第3話

ルカルガはそれはもうお祝いムードだった。


チャップは到着するやいなや、お祝い事には飛び切りの笑いを起こさないとなと気合い充分で族長の元に向かった。


他のみんなもいつも通りみんなバラバラに里内に散って行った。


僕はこう言うお祝いムードに似つかわしく無い人間なので、モグちゃんの所にでも避難するとしよう。


「おや?

何処に行くのかい?」


里を出ようとした所をエルザに呼び止められた。


「モグちゃんの所に遊びに行こうかなって」

「モグちゃん?

……ああ、神様か。

って、ヒカゲ君は神様をモグちゃんって呼んでるのかい!?」

「そうだよ。

だってモグちゃんがそう呼んでって言ってたから」

「言ってたような気がしないでも無いけど、そんな恐れ多い事を……

ヒカゲ君らしいと言えばヒカゲ君らしいか。

神様もそれの方が喜びそうだし」


エルザは勝手に一人で納得したみたいだ。

なんだか嬉しそうだし。


「逆にまだみんな神様って呼んでるの?」

「神様は私達にとって神様だからね」

「でもみんな聞いたんでしょ?」

「まあね。

確かに私も久しぶりにお会いした時はビックリしたよ。

全くと言っていい程魔力が見えなくなってた。

でも、今まで守ってくれていた事には変わりないからね」

「なんか、そう言うのいいね」

「ちなみに君は更に強くなったみたいだね。

いろいろあって成長したのかな?」

「そんな事無いよ。

僕は相変わらずポンコツのままだよ」

「またまた〜

私の眼は誤魔化せないよ」


笑顔のエルザの魔眼が僕を見つめる。

その眼から全てを見透かされそうな力を感じた。


「オオクルに会ってあげてよ。

オオクルもヒカゲ君に会いたがってたよ」


それは危険だ。

きっと僕がボコボコにした仕返しに違いない。


「モグちゃんの所行った後に行くよ」


よし、結婚式当日までモグちゃんの所に避難だ。

流石に結婚式の時に仕返しされる事は無いだろう。


「そうかい。

そう言っとくよ。

オオクルもヒカゲ君と会えるの楽しみにしてたからね」


これは一刻も早く避難しなければ。



「それは仕返しの為じゃないと思うよ」


泉でモグちゃんがカメラを覗き込みながら言った。


「そんな事無いよ。

だってモグちゃんも見たでしょ。

僕がオオクルをボコボコにした所」

「それは見たよ。

でも彼はそこは気にして無いよ」

「いやいやいや。

僕ならボコボコにして来た奴を一生忘れないね」

「アクムの兄ちゃんならそうだろうね」


モグちゃんは何が諦めたかのようなため息を吐いてからシャッターを押した。


「そう言えば、あの結界どうしたの?

モグちゃんの魔力は無くなったままだよね」

「ああ、あれはエルザが張ったんだよ。

オラが聞かれたから作り方教えたんだ」


あの結界を?

凄いね。

あれはそう簡単に出来る物では無いよ。


「結界の維持は里のみんなでやってるみたいだよ」

「ならモグちゃんも一安心だね」

「そうだね」


モグちゃんは楽しそうに写真を撮った。


僕は写真は嫌いなのでこの良さはわからないけど、モグちゃんを見てると楽しそうに見えなくも無いね。


「モグちゃん。

また前みたいにここで寝泊まりしてもいいかな?」

「いいよ。

お友達も一緒?」

「お友達?」

「そう。

さっき結界を破りそうな勢いで入って来たから、慌てて開けたんだよ」

「モグちゃんが?」

「そうだよ。

オラの作った方式だからね。

それぐらい弄る事は出来るよ」

「でもそんな簡単に開けていいの?」

「アクムの兄ちゃんのお友達だとはわかったからね。

それに弾こうとしたら一瞬で砕け散るよ」


そういや、前もそんな事言ってたな〜

それにしても僕にお友達はいないんだけど、一体誰だろう……

なんだ――


「スミレじゃないか」

「流石ね。

気配は完全に隠して来たのに」

「どうしたの?」

「気付いてると思うけど、王都からヒカゲをつけて来てる奴がいるわ」

「みたいだね」


厳密にはハヌルと行った王城を出てからだね。

王都出てからもつけて来るとは思わなかったけどね。


今は結界に阻まれて立ち往生してるみたい。


「理由まではまだ分からないけど、あれはアポロ王子の密偵よ」

「そうなんだ。

調べてくれたんだね。

ありがとう」

「いいわよ。

あなたの為だから。

それでどうする?

今ならバレずに消せるわ」

「う〜ん。

ちょっと様子見ようか。

理由も気になるし」

「ええ、あなたが言うのなら」

「すっごく綺麗な人だね」


モグちゃんがスミレを見上げながら言った。


「これは?」

「これはモグちゃん。

ここの森の神様だよ」

「これが?」


スミレがモグちゃんを疑わしそうに見る。


確かに今や魔力が殆どなく、ただの喋るモグラでしか無い。


「これでもね。

気軽にモグちゃんって呼んでよ。

それにしてもアクムの兄ちゃんは羨ましいね。

こんなに美人な恋人がいて」

「いや、別に恋人じゃ――」

「あら、いい神様ね」


スミレが僕の言葉に被せる様に言った。


「それで恋人と一緒の部屋でいいの?」

「だから恋人じゃ――」

「ええ、一緒のでお願い出来るかしら」

「いや、一緒の部屋は――」

「布団は1つ?2つ?」

「もちろんふた――」

「1つでいいわ」

「ちょっとスミレ。

それは良く無い――」

「何か問題?」

「問題だらけだよ。

それだと僕が寝れないよ」

「どうして?

私と一緒だと不満?」

「不満とかじゃなくて――」

「なら問題ないわね」

「……はい」


またはいって言っちゃったよ。

でもスミレが僕の腕に抱きついて飛び切りの笑顔見せられたらノーって言えないじゃん。


「じゃあ準備しとくから、一つお願いしていい?」


モグちゃんが愛くるしいおねだりのポーズを見せる。


「なに?」

「フィルムが無くなりそうなんだ。

買って来てくれない?

例の縦穴から」

「ああ、こっちの世界じゃ買えないからね。

いいよ」

「ありがとう」

「ねえ?」


スミレが不思議そうな顔で僕に問いかける。


「フィルムって何?」

「フィルムってのは、カメラの……

そっか、こっちの世界には写真無いんだった」

「こっちの世界?

……もしかしてヒカゲのいた前の世界の話!?」

「そうだよ」

「買いに行けるの!?」

「うん。

モグちゃんの家が繋がってるんだ」

「私も行きたい!」

「ああ、そういや言ってたね。

モグちゃんがいいならいいよ」

「オラは構わないよ」

「なら行こっか」

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