第2話

王城に到着すると、あのトレーラーがあった。

なんか随分と懐かしい気がする。


「よお、新人。

元気してたか?」


トレーラーを見上げていたらチャップが後ろからバンバンと背中を叩いて来た。


「痛いよ」

「そうか。

痛いか。

なら元気だって事だな」

「そういう確かめ方は良くないと思うよ」


チャップは豪快に笑って誤魔化す。

相変わらずである。


「みんなは観光?」

「そうさ。

国王との謁見なんて面白くもなんとも無いからな」

「そんな事言ったら怒られるよ」

「そん時はそん時だ。

怒られたら平謝り。

これが鉄則だ」


怖いもの知らずとは正しくこの事を言うのだろう。


「それで、出発はいつ?」

「明後日だな。

次の目的地はエルフの里ルカルガだ。

そこで公演の依頼があるからな」

「そうなんだ」


ルカルガと言ったらモグちゃんがいる所だね。


「それで、これが新人に渡してくれと頼まれた預かり物だ」


チャップが一通の手紙を僕に差し出した。


「何これ?」

「招待状だ」

「なんの?」

「結婚式だ」

「誰の?」

「族長の娘とその幼馴染って聞いてる。

って新人の知り合いじゃないのか?

その二人から渡されたぞ」

「……ああ、あの二人か」


そういや、オオクルがなし崩し的にプロポーズしてOK貰ってたな。

それにしても今頃なの?

もうとっくに結婚してると思ってた。


でも、よく考えたらなんで僕を招待するの?

僕はオオクルをボコボコにした記憶しか無いよ。


……もしかしてその仕返しをされるのか?

よし、欠席しよう。


「出席するって言っといたぞ」

「え、なんで?」

「なんで?って出席しないつもひか?」

「だって遠いし」

「オレ達と行くから関係ねぇだろ」

「もしかしてその為にここまで来たの?」

「そうさ。

頼まれたからな。

手紙だけ送っても来てくれなさそうとか言われてたぞ」


それは大当たりだ。

別に祝って無いわけじゃ無いんだけど、正直めんどくさいが勝つんだよね。


「わざわざその為に来てくれたわけ?」

「まあ、そうなるな」

「それはなんか悪い事したね」

「そんな事はない。

何故ならそのおかげで公演を呼んで貰えたからな。

エルフの里での公演なんて滅多にある事じゃない。

これは腕がなるな」


チャップは嬉しそうに笑っていた。



出発の日は前回とは違って見送りのある中の出発となった。


だからと言ってなんか思う所があるかと言われると、そうでも無かった。


特に感情に浸る事無くトレーラーの上で風を感じながら、何事も無くカルカナ王国に入りルカルガへと向かっていた。


僕の膝の上ではヒメコが魔力マリンバを完璧に弾きこなしている。


てか、上手くなり過ぎてるね。


「ねえ、もっと音の幅が欲しいんだけど無理?」


音楽家として次のステップに進もうとしているみたいだ。

それは応援しないといけない。


「出来るよ。

貸してごらん」


僕は魔力マリンバを受け取って改造する。


「はい、どうぞ」

「何か変わった?」

「見た目は変わって無いよ。

だけど、音階の幅が広がってるんだ。

その分魔力操作もシビアだけどね」

「ありがとう。

頑張ってみる」


そう言うとヒメコは黙々と練習を始めた。

最初は上手くいかなかったみたいだけど、程なくして感覚を掴んだみたいだ。

もう作曲まで初めていた。


少し見ない間に魔力コントロールだけで無くて、音楽レベルも爆上がりしているよ。

更には鼻歌まで歌い始めたし。


「なんかご機嫌だね」

「うん。

ここの空気が美味しいからかも」


確かにここは自然豊かな森だ。

僕もここの自然は好きだ。


ヒメコの音楽を聴きながら風に当たっているとトレーラーが止まった。


「どうしたのかな?

まだ目的地じゃないよね?」

「そうだね。

でもそれは結界があるからだよ」


そう、ルカルガに続く道に結界が張られていた。


でも、この結界はモグちゃんの力が無くなった時点で消えてしまったはず。

一体だれが張り直したんだろう?


「やあ、ヒカゲ君。

久しぶりだね」


声のする方を見ると木の上にエルザが見えた。


「久しぶりだねエルザ」

「いろいろあって大変だったみたいだけど、元気そうでなによりだよ」

「エルザも元気みたいだね」


そして魔力の質も上がっている。

これはかなり強くなってるみたいだ。


「この度は弟の結婚式に来てくれてありがとう。

結界は今通れるようにしたから、そのまま進んでくれて大丈夫だよ」


そう言うとエルザは道案内をするように木々の間を縫うように跳んで行く。


そう言えばエルザもルカルガ出身のだった。

もはやこの森は庭みたいな物なんだろうね。

どうりで身軽なわけだ。

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