴミが!!!!」


 俺はスマホを地面にたたきつけた。

 しかし、スマホは依然として動画を再生し続ける。

 もう見たくはないと思いながらも、俺はその動画を停止できずにいた。

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