第2話 国民的人気美少女配信者、やらかす。

 よっし、今日も配信頑張るぞ、と針山はりやま美詩歌みしかは思った。

 チャンネル登録者数500万人を誇る国民的人気配信者、針山はりやま美詩歌みしか、通称みっしーはカメラに向かって満面の笑みを見せる。


 サラサラの黒髪ショートボブ、やばいくらいに整いすぎていて知らない外国人とかからは”CGだろ?”とまで言われるその美貌、その上底抜けに明るくて聞いているだけで前向きになれるそのトーク。


 オタクネタからシモネタまでどこまでも品を失わずに喋りまくって、その上あらゆる配信関係者・芸能関係者から”あの子は聖人”とまでいわれる人柄の良さ。

 まさに日本一の配信者といって良かった。


「おはみっしー!! 今日もみっしーの飼い主様たちがいっぱいきてくれてるねー!」


:同時接続数55万人


 飼い主様とは美詩歌のファンたちの通称である。初期のころ、みんなのペットというモチーフで配信していたころの名残で、実はあまり浸透していない。浸透していないのにいまだ言い続けているところがまた意固地でかわいいと評判だったりする。


「ありがとねー! いや、昨日さー、企画で激辛焼きそば食べたじゃん? まだ舌がしびれてる感じするよねー」


【¥10000】〈おはみっしー〉

〈おはみっしー! 昨日あまりの辛さに泣いてたもんな😂〉

〈今日もかわいいよみっしー!〉

【¥34340】〈みしみしみっしー!〉


 日本トップレベルの同時接続者数をたたき出すその美貌は伊達ではなく、今日も朝から数十万人の視聴者を集めていた。

 鈴の音のような心地良い声も才能といえるし、円満な家庭でまっすぐ育てられた太陽のような性格は男性からも女性からも分け隔てなく人気を得ていて、もはや国民的アイドル配信者といって間違いない。

 

「さて! 今日はダンジョンにきています! 日本一の難関ダンジョンと言われる新潟市の亀貝かめがいダンジョンです!」


〈え、みっしーダンジョン配信はじめるの?〉

〈みっしーダンジョン探索の登録してたっけ?〉


「はい! 登録はしてます! でも一番最低ランクのD級探索者です。だから、もちろんSSS級ダンジョンの攻略なんてできませーん! あはは。あのね、この近くにおいしいサブロウ系ラーメン屋さんがあって、今日はそれの超大盛りに挑戦した動画を撮ったの! 案件です! もーおなかいっぱい!」 


〈朝からサブロウ系ラーメンってやばくね?〉

〈みっしーは大食いタレントできるくらいは食えるからなー〉

〈こんな朝からサブロウ系はエグい〉

【¥1000】〈胃薬代〉


「そのあとちょっと時間があったんで、ここに寄ってみました! 地下一階でちょろっと一番弱いモンスター倒すくらいならいいでしょー? たまにはダンジョン配信の真似事やってみよーじゃないかーっていう企画ですね!」


〈ラーメン食ったあとダンジョンかよ胃袋がバケモンすぎるだろ〉

【¥500】〈地下一階ならSSS級ダンジョンでも敵が弱いからな〉

〈気をつけてよー。いま一人なの? やめときなよー〉

【¥50000】〈昨日の激辛やきそばおもしろかったです。今日はサブロウ系ラーメンだったということで、整腸剤をこれで買ってください〉

〈ダンジョンは危なくない?〉


「だーいじょうぶだよー。ちゃんとリサーチ済み! 地下一階はスケルトンとスライムしかいないから! それに稲妻の杖があればたいていの敵は一撃!」


 美詩歌は企画動画で450万円で買った稲妻の杖を見せびらかす。

 なにせ大物インフルエンサーともなると、こんなものも軽く買えるのだ。


「あと一人じゃないよ、いつものカメラマンの美由紀さんとマネージャーさんの夏子さんもいるよ! この二人もD級だから別に役に立たないけどね! あはは! じゃー行きまーす!」


 予定通り、スライムと出会ってそれを魔法で軽くやっつける。

 すると、スライムがいた場所に小さな箱が出現した。


「お! アイテムボックスをドロップしました! ちょっと中を見てみましょう!」


〈やばいやめろ〉

〈みっしー盗賊スキルないよね? 危険だからよしなよ〉

〈まじ危ないぞ〉

〈アイテムボックスは危険〉

〈SSS級ダンジョンのトラップはやばい、やめとけ〉


「えー、大丈夫だよーまだ地下一階だし! じゃー開けまーす!」


 美詩歌は攻撃魔法スキル持ちだが、盗賊スキルは一切持っていない。

 そんな人間がSSS級ダンジョンのアイテムボックスを解錠したのだ。

 無知なる故の、無謀だった。


 プワンプワンプワン!!


 という大きな音がしたかと思うと。

 最悪のトラップ魔法、テレポーターが発動した。

 次の瞬間、カメラマンとマネージャーの目の前で、美詩歌の姿はそこから掻き消えた。

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