第5話 勇者、口説かれる



 テリスの住まう教会に一晩泊まる。


 この世界で最後となるであろう食事は、テリスの手製シチューであった。


 濃厚なミルクと新鮮な野菜を使ったシチューはとても美味しくて、どこか心が安らぐような味がした。



「ごちそうさまでした。凄く美味しかったよ、テリス」


「お粗末様でした」



 食べ終わった食器を片付けて、テリスとしばらく座談する。

 そして、テリスは思い出したように言う。



「あ、私はソファーで寝るから、ソーマくんはベッドで寝てね」


「え、いや、流石に悪いよ」


「良いの良いの。異世界で最後の睡眠なんだから、ふかふかのベッドで寝た方が良い思い出になるでしょ」


「……じゃあ、遠慮なく」



 女の子のベッドで眠るのは気が引けるけど、好意を無碍にする真似はできない。


 やがて太陽が沈み、夜の時間が来た。


 僕はテリスのベッドを借りて、すぐ眠りに就こうとしたのだが……。



――ね、眠れない!!



 ある意味、当然のことだった。


 テリスは美少女だ。

 その美少女が普段から使っているベッドで眠るなど、できるわけが無い。


 なんというか、ベッドから女の子の甘い匂いがめちゃくちゃ漂ってくるのだ。


 そのせいで僕の聖剣が硬くなる硬くなる。


 もうガッチガチだ。

 今ならドラゴンの鱗も砕けるかも知れない。


 しかし、流石に女の子のベッドでナニをして鎮めるわけにはいかないのが悩ましい。

 ここは無心となって、心を落ち着かせる他に無いのだ。


 と、その時。


 ガチャッという扉を開く音がして、誰かが部屋に入ってきたのを察する。



「ソーマくん、起きてる?」


「……」



 俺は唐突な出来事に困惑し、反応できなかった。


 その声の主は、間違いなくテリスだった。

 長い旅を共にした仲間なので、声を聞き間違えるはずが無い。


 テリスは月明かりしか無い暗闇の中を、ランプも持たないで部屋に入ってきた。


 僕は今日の経験から、身の危険を察知する。



「寝てる、わよね?」


「……」


「よしよし」



 何が良いのか分からないが、ベッドの中でいつでも逃げられるように準備しておく。


 しかし、ここでテリスは予想外の行動に出た。


 布の擦れる音がした後、テリスが小さな声で僕の名前を呼ぶ。



「はぁ、はぁ、んっ、ソーマくん、くぅ、だめ、ソーマくん!!」



 なんとテリスは、ナニをし始めた!!


 僕が眠っている(起きてるけど)隣で、ナニをし始めたのだ!!


 完全に起きるタイミングを失ってしまった僕は、せめてテリスのあられもない姿を見ないよう全力で目を瞑った。

 


「あぁ、だめっ、私、もう!! んっ!!」



 それから何分経っただろうか。


 僕の顔に少し粘性のある温かい液体がかかった。


 こ、これは、まさか……。い、いや、気にしてはいけない。

 その正体に思い至ったら興奮で頭が破裂してしまいそうだからね。


 今は寝たフリをするしか無い!!



「はぁ、はぁ……。ふぅ。……ソーマくん、起きてるでしょ?」


「……」


「もう寝てるフリはしなくて良いわ。分かってるから」


「……なんで、起きてるって分かったの?」


「自分でもこんなに声が出ちゃうとは思ってなかったのよ。これで起きなかったら、貴方はきっと戦争で死んでるわ」



 あー、言われてみればそうかも知れない。



「ごめんなさい。ちょっとした出来心なの。どうか許して」


「別に、気にしてないよ」


「……ねぇ、ソーマくん。私はね、貴方のことが好きなの。だから思い出作りもかねて、私とエッチなことしてみない?」


「しません」


「どうして? もちろん、君に好きな人がいることは知ってるわ。旅の途中で何度も聞いたから」



 魔王城へ向かう旅の途中、僕は何度も初恋のお姉さんの話をしていた。


 特にテリスには話していたと思う。


 雰囲気が初恋のお姉さんに似ているというか、話しやすいというか。

 勇者パーティーの中で一番仲が良かったのもあるだろう。



「でも、ソーマくんって童貞でしょ?」


「ど、どど、童貞ちゃいますが」


「分かりやすーい。……そっちの世界は、私たちの世界と貞操観念が逆って前に言ってたわよね。ということは、童貞って貴重なものじゃなくて、恥ずかしいものなんじゃない?」


「……それは、まあ……」


「だったら私で捨ててみない? ほら、きっとソーマくんの好きなお姉さんも、エッチが上手な人が良いと思うの。まだ付き合ってるわけでもないんだし、浮気にはならないわ」



 初恋のお姉さんの好みは分からないけれど、浮気にならないというのはたしかにそうだ。



「……それでも、ごめん。僕にはできないよ」


「どうしてだめなの?」



 僕は人を好きになりやすい。

 顔やスタイルが良い女の子なら誰でもウェルカムというか、まあ、とにかく最低な人間なのだ。



「正直に言うとね、クラウディアやソフィア、ルナに好意を寄せられて凄く嬉しい。あ、いや、ルナはちょっと守備範囲外だけど……。当然、テリスからの好意も凄く嬉しいよ」


「なら、何故? 初恋の人に操を立ててるの?」


「ううん、僕が皆を好きになっちゃうからだよ。初恋のお姉さんへの恋よりも、目の前にある愛を優先しちゃうから」



 むしろ、嬉しくない人間がいるだろうか。

 絶世の美少女美女に迫られて、子を産ませろと言われて。


 なるほど、クラウディアたちは地球で言うところのオラオラ系に当たるのだろう。


 この世界の住人にとっては好みが分かれるものであっても、僕からすれば積極的でエッチな女の子にしか見えないのだ。


 だからこそ、ヤったら僕が堕ちる。


 初恋のお姉さんを忘れて、目の前の幸せを掴もうとするだろう。



「だから、操を立ててるとかじゃないんだ。気持ちが揺らいじゃうから、この世界にずっといたいと思ってしまうから、貞操を守っているんだよ」


「……そう。ふふ、あーあ。これじゃどんなに口説いても無理そうね」



 僕の言葉にテリスは頷いた。



「ごめんなさい。ちょっと悪戯が過ぎたわ。貴方が少しでも私に劣情を抱いてくれたなら襲ってたけど、ちっとも興奮しないんだもの」


「いや、興奮はしてるよ? 必死に堪えてるだけで。というか、テリスみたいに魅力的な女の子に興奮しない男は僕の世界にいないと思う」


「……そういうことを言うから、大勢の女の子に狙われるのよ? もう少し自分の容姿と性格を見直しなさい。神母としての助言です」


「え? あ、うん。分かった」



 何か不味いことを言ったかな?


 テリスは頬を膨らませて、部屋を出て行ってしまった。


 そして、僕は。



「……」



 無言でズボンの中の聖剣を握り、顔にかかった謎の液体とテリスのベッドの匂いをネタにするのであった。


 だって我慢できないんだもん。


 勇者だって賢者になりたい時があるんだよ。







 翌日。


 目を覚ました僕は、テリスに見守られながら教会にある女神像の前で跪き、目を閉じて祈りを捧げた。


 そして、次に目を開くと――



「お久しぶりです、ソーマ」


「そうですね、フレイディーテ様」



 辺りは何も無い真っ白な謎の空間。


 その空間で、一人静かに佇む女性がいた。

 白金色の髪と琥珀色の瞳をした、どこか陰のある絶世の美女である。


 表情は能面のようにピクリとも動かないが、顔は人形の如く整っており、何よりも美しい。


 身長は190cm程度で、かなり高かった。


 そして、その分おっぱいが大きい。

 クラウディアやソフィア、テリスがメロンだとすれば、目の前の美女は大玉スイカだろうか。


 腰はキュッと細く締まっており、太ももはムチムチでお尻も肉感的。


 母性的な魅力で溢れた、まさしく女神のような美しさの女性であった。








――――――――――――――――――――――


あとがき

ギリギリを攻めましたが、運営から警告が来たら改変します。

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