第5話

ヒカゲが前世の世界に戻って来る少し前の話。


随分と歳のいった男と若い女。

全然似つかわしくない二人がベットを軋ませて、激しくまぐわっていた。


「おいおい、どうしたんだ明美。

今日はやたらとよがるじゃないか」

「それは旦那様が激しいから」


動きに合わせて喘ぎ声を出しながらよがる明美と呼ばれた女に、男の興奮はさらに高まっていく。


「良く言うな。

またなんかおねだりする気だろ?」

「おねだりしてもいいのですか?」

「なんだ?

金か?

いくら欲しいんだ?

ええ?

言ってみろ」

「ちょっと旦那様!

激し過ぎます!?」


更に加速する男に明美は激しく達してしまう。

それでも男は緩める事はしない。


「ほらほらほら。

早く言わないと終わらないぞ」

「ちょっと待って」

「ダメだ。

さあ言え」

「消して欲しい女がいるの」


明美はなんとか喘ぎ声の間に言葉を絞り出した。


「女?」


男は明美の言葉を聞くために少し緩めるが、止まりはしない。


「ええ。

私、大学生時代に犯されそうになった話しましたよね?」

「ああ。

確かヘルメットを被った男に銃で脅されて犯られそうになったって言ってたな」

「その原因となった女。

それなのにあの女。

私が襲われるのを止めて正義感に浸ってやがったの。

あの女の所為で私は大学を辞めざるえなくなったのに。

そこからは転落の人生」

「なんだ?

俺に娶られたのがどん底だとでも言うのか?」

「まさか。

旦那様にもらって頂いたから、今まで気にしていなかったのですわ。

でも――」


明美は我慢出来ずに喘ぎ声をあげる。

その声が更に男の動きを加速させた。


「でもなんだ?

えぇ?

さあ、言ってみろよ」

「待ってください旦那様!?

無理です!?

――!?」


激しく跳ねた明美の身体に男は満足そうにニヤつく。

でも、まだ緩めるだけで辞めようとはしない。


「はぁ……はぁ……はぁ……

あの女……

なんの挫折も知らずに順風満帆な人生を歩んでいるの。

今や警察官のキャリア組。

もうすぐ最短で警視になると言われているそうなの。

それを聞いて怒りが湧いてこない訳無いでしょ?」

「なんだ、そんな事か。

なら警視総監に口聞きして、その女の出世を止めればいいんだな」

「そんなのじゃ生ぬるいわ」

「ならど田舎に島流しも出来るぞ」

「それぐらいだと私の気は収まらない」


明美は男を仰向けに寝かせて跨った。

そして激しく腰を振る。


「言ったでしょ?

消して欲しいって。

それもただ消すだけなんて生ぬるいわ。

まずは集団で襲わせて。

そして、いよいよ本番って時に私が颯爽と現れて止めるの。

あの時みたいに。

そして聞くのよ。

私の事覚えているか。

きっと覚えていないでしょうね。

そしたらズタボロになるまで犯して、その後惨たらしく殺して」

「もし、覚えてて謝って来たらどうするんだ?」

「そしたら、気持ち良くなるように優しくやって差し上げて。

今の旦那様のように。

そしてあの綺麗な顔だけは残る様にあの世に送って差し上げて頂戴」

「恐ろしい女だな。

その為に俺に娶られたんだろ?」

「そんな事ありませんわ旦那様。

私は旦那様のコレに惚れ込んだの」


そう言って明美は一層激しく腰を振った。

心にも無い喘ぎ声を上げながら。



刑務所内。

一人の男が死刑の執行の日を待つだけとなっていた。


男の名は浅倉 霧彦。

連続殺人犯で死刑が確定していた。


「42番。

面会だ」


霧彦は大人しく面会室に向かった。

面会室では鍛え抜かれた肉体の男が一人待っていた。


霧彦が座ると不思議な事に職員は退室して、面会人と二人きりになった。


「お前は誰だ?」


霧彦は男に尋ねる。

しかし男は答えない。


「まあいいや。

誰だ?

誰を殺して欲しいんだ?」


まだ男は何も言わない。

そんな事は気にせず霧彦は続ける。


「俺に対してこんな面会を出来るなんて、ただ者じゃないはずだ。

俺を利用するつもりなんだろ?

いいさ。

いくらでも捨て駒になってやるよ。

どうせ死刑を待つだけの命だ。

まあ、ここから出れたらの話だがな」


男は無言で手帳をめくって霧彦に見せた。

そこには脱獄の方法が記されていた。


それをすぐさま霧彦は暗記して頷く。

男はそれを確認すると手帳をしまった。


その日の夜。

浅倉 霧彦は男と再び面会していた。

塀の外の車中で。


刑務所から離れて行く車中で紙と写真を渡された。


「なるほどね。

この女を殺して欲しいのか。

かなりの別嬪さんじゃねぇか」


男は善正 由理の写真を見てニヤついた。


紙には由理の個人情報と殺す日付、そして夢路の家の住所が書かれていた。


「ん?

ここは……」


霧彦は住所を見て何かを考え込む。

そして男をもう一度見て尋ねる。


「結構日までの寝床は用意してくれているんだろ?

先に寄って欲しい所がある」


車は墓地に到着して霧彦と男は降りた。


「別に逃げはしないさ」


そう言っても男は霧彦について行った。

霧彦は気にする事無く真っ直ぐと一組の夫婦が眠る墓に花を添えた。


「こいつらは俺が殺した夫婦なんだ」


霧彦はしみじみと独り言を言い始めた。


「こいつらを殺してからサツの奴らが本気になっちまったな。

やっぱりお仲間を殺されると本気になるわな」


霧彦はふと両手で備えた花を握る。


「でもまあ、そんな俺も今や塀の外だけどな!

やっぱり人生好き勝手に行きた物勝ちだな!」


霧彦はバカ笑いをしながら花を引きちぎった。

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