第4話 勇者、仲間と再会する
空から落ちる。
パラシュートが無い状態でのスカイダイビングなんて、生まれて初めてだ。
いや、パラシュート有りのスカイダイビングもしたことないんだけど。
ルナの操る黒竜が高高度を飛行していたこともあり、数十秒で地面に激突してしまう心配は無さそうだけれど……。
「
魔法を発動し、落下地点周辺に人が人がいないことを確認する。
よし、近くには誰もいないようだ。
「聖剣、封印解除。――神剣化!!」
聖剣に全魔力を込める。
神が振るう剣と化した聖剣は、一振りで地形をも変え得る力を持つ。
地球で言うところの核爆弾である。
この馬鹿みたいな神剣の破壊力で地面を攻撃し、その反動で落下の衝撃を殺す。
「うぅ、死ぬかと思った……」
巨大なクレーターの上になんとか着地して、神剣と化した聖剣に再び封印を施す。
神剣は持っているだけでも使用者の魔力を吸い上げてくるからね。
魔力が尽きれば僕の生命力を無理矢理魔力に変換するため、無理に使用することはできない。
まあ、それも魔王城でルナと戦う前までの話。
最近は聖剣の力を解放しても、出力を絞って対人戦でも使えるようになったんだけどね。
「さて、ここからどうしようか」
僕が着地したのは、森の中らしい。
神剣による攻撃で凄まじい閃光と衝撃波が発生したため、クラウディアやソフィア、あるいはルナの追手がかかるだろう。
このままここに留まるのは俺の貞操の危機に繋がるかも知れない。
まずはここを離れるとしよう。
「っと、その前に鎧は脱いでおこうかな」
僕の装備している鎧は、ヴァレンティヌス王国の秘宝とまで呼ばれる
もしかしたら、僕の居場所をクラウディアたちに伝える何らかの魔法が付与されていても不思議ではない。
インナーだけでは心もとないけど、我慢だ。
……。
「まだ追手が来るまで、時間あるよね?」
僕はズボンを下ろして、股間の聖剣が鎮まるまでナニをしておいた。
だって、こうでもしないとソフィアに盛られた媚薬が抜けないし、ムラムラして何もできないからね。
思い出すのは先程まで密着していたルナの身体。
僕は股間の聖剣を握り締め、擦った。
森の中を彷徨うこと数日。
「魔王軍との戦いが活きてるなぁ」
戦時中、整備されていない森の中を進むことが多くあったせいか、全く困らなかった。
食べられる動植物は分かるし、食料も問題無し。
問題なのは、黒竜に乗って飛んでいたせいで正確な位置までは分からないことだろうか。
まずは森を抜けて、教会のある街や村を探そう。
そして、女神フレイディーテ様に元の世界へ帰してもらえるよう嘆願するのだ。
「ん?」
その時、僕の耳に声が届いた。
子供の悲鳴である。
僕はその場から駆け出し、悲鳴が聞こえた方角に全力で向かう。
「――見えたッ!!」
どうやら少年と少女が一人、魔物に襲われているようだった。
魔物というのは、人間を襲う異形の怪物だ。
ルナのような魔族は魔物から進化したと言われているが、言葉が通じる魔族とはまるで違う。
魔物には言葉が通じない。
ドラゴンのような高度な知能を持つ魔物は例外だが、多くの場合はただ人を殺し食らう連中である。
「こ、来ないで!! 来たら許さないんだから!!」
「うぅ、怖いよぉ」
少年を守るように、少女が魔物の前に立つ。
男なら女の子を守ってやれと思うが、この世界では僕の考え方の方が異端だ。
貞操観念が逆転しているせいか、女らしいというのは勇ましく戦うことを指す。
逆に男らしさとは、しおらしく女を立てることだ。
正直に言うと違和感がすごい。
もうこっちの世界に来て数年が経つけど、やっぱり慣れないや。
多分、僕の中では「女の子は守るべきもの」だと認識してしまっているからだろうね。
っと、呑気に考えてる場合じゃないか。
「はあッ!!」
「――――ッ!!!!」
魔物の首を刎ね、絶命させる。
「ふぃー。君たち、怪我は無いかい?」
「え? あ、えっと、貴方は?」
「あー、旅の者だよ。旅の剣士さ」
咄嗟に助けてしまったけど、勇者を名乗るのは不味い。
本名を明かすなんて以っての外だろう。
考え無しで行動するのは、僕の悪い短所だな。
「す、凄い、カッコ良い!!」
少年が目を輝かせて僕を見る。
この世界では戦う男が極めて少ないため、珍しいのだろう。
憧れられるのは嫌じゃないが、少しむず痒い。
「べ、別に魔物なんか私だけで倒せたし」
「もう、フランってば!! 助けてもらったんだからちゃんとお礼は言わなくちゃ」
「わ、分かったわよ、ケイン。……どうも、ありがとうございます」
「当然のことをしたまでさ。気にしないで」
少年がケイン、少女がフランと言うらしい。
僕は二人に笑顔で話しかける。
「見たところ君たちだけのようだけど、近くに村があるのかい? もし良ければ案内して欲しい」
「あ、はい!! 俺たちこの近くの村に住んでるんです!! 何かお礼させてください!!」
「お礼は感謝の言葉だけで十分だよ。あ、でも村に教会はあるかい? 少し用事があってね」
村に教会があるかどうかを、二人に訊ねる。
「教会ですか? ありますよ!! なんてったって俺たちの村の教会には――」
「ケイン!! そろそろ日が暮れるから、さっさと村に戻るわよ!!」
「え? わわ!! どうしたの、フラン。なんで怒ってるの?」
「別に何でもないわよ!!」
お、これはあれかな?
フランはケインのことが好きで、魔物から守ってカッコ良いところを見せたつもりだったが……。
後から来た僕に横取りされて機嫌を損ねてしまった感じだろうか。
だとしたら少し悪いことをしてしまったな。
まあ、女の子に怪我をさせるよりは遥かにマシだと思うから後悔は無いが。
僕はご機嫌斜めなフランとニコニコ笑顔のケインに案内され、村に到着した。
人口はおよそ二百人前後だろうか。
そこそこ大きな村のようだ。
「教会はこの道を真っ直ぐ行けばあるりますよ!!」
「案内ありがとう。本当に助かったよ」
二人と別れて教会へ足を運ぶ。
村の教会はヴァレンティヌスの首都にあるものより小さかった。
しかし、手入れが行き届いている。
きっとこの教会を管理している神父――じゃなくて神母は信仰心の厚い人なのだろう。
僕は教会の扉をノックした。
すると、中から女性の声で「はーい」という返事が聞こえてくる。
ガチャッと扉が開いた。
「はい、どちらさまで――」
「失礼、少しお祈りをしたく――」
中から出てきた神母とバッチリ目が合う。
淡い緑色の髪と瞳を持ち、どこかおっとりした雰囲気の少女である。
体型が分かりにくい法衣の上からでも分かるくらいボン・キュッ・ボンのスタイルをしており、とても魅力的な、絶世の美少女だった。
僕とその美少女は、思わず同時に叫ぶ。
「あら? ソーマくん!?」
「テリス!?」
知り合いだった。
彼女の名前はテリス。
女神フレイディーテを信仰する女神教の聖女であり、かつて共に魔王城で暴れた、僕の仲間であった。
何故、テリスがここに……?
「会いたかったわぁ!!」
互いに困惑したが、コンマの差で早く復帰したテリスが僕に抱きついてくる。
そして、その大きな胸に頭を埋めさせた。
おお!! 柔らかい!! 布越しでも分かるくらい柔らかい!! マシュマロみたいだ!!
じゃない!!
「ど、どうしてテリスがここに!?」
「どうしてって、ここが私の故郷だからよ。貴方こそどうしてここに?」
「あー、えっと。実は……」
僕は教会の奥にある神母が過ごすための部屋で、王都であった諸々の出来事をテリスに話した。
「あははははっ!! 女王と王女、ついでに魔王に求婚されて断ったら、全員に襲われそうになったですって!? あははははははっ!!」
「笑い事じゃないよ。大変だったんだから」
テリスが大爆笑する。
「それで、女神様にお願いして元の世界に帰してもらおうってことね」
「うん。でも、最後にテリスに会えて良かったよ」
「そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうじゃない。そういう思わせぶりな態度が諸々の原因じゃないかしら?」
「え? 何か思わせぶりだった?」
「……相変わらず無自覚なのねー。うんうん、それでこそソーマくんよ!!」
なんか馬鹿にされている気がするものの、テリスに会えて良かったというのは本心だ。
明るく誰にでも分け隔てなく接する彼女の存在は、異世界に来て不安だった僕にとって救いそのものだったから。
「……もう、帰っちゃうのね」
「うん」
「なら、最後に泊まって行ってよ!!」
「え? いや、流石に……」
「あら? もしかして私に襲われるかも、とか考えてるのかしら? このドスケベ」
「ち、違っ」
いや、違わないけど!!
三回連続で襲われそうになったから少しだけ疑心暗鬼だけど!!
なんて考えていると、テリスは朗らかに微笑む。
「安心して。私、これでも神母なのよ? エッチなことはしません。少しは仲間を信用しなさいな」
「……なら、お言葉に甘えようかな」
僕は一晩だけ、教会で泊まることにした。
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