第7話

さあ、夜も更けて参りました。

義姉さんはもう寝たみたいだし、こっそり忍び込むとしよう。


自分の家なのに忍び込むなんて、なんか不思議な気分。

まあ、厳密にはもう僕のじゃないけどね。

だって僕は死んでるんだし。

でも地下のお宝は僕の物だから誰にもあげないよ。


「ねえ、地下の宝物庫への道はどこに隠してあるの?」


スミレが耳元で小声で囁く。

ただ義姉さんを起こさない為だとわかっていてもドキッとしちゃう。


「バスルームだよ」

「バスルーム?

なんでまた?」

「バスルームって余計な物無くて、扉開けると中が全部見渡せるでしょ。

だから細かく捜索されにくいんだ。

そりゃあ、僕以外入れないように施してはいるけど、念には念をだね」


家の中は本当に綺麗だった。

むしろ僕が住んでた時より綺麗じゃないかな?

義姉さんは本当に優しいな〜


そうだ、せっかくだし義姉さんの寝顔でも見に行こうっと。


「どこに行くの?」


寝室に向かおうとしたらスミレに肩を掴まれて小声で止められた。


「えーと、ちょっとね」

「ちょっとって?」

「ちょっとはちょっとだよ」

「私に言えない事?」

「そんな事は無いけど……」

「なら何処に行くの?」

「……ちょっと寝室に行こうかな〜って」

「なんで?

宝物庫に行く為の鍵でもあるの?」

「いや、無いけど……」

「他に宝物庫に行くのに寝室に行く理由があるの?」

「それも無いけど……」

「なら行く必要無いわよね?」

「……」

「無いわよね?」

「……はい」

「なら早くバスルーム行きましょ」


また、はいって言っちゃったよ〜

だってスミレがなんか怖いんだもん。


義姉さんの寝顔見たかったな〜

こんな事なら寝室にも宝物庫の出入り口作っとくんだったよ。


僕は渋々バスルームに向かった。


大浴場もいいけど、こう言う足を伸ばせる程度の浴槽もいいと僕は思うね。

待てよ。

これはチャンスだ。


「これぐらいの広さのバスルームもいいと思わない」

「そうね。

これはこれで落ち着きそうね」


よし、これは好感触だ。


「ナイトメア・ルミナスのギルドにも作ろうよ」

「そうね……

いいかもしれないわね」

「ならその時に男湯も――」

「そのお願いは聞けないわね」

「え〜、なんで〜」

「だって私達が入れないじゃない」

「いや、だから女湯も作ったらいいじゃないか」

「2つもいるかしら?」

「いるよ。

絶対あった方がいいよ」

「何故?

そんなに私と一緒は嫌なの?」


そんな哀しそうな顔しないでよ。

なんか心がキュッてなっちゃう。


「そんな事は無いよ。

だけどね。

たまには一人で入りたいって気分の時もあるんだよ。

スミレもあるでしょ?」

「無いわよ」

「いやいや。

偶には――」

「無いわよ」

「一回ぐらいは――」

「無いわよ」

「無いんだ〜」


なら仕方ない……のか?


僕は疑問に思いながらもスミレとバスタブの中に立つ。

魔力を流し込むと地下に転送される仕組みだ。


「これは凄いわね」


スミレが僕の宝物庫を見て言葉を失った。


それもそのはず。

だって僕が選び抜いた選りすぐりのお宝が並んでいるからね。

いや〜

いつ見ても素晴らしいラインナップだ。


「これは一人で集めたの?」

「そうだよ。

だからこれ全部僕のなんだ」


さてさて、スミレが見とれてるうちにお金を回収するか。


「じっくり見てていいよ。

僕はお金取ってくるから」


僕は端っこに追いやられている札束のピラミッドの所に向かう。


帯封一本で足りるでしょう。


大きなピラミッドから帯封一本をポケットに入れてスミレの方へ戻る。


スミレはまだお宝を見て回っていた。


「下手な美術館よりも豪華ね」

「僕の趣味全開だけどね」

「私はヒカゲの好きな物が好きよ。

ねえ、この中の物も隅々まで案内してくれる?」

「いいよ」


スミレが嬉しそうに隣に並んだ。


「フフフ。

まるでデートね」

「いや、デートでは――」

「しっかりエスコートしてね」

「いや……まあ、いっか」


スミレの笑顔に何でもいっかってなった。

その笑顔がふと消え、途轍もなく不機嫌な顔へと変わった。


「えーと……その……

ごめんね」


僕の家に招かれざる客が来たようだ。

しかも周辺をきっちり固めている。


これはヤバイ事をやり慣れてる集団だ。


「別にあなたが謝る事じゃないでしょ」

「そうなんだけど……」


スミレが僕の口に人差し指を当てて僕を黙らせた。


「気にしなくていいの。

周りの邪魔な奴らは私が片付けとくわね」

「ありがとう。

じゃあ任せるよ」


さて、何者で何の目的か知らないけどお客様なら手荒く歓迎しないとね。

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