第6話 没収


 俺は復讐を誓った。

 今までの俺は死んだ。

 これからの俺は、復讐の鬼だ。

 徹底的にやる。


 すぐに殺しなんかはしないよ?

 当然だ。

 俺の受けた屈辱は、こんなもんじゃない。

 死なんてなまぬるいなまぬるい。

 すぐに殺さない。

 ゆっくりじっくりと痛めつけて、死ぬほど苦しい目に合わせてやるんだ。


 俺は復讐するために、いくつかの計画を立てた。

 そしてまずは、復讐するに先だって、俺はもっと強くなる必要がある。

 今までの俺は弱い。弱すぎたんだ。

 だから俺は見下され、おもちゃにされた。

 すべては俺に力がなかったからだ。

 俺はもっと強くなる必要がある。


 幸い、俺の万能鑑定を使えば、強くなることができる。

 なにせ、モンスターのスキルを奪えるんだからな。

 それに、弱点だってわかるんだ。

 これを活かさない術はない。


 俺はダンジョンに単身潜り、とにかくモンスターを殺しまくった。

 もちろんモンスターを殺すまえに、しっかりと万能鑑定を使い、スキルを奪いとる。

 俺は奴らへの怒りをぶつけるがごとく、モンスターたちを屠りまくった。

 とにかくスプラッターに、モンスターを食い散らかす。

 どんどんレベルがあがり、俺はあっという間にレベル100だ。


 信じられないな。

 あれほど弱かった俺が、すでにレベルカンストだ。

 しかもスキルも無数にある。

 ふつう、どんなに才能のある探索者でも、せいぜいスキルに目覚めても5個が限界だ。

 それなのに、俺はありとあらゆるモンスターからスキルを奪い、もう100個もスキルを覚えた。

 これだけあれば、どんな強敵にも負けることはない。


 そしてその間にアーティファクトもかなり収集できた。

 なかには戦闘で役に立つ強力なアーティファクトも手に入れることができた。

 こうなりゃもう百人力だ。

 そして必要のないアーティファクトは売りさばくことで、かなりの大金も入手した。


 力に、金。

 復讐に必要なものは一通りそろった。

 あとは、実行に移すだけだ。


 待て待て、すぐには殺さない。

 抑えろ……。


 さて、行くか。

 俺は五味が普段潜っているダンジョンに向かった。

 ダンジョンの出口で、五味が出てくるのを3時間ほど待つ。


 そして、ダンジョンから五味たちが出てくる。

 俺はしずかに彼らに近づいた。

 五味は、俺をみるなり、まるで幽霊でもみたかのような顔で驚いた。

 ははは……みんな思い通りの反応をするな。面白い。


「どうした? そんな幽霊でもみたような顔をして。震えてるぞ?」


 俺は五味に近づいて、話しかける。


「な……ななななな……なんでお前がここにいんだよ……っ……!」


 そこで、五味は言葉を詰まらせた。

 そりゃあそうだ。

 まわりには、まだ他の探索者たちもいる。

 そんな中で、「殺したはずなのに」なんて言えないもんな?


「どうした? 殺したはずなのに……か……?」

「っく……。どうやって出た……?」

「さあな。自分で考えろ」


 答えてやる義理はない。


「てめえ、なんだか知らねえが。ちっと見ない間に偉そうになりやがって。何様のつもりだ? てめえユランのくせに、俺に口答えすんじゃねえよ。いいだろう、もういっぺん殺してやるよ! 今度は直接なぁ!」


 逆上した五味は、俺にむかって拳を振り上げる。

 しかし、その拳は俺にあたることなく、宙を空振りする。

 俺は華麗に、奴の攻撃を避けたのだ。


「あん……?」


 前までの俺なら、五味のすばやい攻撃をよけることは難しかった。

 しかし、今の俺はレベル100のカンスト探索者だ。

 俺のステータスから考えても、五味の攻撃は止まってみえた。


「ふん、本気で狙っているのか?」

「この……! くそが! ユランのくせに避けるんじゃねえ!」


 もう一度、五味は俺に殴りかかる。

 しかし、それは空振りする。

 俺はしゃがんで、やつのパンチを避けた。


「先に手をだしたのは、お前だからな?」

「あん?」


 俺はしゃがみこんでそのまま、流れで五味の顎にアッパーパンチを喰らわせる。


 ――ドゴォ!


「ぐああああ……!?」


 五味の脳が揺れる。

 やつはそのままふらふらと、後ろに倒れこんだ。


「くそ……どうなってやがる……。ユランのくせに……雑魚のくせに……!」


 そのときだった。

 騒ぎを聞きつけたのか、ダンジョン協会の警備員が俺たちのもとに駆け寄ってきた。

 ダンジョン協会とは、ダンジョンの秩序を守る存在だ。

 その権力は、警察にも準ずるものがある。

 ダンジョン協会員は、各ダンジョンにそれぞれ数名配備されていて、ダンジョンでのいざこざなんかに対処する。

 探索者どうしで喧嘩になることは、珍しいことじゃない。

 ただし、暴力などは、それがたとえスキルや魔法を使ったものであっても、きちんと日本国の法律で、暴行罪として裁かれる。


「なんだなんだ! 喧嘩か……? どっちか手をだしたか……?」


 ダンジョン協会の警備員が駆け寄ってきた。

 ここで、五味が、俺に殴られたとでも供述すれば、俺は逮捕されるだろう。

 だが、五味はプライドが高い。

 俺のような雑魚に一方的に殴られたなどと、五味が認めるはずはない。

 俺もそれを見越して、五味を殴ったのだ。


「なんでもないですよ。少し言い争いになっただけです。暴力は発生していません。なので、ダンジョン協会員さんのお手をわずらわせることはないですよ。ねえ?」


 俺は五味に同意を求める。

 俺の予想通り、五味は俺に殴られただのという訴えは起こさなかった。

 五味はそのまま黙って、俺をにらみつけている。

 警備員はとりあえず俺の言葉を鵜呑みにすると、「わかった……。言い争いもほどほどにしろよ……」とだけいって戻っていった。


 さてと、俺も用事は済んだことだし、そろそろ行くか。

 俺は別に、この場で五味たちをどうこうしようというつもりはなかった。

 まあ、周りに人も大勢いるし、警備員だっている。

 この場で五味をぼこぼこにすると、俺が捕まってしまうからな。

 それに、いきなり五味をぼこぼこにしても、つまらないだろ?

 さっきのパンチでとりあえずは一発くらわせたしな。

 いきなり殺すなんて、そんなの芸がない。


 まずは、物理的にやる前に、精神的に追い詰めなきゃ。


 俺が今回五味に接触したのは、彼らのステータスを万能鑑定で見るためだった。

 万能鑑定で相手の情報を得れば、あとはそれをどう料理するもこっちの思いのままだ。

 その目的はもう済んだから、あとはようはない。


 地面に座り込んで、放心状態の五味をその場に残して、俺は去ることにする。


「じゃあな。五味。せいぜい残りの寿命をかみしめるといい。怯えながら暮らせ」

「おい……! まてよ……! この、くそ……!」


 俺は五味の捨て台詞を無視して、去って行く。


 さて、五味たちのステータス情報は把握した。

 そうだな。

 まず最初に、ちょっとした嫌がらせでもするか。

 まあ、これだけでも相当ききそうだけどなw


 俺はその足で銀行までいくと、五味の口座にアクセスした。

 万能鑑定はすべてを暴く万能のスキルだ。

 万能鑑定で一度相手を見ればその講座番号から暗証番号、パスワード、全部丸見えだ。


 講座番号と暗証番号、それから各種あいつらの個人情報がある。

 それさえあれば、やつらの口座から金を抜き出すのなんて、簡単なことだった。


 俺は、ダンジョンでモンスターたちから手に入れたスキルを使って、ハッキングしたのだ。

 ダンジョンで手に入れた【創造】というスキル。

 それを使って、やつらのキャッシュカードを偽造する。

 やつらの口座番号を頭に思い浮かべ、それのキッシュカードを創造する。

 これで、やつらの口座は丸裸だ。


 俺は五味たちの口座にアクセスして、やつらの金をすべて抜き取った。

 そして自分の口座に入金だ。


 海外の複数の銀行やペーパーカンパニー通して複数の口座に入れる、引き出して別の口座に入れる等のをマネーロンダリングして、足はつかないようにした。


「あいつら……結構ため込んでるじゃねえか……」


 さすが、探索者として活動しているだけあるな。

 そこそこの金を奪いとることができた。


「はは……あいつら、明日からどうやって暮らすのかな?」



 ◆



【サイド:五味】



「くそおおおおおおお!!!!」


 俺は自分の足元に武器を叩きつけていた。

 くそ、なんであのユランがあんなに強いんだ……?

 あの雑魚だったユランが、まるで別人のようになって、俺の前に現れやがった。

 あいつはダンジョンに置き去りにして殺したはずだ。

 それなのに、なんでだ……?

 地獄のふちから蘇ったのか……?


 この俺様があんなクソ雑魚やろうにやられるなんて、信じられねえ……!

 しかも、なんだあの偉そうな態度は。

 あいつ、あんなやつだったか……?

 くそ……なにもかもいけ好かねえ。


「次あったらぜったい殺す……!」


 怒りに狂う俺を、なだめるように馬場が言う。


「あいつおかしいよ。薬でもやってんじゃないの? なんか目つきとかやばかったよ……? ぜったいなんかズルしてるんだって、じゃなきゃ、五味くんがやられるわけないもの!」

「くそ……! 腹が立つぜ! 今日は散財してやる! ドカ食いするぞ!」


 俺たちは、ダンジョンをあとにして、飯を食いにいくことにした。

 

「おっと、ちょっとその前に金おろしてくるわ……」


 もうこうなりゃ自棄だ。

 三万くらいする焼肉を食おう。

 そうでもしないと、この怒りは収まらない。


 コンビニに行き、金を降ろそうと、暗証番号を入れる。

 そして、俺の目の前に絶望が叩きつけられる。


【講座残高がありません】


「は…………?」


 なんどやりなおしてもダメだ。

 番号がまちがっているわけでもないみたいだ。

 

 俺の残高を確認してみる。


【講座残高:0円】


「はあああああああああああああああああああ……!?!?!?!?!」


 今までためた俺の全財産が、なくなっている。

 意味が分からない。


「くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!死ね!」


 俺はやり場のない怒りを、床にぶつけるのだった。


 ――ドン!


「あの……お客様? 困ります。それ以上やられると、警察を呼ぶことになりますよ?」

「っち…………」


 俺はコンビニの商品棚を蹴って、そのままコンビニを後にした。

 マジでムカつくわ……!

 

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