第66話 世界のスター
アニエスさんの石化について、わかったことがいくつかある。
まず、一度石化すると、次に生身にもどるまで、おおよそ一時間~二時間ほどかかる。
現在のところ、その予兆は発見できていない。
いつも、突然に石化するのだ。
そして、一度石化から生身に戻ると、5~15分ほどは活動できる。
生身の状態でマネーインジェクションしても、石化を防ぐことはできない。
つまり、一時間から二時間のあいだに、5分から15分だけ活動できる、ってことだ。
ちなみにそのあいだにかなりゆっくりとではあるが、空腹にはなるみたいなので、食事や排せつも必要になる。
そんな状態、自分がそうなったらと思うだけでぞっとする。
だから、本人のメンタルケアも考慮にいれつつ、しかしながら、アニエスさんが生身でいるあいだだけ先に進み、石化している間はその場にとどまる、というのも現実的ではないので、怪力のスキルを持つローラがかついでダンジョン探索を進めることになる。
さすがSS級探索者である武闘家だ、石像となったアニエスさんを風呂敷で軽々とかついでいる。
スキルとはいえ、どんな筋力してるんだ。
そのローラが言う。
「ごめんねー。私たちがモトキやみっしーちゃんたちを助けにきたはずなのに、思いっきり足ひっぱっちゃってるよね」
「いや、あの絶望的な状況の中で救助に向かってきてくれたのはローラたちだけだった。結果がどうあれ、すごく感謝しているし、全体としてはアニエスさんが動けるときに限ればパーティの戦闘力はものすごく高まってる。このダンジョンを脱出できる可能性はむしろあがったはずだ。俺たちこそ感謝しているよ」
「そっか、ありがとね。きっとこのお返しは、アニエスちゃんが一生かけてモトキに添い遂げて返してくれるよ……。あとアニエスちゃん、普通にお金持ちだし」
そこにみっしーが、
「ちょちょ待って。添い遂げるってなに?」
「え、だからこう、結婚して? 夫婦でデートいったりして? ネズミーシーとかいったりして? その夜はベッドで一緒にいちゃいちゃしたりして? 子供できたりして? うわあ、この親子、まるで姉妹みたいですねーって言われてちょっと自慢げに喜ぶアニエスちゃんの姿が想像できる」
「ままままって、ほら、そこまで人生ささげなくても、たとえばお金で誠意を示すとかでいいんじゃないかな」
「うーん、それはみっしーちゃんがやってあげれば? みっしーちゃんだって全財産合わせれば、億あるでしょ?」
「おぉ~!」
感心したような声をあげてみっしーを見る
「あたし、みっしーがお姉ちゃんでもいいような気がしてきた」
そこにローラが口を挟んで、
「アニエスちゃんはもっと金持ちだよ。私ですらそうだし」
「おぉ~!」
またも感心の声を上げる
「ね、ね、お兄ちゃん、あたし、だれがお姉ちゃんになってもうまくやっていけると思うんだ……」
この馬鹿妹、なにをいいだしてやがる……。
「あら、
ローラさんの問いに、
「うん! だってお金がいっぱいあったほうが、お兄ちゃんが輝けるもん! お兄ちゃんのすごさを、もっともっともっとみんなに知ってもらいたいの!!」
〈その結果が借金一億二千万円だったわけか〉
〈動機はわかるけど、結果がなあ〉
〈シャリちゃんかわいい〉
〈シャリちゃんアホだからかわいい〉
〈まあ結果としては、現状お兄ちゃん世界のスターになってるけどな〉
〈お金に貪欲なシャリちゃんかわいい〉
〈しかし現実として実の妹が借金一億二千万円作ってしかも自己破産の免責おりないとかなったら絶望だぞ……〉
そうなんだよなー。
さて、そんな馬鹿な話をしながらも迷宮を進み続ける俺たち。
そしてついに、見つけたのだった。
地下十一階へとつづく、シュートを。
SSS級ダンジョンの地下十一階。
もちろん今までここまで到達して生きて帰ってきたパーティはいない。
この先のなんの情報も、手がかりもないが、俺たちが生き抜くには、進むしかないのだ。
俺たちは頷きあう。
この先も困難があるだろうが。
必ず、生き抜いて見せる。
俺は、滑り台となっている下層階へのシュートに飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます