第2話「ある家族との出会い」
変わり果てた咲良は俊介と目が合うと立ち上がり、よろよろと早歩きでこちらに向かってきた。異常を感じた俊介は、廊下を引き返し、玄関口へ向かう。
校舎の外へ飛び出ると、事態は先程までと一変していた。人間が人間を喰い殺し、パトカーや救急車のサイレンが住宅街に鳴り響いていた。
その場に立っていた俊介も突然の出来事に恐怖を覚え、体が震えだしてきた。とにかく家に帰ろうと朝に通って来た道を走る。
家の近くの曲がり角を曲がった瞬間、俊介は衝撃を受ける。そこにあったのは、炎に包まれる自分の家であった。すこし離れた場所でも炎の熱さが伝わった。俊介はもう帰る場所はないと確信し、大騒ぎになっている大通りに出る。逃げ惑う人々の中にまぎれ、どこに逃げたらいいのかも、何が起きているのかもわからなかった。考える余裕もなく、ただ人々の波に乗るように、パニックになる町を逃げ惑った。
俊介はマンションの間にある路地に逃げ込む。狭く湿っぽい所だったが、人気の様子はなさそうであった。ここでやり過ごそうと身を潜めて気持ちを落ち着かせていた時、物陰からあの怪獣が出てきた。スーツ姿の人のような何かが俊介に襲い掛かる。
俊介は怪獣を押しのけようとが、大人の力は強く、押し合いに負けてしまいそうだった。
もう腕の力もなくなりそうになったその時、誰かが怪獣を背後から取り押さえてどかす。
「君、大丈夫か!?」
男性の問いに俊介が「はっ、はい!」と返事をする。
「外は危ない!とにかく、中に入って!」そう言って男性は、俊介を連れていく。
俊介は男性に手を引かれ、マンションの階段を駆け上がり、男性の部屋に入る。中には、男性の家族の子供と老人がいた。皆この状況に、落ち着かない様子であった。
男性は「ここならしばらくは大丈夫だよ。」と俊介に優しく言った。俊介は、ひとまず落ち着こうと息を整える。しかし、外は激しさが増す一方で、すぐには下に降りれそうになかった。
「一体何が起きてるんだ!」と老父は状況を受け入れられない様子であった。老母は何やら忙しそうにスマホで誰かと通話を試みていた。男性もスマホを手に取り、電話をかけようとした。
「やっぱり、仙台のおじさんや松崎さんにもつながらへんわ。」
「俺も同僚にかけてみたんだけど、全然繋がらなかった。」
俊介は、子供たちが見ていたテレビにふと目をやる。映像には都市であの目が黒い怪獣が機動隊とが衝突しあったり、市街地が火の海と化している様子が報道されていた。事態を伝えていたアナウンサーも慌ただしい様子であった。
「うわっ、すっげぇ!」
子供は非日常的な光景に大興奮だった。
いろいろと取り組みをしている家族の横で俊介が気になったのは、老父と老母の部屋に良く響く声の大きさであった。
数時間後。子供が空腹を訴えたため、一家は少し早めに昼食をとることにした。
老母が「みんなご飯できたから椅子に座んなさーい!」と呼びかけ、皆は昼食を食べ始めた。俊介も食事を用意してもらい、一家の輪に入った。
食卓には老母の厳しい怒号が飛び交う。
「こら!翔太!もっと姿勢を正しくしなさい!」老母の注意に子供は「はーい。」と言って渋々、姿勢を正した。
食事中に男性が「そういえば、自己紹介がまだったね。」と言い、男性は「相川将人」と言った。そして順番に隣に座っていた子供を次男の「裕太」、三男の「翔太」、老母を「夏子」、老父を「哲彦」と紹介した。
夏子は「あんた、どこから来たの?」と俊介に問う。
俊介は「…わからない…です。」と小声て返した。
哲彦は「どこから来たのかわからないぐらい、怖い奴はおらん気がするな。早く家族のもとへ帰ったほうがいい。」と言い、嫌味な目で俊介を見つめた。それは、裕太と翔太も同じであった。
「…みんな、死んだ…。」
そんな一家に将人は「まあ待って。この子も大変な目に遭ったんだ。」と俊介を擁護した。
夏子も「そうや!困ったときはお互い様や。」と加担した。
「さあみんな、もっと食べてええで!」の夏子の一言で、止まっていた皆の手が動き出した。
「こうやって家で食べられるのも、もう今日が最後かもなぁ。」と哲彦。
夜。辺りの騒ぎはやや収まったかにように思えた。将人は、安全確認のために1人で試しにベランダに出る。涼しい風が透き通り、肌寒く感じた。都市部の方は火の海と化しており、まるで阪神淡路大震災の時と同じ光景であった。
将人は周辺に人がいないか確かめるため周りを見下ろす。しかし、下には怪獣が何体もうろついていた。救助隊やまともな人間がいる様ではなかった。
仕方なく部屋に戻り、一家に状況を説明した。
「みんな、外はやっぱりあの変な人間たちがうろついてる。救助隊とかもいる気配ではなかった。」
それを聞いた一家は落胆した。
「じゃあどうすんのよ?」と将人に問う夏子。
「とりあえず、明日まで待ってみよう。そしたらあの変な人間もどこかへ行くかもしれない。」と将人は応えた。そして一家に寝るように呼びかけた。
「ちょっと待ってて。俊介君の布団を出すから」と、将人はクローゼットから敷布団を取り出した。俊介は本やおもちゃが散らかっていた将人、裕太、翔太の部屋に入る。
玄関や部屋のドアはしっかりと塞ぎ、窓も全部閉めた。それぞれ落ち着かない気分で目をつむり、体を休めた。
その間も外ではサイレンが鳴り響き、人々は叫んでいた。
翌朝、一家は避難の準備を始める。その間に将人は、外の様子を見に行く。
マンションの下へ降りてみると、町はひどく荒れ果てており、人気の様子も感じられなかった。昨日までいた怪獣はいなくなっており、道路が空いていた。あとは道路を横切るかのように止まっていた廃車を退かせば自家用車で避難できる。そう感じた将人は、単独で車を退かそうと壊れた車体を押した。
金属片が地面に擦れたことで辺りに尖った嫌な音が響いた。早くしないと怪獣たちが襲ってくると恐れ、目一杯車体を押すことに専念した。
ようやく廃車を退かすことができ、ほっと一息をついた瞬間、どこからか一発の銃声が聞こえた。音が聞こえた近くの交差点に行ってみると、曲がり角から拳銃を構えた警察官が出てきたのを目撃した。何かに対処しているのか、警察官は怪我を負っていた。
将人は警察官に「大丈夫ですか!」と声をかけた瞬間、警察官があの怪獣に襲われる。
「うわああああああああああ!」警察官は叫びながら、次々に現れた怪獣に食われてゆく。その光景に異常を感じた将人は、その場から立ち去る。
将人は部屋に戻り、一家に一刻も早く出発するように呼び掛けた。
「みんな!あの化け物がやって来る!早く行こう!」
それを聞いた一家は荷物をまとめて外へ出ようとした。夏子がふと外を見て、目を丸くする。ベランダの下に怪獣たちが集まっていた。
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