第12話

塔の中で一旦停止したトレーラーからゴーレツとツバキ以外が降りた。


「こっちで気を引いとくから頼んだぞ」


そう言ったゴーレツを乗せたトレーラーは塔の中をぐちゃぐちゃにしながら走り去った。


「何処から放送流してるんだろう?」

「ヒメコちゃん。

何か分かる?」

「う〜ん……

そこまではわかんないや」

「多分あっちだよ」


ヒカゲが指刺した方を全員が見る。


「後輩君。

なんで分かるの?」

「勘」

「勘かい!

でもどうせわからないんだから新人君の勘を信じてみよう」


少し進むと、それっぽい扉が現れた。

リンリンとランランは勢いよくそれを開ける。


中はヒカゲの勘通り放送設備で、一人の軍人が放送を流していた。


「何もんだ!」


軍人が動き出す前にリンリンとランランがロープでグルグル巻きにして部屋の外に叩き出した。


「ねえ、これってどうやって止めるの?」

「わかんない。

壊しちゃう?」

「そんな簡単に壊れるの?」

「わかんない」


止め方の分からなず、あたふたしているリンリンとランランを他所にヒカゲがヒメコを呼んだ。


「ねえ、ヒメコ」

「なに?」

「これって魔力を音に変換してるのかな?」

「う〜ん、多分だけど……

そうみたい。

なんで?」

「なんとなく」


ヒメコは訳も分からずヒカゲを見ながら首を捻る。

でも何かに気付いたのかリンリンとランランの所に行った。


「どうしたのヒメコちゃん?」

「止め方分かるの?」

「うんうん。

でも音は消せるかも」


そう言ってヒメコは魔力マリンバを取り出した。

そのマリンバを放送設備に流れている魔力と同期させようと調整する。


細かな魔力操作が必要となるが、常に練習を重ねて来たヒメコには微調整を重ねて同期させる事に成功した。


ヒメコは同期のとれた魔力マリンバで演奏を始める。

この町に来た時に演奏した旅人の曲が塔を通して町中に流れた。



ジュニアの振り下ろされた拳は間に入ったミツルギが鞘付きの剣によって受け止めた。

そのまま剣を振り切って押し返す。


宙返りをして綺麗に着地したジュニアがすぐさま突っ込む。


「ジュニア君。

正気に戻るんだ」


合わせて前に出たミツルギが剣を突き出す。

リーチの差で鞘の先がジュニアの鳩尾にめり込む。

だが、答えるどころか唸り声一つ上げずにその剣を掴んで投げ飛ばした。


空中で回転したミツルギは壁を蹴って戻り、真っ直ぐアクアスに向かうジュニアの足に絡めて転ばした。


「ミツルギ!

こいつらをなんとかしてくれ!」


チャップに言われて、すぐにミツルギはチャップを抑え込んでいた軍人を弾き飛ばす。


「ミツルギ。

あのクズ親を守ってくれ。

ジュニアは俺がなんとかする」


チャップは走りながらタバコに火をつけて一気に吸い込んでそのまま吐き出す。

その煙に包まれたと同時にチャップの身体から青い炎が燃え上がる。


立ち上がったジュニアの前に立ちはだかった時には青髪の魔人の姿へと変貌していた。


「おい、ジュニア。

こんか所で何してやがる。

公演の設営はどうした?」


ジュニアは無言でチャップに拳を突き出した。

ドシン!と言う重たい音と共に無抵抗のチャップの胸に直撃した。


「お前をこの国から連れ出す時と一緒だな。

あの時もお前はオレに殴りかかって来た」


ジュニアは無言で次の拳を叩き込んだ。

それも無抵抗のチャップに直撃した。


「あの時言ったよな。

お前がその力が嫌いなら、その力を人を笑わす為に使えって。

その為にエンターテイナーになれって」


無言のまま拳を繰り出し続けるジュニアに構わずチャップは続けた。


「お前は一端のエンターテイナーになったよ。

あの時と違って顔面を殴って来ないからな。

オレ達エンターテイナーにとって笑顔はもっとも重要な物だ。

客の前では何があっても笑って無ければならない。

どんなに辛くても、悲しくても、苦しくても。

だから笑えジュニア。

そのよくわからねぇ運命も笑って乗り越えろ!」


チャップの声にジュニアの右の拳がチャップの胸に直撃して止まった。


「団長……

無理だよ。

親父を殺さないといけないって頭に響くんだ」

「オレの顔を見ろジュニア!」


チャップはジュニアの顔を掴んで自分の顔を真っ直ぐ見させる。


「何が親父だ!

あんなクズ野郎のためにお前が今まで積み上げて来た物を捨てるのか?

それを捨てるぐらいなら、あんなクズ野郎をお前から捨ててやれ!

オレとお前は血も繋がってねぇし、種族もちげぇ!

でもな、お前はオレの家族た!

誰がなんと言おうと家族だ!

どんな辛い事も、悲しい事も、苦しい事も、お前の運命だって受け止めてやる!

一緒に笑って乗り越えてやる!

だから抗え!

お前の人生はお前だけの物だ!

お前が抗わずに誰が抗うんだ!!」

「団長……僕は……」


ジュニアは脳内で響く声に必死に抗う。

抗えば抗う程声は大きくなる。

しかしその声は突然消える。

それと同時にヒメコの演奏する旅人の曲が町中にながれた。



放送設備の異変に気がついた軍人達がヒメコ達の居る部屋に迫って来た。


「そろそろヤバそうだよ」

「よし、撤退しよう」


リンリンとランランに言われて4人は撤退を始めた。


部屋を出る直前にヒカゲがコッソリと魔力を流して放送設備を破壊して出た。


4人は出口を目指して進むが、四方八方から迫る軍人達に少しずつ追い込まれていく。

そしてついに挟まれてしまった。

その片方を駆けつけたツバキが叩き伏せる。


「待たせたね。

君達のおかげで本調子さ。

さあ、撤退するよ」


ツバキを先頭に外に向かって走り出す。


「あっ!」


ヒカゲに抱えられたヒメコの手からマリンバが零れ落ちた。

地面に落ちたマリンバが追いかけて来る軍人達に踏み潰され無残な姿に砕け散った。


「あ〜!

う、う、うわーん!!」


ヒメコが大きな声で泣き出す。

感情の昂りによりヒメコの魔力が暴発した。

その衝撃波が軍人達を吹き飛ばした。

それでもヒメコは泣き止まない。


「ヒメコ、後で新しいの作ってあげるからね。

泣かないでね」

「ぐ、ぐすん。

う、うん」


ヒメコのおかげで追手を撒いて外に出た所に横付けされたトレーラーに乗り込む。

トレーラーが走り出した瞬間、塔に流星の如く何かが落ちて来て塔が破壊された。


瓦礫の山となった塔から小さな二本角の人影が立ち上がる。


「ヒャハ!

壊れちゃったー。

脆ーい」



「あいつら。

こう言う時は逃げろっていつも教えてるのによ」


言葉と裏腹にチャップの顔に笑顔が溢れる。

その笑顔のまま力が抜けてへたり込んだジュニアの頭の上に手を置いた。


「どうやら一緒に乗り越えてくれる家族はオレだけじゃねぇみてぇだな」


これにて一件落着と行くかと思いきや鬼人の軍人が雪崩れ込んで来た。


「ここから生かして出す訳にはいかないってか。

ミツルギ。

そのクズ野郎は頼んだ」

「はい」

「やっぱり鬼人の奴らに権力を与えたのが失敗だったんだ」


アクアスがボソリと呟く。


「おい、黙ってろ」

「なにが平等だ。

こんな奴らと――」

「頼むから黙っててください」


ミツルギが珍しく低い声を出した。


「それ以上聞くと僕の剣が鈍ってしまう」


その凄みの効いた声にアクアスは黙り込む。


ミツルギとチャップが臨戦体制に入る。

軍人達の殺気が室内に充満する。


遂に新たな戦闘の火蓋が切られた。

その瞬間。


『ひれ伏せ』


その場にいた全員が地面に叩きつけられた。

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