第16話

相手は4人増えている。

対する僕はだった一人。


勇者、剣聖、エンターテイナー、見習い。

なんか勇者パーティーみたいだね。


そのパーティーと真正面からやり合うのはバカらしい。

全員バラバラにして1人づつ相手するのがいい。


だから来た奴は漏れなく吹き飛ばす。

そうやって常に全員と距離を取らないとタコ殴りにあっちゃう。


それを続けていると、全員が少しずつ弱って行く。

さらにオーロラは刻一刻と降りて来てる。

あと1時間もしないうちにこの国は消えて無くなる。


「オメェにこの国の未来を閉ざす権利なんてねぇはずだ!」

「もちろんだとも。

だが俺は悪党だからしたいようにする。

欲しい物は奪い、いらない物は消し去る。

ただそれだけだ」


チャップの拳を叩き落とす。

チャップは大きく息を吸った。

口にはいつの間にか火のついたタバコが咥えられている。

そのタバコの煙を僕に思いっきり吹きつけられた。


煙によって僕の視界は真っ白になって、身体全体が煙に包まれる。


この煙はただの煙じゃないな。

なるほど、そう言う事か。


僕は煙を抜けて後ろに距離を取ったチャップを追いかける。


「素晴らしい技だな」

「まさか、あの一瞬で!」

「煙を吸っていたらジ・エンドだったよ」


チャップが慌てて出した拳を掴んで背負い投げで地面に叩きつけた。


あの煙はチャップが自分の魔力を混ぜた煙。

遠隔でも自由に変化させる事が出来る。

つまりあれを吸っていたら内側から身体を破壊する事だって出来る。


タネが分かれば息を止めるだけで対処出来るが、初見殺しの素晴らしい最強技だ。


地面にめり込んだチャップを思いっきり踏みつけようとしたら、閃光が走った。


僕は跳んでツバキの後ろに回り込む。

すぐにツバキの閃光が再び走る。

僕もう一度跳んで後方に距離を取る。


少しツバキらしからぬ剣筋にブレが感じられる。

ルリからの連戦の疲れと焦りがそうさせているのだろう。


「どうした?

焦っているのか?」

「うるさい!」

「そうイライラするな。

せっかくの美しさが台無しに……

いや、イライラしてる顔も充分美しいぞ」

「誰のせいだと思っているんだ!」


何度もツバキの閃光が走る。

それを全て紙一重で躱していく。


「落ち着いて空を見たらどうだ?

美しいだろ?」

「お前の魔力なんかが美しいわけ無いだろ!」


ツバキの閃光をすかしてから懐に潜り込んで、顎クイしてツバキの唇と僕の仮面が触れるぐらい近くで顔を見つめる。


「そうだな。

お前の美しさには敵わないな」

「離れろ!」


ツバキはすぐに剣を翻す。

その剣を持つ手首を左手で掴んで止める。

もっと顔を近づけて唇が仮面に触れそうになると、ツバキが身体を逸らして顔を後ろに下げた。

それを更に近づけて見つめた。


「その嫌悪感の浮かぶ顔も美しい。

ずっとずっと見ていたい」

「離れろって言ってるだろうが!

この変態野郎!」


ツバキのビンタが直撃する前に離れて距離を取る。


ツバキを口説くとミツルギ君が怒るんだ。

今も僕のすぐ後ろから剣を振り抜いて、僕の残像を真っ二つにした。


ガラ空きのミツルギ君のボディーに拳をめり込ます。

それでも反撃して来るミツルギ君の剣は再び僕の残像を真っ二つにした。


僕はツバキの後ろに回り込んで片手は剣を持つ手を掴み、もう片手でツバキを優しく抱き寄せる。


「前にも言っただろ?

優しき剣聖よ。

ウカウカしてると奪われるって。

もうこの美しき勇者は俺に御執心だ」

「誰が誰に御執心だって!」


ツバキは踠くが、僕は強く抱いて離さない。

それを見たミツルギ君が真っ直ぐにこっちに向かって来る。


「大切な物なら大事に受け止めろよ」


僕はツバキを軽く押し出してから背中に手を置いて魔力で吹き飛ばす。

ミツルギ君は勢いよく吹き飛んだツバキの身体を受け止める為に剣を手放ししてしっかり受け止める。

そんなミツルギ君ごと遠くに飛んで行った。


後ろで呻き声を上げながら立ち上がろうとしたチャップを踵落としで再び地面に叩きつける。


更に追撃しようとした僕にジュニアがこっちに向かって殴りかかって来る。

と言っても、もはや殴れるのかと思えるぐらいフラフラだ。


それでも僕は一切手加減なんてしない。

素早く距離を詰めて蹴り飛ばす。


そこにトレーラーが真っ直ぐ突っ込んで来た。


僕は回し蹴りで進行方向を変えると、そのまま瓦礫の山に突っ込んで止まる。


中からリンリンとランランが出て来たと思ったら、2人の手からロープが伸びて来て僕をぐるぐる巻きに拘束した。


それを簡単に引きちぎって、片手づつ切れ端を持って引っ張る。


「うわっ!?」

「ちょっ!?」


真っ直ぐ引き寄せられて来る2人の後ろに回り込んで両腕で抱き抱え、2人の顎を持ち上げる様に掴んで2人の顔の間に顔を入れて耳元で囁く。


「綺麗な踊り子達よ。

俺の腕の中で踊ってくれないか?」


僕は両手から気力と霊力を流し込んで痛覚を刺激する。

これによって一切外傷を与えずに痛みだけを与える事が出来る。


「何これ!何これ!何これ!」

「痛い!痛い!痛い!」


2人は僕の耳元で悲鳴を上げらながら暴れる。

その心地よい悲鳴と両腕の中で踊る2人に、少し興奮を覚えた。


2人共改めて近くで見るといい女だよな〜

悪党だったらそれはもう間違い無くめちゃくちゃになるまで犯していたね。


その悲鳴を聞きつけてチャップが迫る。

僕は

すぐに2人を離して背中を魔力で押し出した。


宙を浮いた2人をチャップが優しく両腕で受け止める。

その所為でガラ空きになった鳩尾に飛び蹴りを入れてぶっ飛ばす。


後ろから魔力の気配がして振り返ると、トレーラーから降りたヒメコがこっちに両手の掌を向けていた。

その両手から魔力の巨大な球が発射される。


かなりの魔力だが、所詮付け焼き刃。

見た目程の威力は無い。

デコピンで爆散させる。


思いっきりの魔力を込めたのだろう、ヒメコはその場にへたり込むのをヒカゲが支えた。


僕は軽くオーロラを見上げる。

オーロラもかなり降りて来てる。


そろそろ打ち止めかな?

結局ここには正義なんて無かった。

今更種族の垣根を越えて助け合う者達が少数現れたって遅かった。

この国は滅びる運命。

ただそれだけの話だったって事だ。


わざわざタイムリミットまで作って猶予を与えたのに無駄だったみたいだ。


このままでも問題は無いんだけどね。

でも、そろそろこの国とは関係無いみんなを国の外まで運ぶとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る