第8話

僕のお家の庭に数人の男共が侵入して来た。

そのまま真っ直ぐと寝室の窓の外に向かっていく。


先頭の男がガラスカッターを取り出した。


ここまで全くの無音。

手慣れてやがる。


でも僕には筒抜け。


そこでは義姉さんが寝てるんだ。

僕だって義姉さんの寝顔を見損ねたんだぞ。

お前らなんかに可愛い義姉さんの寝顔を拝ませてやるもんか。


ガラスカッターが窓ガラスに当たる直前。


「えいっ」


その腕を手刀でへし折った。


「――ッ!」

『黙れ』


叫ぶ前に言霊で黙らせて口の上から顔を鷲掴みにして持ち上げる。


危ない危ない。

叫び声で義姉さんが起きちゃう所だった。


ちょっと言霊に力が入り過ぎちゃって全員黙っちゃったけどね。

てか、呼吸も止まっちゃった。

てへっ。


ああ、もう。

いくら息苦しいからって暴れたらダメだって。


『動くな』


これで良しっと。

あんまりのたうち回られると義姉さん起きちゃうからね。


さてさて、あとは放っておいたら勝手に死ぬね。

なら持っとく必要ないか。


僕は持ち上げた男をポイっと捨てる。


窒息死って相当苦しいんだろうね。

みんな苦痛と絶望の顔をしてる。


動けなくしちゃったから、人形の表情が変わって行ってるみたいで面白いな〜

誰が一番最初にくたばるかな〜

あっ、ヤバイ。


僕は全員を一瞬で蒸発させた。


そのすぐ後にカーテンの間から義姉さんがこっちを覗き込んだ。


結局起こしちゃったよ。


「ヒカゲ君?」


義姉さんが僕の顔を見てから窓を開けた。


「どうしてこんな夜更けに?」

「えーと……

迷子になっちゃって……」

「……」

「……」


やっぱりこの言い訳は苦しい?


少しの間見つめ合った後、義姉さんはクスッと笑った。


その顔が超可愛いくて僕はメロメロだよ。


「それは仕方ないわね。

もう夜中だから泊まっていきなさい」


やったー。

義姉さんに招待されたー。


でも、それどころじゃ無いんだよね。


「おいおいおい。

話が違うな。

ボロボロになった女を惨たらしく殺せって話だったはずなんだが。

まあ、俺は活きのいい奴を嬲り殺す方がテンション上がるからいいがな」


一人の男が夜の闇からスッと現れる。


雰囲気で分かる。

こいつは間違い無くヤバイ奴だ。


僕と一緒で悪い事を悪いと思っていてもやめられない悪党。


こいつが居たから僕はここに残らざる得なくなったんだよね。

そうじゃなかったら義姉さんが起きた時点で逃げてたよ。


「浅倉 切彦!?」


義姉さんはめちゃくちゃ驚いてるけど……

誰?


「どうしてここに!?

留置所にいるはずなのに!?」

「脱獄したんだよ」

「それならニュースになってなきゃおかしい」

「それは俺も驚いたね。

どうやら俺を脱獄させた奴は相当大物だったみたいだ」

「脱獄させた?

一体誰が?」

「知らないね。

ただ俺はあんたを殺す条件で出して貰ったんだ」

「私を!?

どうして!?」

「さあな。

そこには興味が無い。

だけど、不思議な巡り合わせだよな。

俺は殺した奴の事を調べあげるんだ。

そいつがどんな人生を送って、今どんな人生を歩んでいたのか。

そしてこれから送るであったはずの人生を想像して、それを終わらせてやったと言う優越感が堪らなく快感なのさ。

あのサツの夫婦も子供が出来て、こんな立派なマイホームまで買って、これからだって時だったのにな。

その幸せの絶頂で終わらせてやった。

そしてその親友だった男の娘をそのマイホームで殺す。

もはや運命まで感じるぜ」

「この外道が……」


うーん、なになに。

つまりはこいつが僕の前世の本当の両親を殺した奴で、捕まっていたけど脱獄して来たって事だね。


要は僕の両親の仇ってわけだ。

……なんかどうでもいいな。

だって全然知らない人だし。


でも、義姉さんを殺しに来たんだよね?

ここ重要。

それは何があっても許さない。

絶対に。


「おっ?

なんだガキ。

いい目するじゃないか。

俺に対する嫌悪感か?

いや違うな。

その目はただ純粋な殺意。

ただ俺を殺したいって目だ。

お前は俺と同類だな」

「あんたみたいな外道とこの子を一緒にするな!」


僕がなんか言う前にすかさず義姉さんが怒った。


でも怒って貰ったのにごめんね。

こいつの言ってる方が正しいんだ。


こいつと僕は間違い無く同類。

自分の欲望を抑えられない悪党。


「ごめんね」


僕はそう言って義姉さんを軽く押して寝室に押し込む。

その隙に窓を閉めた。


義姉さんは慌てて窓に駆け寄るけど、僕が超能力で抑えてるから決して開かない。


「なんで!

なんで開かないの!?」


今度は必死に叩いて割ろうとするけど、魔力で強化されたガラスは決して割れない。


「なんだ?

女を庇うのか?

そんなタイプじゃないだろ?

お前は俺と一緒で自分が一番可愛いはずだ。

「そうだね。

それには同意するね」


僕と切彦は示し合わせたかのようにゆっくり歩いて近づいて行く。


「なら逃げなくていいのか?」


切彦は短いドスを抜く。


「もちろん。

だって殺されるつもりは無いから」

「丸腰でその自信とは大したもんだ。

いや、関係ないか。

人間なんて殺そうと思えば獲物なんて何もいらないからな。

むしろ素手の方が確実に惨たらしく殺せる」

「だけど獲物があった方が相手に戦力差における恐怖感や絶望感を与えられるから精神的優位に立ちやすい。

そして単純にリーチに差がつく」

「わかってるじゃないか。

お前も散々殺って来た口だな」

「そうだよ。

君の言う通り僕と君は同類」

「殺したい時に殺したい奴を殺して来た」

「うん。

でも、一点だけ違うよ。

その一点の差で君は僕を殺せない」

「ほう。

なんだそれは?

教えてくれよ!」


僕が間合いに入った瞬間、切彦のドスが僕の首目掛け走る。

その刃を手刀で切り裂く。


その非現実的な状況に一瞬動きが止まった隙に顔面に跳び膝蹴りをめり込ます。

その勢いまま地面とサンドイッチにする。


切彦は叫び声一つ上げずに折れたドスを僕の横っ腹目掛けて突き出した。

それを宙返りで避けて、今度は腹に膝から着地。


「ッ!」


それすらグッと堪えて切彦はドスを振ってくるから、手刀で弾き飛ばした。


「流石にそこまで規格外なのは聞いてねぇ」

「僕も君がここまで意識あるとは思って無かったよ。

早く気絶出来るといいね」


僕は拳を固めて振りかぶる。


「一つ教えてくれよ。

俺とお前の違いを」

「殺しと殺し合い」


僕は顔面に拳を振り下ろす。

流石にこの一撃でノックアウトした。


それでも殴る。

当然死ぬまで殴るよ。


この少しずつ生命が消えていく感覚を楽しみながら。


「ダメ!」


そんな僕を義姉さんが抱きしめて止めた。


どうやら玄関から回し込んで出て来たみたいだ。


「もうこれ以上はダメ!

死んじゃうわ!」

「えー、でも……」

「でもじゃない!

こんな奴の為に君が手を汚す必要は無いわ。

こいつの死刑は確定してるの。

法の裁きがちゃんと下るから」

「じゃあ今殺しても一緒じゃない?」

「違うわ。

法の裁きと私刑は全然違う」

「また脱獄して殺しに来るかもよ」

「そんな事させないって言える程私は偉くない。

だけど、例えそうだったらとしても君が殺していい理由にはならないの」

「……わかったよ」


本当に義姉さんはいつも正しい。

昔と変わらない。

僕には決して真似出来ない憧れの義姉さんのままだ。


僕は切彦から降りて、両手両足を拘束した。

義姉さんが呼んだパトカーのサイレンが聞こえて来た。


周りの奴らはスミレが片付けてくれたみたいだ。


「来たみたいね」


義姉さんがその音に気を取られて一瞬の内に僕は夜の闇に消えた。

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