第7話

路地裏を抜けると雰囲気はガラッと変わってスラム街。


日々の暮らしも大変なんだろう。

でも、こっちの方が今を生きようと言う生気を感じられる。


所々では笑い声も聞こえ、鬼人と人間の壁なんて物は無い。


今を生きるのに必死な人々にとっては助け合いは当たり前で、そんなくだらない事などどうでもいいのだろう。


余所者の僕から見たら光と影が逆転してるように見える。

なんて皮肉な話だ。


だけど確実に影の部分はある。

スラム街の奥地。

法整備など行き届かない無法地帯。

そこは悪党達の聖地だ。


この独特の雰囲気大好き。

いい子は立ち入ってはいけないダークな危ない感じ。

正しく僕にピッタリだ。


ここでは違法賭博が横行し、その金に群がる輩が集まって来る。

金さえあればなんでも買える。

武器や薬、女だって買えちゃう。


夜のお店に行けないのなら昼間っから買っちゃえばいいのさ。

僕って天才。


ただね。

こう言う所で買うには気をつけないといけない事がある。

それはカモられ無い事。

せっかく買うならいい女買わないとね。


その為にはまずギャンブルだね。

いっぱい勝ってお金持ってるアピールをしたら勝手に寄って来る。

女も悪党も等しく。


僕に掛かればギャンブルで稼ぐなんて簡単だ。

今日は丁半にしよう。

透視できるし、超能力で出目も変えられる僕にとっては超簡単に稼げるギャンブル。


「もはやギャンブルと言うより集金ですね。

中を透視して数字を足し算するだけ。

何をそんなに熱中するのか不思議です」

「そうだね」


僕はルリが僕の肩越しに覗き込んでる方が不思議なんだけどね。

なんでここにいるの?


「ルリ。

仕事で来たんだよね?」

「はい。

そうです」

「こんな所で油売ってて大丈夫?」

「御心配には及びません。

もう完了しております」

「そうなんだ〜

相変わらず仕事が早いね」

「はい。

私は優秀ですから」


ルリは小さな胸を張った。


「仕事が終わったのに帰らないの?」

「別に特段急ぎの用も無いので、少しマスターとご一緒したいと……

はっ!もしかしてご迷惑でしたか?」


この後、女を買うつもりだからな〜

出来れば帰って――

うわ〜、そんな凄く寂しそうな顔されたら言えないよ〜


「そんな事は無いよ。

うん、そんな事無い。

好きなだけ居ていいよ」


なんて凄くいい笑顔。

ルリは魔人の特性で周りの誰も気付いて無いからいいけど、こんな美人がいたら丁半所じゃなくなっちゃうね。


「お兄さん、勝ちまくってるわね。

その運を私にも分けて欲しいわ」


トップまで見えそうなオフショルダーのエロエロ鬼人のお姉さんが声をかけて来た。


やったー。

超美味しそうなのがかかったよ。


かかったのはいいんだけどさ〜


「やっぱりマスターは大きい方がお好きなのですね」


うぅ〜

背中から超哀しそうな声と視線が……


違うんだよ。

いつも言ってるじゃん。

僕は大きいのも小さいのも好きなんだよ。


今は偶々目の前に大きいのがあるだけ。

なんだけど……


「ごめんねお姉さん。

非常に残念だけど、今日はダメなんだ」


せっかくかかったのにな〜

鬼人とヤッた事無いからヤッてみたかったな〜


僕は凄く勿体ないけど賭博場を後にした。


「マスター。

私はお尻と太ももには自信がありますよ」

「いやいや。

あのね。

僕は別に小さいのがダメとは思って無いよ」

「でもずっと豊満な胸を見てました」

「それはあっちが見せて来たからね」

「なら私もお見せしますね」

「なんの対抗意識だよ。

お見せしなくていいからね」

「そうですか。

やっぱり大きくないといけませんか」

「だ・か・ら。

僕は大きいのも小さいのも好きなんだって」


って何回言わすねん。


「ようはバランスだよ。

ルリみたいなスレンダーな女の子も凄く魅力的だよ」

「はい。

マスターにそう言って貰えて光栄です」


ふう。

やっと納得したみたいだ。


しかしどうしよう。

僕の性欲が溜まって仕方ないよ。


「マスター。

そんなにお金を稼いで何に使うおつもりだったのですか?」


さっきみたいな女を買おうとしてたなんて言えるか。

また話がぶり返すわ。


「別に使い道は決めてないよ。

お金はあって困る物じゃないからね。

なんか欲しいのある?」

「私ですか!?

買って頂けるのですか!?」


なんとなく言っただけなのに凄い食いつき。


「どうしましょう!?

マスターに頂ける物なら常に身につけられる物が……

だけどあまり目立つのも暗殺者として……」


なんか熟考し始めた。

そんなに悩む事?

それにルリはタキシードスーツにミニスカート。

極め付けにシルクハットだから、超目立つ格好だよ。


「別に欲しい物無ければ――」

「あります!

あり過ぎます!」


そんなにあるの?

流石悪党だね。

やっぱり悪党は物欲に忠実じゃないと。


「ネクタイピンとかどう?」

「凄くいいです!

流石マスター!

それなら主張し過ぎず、ずっと付けていられます!」


そんなに喜ばれると言えない。

胸の話してたから、ルリの控え目の胸も可愛いな〜って見てたら思い付いたなんて……


「せっかくならこの国で一番いい物を見に行こう」

「いいのですか!?」

「当たり前だよ。

一流の悪党はまずは一流の物を見ないと。

その後で自分の好みに合った物を選ぶんだよ」


そうしないと、本当の良し悪しなんてわからないと僕は思うね。

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