第29話 おいおいおいおいおい!

「へっへっへー。みんなー。こんなでっかいタコの足の丸焼き、見たことある~?」


〈ない〉

〈ない〉

〈でかい〉

〈でかすぎだろ〉

〈ここまででかいとでかすぎてグロい〉


 俺の腕の太さほどあるタコの足(これでもさきっぽのほうなんだぞ?)を棒に突き刺して焼いたものを、みっしーはカメラの前にかざしている。


「えっへっへー、こいつにお醤油をちょいと垂らしまーす。そ、し、て! いただきまんもすー!」


 そういってクラーケンの足にかぶりつくみっしー。


「お? おお、弾力が、すごっ!」


 みっしーはその丈夫そうな歯でタコの肉を食いちぎると、うぐうぐと咀嚼する。


「うはっ! 大味かと思ったら、案外濃厚! ゴムみたいなんかなーって思ってたけどさ、違うよこれ、プリップリッ! 食べやすっ! あーわさび! わさびほしいなー!」

「あ、みっしー、あたし、わさび持ってきてるよ、はい」

「やったぜ! このわさびをな、こうしてな、こうやってたっぷり塗ってな、かぶりつくんや! ふがっ! うま、うめ、やばっ、クラーケンやばぁ、うますぎ」


〈うまそう〉

〈うまそう〉

〈SS級モンスターをこんなにうまそうに食うD級探索者なんてそういないな〉

〈そのクラーケン、人間は食べたことないよね?〉


「……ないです! じゃあ聞いてみましょう! クラーケンちゃーん、あなたは人を食べたことありまちゅかぁ? ……『なぃょー』ほら聞きましたかみなさん、ないって! じゃあさらにいただきまんもす! がふがふ!」


 みっしー、メンタルつええなあ。

 ほんと、すごい食いっぷりで見てるだけで気持ちがいい。


「はぐっ、はぐっ! ぷりぷりだぁぁ~~! でもずっとわさび醤油味か、うーん、味変したいなー」


 ちらっちらっとこちらを見るみっしー。

 しょうがねえなあ。


「ほれ、カレー粉やるよ。使いすぎるなよ」

「おほっ、カレー粉いただきました! これでタコパもはかどります」


 ……タコパってこういうことじゃないと思うんだがなあ。

 しかし、とんでもない大食いとは聞いていたが、まじだな、あのサイズの丸焼きをあっというまに食いつくす勢いだ。

 大食い企画もみっしーにとっては結構なメイン企画だったらしい。

 俺はみっしーが食レポしながら勢いよくタコの足の丸焼きを食べるのを見つつ、薄切りにした刺身を口に運んだ。

 うん、ほんとにうまい。

 この食感がたまらないな。

 これだけの量があればしばらく食料には困らないだろう。

 ……ずっとタコ、ってのも飽きそうだけど、命がかかっているから仕方がない。


「おいしい? お兄ちゃん」

「ああ、うまいぞ」

「さらにっ! 隠し味をいれます! チャキーン!」


 紗哩シャーリーが取り出したのは一本のナイフ。

 どうするのかと見ていると、紗哩シャーリーはそいつで自分の親指をビッ! と切った。


「あ!? おいおいおいおいおい! なにしてるんだお前?」

「いいからいいからお兄ちゃん、はい!」


 そういって醤油の入った飯盒のフタに自分の血をたらす。


「これで食べてみて! めっちゃおいしいから!」


〈草〉

〈シャリちゃんブラコンヤンデレで草〉

〈えっぐ〉

〈やばいシャリちゃんの愛が重い〉

〈妹がヤンデレかあ、いいと思います〉

〈怖い怖い怖い〉

〈でもお兄ちゃん、今ヴァンパイアだからめっちゃうまいと思うぜ〉

〈普通の人間同士だと感染症やばいから絶対やっちゃだめなやつだけど、お兄ちゃんは今ヴァンパイアだから、あり、・・・なのか?〉

〈食べて食レポplz 俺もシャリちゃんの血の味を知りたい〉

〈男性アイドルが女性ファンからのチョコを絶対食べない理由がこれ〉


 うーん。

 正直、確かに俺は今半分ヴァンパイアだから、これ、すごくおいしそうに見えてしまう……。

 クラーケンの刺身を一つつまんで、血液入りのわさび醤油にちょんちょんとつけて、いただきます。


 パクリ。


 うわっ、これは……うまい!

 刺身のほどよい弾力、わさびのツンとくる香り、そして紗哩シャーリーの血が俺の脳細胞を刺激して、とろけるほどの快楽物質がどばっと脳内に広がる……。

 やばい、これはクセになるやつだ……。


「おい、紗哩シャーリー、パクパク、二度とこういうことはパクパク、やるなよ、モグモグ、人間が人間の血を食べるなんて、モグモグ、本来許されることでは、パクパク、ないんだからな」

「はーい! お兄ちゃん、おいしそうに食べてくれてよかった!」


 ちなみにいっとくけど、人間が人間の血液食べるとか、倫理的にだけじゃなくて健康上も非常によろしくない結果を招くから、ヴァンパイア以外の普通の人間は、決して真似するんじゃないぞ、パクパクゴクン。


 そんなこんなで俺たちは、地下十階の片隅でなんとかサバイバルを続けていった。

 

 そして、二日が経った。






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