第3話「真実」

群がる怪獣たちを見てパニックに陥る一家。皆何か方法はないかと考えた。しかし、良い案は思いつかなかった。それどころか、それぞれの心の焦りが増した。

「参ったな。銃でも死なないなんて、奴らは一体何なんだ!?」

「少なくとも、あいつらには近づかんほうが一番だな。」

「このままじゃ下に降りられへん!」

皆はそれぞれ堪え難いを口にした。すると、銃を撃った警察官を思い出した将人が、何かを思いつく。ポケットからスマートフォンを取り出し、テンポの速いロックの音楽をかける。そして、窓を開けてスマホを思い切って外に投げた。すると、怪獣は音楽が鳴るスマホのほうに移動していく。


将人は、直ちに部屋から出るように言う。一家は階段を駆け下り、駐車場に止まってある自家用車へ乗り込む。

「みんな乗ったか!?行くぞ!」

将人がエンジンを掛け、アクセルを深く踏み込み、マンションを出る。


「人が多いところはまずい、田舎のほうへ行こう!」将人の案で一家の乗った車は、障害物を避けながら坂道を登ってゆく。


移動中の狭い車内で、俊介を見た夏子があることを言い出した。

「そういえばこの子、朝大に似てるわね。」

「おっ、言われてみると確かに。」夏子の言葉で思い出した将人の一言で、緊張が走っていた車内はさらに「朝大あさた」で盛り上がった。

「朝大か。懐かしいな。」

「そうかな?似てないと思うよ。」

俊介は(朝大って誰だろう。)と、何のことかわからなかった。

「ちなみに、歳はいくつ?」と夏子。

「9歳です。」

「9歳って!もろ朝大と同じやんけ!」

「こんな偶然があるのか…。」と呟く一家。

夏子は俊介に「おかえり。朝大。」と優しく言った。


同じく田舎へ向かおうとしていた車たちの渋滞に巻き込まれながらも、一気に人口が少ない田舎に出る。田舎なら、あの変な怪獣に襲われることはないだろうと、一家は思い過ごしていた。


しかし、田舎にも怪獣が多く徘徊しており、避難所になっていた小さな病院や道の駅も、壊滅していた。


「もっと山奥に行ってみれば、あの怪獣もおらんかもしれへんで!」

将人は夏子に言われたように、さらに道を進める。だが、あるのは燃え盛る民家や、少なからずとも徘徊する怪獣の姿であった。

「田舎もこうだったら、どこに行っても安全な場所はないということだな。」と哲彦。


このまま車で走り続けると燃料も無くなってしまう。そのことを危惧した将人は皆に断りを入れて、人気のない林の中の狭い道に止めることにした。すると、その先の脇にパトランプがついたままのパトカーが止まっているのを見つけた。


将人は「ここで待ってて。」と哲彦と共に、パトカーの様子を見に行く。残された四人は二人を心配しながら待った。


「他に避難所とかあらへんのか?」

「音楽聞きた~い。ラジオとか何かやってるんじゃないの?」

翔太の言葉で、裕太がカーナビのラジオをつける。だが、どの局を回してもただ雑音が流れていたのみであった。

しばらく回し続けていると、唯一音声が聞こえるチャンネルがあった。


「…畿地方、中国地方、九州地方全域に、感染症が発生しています。電気や水道などのライフラインが遮断されることも考えられます。住民の皆様は怪獣を見かけても絶対に近づかず、救急隊、自衛隊の救助を待ってください。繰り返します。住民の皆様は…」

「兵庫はもう、アカンなぁ。」夏子がぼやいた。


将人と哲彦は、パトカーの車内を確認する。車内は血だらけで、誰もいなかった。

(これは使えるな…。)哲彦は、助手席にあったナックルダスターを拾う。将人も使えるものはないか車内を探る。

その時、無線機から一瞬声が聞こえた。

『誰かいないのか?聞こえてたら応答してくれ!』

将人は無線機をとり、声の主と会話を試みた。

「もしもし!まだ生きてます!」

『まだ感染してないか?南港に俺たちが作ったキャンプ地がある。ここなら食糧や物資がたくさんある。独立した埋め立て地だから、怪獣も来ない。生きたいなら来い。』

耳よりの情報を聞いた将人と哲彦は安堵の笑みを浮かべ、車へ戻る。

「みんな!南港のほうにキャンプ地がある!」

それを聞いた四人の顔にも元気が戻り、再び荒れ果てた地を行く。


一家の車は、怪獣が徘徊する町を走り抜ける。

南港に向かう途中、哲彦の「自分の武器の代わりになるものを持ったほうがいい」という提案で、ホームセンターによることにした。

噂をしていると、生き残った人々が集うホームセンターを見つける。一家はここで必要最低限の食料と、自分の身を守るための武器を調達することにした。

一家はホームセンターより少し手前の道路で降車する。


一家は人だかりに紛れて、店内で食糧と武器を調達する。

「あまり多くは取らないでおこう。他にもほしい人がいるからね。」将人の言葉に従って、裕太が非常食をかごに入れていく。すると、将人があるものを見つけ(あまり傷つけるのはよくないけど…。)と不安を思いながらも、俊介に渡す。

「それで自分の身を守るんだ。」


渡されたのは、ナイフであった。


翔太は「ねえねえ!これ武器にしてもいい?」とノコギリを持ってきた。しかし、それを見た夏子は「アカンて。あんたはこれで十分や。」と、ハサミを渡した。

哲彦と将人はスポーツ用具のコーナーで金属バットを獲得し、裕太はカッターナイフ一本、夏子は包丁一本を所持した。

「皆さん!お互いに頑張りましょう!いつかみんなで笑いあえる日が来るまで!」店員の言葉に後押されるかのように、一家は再び移動する。


翔太は空腹になり、袋の中を漁って非常食を口にしようとした。

翔太が「食べてもいい?」と言うと、「アカン!」と夏子が厳しい口調で止める。

「なんでよ、いいじゃん!まだみんなの分あるって!」

「今は食べ物を手に入れるのが難しい状況なんや!すぐに食べると無くなってまう!」

二人の激論に、一家はこの先の不安が一瞬だけ忘れられた気がした。

「そうだよ翔太。今は我慢しよう。」と将人が言ったとき、突然車体がガクンと揺れて停車する。車の燃料が切れてしまった。

「困ったな…。ここで長居するのはまずい。」

将人は車の燃料を調達すべく、降車して近くにガソリンスタンドはないか探す。

忙しそうに動き回る一家を見て、自分も何か役に立ちたいと思った俊介も、車から降りる。

「降りたら危ないじゃないか!早く車に戻りなさい!」

「僕も何か手伝います!」

将人は俊介の意思を理解し、共に行動する。


土地勘のある将人によれば、この先を少し歩いた先にガソリンスタンドがあるという。将人と俊介は道路上に何もいないことを確信し、早歩きでガソリンスタンドを目指す。

「何か現れたら知らせるんだぞ。」

「は、はい。」

ふと横を見ると、誰かしらの死体や血痕が辺りに、血生臭い臭いが漂っていた。

「突然こうなってしまったな…。人が人を食う災害なんて生まれて初めてだ。」と将人。


二人は無事に、ガソリンスタンドへ訪れる。ここで車の燃料を調達しようと、ガソリンの持っていく方法を考えた。

「ガソリンスタンドを見つけれたのはいいけど、どうやって持って行こうか。」将人は試しに給油ノズルのレバーを引く。だが、ガソリンは出なかった。

「ほかに何かないかな。」将人はそう言ってセールスルームへと近づく。俊介も背後についていく。


将人が血の付いた窓ガラス越しに暗い店内の様子を確認する。やはり人の姿はなかった。将人はドアを開けて、恐る恐る店内を探索する。店内に涼しい空気が漂う。

「とりあえず、ガソリンを入れるもの…携行缶を探そう。」将人の案で、二人は携行缶を探す。だが、それらしき物はなかなか見つからなかった。


俊介は携行缶を探しているうちに、さらに店内の奥に入っていく。すると、部屋の奥から突然ドンドンと扉を強く叩く音がした。

(なんだろう…?)

俊介が不可思議な思いで見つめていると、ドアが倒れた。


「!」


扉をたたいていた正体は、金髪の不良少年姿の怪獣であった。怪獣は俊介を見つけると、よろよろと早歩きで近づいてきた。


俊介はすぐに後退し、将人のもとに駆け寄った。

「どうしたんだ!?」

「あの変な人間が!」

それを聞いた将人はバットを構える。

「グアアアァァ…!」怪獣は不気味なうめき声を発しながら、ゆっくりと二人に近づく。

将人がバットを振り下ろそうとした瞬間、感染者の横腹を何かがが切り付ける。


「ガアァ!」怪獣は斬られたことに反応したかのように、後ろを振り向く。その瞬間を、何者かが斧で怪獣の身体を真っ二つに斬る。呆れたことに、怪獣は体が二つに切断されても藻掻いた。さらに男性は、怪獣の頭部を切断し、部屋の隅にめがけて蹴った。


「その上下半身を持て!こっちだ!」防弾チョッキを身に着けた見知らぬ男性に連れられ、俊介と将人は男性と共にに店の奥の部屋に、怪獣の下半身を放り込む。そして、ゴミ箱など身近にある物で扉を塞いだ。

「奴らは10分もすれば増える!」男性の言ったことに二人は驚いた。とりあえず三人は店の外へ出る。


「助かりました。あなたは誰ですか?」将人が男性に問いかける。

「詳しい話は後にしよう。ところでお前たちは、ここで何をしていたんだ?」

「僕らはここで車の燃料が切れてしまったので、ガソリンを探していたんです。」本山の問いに将人が言う。


「車での移動は禁物だ。奴らは音に反応しやすい。」

「でも家族がまだ残ってるんです。早く燃料を持っていかないと…。」

「なに、そうだったのか…。」男性はしばし考え込み、「よし、俺も一緒に燃料を探そう。」と言った。

「い、いや、大丈夫です。身内の問題なので…。」

「どっちもここで長居していると、命はないぞ。」という男性の言葉を聞いて将人も辺りを探った。

男性が敷地の隅にあったロッカーから、携行缶を発見する。さらに本山は、ロッカーにあった灯油ポンプを取り出し、近くの車両からガソリンを抜き取った。

「よし、これだけあれば一応大丈夫だろう。」

三人は、車に戻った。


自家用車の近くには哲彦が見張りをしていた。

「遅かったな。その後ろの男は誰だ?」

「俊介を助けてくれた人だ。一緒にガソリンを探すのも手伝ってくれたんだ。」

男性が携行缶にポンプを接続し、ガソリンを給油口に注ぎ込む。


「これからどこに向かおうとしているんだ?」男性が将人に聞いた。

「大阪の南港の方に安全な場所があるみたいなんです。」

「そこに行くのはお勧めしないぞ。奴らは人間が密集しているところほど、出現する可能性も高い。それに、そこにいる人間のいうことが信用できるかどうかも疑問だ…。」

「でも、そこには物資もあるって言ってました。」

「…まぁ、どこに行こうがお前たちの自由だ。」と言った後、男性は名乗った。

「俺は本山博貴。ディヘッドの調査を行っていた国際刑事だ。」

「ディヘッドってなんや?」と夏子が博貴に言う。

「お前たちが言う『怪獣』のことだ。」


しばらくして、燃料の補給が完了した。一家と博貴は再び車に乗り込む。

「みんな、移動するよ。」


しばらく走行していると、道路の真ん中を廃車が塞いでおり、停車する。さらに気が付けば、辺りは夕日が照り付けていた。


「夜の移動は危険だ。今日の移動はここまでにしたほうがいい。」

「でも、身を隠す場所を探さないと…。」

将人が言った瞬間、一瞬前方を何かが横切った。

「今人がいた…!ちょっと見に行ってくる!」

博貴が「やめろ!またディヘッドかもしれないぞ!」と将人を引き止めようとしたが、将人は行ってしまった。


将人は何かが通っていた道を辿る。そこには廃車のバリケードで囲まれた明かりのついた公民館があった。すると、バリケードの内側から人間が出てきた。

「大丈夫ですか?」ここの住民らしき男性が将人に言った。

「車で一家を連れてるんです。どうか一晩だけでもここにいさせてください!」

それを聞いた男性は、近くの公園に車を止めてきてほしいと言った。

将人は車を少し移動させ、公園に駐車した。一家を連れて、バリケードを超える。


公民館の中は、周辺の自治体によって設置された避難所であった。係員は一家の人数を確認すると、人数分の寝袋と食糧を提供した。

大勢の人々でにぎわう横で、一家は座り込んだ。特に何か取っ組み合いをしたわけでもないのに身体の奥から重い疲労感がこみ上げてきた。

それだけではなく、今まであった日常が突然と消えてしまったことに、一家の心には深い虚無感があった。それは、ここにいる人々も同じであった。


そこへ、ある少女が相川家に声をかけた。

「みんな!頑張ろうよ!」

少女の言葉を聞いた一家は思わずハッとさせられた。

「こういう時にこそ落ち込んでちゃダメだよ!みんなで力を合わせて頑張ろうよ!」

「き、君は?」将人が言った。すると、少女はどこかへ去ってしまった。しかし、その少女は他の人にも同じように話しかけていた。その言葉は相川家の心に深み染み渡った。


博貴は感染者が発生することを危惧し、屋上で過ごすことを提案する。一家は孤立感を感じながらも、屋外に出る扉を開けてロフトに出る。さらに上に行く階段を上り、屋上に来た。

空を見上げた時、一家は驚いた。夜空には満天の星空が広がっていた。なんて表現したらいいのか、一家は心が温かくなった。

「電気が止まったから、その分良く星が見えるね。」将人が言った。

本山が屋根がある場所を見つけた。そこに将人が寝袋を敷き、寝る支度を整えた。

「さあみんな!今晩はここで寝るで!」と夏子が一家に呼びかける。

「え~嫌だよ~。やっぱ下に戻ろうよ~。」と翔太の不満に哲彦は「下は良くない。今晩だけの話だから。」と言う。

「せや。戦争のときはみんなこうやったんやで。」

翔太は「今は戦争とは別の災害でしょ。」と独り言をつぶやいた。

そんな翔太に将人は言った。

「でもここなら、星がきれいだよ。」


一家はランプを囲うようにして座り、水分補給や非常食などを食べて一夜を過ごした。

「なんだか、キャンプに来たみたいやねえ。」

「キャンプはキャンプでも、地獄と隣り合わせのな。」

「ところでお兄さん、ディヘッドってなんや?」

「ディヘッドはさっきも言ったようにあの感染者のことだ。」

本山の言葉に、一家は耳を傾けた。本人もこの一言を皮切りに、自身が海外で体験した体験談を交えて語りだした。

「ディヘッドという名称には”dead head”『死んだ頭』という意味がある。もうすでに死んでいるから、頭や心臓を攻撃しても死なないからなど、理由は様々だ。まあ、好きに呼んでいい。」


ここで気になった将人が言った。

「あの時、ガソリンスタンドで言ってた「10分もすれば増える」ってどういうことですか?」

「奴らは不死身だ。身体中のどの部位を破壊しても死滅することはない。それどころか…肉体が独立して再生すると、その分の個体数が増える。この世界がヴァイスに埋め尽くされたのも、欧州連合の不注意な攻撃による結果が原因だろうな。」

翔太は「プラナリアみたい…。」と冷や汗をかく。


「少なくとも、動きを封じ込める分に斬り裂くのはいいと思うが、一番の対策は「閉じ込める」だな。」

加えて博貴は、ヨーロッパで感染源の調査を行っていたことや、現地でパンデミックの災害の証言などを話し、一息置いた。


俊介も聞いた。

「どうやったら生き残れるんですか?」

「そうだな…まあ、自分に厳しく他人に優しくしていれば何とかなるだろう。」

博貴は言った。

「もう世界は以前の社会に戻ることはできないだろう。これから先は新しい種族と共生する、新しい時代が始まることだろう。」


いつもとは違う環境に、一家はなかなか眠りにつけなかった。特に俊介は気まずくなってそのまま起き、灯り一つない辺りを見つめていた。

そこへ、将人がやってきた。


「大丈夫か?俊介。」

「…大丈夫です。」

「確かに、こんなところじゃ眠れないよね。」


二人は少し拍子を置いた。すると、俊介があることを思い出した。


「朝大君って誰ですか?」

「朝大か…おじさんたちの昔いた子供の名前だよ。」

「!」俊介は驚いた。

「容姿とか性格とか、君にそっくりだったんだ。でもその子は…生まれつき脳の病気を持っててね…数年前に亡くなっちゃたんだ。」


続けて将人は言った。

「あの時君を助けたのも、君が朝大に見えたからだったんだ。」

さらに俊介は驚いた。

「だから君とは、また朝大と一緒に入れてる気がするから、すごくうれしいんだ。世界がこうなっても。」

それを聞いた俊介は、心が温かくなった。

将人は微笑んで言った。


「これからよろしくね。俊介。」


「はい!」

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悪夢に生きる 意思河太郎 @taroishikawa

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