第8話 証拠


 さてと、まずは先に証拠を集めるかな。

 五味が底辺探索者をいじめている証拠の動画をつくろう。

 やつがバズってからだと、いろいろと慎重になられても面倒だ。

 今の脇が甘いうちに、証拠をとってしまおう。


 俺は、透明化スキルを使って、透明になった。

 そしてその状態でカメラを構え、五味のあとをつける。

 もちろんカメラにも透明化は適用される。


 五味たちはダンジョンに入っていく。

 お、ちょうど気の弱そうな探索者が一人でふらふら歩いているな。

 かつての俺のような青年だ。

 さっそく、五味はそいつに話しかける。

 俺は、カメラを回す。


「おいお前! ここは俺たちの縄張りなんだよ。死ね!」

「で、でもそんなルールはないはずだけど……」

「うるせえ! 俺は最近いろいろあって、むしゃくしゃしてんだよ! 口答えするようだったら、マジで殺すぞ?」


 すると五味は、その探索者を殴り始めた。

 いいぞ、その調子だ。

 俺はカメラにしっかりとその様子をおさめる。


 ――バキ! ドゴォ!


「や、やめてくれ……! こんなことして、タダで済むと思ってるのか……!? 君たちは犯罪者だぞ! このことは、ダンジョン協会に報告するからな……! この怪我をみせれば……」

「うるせえだまれ! どこにそんな証拠があるってんだよ! ダンジョンで怪我したとしても、そんなのモンスターと戦ったらあたりまえだろうが! お前が怪我してても、なんの証拠にもならねえよ!」

「っく……なら、これでどうだ……!」


 青年は、カメラを取り出して、五味に向ける。

 しかし、すぐにカメラは九頭によって真っ二つにされてしまう。

 俺がやられたのと同じ光景だ。


「っく……ひどい……」

「ひどいのはこの世の中だ……! そうだろ!? くそが! なんで俺がユランにやられなきゃいけねえんだよ! なんで俺の金がなくなってんだよ! ゴミが! ゴミ!」


 五味は、まるで俺へのフラストレーションをぶつけるように、青年をいたぶる。


「くぅ……お前たち……ゆるさないからな……! 僕だって出るところに出るからな……! 証拠だって。この傷をみせればきっと……!」

「うるせえ! お前が死ねば証拠なんて残らねえんだよ!」


 ざんねーん。ばっちりと証拠はとっています。

 さて、もうこのくらいでいいかな。

 このままじゃ、マジでこいつら殺しそうな勢いだ。

 さすがにそろそろ助けてやろう。


 俺はカメラを止めた。

 そして透明なまま、五味に近づくと、後ろからパンチを喰らわせた。


「ぐぎゃ……!? な、なんだ……!?」


 そして透明のまま、五味をぼこぼこに殴る。


「ぐぎゃ……!? ごきゃ……!?」


 五味の身体が変な方向に曲がる。

 いいなこれ、透明だから俺だってばれないし、殴り放題だ。


「五味君……!? どうしたの……!?」


 馬場が困惑して、心配そうにたずねる。

 しかし、五味は俺に殴られ、宙を舞う。


「くそ……!? なんだこれ……!? わからねえ……!? どっからこの攻撃はとんできているんだ……!? くそ……!? 透明人間か……!? くそ……! 姿をあらわしやがれ! 卑怯だぞ!」


 俺はそのまま、五味をぼこぼこにいたぶった。

 そうこうしているあいだに、青年は逃げていったようだ。

 よし、これでいいだろう。


 俺は五味をダンジョンの壁に放り投げると、ダンジョンを後にした。

 証拠はこれでばっちりだ。



 ◆



 ダンジョンを出て、スマホに連絡があったことに気づく。

 誰からだろうか……。

 バイト先ではないよな……?

 あれから、むかつくのでバイトはやめてやった。

 もうバイトなんかしなくても、五味たちから奪った金が、山のようにあるからな。

 しばらくは貯金がたんまりある。


 連絡は、見覚えのない女性の名前からだった。

 あ……あの人か。

 思い出す。

 この前、コンビニの前で助けた、あのめっちゃくちゃ可愛い、美少女だ。

 

【ぜひお礼がしたいんです! こんど、デートしてくれませんか……?】


 とのことだった。

 俺はもちろんと返事を返す。

 あんな美少女とデートか、悪くない。


 そう言えば、彼女と別れ際に、俺は万能鑑定をつかっていた。

 今一度、彼女のステータスを思い出す。



================

 来栖瑠璃

 21歳


 B 85

 W 59

 H 85


 ダンチューバー

 登録者数150万人

 有名ダンチューバーるりりんとして活躍


 モデルとしても活躍


 ショートカットの男性が好み

 スーツ姿に萌える


 押しに弱い

 処女

 男性経験なし

 彼氏歴なし

 男友達なし

 

 ストーカー被害にあっている


 好きなお店はルルブラン

 フランス料理が好き

 ロマンチックな夜景に憧れ


 リードできる男性が好み

 強い男性に憧れ

 身長の高い男性が好き

================



 なるほどな、大体の傾向は分かった。

 せっかくデートするのだから、俺としてもぜひ成功させたい。

 だから、彼女の好みをあらかじめ把握しておくのは大事だ。

 万能鑑定はこういうときも便利だな。


 おっと、別に瑠璃さんとデートしたからって、これは浮気にはならないよな?

 春香はもはや、俺の彼女じゃないんだし。

 ていうか、春香だって浮気してるんだし。

 俺が誰とデートしたからって、俺の勝手だろ?


 せっかくの美人とのデートだ。

 これを機に、うまく彼女を作りたいものだ。

 春香は徹底的に復讐して抹殺するからな。

 そのあとのことを考えたら、俺も別の彼女が必要だ。


 さてと、万能鑑定で得た情報をもとに、いろいろとデートの準備だ。

 まずは、厚底の靴を買ってくる。

 瑠璃はどうやら、身長の高い男性が好みだそうだからな。

 少しでも高くみせたい。


 俺の身長はそこまで低くもなく、高くもない。

 瑠璃よりはおそらく高いはずだから、まあ大丈夫だろう。


 食事は、フランス料理の店を予約しておいた。

 好きなお店はルルブランとあったが、どうやらルルブランというのはかわいらしい雑貨を売っているブランドものの店らしい。

 俺はルルブランの店舗が近くにあるフランス料理屋を予約した。

 金はいくらでもあることだし、かなり奮発していい店を予約した。


 ショートカットの男性が好みとあったから、美容院でかなり短めにそろえてもらった。

 スーツ姿に萌えるとあったから、とびきりいいスーツを注文した。


 よし、これでデートの準備はばっちりだ。

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