第2話 いきなりの追放


「ユラン、お前はここで追放する。お前のような使えないゴミは、せいぜいダンジョンで死んで、ダンジョンコアに吸収されて、俺たちの糧になるんだな! 知ってたか? ダンジョンで死んだら、モンスターに生まれかわるらしいぜ。せいぜい俺たちの経験値になれよ、ゴミカス。ぎゃははははははは!」


 ダンジョンの65階あたりで、五味は急に立ち止まり、僕にそんなことを言い放った。

 意味が分からない……。

 僕は頭をかなづちで打たれたような衝撃を受けた。

 

「そんな……! いきなり……ひどい……! なんでなんだよ……! 手伝ってくれるって言ったじゃないか!」

「ぎゃはははは! 馬鹿が! 俺の言葉を信じるなんて、おめでたいやつだ」

「ダンジョンの中でいきなり追放だなんて……! どういうことなんだよ……!?」


 僕は抗議する。

 しかし、五味は僕の言葉なんかに耳をかさない。

 僕のことを殴りつけてきて、乱暴にこう言った。


「うるせえ! お前なんか最初から囮としか思ってねえよ! お前は今日ここで死ぬんだよ!」

「っく……なんで……なんでこんなこと……!」

「お前はいつも目障りなんだよ! 雑魚のくせに、努力してんじゃねえ! カス!」


 五味は僕のことをダンジョンの壁にたたきつける。

 ひどい……なんでこんなことを……!

 手伝ってやると言った五味の言葉を信じた僕が馬鹿だった。

 五味は最初から、僕をダンジョンの奥に置き去りにするつもりで、僕を連れてきたんだ。

 そうか、だから配信をするのはやめろとか言ってきたんだ……。

 なすすべもなく壁にもたれかかる僕。

 そんな僕を見下ろし、あざ笑うのは、五味のパーティーメンバーたちだ。


「きゃははは! 本当にバカよねぇ! 救いようもないわ! 五味くんがあんたみたいな弱者男性を救うわけないじゃない! あーあ、本当に気持ち悪いわ。弱い男って。死んだらいいのにね。あ、今から死ぬんだったわねw」


 僕に酷い罵倒を浴びせたのは、五味の彼女でパーティーメンバーの馬場ばば文乃ふみのだ。

 彼女も五味と同じく、大学生時代からの知り合いだ。

 僕は一度、彼女に告白して振られたことがある。

 僕のほうが先に彼女のことが好きだったのに、五味にとられて苦い思いをしたのを覚えている。

 だけど、まさか本性がこんな女だったなんて……!

 まさに、悪魔のような女だ。

 ここまで僕のことを嫌っていたなんてね。


 今まで馬場は、表面上では僕にも優しくしてくれていた。

 それだけに、この豹変ぶりはショックだ。


「前から死ねばいいと思ってたのよね~。ほんと、気持ち悪い。いつも私のことを精子くさい目で見てきて。本当に気持ち悪かった。五味くん、さっさと殺してよ」


 僕は……本当にこのままじゃ殺されるのか……!?

 いやだ……そんなの……!

 僕が殺されたら、妹はどうなるんだ……。

 妹のためにも、殺されるわけにはいかない。

 なんとかしなきゃ……。


 そうだ、こんなことしたら、五味だってただでは済まない。

 ダンジョンの中とはいえ、人を殺すのは今でも立派な犯罪だ。

 その証拠さえ押さえればいい。

 カメラが回っているところでは、五味も手出しできないはずだ。

 僕は、ポケットからダンカメを取り出した。

 そしてダンカメを起動し、宙に放り投げる。


 ダンカメというのは、ダンジョンの中を撮影することに特化した、カメラのことだ。

 ダンカメはドローンと一体型になっていて、自動で飛び回り、自動で撮影してくれる。

 そして瞬時に映像をダンチューブに配信してくれるすぐれものだ。

 ダンカメさえ起動して配信しておけば、この映像が世界中に流れる。

 そんな状況なら、五味も手出しはできない。


 しかし――。

 ――キン!


 僕のダンカメは、五味のパーティーメンバーである九頭くずさとしによってぶった切られる。

 そんな……。僕のダンカメはそれなりに耐久度もあって、そんじょそこらの攻撃では壊れないはずなのに……。

 それをこんな一瞬で……。

 やはり、五味のパーティーはかなり強い。

 ダンカメはダンジョンでの使用に耐えるように、かなりの耐久度でできている。

 くそ……ダンカメはかなり高いのに……。

 それどころじゃないか。僕は今、命を狙われているのだった。


 ちなみに、この九頭も同じく大学時代のサークルメンバーだ。

 九頭とはそれなりに仲がいいつもりだった。

 なのに、裏切られた気分だ。

 みんなして、僕のことを馬鹿にしていたのか……?


「憐れだよな。雑魚ってのは。雑魚に生まれた自分を恨むんだな。俺はなぁ。前からお前のそのなよなよしたところが嫌いだったんだよな。さっさと死んでほしいわ」


 九頭も、僕に容赦なく罵声をあびせかける。

 っく……やはり僕はここで殺されてしまうのか……。


「こんなことして……! ダンジョンでパーティーメンバーを殺すなんて、明るみに出たらお前たちだってただじゃすまないんだぞ……!?」

「はっはっは! だからバレないようにやるのさ! それにな、お前を殺すのは俺たちじゃない。こいつだ……!」

「なに……!?」


 五味が叫んだとたん、現れたのは巨大なオーガだった。

 五味が手に持っているのは、モンスターを引き寄せるためのモンスターの餌だ。

 そうか……五味が直接手を下せば、どこからか足がつくかもしれない。

 だが、こうやってモンスターに殺させれば、まずバレないというわけか。

 そのために、こうやって目撃者が少ない65階まで、わざわざ僕を連れてきたってわけか……。

 くそ……どこまでも手が込んでいる。

 五味たちは、最初から僕を殺す気だったんだ。

 計画的だ……。

 なんでそこまでして、僕を殺すんだよ……!

 僕がなにしたっていうんだよ……!


「じゃあな。ゴミ虫。死んでくれよ。あ、そうだ。お前の彼女な。あれ俺が美味しくいただいたから。あとはまあ、任せろや。お前が死んでもあいつは俺が幸せにしてやるからよwまあ、もとからお前のものじゃないんだけどなwとりあえずそういうことだから、じゃあ」


 そう言うと、五味はポケットから帰還アイテムの「帰りの地図」を取り出した。

 帰りの地図は、使用すると瞬時にダンジョンから脱出できるという、レアなアーティファクトの一種だ。

 くそ……そんなレアアイテム、僕はもっていない。

 あれを使われたら、僕はこのままダンジョンに置き去りだ。


 五味は、僕に向かってモンスターの餌を投げつけると、そのまま帰りの地図を使用して、消えていった。


「くっそおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 五味!!!!」


 僕はどうしようもなく、叫ぶしかない。

 ダンジョン内の空洞に、虚しく僕の声が響く。

 しかし、僕に投げつけられたモンスターの餌によって、オーガは僕に向かってくる。

 くそ……オーガなんて、僕にはとても倒せる相手じゃない。

 逃げるしかないけど……オーガはモンスターの餌を前にして興奮状態だ。

 くそ……僕はこのままオーガにやられて死ぬしかないのか……?


 妹のことだけが心残りだ……。

 それと、五味が最後に言っていた言葉も気になる。

 僕の彼女を寝取ったとかって言ってたよな……。

 だけど、そんなの絶対に嘘に決まっている。

 僕の彼女の春香は、そんな女性じゃない。

 春香はとても清楚で、僕のことだけを愛してくれている、大学時代からの大事な彼女だ。

 そんな春香が、五味なんかになびくわけがない。

 僕をさらに追い詰めようと思って言ったでたらめに決まっている。


 くそ……死にたくない。

 僕はなんとか、生きて帰るんだ……!


「オガアアアアアア!!!!」


 オーガが僕に向かってくる。

 くそ……万事休すか。

 僕は必死にダンジョンの中を逃げた。


 なんとかオーガから逃げる。

 でも、オーガはどこまでも追ってくる。

 僕はとうとう、行き止まりに追い詰められてしまった。


「っく…………」

「オガ……!」


 じりじりと追い詰められる。

 僕は一歩ずつ、壁に追いやられる。


 そのときだった。

 僕が追い詰められている壁に、なにか刺さっているのが手に当たる。


「なんだ……? これは……! アーティファクト……!」


 それは、まだ未鑑定のアーティファクトだった。




================

【あとがき】


いいね♡や応援コメント、続々お待ちしております。

応援ありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る