第43話 同担拒否

 やばい、まじで寝てた!

 パチッと目を開ける。

 すると、いつからそうしていたのだろうか、俺の顔をじっと眺めていたみっしーと目があった。


「ひゃっ」


 と短く声をあげると目をそらすみっしー。

 うぐぐ、俺の寝顔、見てたのか? なんで? 

 よだれでも垂らしてたか?

 口元をぬぐう。

 うん、よだれは出てないみたいだけど……。

 みっしーは横を向いてちょっと頬が赤いような……?

 体調でも悪いのか?

 ずっとハードな戦いがつづいていたからなー。

 でもさ、こうしてみると、みっしーって、まじで顔がちっちゃいな。

 俺と同じ人間だとは思えん。

 さすが日本トップレベルの配信者だよな、かわいいし、なんかこう、オーラがある。


「へへへー」


 紗哩シャーリーがそんなみっしーにぎゅっと抱き着く。


「あっれぇ? ふふふ、みっしー、ほっぺた赤いよ? えっへっへっへ、あたしだけのお兄ちゃんだから、あげないけど、でもそっか、推しがかぶっちゃったかー。良さがわかっちゃったんだねー。うん、同担拒否したいとこだけど、みっしーならいいか」

「同担拒否って……紗哩シャーリーちゃん、そんなんじゃないし……」

「そうそう、で、どっちがお姉さまになる? あたしのほうがぁ、年上だけどさー。もしさー。ねー? そうなるとあたしが妹になるからさー」


 俺の方をちらっちらっと見ながら楽しそうにいう紗哩シャーリー


「やめ、ちがっ、そういうんじゃないから! 全然違うから!」

「顔真っ赤だよ? へへへ、美詩歌お姉ちゃん!」

「もう、やめてよ、もう! もう!」


 みっしーは風呂敷を頭からかぶってしまった。

 うーん、起き抜けにわけわからん会話されても俺にはわからんぞ?

 困惑していると……。

 突然、傍らに寝ていた人物が、がばっと跳ね起きた。

 アニエスさんだ!

 アニエスさんが、目を覚ましたのだ。

 同時に、彼女にかけていた風呂敷がずり落ちる。

 出血でゴワゴワになっちゃったドレスは、みっしーと紗哩シャーリーが脱がせてたので、今はパンツ一枚の、ほとんど裸。

 魔法のように真っ白な肌、細い腕。

 華奢な身体つき、かわいらしいおへそに、とても控えめなお胸、それに、淡い桜色の……。

 あれ、こんなん俺が見ちゃいけないやつだわ。

 すぐに目を逸らす。


「ひゃーっ! 基樹さん見ちゃ駄目!」


 みっしーがかぶっていた風呂敷であわててアニエスさんの身体を包む。

 ごめん、ちょっと見えちゃった、すこし罪悪感。


「ふー、カメラ切っているタイミングでよかったよー」


 紗哩シャーリーがそういう。

 まじでよかった、yootubeってグロには甘いくせにエロには厳しいからなあ。

 アニエスさんはぼーっとした顔で、あたりを見渡している。

 金髪青メッシュに透き通るような碧い瞳。


「Where is this place?」


 アニエスさんがつぶやく。


「あ、あの、こんにちは、えーとアイアムミシカ ハリヤマ!」

「ミシカ……ミシー?」

「イエース!」


 と、そこでやっとハッとした顔をしたアニエスは、


「わたし、vampireニ……?」

「大丈夫だ、アンジェラ・ナルディはやっつけた。もうアニエスさんはヴァンパイアじゃないです」

「やっつけた……? あの、vampire lordを……? きみたちが……?」

「はい、だから今は安全です」


 しかし、アニエスさんの声、初めて生で聞いたけど、すごく印象に残る、綺麗な声をしているなー。

 なんかこうフルートっぽいっていうか、音楽的。

 アニエスさんは順々に俺たちの顔を見ていく。


「ミシカ、モトキ、Shirley。クライアントに助けるように頼まれた、探索者……」

「うん、あたしたちは無事だよ! ……あたしの名前の発音、なんかかっこよかった、本場の発音もいい!」


 ちょっと嬉しがっている紗哩シャーリー


「わたしの party memberハ……?」


 それについては、俺たちは残念なニュースをアニエスさんに伝えざるを得なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る