第4話 万能鑑定


 俺がやっとの思いでダンジョンから抜け出たときには、もう外は夜だった。


「はぁ……死ぬかと思ったぜ……」


 あたりを見渡しても、すでにダンジョン探索者の多くは店じまいをしている。

 当然、五味たちのパーティーの姿もない。

 さすがにもう帰ったか……。

 まあ、復讐はまたにしよう。

 なに、急ぐ必要はないさ。

 じっくりと痛めつけてやる……。


 あいつら、俺のことをダンジョン協会に報告しただろうか。

 ダンジョン内でのメンバーの遭難などは、ダンジョン協会に届け出を出すことになっているからな。

 と思ったら、ちょうどダンジョン協会の捜索隊らしき制服の男たちが、こちらに近づいてくる。

 なにやら手元の写真と俺の顔を見比べているようだ。


「あ、あなた……? もしかして闇雲ユランさん?」

「そうだが」


 捜索隊のリーダーらしき女性が、俺に話しかけてくる。


「雰囲気が少し違うみたいだけど……間違いなさそうね……」

「俺になにか……?」

「五味さんという方から、パーティーメンバーのあなたがダンジョン内で遭難したとの報告を受けたの。それで、捜索に来たのだけれど……。どうやら、無事なようね? 自力で戻ってこれたのかしら……?」

「ええ、まあ。そうです。ご心配をおかけしました」

「もしかしてということがあるから……これは念のために全員にきくのだけれど。パーティーメンバーからダンジョンに置き去りにされたとかではないのよね? あくまでこれは事故。そうなのよね? もしそうだとしたら、正直に言ってちょうだい。ダンジョン協会が、あなたを全力で守ります」

「…………そうですね。俺はただ運悪く取り残されて、遭難した。それだけですよ。彼らは悪くありません」

「その言葉……信じるわね……」


 さすがにダンジョン協会も、今回のことを少しきな臭く思っていたようだ。

 まあ、都合よくメンバー一人だけが遭難して、残りのメンバーが無傷で戻ってくるなんてのは、不自然だからな。

 だからダンジョン協会が五味のことを少し疑うのは当然だろう。

 だが俺は、ダンジョン協会には助けを求めなかった。

 ダンジョン協会に今回のことを訴えれば、おそらく調査が入って、五味は逮捕されるだろう。


 だが――。

 俺はそんなことはしない。

 だって、それじゃあ俺が五味たちに復讐できないじゃないか。

 そんなのはつまらない。

 俺を殺そうとしたんだ。

 あいつらには逮捕なんかじゃ生ぬるい。

 もっとひどい目にあってもらう。

 そのためには、ダンジョン協会に邪魔されては困るんでね。


「じゃあ、俺はこの通り無事なんで、もう大丈夫です。ご苦労様でした」

「そうね……気を付けて帰るのよ。またなにかあったら、いつでもダンジョン協会を頼ってちょうだい」

「そうします」


 俺はダンジョンをあとにした。


 家に帰ろうとしていたそのときだった。

 突然、スマホが鳴る。

 電話をかけてきたのは、バイト先の店長だった。


「てめえ! こんな時間までなにしてやがった! さっさと来い!」

「あ……やべ……」


 そういえば、今日はバイトが入ってたのだった。

 バイトは夕方からだから、それまでダンジョンを探索するつもりだった。

 だけど、あいつらに置いてけぼりにされたせいで、こんな時間になってしまった。

 いろんなことがありすぎたせいで、すっかり頭から抜け落ちていた……。

 しかたない……。

 今からでも言って、謝ってくるか……。

 すっかり時間は夜になって、俺のシフト時間は過ぎてしまっている。

 だけど、俺は急いでバイト先のコンビニまで直行した。


「てめえ! 殺すぞ! 普段からのろまで使えないくせに、さぼりとはいい度胸だなぁ!」

「すみません……」


 俺は、しぶしぶ頭を下げる。


「あん……? なんだぁ……? なんかお前、雰囲気変わったな……? なんか、前はもっとひょろひょろしてて、根暗で気持ちわるかったが……。なんか、お前生意気だぞ。気に食わない目つきだ」

「そうですか……? すみません」

「今からでもいい、掃除して帰れ! 店の中全部掃除だ。当然、給料は出ないものと思え!」


 それってパワハラなんじゃ……。

 さすがに、今からじゃ面倒だなぁ……。

 はやく帰って妹の晩御飯を用意しないといけないし……。

 それに前から、この店長は俺に暴言を吐いてきたりして、こきつかってきて、ムカついていたんだ。

 今日はちょうどあんなこともあったから、むしゃくしゃしているんだよな。

 面倒だし、このままどうにかさぼりたいな……。

 そうだ、ちょっと万能鑑定を店長につかってみることにしよう。

 なにか面白い情報が得られるかもしれない。

 俺は店長に向けて、こっそり万能鑑定を使う。

 万能鑑定は、心の中でつぶやくだけで、無詠唱で使うことができた。


「なんだぁ? 俺の顔になにかついてんのかぁ?」



================

 山田修二

 35歳

 コンビニ店長


 嫁あり

 嫁に浮気されている

 そのことを知らない


 最近使っている髭剃りを変えた

 いつも威張っているが、実は臆病もの

 ギャンブル依存症


 タバコをよく吸う

 推しのアイドルの名前「金子彩」

 推しのアイドルに大金を使っている

 そのことを嫁にばれたくない


 口座番号 835○○○○352

 クレジットカード番号 49124○○34212

 住所 ●×△◆坂市321ー52

 電話番号 2412141●×

  ・

  ・

  ・

=================

 


 なんと、万能鑑定をつかうと、店長に関するあらゆる情報が俺の頭の中に流れ込んできた。

 口座番号から住所、それから借金の有無。

 とにかく知りえることはなんでもだ。

 へぇ……面白い。

 万能鑑定、人間に使うと、ここまでなんでもわかるのか……。

 店長の弱みゲットだな。


「おい、てめえ話きいてんのか! ぼけっとしやがってよ!」


 店長は俺の肩をどんと叩く。

 ムカついた……。

 今のは立派な暴力で、犯罪だよ?


「最近使っている髭剃り変えたんですね? 店長」

「はぁ……? そ、そうだけど……。なんでてめえがそんなこと知ってんだよ。気持ちわるっ……!」


 うわぁw店長まじでドン引きしてる。

 面白いw

 なんか、俺のこと幽霊みたかのような目でみてくる。

 めっちゃ怯えてるwwww

 臆病な性格ってのは、本当みたいだな。

 さらに追い打ちだ。


「金子彩っていうんですね。かわいい子ですね。でも、あまりお金を使いすぎると、奥さんに怒られますよ?」

「はぁ……!? なぁ……!? なんでお前があやちのこと……! うげぇ……!? い、いみわからんこと言うな……!」


 めちゃ動揺してんな……。

 まあ、そりゃあそうだわな。

 店長が、人に喋ったりしたことない情報を、俺が知ってるんだからな。

 そりゃあ、怖くもなるか。


「なんなんだよてめえさっきから! マジで気持ちわりい! なんでそんなこと知ってんだよ。薄気味悪いぜ……。もういい、気持ち悪いからもうお前今日は帰れ……!」

「はぁい」


 よし、帰れる。


「あ、店長……」

「な、なんだよ……」


 帰り際に、俺はさらなる追い打ちをかける。


「奥さん不倫してますよ。調べたほうがいいです」

「は…………!?」


 店長は口をあんぐりあけて、絶句していた。

 はっはっは。

 おもしれえ。

 この能力、実に面白いぞ……!


 コンビニから出る。

 すると、コンビニの前で、なにやらもめごとが起こっていた。

 はぁ……今日は次から次へと……。


「ねえおねえちゃん。お願いだよ。いいだろ? ちょっとおじさんと遊ぼうよ?」

「や、やめてください……!」


 どうやら、女性がしつこいナンパにあっているようだった。

 女性は、まるでアイドルとも見まごうほどの、美しい、黒髪ロングの美少女だった。

 はぁ……こりゃあ、ナンパもされるわな……。


 そして、女性にしつこくしているのは、サラリーマンの男だった。

 歳は……これもう50代だろ……。

 いいかげんにしろよオッサン……。

 あきれたな……。

 小太りでハゲの50代のオッサンが、こんなアイドルみたいな子口説けるわけないだろ……。

 めっちゃ迷惑そうにしてるし……。

 ちょっと助けてやるか。


「おいオッサン」


 俺は後ろからオッサンに話しかける。


「あん? なんだてめえは。邪魔すんじゃねえ!」


 俺はさっそく、オッサンに万能鑑定を使う。


==============

 丑三達夫

 53歳


 娘がいる

 娘のことを溺愛

 娘は13歳

 娘の名前「丑三林檎」

 学校でいじめられている

 そのことを父は知らない

 娘は父に知られたくない

  ・

  ・

  ・

===============



 なんか……娘のことばっかりだな……。

 こんなキショいオッサンでも、娘がいるんだな……。

 ていうか、娘いて溺愛してんのに、なにしてんだよお父さん……。

 情けねえ……。


 これを弱みとして使うか。


「なあおっさん、こんなことして恥ずかしくないのか? 娘さんが見たら泣くぞ?」

「あん? お前には関係ないだろ! それに俺に娘なんかいねえ!」


 はい、ダウト。

 俺には全部お見通しです。


「いや、いるでしょ。丑三林檎ちゃん。13歳だって? 結構可愛いですね。今が一番可愛いときでしょ」

「は…………!? え………………!? あ………………?????」


 はっはっはっはっはっは。

 おっさんの顔おもしれえ。

 めっちゃ急におっさんの顔固まったw

 まあそりゃあそうだわな。

 いきなり娘の名前出されたら、凍り付くわな。


「ちょ……え…………嘘だろ……なにこれ……」


 おっさんはうろたえはじめた。

 そして、逃げるようにして去って行く。

 まあ、怖いわなw


「あ、おっさん」


 俺は逃げるおっさんに、後ろから話しかける。


「娘さん学校でいじめられているみたいだから、話ちゃんときいてあげたほうがいいよ!」


 俺がそういうと、おっさんは一瞬だけ立ち止まり、それからまた走り去っていった。


 さて、これにて一件落着だな。


 俺が帰ろうとすると、さきほどまでおっさんに絡まれていた美少女が、俺のそでをつかむ。


「あの……、助けていただいて、ありがとうございました」

「なに、別にいいってことだ」

「あの。ぜひお礼をさせてください! 連絡先……」

「いや、別にいいから」

「そうはいきません……! お願いします」

「まあ、連絡先くらいなら……」


 ということで、俺は美少女と連絡先を交換した。

 ここまで美少女に迫られて、お礼をと言われたら、さすがに断れない。

 悪い気もしないしな。


「じゃあ、俺はこれで。気をつけて帰ってくださいね。お姉さん、美人だからまた絡まれるといけないから……」

「わ、私が美人……!? あ、ありがとうございます……」

「…………?」


 いや、どこからどう見ても美人でしょ……。

 まるで自分が美人である自覚がないような反応だな……。

 まあ、いいか。

 とりあえず、妹が家でお腹をすかしてまっている。

 俺は家路を急いだ。



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