第13話

やっぱり初めから全て仕組まれていたみたいだね。

国内の策略にチャップ雑芸団は巻き込まれたって事だ。

それも鬼人だの人間だのくだらない争いに。


どうせいつまで経っても同じ事を繰り返すんだから。

ここに来る前にヒメコが言ってた終わるの?ってのが的を得てるよね。


きっと終わらないと僕は思うね。

それなのに巻き込まれるなんて迷惑な話だ。


僕は自由が好きだから学園なんて大っ嫌い。

あそこは自由とは真逆な所だから。


ヒナタの事が無ければ絶対に入学なんてして無い。

だから通わなくて良くなった今の状況は願ったり叶ったりだ。

そう出来るようになったのはチャップ雑芸団のおかげに他ならない。


そのチャップ雑芸団が無くなったら困るんだよ。

それなのに国家侵略罪ってなんだよ。

チャップは拘束されるし、ジュニアはなんかおかしくなっちゃうし、挙げ句の果てにヒメコは泣いちゃうし。


「もう、こんな国いらないよね?」


僕は首藤を見下ろしながら思わず声に出しちゃった。

自分でも感じるぐらい冷めた声だ。


「マスターがいらない物は私も必要無いと思います」

「ルージュもそう思う!」


ルリもルージュも同意してるから満場一致でいらないって事でいいね。

どうせこんな事を繰り返すんだからあっても無くてもいいしね。


「じゃあルージュ好きに暴れていいよ」

「いいの!?

ルージュ暴れるの大好き!!」


ルージュは言い終わる前に一際高い塔に流星の如く突っ込んで行った。

塔は一瞬で瓦礫の山となった。


「ヒャハ!

壊れちゃったー。

脆ーい」


一番最初に大きな塔に目を付けるなんて流石ルージュだ。

大きければ大きい程、壊すのって楽しいもんね。


「では私は仕事の後片付けが必要みたいですのでそちらに」


ルリもスッーと下に降りて行った。


さて僕も行くか。


僕はナイトメアスタイルに変身してセンスの無い建屋に向かう。


一件落着で終われないのがこの国そのものを見てるみたいだ。


『ひれ伏せ』


窓から中に侵入して、その場にいた全員を言霊で地面に縛り付ける。


「ナイトメア!

どうしてここに!?」


ミツルギ君が僕を見て起き上がろうとしている。

流石人間最強の剣聖と言うだけはある。

誰よりも早く起き上がれそうだ。


僕は敢えてそっちに近づいて行きながら、両手で生成したナイフを次々と投げて軍人を始末していく。


「辞めるんだ!」


言霊の効力から抜け出したミツルギ君が切り掛かかって来るのを跳んで躱わす。

そしてアクアスの上に着地した。


「ぐぇ!」


足元から間抜けな声が聞こえるが無視する。


「また会ったな優しき剣聖よ」

「その人から離れろ!」

「今はこの男のお守りか?

俺が無駄な仕事を無くしてやろう」


僕はアクアスの顔を蹴っ飛ばす。

アクアスの首だけが胴体から離れてサッカーボールみたいに転がった。


国を滅ぼすには、まずはトップを始末しないとね。


「なんて事を!?」


ミツルギ君の剣が再び迫る。

それも同じく跳んで躱し、空中でナイフを一度に大量に投げて軍人を全滅させた。


「テメェがナイトメアか。

何しに来やがった?」


チャップも言霊の効力から抜け出したみたいだ。

じゃあそろそろいっか。


「俺は奪いに来たんだ。

この世界からこの国を」

「は?」

「要は――」


僕の魔力によってレンガ造りだった建物はオーロラのガラス細工の様に変貌する。


ミツルギとチャップがジュニアを連れて外に飛び出したのを確認してから指を鳴らした。


建物は中にいた人諸共砕け散って欠片がキラキラと舞う。

僕は欠片な中をゆっくりと降りて行き、3人の前に降り立つ。


「こんな国は消してしまおうって事だ」

「国を消す?

そんな馬鹿な事が――」

「出来ないとでも?」


僕はミツルギ君の疑問に応えるために魔力で生成したカードを無作為に投げる。

そのカードが刺さった建物は跡形も無く蒸発した。


「築き上げるのには長い年月がかかる。

だが、消し去るのは一瞬だ」

「そんな事が許される訳無い」


切り込んで来たミツルギ君の剣を手刀で受け流す。


「元より許しなど求めて無いさ」


空いてる方の片手で胸ぐらを掴む。


「俺が今求めるのはこの国の破壊のみ」


ミツルギ君を投げ飛ばす。

そのすぐ後にチャップの拳が迫る。

僕も拳で相殺した。


「意外だな偉大なる魔人よ。

お前にとっても必要無い国では無いのか?」

「確かにオレにとっては必要ねぇ国だ。

だけど消えていい国じゃねぇ」


チャップの魔力は僕よりも大きい。

純粋な押し合いとなると分が悪いから一度後方に跳んで距離を取る。


「必要無いのに消えてはいけない?

全く理解出来ないな」

「ガキはな産まれる場所も親も選べねぇ。

この国で産まれた奴はこの国で生きて行くしかねぇ奴らはいくらでもいる。

国が無くなったらそんな奴はどうすればいいって言うんだ」

「なるほど。

それが正しい考えか。

だが俺はもっと手っ取り早い解決策が分かるぞ」

「手っ取り早い解決策だと」


僕の魔力によって上空にオーロラが広がる。


「そんな者諸共消してしまえばいいだけの話だ」

「テメェ!」


再びチャップの拳が迫る。

魔力と怒りの感情が拳を更に強力な物としていて、ガードしたのに僕は後ろに吹き飛ばされた。


「そう言う奴らの為に先に生きたオレ達がより良くして行ってやる必要があるんだろうが!

勝手にこれから生きる者の可能性を消していい訳無いだろうが!」

「正しい者の意見だな。

他人などどうでもいい俺にとっては絶対に考え付かない考えだ。

言われた今も理解に苦しむ。

どうせこの世は過酷で残酷で理不尽なんだ。

ここで消えた方が幸せかもしれない」


僕はガードした腕を動かして状態を確認する。


ちょっと痺れてる程度で問題無いな。


「まあ、そこまで言うのなら力を持って示してみろ。

力の無い理想は空想にしか過ぎないのだから」

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