第17話

オーロラを見上げながら、少し物思いにふける。

そんな僕にボロボロのジュニアが腰にタックルして来た。


でも僕はピクリとも動かない。

それぐらい衝撃が無く、ただしがみ付いて来ただけだ。


そんなジュニアを膝と肘で容赦なくサンドイッチにする。


「ゥガッ!」


短く声を出したジュニアの力が弱まった所で、後ろ首を掴んで投げ捨てる。

瓦礫の山に落ちたジュニアを崩れて来た瓦礫が襲う。


軽く埋もれるも自力で這い上がろうとしているジュニアに歩いて近づいて行く。


「もう辞めてよ!」


コオリが叫んでジュニアの元に駆け寄って抱きしめた。


「なんでこんな酷い事するのよ!」


そのままコオリは僕を睨みつける。

そこに救助活動をしていたスラム街の人達が集まって僕とジュニアの壁になる。


「お前なんか出て行け!」

「俺達の国を壊すな!」


口々に僕に罵声を浴びせながら石や瓦礫を投げて来る。

それを超能力で止めて全部返品した。


それらは全員に直撃しる。

それでも痛みに耐えながらジュニアの壁になろうとしている。


「みんなありがとう。

でも危ないから離れていてくれ」

「待って!

もう動ける体じゃ無いわ!」


ジュニアがゆっくりと立ち上がってこっち向かおうとするのをコオリが止める。


止められても仕方ないぐらいもう満身創痍だ。

彼だけじゃない。

他のみんなも疲れ切っている。


もうこの戦いも終わりが近い。

この国が滅びて消えて無くなると言う終わりが。


「嫌だ!

私達はハクユウに助けられたんだ!」

「今度は俺達が!」

「戦う力は無いけど、せめて壁にでも!」

『ひれ伏せ』


人の壁は一瞬で地面にひれ伏した。


「力が無い物の言葉など、誰にも響かんよ」

「そんな事無い」


ジュニアはコオリを振り切る様に歩いて来る。


「この人達はこんな国でも助け合う道を選んだんだ。

こんな歪み合う事しか教えられない国で。

それはこの人達の強さに他ならない」


ジュニアが拳を振りかぶる。

その拳が振り下ろされる前にアッパーを入れる。


「それがどうした?

それでこの国の滅びを止められるか?

それで俺を止められるのか?

答えは否だ」


半歩下がった所で踏ん張ったジュニアは拳を振り下ろす。

それを軽く躱してボディーに拳を叩き込む。


「見たらわかるだろ?

もはや地面にへばり付いて滅びを待つしか出来ない」


ジュニアは必死に僕に攻撃を当てようと手を動かす。

もはや攻撃になってるかすらわからないけど、僕は躱して確実に拳を打ち込んで行く。


「もう辞めてよ」


コオリはそんなジュニアの姿を見てへたり込み涙を流している。

そこで泣いたって何も変わらないのに。


「頑張れ……」


ひれ伏した人達の誰が小さく呟いた。


「頑張れ!」


他の誰かが力強く言う。

その声はやがて増えて行く。


なんて無責任なんだろう。

そんな言葉で何も変わらない。

それどころかジュニアの退路を絶っているだけだ。


ジュニアの攻撃を躱して拳を腹にめり込ます。


「これが現実だ。

力無き者がどんなに集まろうと変わらない」


この世は過酷で残酷で理不尽。

そう決まっている。

声援だけで強くなれるなんて都合のいいのは物語の中だけ。


ジュニアは崩れ落ちるのを僕にしがみ付いて耐える。

ここまでなってるのに声援は鳴り止まない。


もうどう見たって限界なのに、こんなの倒れる事すら許してくれない呪いの言葉だ。


僕はゆっくり下がると支えの無くしたジュニアは倒れ込んだ。

それでも頑張れの言葉を辞めようとしない。

その声に応えようとジュニアは必死に立ち上がろうとしてる。、


なんか腹立って来たよ。

やっぱり今すぐ消してしまおう。


突然大きな魔力を感じた。

そっちを見るとミツルギ君が落とした剣だった。

厳密には剣を抜けない様に巻いてある布だ。


その布が何かに反応して魔力が膨張している。


不思議だな〜

一体なんなんだろう?


それに気を取られていると、その剣を拾ったミツルギ君が切り掛かって来たから、僕は大きく跳び退いて距離を取る。


「ジュニア君。

立てるかい?」

「なんとか」


ミツルギ君が差し伸べた手を掴んでジュニアはどうにか立ち上がる。

でも、もう立っているのもやっとだ。

それはミツルギ君もあまり変わらない。


「ジュニア君。

この剣を使ってくれ」


ミツルギ君がジュニアに剣を差し出す。


「僕は剣なんて殆ど使った事が無い」

「大丈夫だ。

これは希望の剣。

沢山の人達の期待や希望に応えようとする者にしか抜けない剣。

今の君になら抜ける」


そんなご都合主義の剣があるんだ。

面白いね。

ちょっと見てみたい。


ジュニアが恐る恐るミツルギ君の剣を掴む。

すると布が剣に溶け込む様にしと消えて、ひとりでに鞘が滑り落ちた。


その刀身からは凄まじい魔力が溢れ出ている。

こんなのモロに受けたら一瞬で蒸発してしまうかも。


ジュニアは僕の方を見て剣を構える。

完全に素人の構え。

隙だらけ。


「やぁー!!」


大きく振りかぶって突っ込んで来る。


気合い入るのは分かるけど、声なんて出したら切るタイミングがモロバレ。

剣の振り方もなって無い。

身体の軸はブレブレ。

0点の攻撃。

こんなの避けてくれと言ってる物だ。

だけど――


僕は刀を生成して魔力を凝縮して刀身をオーロラ色に染める。


真正面から受けて立つよ。

だって僕は悪党だから。

この国を滅ぼす悪党として、この国の総意を

僕も真正面から受け止めないと失礼じゃないか。


僕の刀とジュニアの持つ剣がぶつかる。

その衝撃音が耳に突き刺さる。


お互いの均衡は保たれている。

いや、若干僕の方が上だな。


「頑張れ!」

「頼む勝ってくれ!」


沢山の人達の声援がジュニアに注がれる。

いつの間にかギャラリーは増えている。

怪我を負ってる人や支え合って立っている人達もいる。

そのみんながジュニアに声援を送る。

その声援を受ける度にジュニアの持つ剣は鼓動して、魔力が上がっていく。


「ジュニア君!

頑張れ!」

「行けー!ジュニア!」

「やっちゃえ!ジュニア!」


剣の鼓動は更に高鳴る。

この場の全員が一つになって僕の敵となっている。

全員が僕の敗北を望んでいる。


これが沢山の人達の期待や希望に応える者に力を与える剣。

正しく正義の為だけにある剣だ。

今の状況にピッタリだ。


それでも僕は一切手加減なんてしない。

だけど剣を真っ二つにする気なのに、上手くいかない。

それどころか段々押されて来てる気がする。

僕は更に刀に魔力を凝縮していく。

更に気力による身体強化で押し返す。

どうやら僕の勝ちみたいだね。


「お願い!

勝ってハクユウ!」


そのコオリの一言がトリガーになったのかはわからない。

だけどその声に反応したかの様に希望の剣の魔力が爆発的に増加した。

そして遂に二つの魔力が爆発した。


その爆発で全員が黙り込んで固唾を呑む。


そんな中。希望の剣は宙を舞い遥か先に落ちる。

力を使い切ったジュニアはその場で崩れ落ちる。


僕は刀を振り切った体制のままジュニアを見下ろした。


「これが結末か」


僕の持ってた刀と上空のオーロラが砕け散って欠片が舞う。


どうにか希望の剣は弾き返せた。

でも、流石の僕も魔力を凝縮した刀と上空のオーロラを維持出来る程の魔力を残ってはいない。


どうやら僕の負け。

僕は何処までも悪党で、彼らが正義だった。

それだけの話。


そうなると僕が生き残るには逃げるしか無いな。


「潔く負けを認めるとするよ」


オーロラの欠片が僕の周りに集まって渦巻く。


「グッド・ナイト・今宵は良い夢を」


欠片が弾け飛ぶと同時に僕はその場を逃げ出した。

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