第30話 スティール
「hello! わたしが、アニエス・ジョシュア・バーナードだ」
画面の向こうでサングラスをかけ、マスクをし、帽子を目深にかぶった女性が挨拶をしてきた。
「はじめまして! 私が針山
みっしーの挨拶につづいて、
「えっと、俺が
「あたしが七宮
俺たち兄妹も挨拶をかわす。
Moozというアプリでとりあえず顔合わせだけはしておこうというわけ。
アニエスに続いて、二人の女性と三人の男性がそれぞれ画面に映って、
「Good to see you. I’m Laura Remy」
「Hi. I’m Elizabeth Harris」
「James Patterson」
「Ryan Sullivan」
「Joseph adams」
いろんな人種の人たちだ。
うーん、みんな頼もしそうな顔してる。
こんなSSS級パーティが俺たちを助けてくれるってわけだから、もう安心だな。
「今回は私たちを助けに来てくださるそうで、本当にありがとうございます!」
「わたしにまかせる、だいじょうぶ。SSSclassのダンジョン、全部攻略、わたしの目標。気にしないで」
「ありがとう! 今どこまで来てますか?」
みっしーの問いに、アニエスは答える。
「地下8階まできている。もうすぐ、そちらにつく。だが、モバイルバッテリーが不調。通信をつないだままではそちらに行けない。一度、通信、切る」
「地下9階は虫のモンスターがウジャウジャいるんで気をつけてくださいね! じゃあ、地下十階まで来たらまた連絡ください! 私、稲妻の杖もっているんで、合流できたら充電できます!」
今地下八階まで来ているのか、ってことはおそらくあと半日もしないうちに合流できそうだな。
モバイルバッテリ―が故障したみたいだけど、そもそも、アニエスは俺たちみたいに配信しながら探索はしない。
いわゆる動画勢というやつで、撮った探索の内容をいったん地上に送って編集したものをアップするスタイルだ。
ま、別にアニエスは配信してスパチャをもらわないと能力を発揮できないとかそういう俺みたいな縛りはないわけで、問題がないっちゃない。
「これでダイヤモンドドラゴンを倒してもらえば、テレポーターポータルで地上に戻れるね」
ニコニコ顔でそういうみっしー。
「そしたら三億円をみっしーの事務所の社長さんにもらえるんだよね? えっと、そしたら一億二千万円の借金を返しても……まだ一億八千万円ある! やっば、人生バラ色だ!」
みっしーがそれに口を挟む。
「そうはうまくいかないと思うよ……。その三億円、名目はなに? まさか贈与じゃないよね。贈与だったら普通に死ねる税金になっちゃう」
「ゾーヨ? だとどうなるの?」
「三億円のうち一億六千万円が国税庁にスティールされる」
「スティールじゃねえよ! 納税は国民の義務だぞ!」
おもわずつっこんじゃったけど、まあでも55%ももっていかれるのはきっついよな。
「うーん、えっと、私を助けるっていう仕事の報酬としてだから、所得になる……のかなあ? そしたら税金が……。税理士さん紹介するよ」
うへぇ。生きるってのは本当に大変だなあ。
「いっとくけど、税金払うのは来年だから、ちゃんと使わずにとっておかないと、ほんっっっとーに大変なことになるからね!
「え~~~~! あたし、無駄遣いしたい~~~」
「だめっ!」
十六歳にお金の使い方を指南される二十二歳と十九歳の兄妹。
っていうか
毎月五千円くらいのおこづかいでなんとかやってもらおう。
そんなこんなでわちゃわちゃやっていると、時間なんてあっという間に過ぎ去ってしまう。
そして、ついにその時がやってきた。
メッセージアプリがピコーンと通知を鳴らした。
「お、きたきた、これだな」
そして表示されるメッセージ。
“We were attacked by a vampire lord who appeared to be SSS class and a group of undead monster under her command. Our party was wiped out. I am probably the only survivor, but I was seriously wounded. I would soon die too. Agnes was bitten by a vampire and she too became a vampire. They will be on their way to you.Kill the vampire lord. If you do, Agnes may be able to become human again. Good luck.
Laura Remy. “
んん?
英語だな、俺は英語なんてなにもわからんぞ?
「みっしー、なんて書いてある?」
そういってみっしーの顔を見た瞬間。
俺はいろいろと悟ってしまった。
そのメッセージを呼んだみっしーの顔が真っ青になって、唇がワナワナと震えていたからだ。
「ねーねー、お兄ちゃん、アニエスとかいう人はいつくるって? もう来るの?」
無邪気な
『我々はSSSクラスと思われるヴァンパイアロードと彼女の部下のアンデッドモンスターたちに襲われた。私たちのパーティーは全滅した。おそらく生き残ったのは私だけだが、重傷を負っている。私もすぐに死ぬだろう。アニエスはヴァンパイアに噛まれ、彼女もヴァンパイアになった。奴らはあなたのところへ向かっているだろう。あの吸血鬼を殺してくれ。そうすれば、アニエスは人間に戻れるかもしれない。幸運を祈る。
ローラ・レミー
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