第14話

外へと避難していたオイリィは、あらかじめ用意していた隠れ家で一人優雅に紅茶を楽しんでいた。


「フフフ。

もう少し。

もう少しよ。

もうすぐでこの国は鬼人の物となる。

そうなったら、まずは人間の出入りを制限しないと。

せっかくの奴隷を逃がす訳にはいかないからね。

あと法律も変えなくちゃね。

これからやる事がいっぱいね」

「そんな事はありませんよ。

もうすぐ全て無くなりますから」

「誰!?」


オイリィが見渡しても誰も見当たらない。

ただルリの声だけが聞こえるのみ。


「誰か聞きたいのは私ですね。

総裁オイリィは先日、私が殺したはずですよ。

その時に名乗らせていただきました。

お見知りおきする必要はありませんとは言いましたけど」

「侵入者よ!

何をしてるの早く排除しなさい!」


扉の向こうの軍人に向かって命令するが、全く反応が無い。

それもそのはず。

外の軍人は既にルリによって始末されていた。


「どこの誰でも構いませんけど。

どうせ死んで頂きますから」


ルリの仕込み刀が煌めくとオイリィの首が地面に転がった。

しかし、断面から血が一切流れない。


「なるほど。

生物ではありませんでしたか。

動く人形ってところでしょうか?」


ルリは断面を除き込んで首を傾げた。


「つまり私の仕事に落ち度が無かったと言う事ですね。

一応報告だけはしておきましょう」


ルリは音も無く消え去った。



瓦礫の山の上でルージュは次の獲物をロックオンした。


「次はあれにするー」


目にも止まらぬ速さで隣の建物に突撃した。

そのまま数棟貫通して地響きと共に建物が倒壊する。

それでもルージュの勢いは止まらない。


次から次へと建屋が倒壊していく。

正に災害。

ルージュが動く後ろには瓦礫の山が築き上げられていく。


「ヒャハハハハ!

楽しいー!」


ルージュの笑い声の後に倒壊していく建屋の地響きが鳴り響く。


そんなルージュの前にツバキが飛び出した。


「辞めるんだ!」

「ヒャハハハハ!」


ルージュは止まらずツバキに飛び掛かる。

ツバキがそれを受け止めた衝撃波で瓦礫が吹き飛ぶ。


「じゃーまー!」


ルージュがツバキの腕を掴んでぐるぐる回転して投げ飛ばす。

ツバキ空中を蹴ってはすぐにルージュを追いかける。

しかしルージュに追いつく前にルリが割って入った。

ツバキの剣とルリのステッキが激しく交差した。


「お久しぶりです勇者ツバキ様」

「君は、謙虚のルリ」


名前を呼ばれてルリは嬉しそうに笑顔を見せた。


「覚えて頂けてましたか。

正義の貴方様に覚えて頂けるなんて光栄の極み。

悪党として鼻が高い」

「何が悪党だ。

今度は何をしようって言うんだ」

「見た通りです。

町を破壊しております」


ツバキは休む事無く剣を繰り出す。

捌き切れないと判断したルリは大きく距離を取って仕切り直す。


「なんでそんな事するんだ」

「マスターがこんな国などいらないと仰ってましたので、この国は消してしまう事にしました」

「国を消すだと!?

そんな馬鹿な事が――」

「出来ないとお思いですか?」


ナイトメアの魔力によって荒野と成り果てた大地をツバキは容易に想像出来てしまった。


「そんな事はさせない!」


ツバキは再びルリに切り込む。

剣を握る手に自然と力が入る。

ルリは受け止め切れずに弾き飛ばされるも、空中に止まって難を逃れた。


「何か問題でもありますか?

学習する事も無く争いを繰り返す。

そんな国に存在意義などあるのですか?」

「確かに間違っているのかもしれない。

でも、だからと言って力で滅ぼしたらやってる事が同じじゃないか!」


受け止められないと判断したルリはツバキの閃光を逸らし続ける。


「ええ、そうですよ。

私達は悪党ですから」

「何故なんだ?

何故君達は悪である事に拘る?」

「悪党としてしか生きられないからです」

「そんな事は無い!

君達程の力が有ればなんでも出来るじゃないか」

「そうかもしれませんね。

でも、それが出来ないのが悪党なんです」

「出来ないはずが無い!」

「いいえ。

マスターの美学に反してしまいますので」

「また美学か。

一体なんなんだ。

その美学ってのは?」

「貴方様には理解出来ない物です」

「どうして理解出来ないと決めつけるんだ?」

「人は理解し合うことなど出来ません。

それはこの国が証明しています。

裏切り、策略、憎しみ、妬み。

人はその負の連鎖を断ち切る事など出来やしません」

「違う!

人は過去の過ちから学び、前に進む事が出来る!」

「フフッ」


ルリは意味あり気に短く笑った。


「なにがおかしい?」

「失礼しました。

ただ可笑しくて。

だってそうではありませんか?

今、正に私達が分かり合えないその物ではありませんか」

「それは……」

「でも、それでいいのです。

マスターは仰ってました。

正義と悪党は根本的に違う。

分かり合えるはずが無い。

何故ならば、いつも間違っているのは私達。

悪党の方なのですから」

「間違っていると分かっていて、どうして正そうとしないんだ?」

「間違っていると知っていて尚、自分の欲望のままに行動するのが悪党だからですよ」


ツバキの閃光をルリは躱わしながらステッキを突き出す。

ツバキは空中を蹴って距離を取る事で躱した。


もう既にメインストリートはルージュによって瓦礫の山となり、下敷きになった助けを呼ぶ人々の声があちこちで聞こえる。


「ふぁ〜〜

ルージュ眠たくなってきた〜

帰って寝た〜い」


散々暴れてメインストリートを壊滅させ満足したルージュが大きな欠伸をする。

それを聞いたルリはツバキに優雅に礼をした。


「どうやらルージュは電池切れのようです。

残念ながら国を滅ぼすまではいけませんでした。

まあ、私達など居ても居なくてもマスターはこの国を消してしまうでしょうが。

では失礼します」

「待て!

逃がさ――」

「いいのですか?

私達は逃げた方がよろしいはずですよ」


ルリは下にいる助けを求める人々を指差す。

ツバキは悔しさを堪えて下に降りる。

ルリもルージュの元に移動した。


「ルージュ。

帰りましょう」

「うん。

ルージュ眠〜」


もう半分寝ているルージュをつれてルリは消えた。


下に降りたツバキは声を頼りに瓦礫を撤去して行く。


「なんで鬼人を先に助けるんだ!」

「人間なんか放っておいて私を助けて!」


時折そんな勝手な声を浴びせられてもツバキは決して手を止めない。

いくらツバキが強くても一人では限界がある。

それでもツバキは諦めずに救助活動を続けた。


奇跡的に難を逃れた人々は手を貸さない。

鬼人も人間もお互いを助けたく無いと言う思いが先行してしまっていたり


そんな中でも、種族関係無く助ける為駆けつけた者達がいた。

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