第3話 美少女は、生きることをあきらめない。

 やばい、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ!

 なんとかしないと!

 針山はりやま美詩歌みしかは絶体絶命だった。

 とはいえ、全身が壁の中にテレポートされなかったのは幸運だった、と美詩歌は思った。

 もしそんなことになってたら即死だった。

 それだけは免れていた。

 だけど、それは全身が壁の中ではない、というだけだった。

 右腕が肘の上まで壁の中に埋め込まれている。

 テレポートさせられたときに、ちょうど右腕の部分が壁と重なる場所にあったのだろう。


「これ、どうなってるの……?」


 引っ張って抜こうとしたが、まったく抜ける気配がない。テレポートしたときに腕が壁と同化したのかもしれない。


「右手でよかったよ、頭だったら死んでたもんね」


 独り言をいう。


「大丈夫、なんとかなる!」


 笑顔を作り、自分に向かって叫んだ。


 左手首につけていたスマートウォッチを見る。

 現在は……地下八階。

 SSS級ダンジョンの、帰還不可能といわれる地下八階に飛ばされたのだ。


 一番に頭に浮かんだのは、


“生きて帰る!”


 というゆるぎない、強い意志だった。

 常にポジティブで決して折れない。

 それが、国民的人気配信者として成功を収めた、美詩歌のメンタルなのだ。


「まずは、救助を呼べるか試さなくちゃ」


 持っていたyPhoneはどこに行ったのだろうか?

 あ、あんな遠くに落ちてる。

 でも、右腕が壁に埋め込まれている現状、あんなところまで取りに行けない。


「Hey,Sari! Hey,Sari! Hey,Sari! ヘイ、サリィィィィィ!!!!!!」


 力の限り叫んだが音声認識は反応しない。


「Sariちゃん、薄情すぎるでしょ……。いらんときには反応するくせに……」


 しばらくすると着信が来てピカピカ光ったがもちろん出ることはできない。スマートウォッチで確認するとマネージャーの夏子さんだ。

 でもこのスマートウォッチは通知を確認はできるが応答はできない。

 ただこの場所にいるということは確認してくれただろう。


 このままここで大人しくしてたら助けにきてくれるかな? でもここはSSS級ダンジョン。それも、ボスを倒さないと帰還不可能な地下八階。


 救助が来るにしても時間がかかるだろう。

 それまでになんとか生き延びるしかない。


 と、そこに不吉な唸り声が聞こえてきた。

 ダンジョン内は多少の光源はあるとはいえ、基本的には暗い。

 その暗闇に目を凝らすと、そこには三頭の犬の影がみえた。

 いや、犬と言うには大きすぎる。

 フューリーウルフと呼ばれる、オオカミのモンスターだ。

 巨大な牙、六本の足。

 そいつらは美詩歌を見つけると、威嚇すらせず、いきなり襲い掛かってきた。

 美詩歌はD級探索者にすぎない。

 SSS級ダンジョンの地下八階のモンスターに勝てるわけはない。

 それも、片腕が壁と同化して動けない状態ではなにもできやしない。

 でも。


 ――私は生きることをあきらめない!


 美詩歌の手元には一本の杖があった。

 450万円もした、希少アイテム、稲妻の杖。

 美詩歌はそれをふりかざして叫んだ。


「雷鳴よとどろけ! いかづちの力を解放せよ! サンダー!」


 絶対に生きて帰る。

 絶対に死なない!

 生きて、生きて、生き抜く!

 二百歳まで生きてやる!

 十六歳で死んでたまるか!

 私は、みんなの希望の光、みっしーなんだから!



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