第15話

建造物が崩れて行く地響きが鳴り止まない。

ルージュが派手に楽しんでいるのだろう。


あそこら辺一帯はもうダメだね。

ツバキが頑張って人助けしてるけど、全員は無理だろうね。


僕も負けてられないな。


僕はカードを生成して投げる。

そのカードをミツルギ君が切り裂いた。


チャップが一気に距離を詰めて掴み掛かった来た。

それを躱し腹に蹴りを入れる。


結構強く蹴ったはずなのにチャップの裏拳が迫り来る。

それを顔を逸らして紙一重で避け、ガラ空きの腹に掌を押し付ける。


「どうした?

さっきから動きが鈍いぞ。

手負か?」


その掌から放出させた魔力によってチャップの身体は建物を三棟程貫通して行った。

それを歩いてゆっくりと追いかける。


後ろから来たミツルギ君の回し蹴りで弾き、その勢いのままもう片足で蹴りを入れる。

その蹴りは右腕で止められた。


間髪入れず迫るミツルギ君の剣をバク転で避ける。

すぐに来る追撃の剣を掴んで止めた。


これだけ長い剣を素早く振り回せるなんて、流石人間最強の剣聖だ。


「この国の者達が何をしたって言うんだ?」

「なんの話だ?」

「お前がこの国を消すって言ったんじゃないか!」


ミツルギ君が剣を引き戻して突き出す。

再びそれを掴んで止める。


「ああ、それか。

別に何も無い」

「なら何故消そうとするんだ!」

「理由?

それは言ったはずだぞ。

いらないからだ」

「それだけの事で……」

「優しき剣聖よ。

お前はゴミを処分しないのか?」

「それとこれとは違うだろ!」

「何が違う?」


僕は剣を引っ張って引き寄せて拳を固める。


「いらない物は処分しないと目障りではないか」


バランスを崩したミツルギ君に拳を叩き込む。

ミツルギ君は後ろに飛んで衝撃を緩和したから深くは入らなかったけど、かなり遠くに飛んで行った。

でも距離は取れたから生成したカードを無作為に投げる。

また一つ建物が消滅した。


おや?

まさか君も来るとはね。


横から攻めて来たジュニアの拳を軽く受け止める。

魔力の籠った一撃だけど、チャップ程では無い。

それに体重が上手く乗って無い。


しかも、受け止められただけで止まってる。

戦い慣れて無い証拠だ。

だからと言って僕も止まってやる道理はない。

僕が人の殴り方を教えてあげるよ。


僕はジュニアを殴り飛ばして、建物を貫通させる。


タフさはあるみたいだね。

すぐに立ち上がってこっちに向かってくる。


「お前が命掛けで俺に挑んで来る程の価値がこの国にあるのか?」


ジュニアはこの国にいい思い出無いって言ってたのに不思議で仕方ない。


「僕はこの国が嫌いだ。

でもこの国は僕の知っている時とは変わって来てる」


僕はジュニアの拳を簡単に躱わす。

それだけでバランスを崩している。


足を軽く出しただけで躓いて転んだ。


「だから?」

「その人達の未来を閉ざして良いわけ無い!」


ジュニアがすぐに立ち上がって殴りかかって来る。

それも躱して後ろに回り込んで後ろ襟を掴む。


「残念ながらそれを待ってくれる程、世界は優しく無いって事だ」


ジュニアを掴んだまま、ルージュが通り過ぎて行った瓦礫の山の方へ跳ぶ。

その瓦礫の山目掛けてジュニアを投げつけた。

僕はその近くにゆっくりと降りる。


あんなに綺麗に整えられていたメインストリートは見る影も無い。

まあ、すっきりしてこれはこれで綺麗だけどね。

助けを求める雑音が鬱陶しいけど。


「そんな事無い。

昔の僕はこの世界が優しく無いと思っていた」


これは想像以上にタフだね。

もう瓦礫の中から這い上がって来たよ。


「でも団長に連れられて世界を回った。

この世界にはいろんな人が居て、いろんな考え方があって、衝突する事がいっぱいある。

だけど、この世界には優しい人が沢山いる。

その人達が笑っていられる場所が必要なんだ。

僕はその為にこの力を使う。

僕はエンターテイナーだから!」

「ジュニアよく言った!」


迫り来るチャップの拳を手で逸らす。

すぐに来た後ろ蹴りも飛び退いて躱わして、後ろから来たミツルギ君の剣をノールックで掴む。

前から来たチャップの拳も掴む。

そのまま回転して僕を中心にすれ違った二人の背中に掌を置いて魔力で吹き飛ばす。

真っ直ぐに殴りかかって来たジュニアは蹴り飛ばす。


「ハクユウ!?

大丈夫!?」


瓦礫の山に埋めれたジュニアの元にコオリが駆け寄った。


なんか急に現れたな。

何しに来たんだろう?


突然、閃光が僕を襲う。

咄嗟に手刀を合わせる事で防げた。

この閃光は間違い無い。


「やあ、美しき勇者よ。

会えて嬉しいよ」

「私は出来る事なら一生会いたく無かったけどね」


相変わらず連れないツバキ。

それがまたどうしようも無く唆る。


「そう連れない所も愛おしい。

もう今日は来てくれないかと思ったぞ」

「お前が悪さをしなければ来なくて良いんだけどね!」


ツバキは剣を切り返す。

それを躱して後ろに回り込んで優しくバックハグをする。


「なっ!?」


突然の抱擁に驚きの声をあげたツバキの耳元に仮面越しに囁く。


「そんな事言って、瓦礫に埋もれてる人々をほったらかしにしてまで来てくれたんだろ?

そこまで俺を好いていてくれているのだな」

「気持ちの悪い事を言うな!!」


ツバキは本気で気持ち悪かったのか、ブルっと身体を震わせてから僕の両手を跳ね除けて、振向き様に剣を振り抜いた。

僕はそれを一歩下がって紙一重で避ける。


「私は私がやるべき事をするだけだ!

見ろ!

この国の人々も自分達で助け合う事が出来るんだ!」


僕はツバキが指差した方を見る。

そこには老若男女も種族も関係無く協力して瓦礫から人を助ける人達がいた。


全然気付かなかった。

あれはスラム街の人達みたいだ。


人は緊急事態に陥ると本性が出る。

これが正しい姿なんだろう。


これは予想外だな。

まさかここに来てあんな光景を見れるとは思わなかったよ。


でも、もう遅い。

賽は投げられた。

悪党である僕はもう止まらない。

あとは出た目がどっちかだけの話。


「だから私はこれ以上お前にこの国を破壊させない!」


ツバキの閃光が煌めく。

それを掻い潜って懐に潜り込み、ツバキのお腹に掌を当てる。


うわ〜、めっちゃスベスベで引き締まっているのに柔らかいや。

ずっと撫でていたいけど、掌から魔力を放出して吹き飛ばそうとしたけど、両足で踏ん張られて10メートル程下がっただけだった。


「ならば抗って見せろ」


僕は真っ直ぐ上を指差す。

上空のオーロラが濃くなっていき、少しずつ降りて来る。


「滅びの足音ははっきりと聞こえているだろ」


この国に正義があると言うのなら生き残る。無ければ滅びる。

ただそれだけの話さ。

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