第10話

大漁大漁。

あのおっさんの地下室の物全部奪ったから大漁だよ。

僕の地下室も充実して来たよ。


あの大量のハメ撮りDVDは趣味じゃないから破棄したけどね。


警察にあげても良かったんだけど――


「やっぱり私、納得出来ないんだけど」


八枝が僕の入れたココアを飲みながら僕を睨む。


「僕は君が僕の家に上がり込んで来た事の方が納得いかないんだけど」

「それはあの日の事を聞きに来たのよ。

決して同意とかじゃないからね!」


先に言われてしまった。


「だから轢き逃げだって言ってるじゃん」

「私の記憶では一星君に拉致されたの」

「だから記憶違いだって」

「でもあの日に一星君が変死体で見つかったのよ。

しかも同時に見つかった変死体の男達にも見覚えがあったわ。

あなたの所にも警察が来たでしょ?」

「来たね。

なんか最後に会ったのが僕達らしいね。

しかも、誰かが僕と揉めてたとか証言したとかで犯人扱いされるし。

本当に失礼な話だよ。

やっぱり君のお願い聞くんじゃ無かったよ」

「う〜

それについては申し訳ないと思ってるの。

何かお詫びをしようとは思ってるのだけど……」

「いらない、いらない。

そんなの新たなトラブルの元じゃないか」

「人をトラブルメーカーみたいに言うな!」

「実際にトラブルメーカーじゃないか」

「確かに否定出来ないけど……」


どうやら本気で落ち込んでるみたいだ。

そんなしょげた顔されると……

もっと虐めたくなっちゃうね。


「そんなに引け目を感じるならお詫びして貰おうかな?」

「何がいい?」

「そうだな〜」


僕は八枝の身体を舐め回す様に見る。

義姉さんには敵わないけど、美少女ではあるからね。


「な、なによその視線」

「後々トラブルにならないお詫びがいいんだよね。

お互いに」

「それはそうね」

「なら確実で手っ取り早い方法があるよ」

「なに?」


八枝が真剣な眼差しで聞いてくる。

ここまで来てその目が出来るって純粋すぎない?


「身体で払ってよ」

「は?」

「今晩辺りで手を打とう」

「え?え?え?

えー!?」

「大丈夫。

僕のベット広いから」

「待って待って待って!

まさかそれって」

「もちろんセッ――」

「言うなバカ!!」

「え?ダメ?」

「ダメに決まってるでしょうが!」

「でも、もう遅いよ」

「は?

何が?」

「だってもうココア飲んじゃったし」

「まさか!

何か入れたの!?」

「そろそろ眠くなって……」

「ちょっと待って!

本当に眠くなって来たような気が――」

「あれ?おかしいな?

何も入れて無いのに」

「入れて無いんかい!」

「おー」

「拍手すんな!」


うん。

やっぱり八枝は向いてると思うよ。


「なんか夢路君と話してたらどうでも良くなって来たわ」

「世の中どうでもいい事の方が多いからね」

「ねえ話変わるけど、明日朝8時に私の家来て欲しいんだけど」

「えー、めんどくさい」

「そう言わないで来てよ。

渡したい物あるの」

「今もらうよ」

「明日じゃないとダメなの。

お願い。

絶対に夢路君が喜ぶ物だから」

「そこまで言うなら……」

「お願いね。

待ってるから。

あと、スマホもちゃんと持って来るように」


そう言って八枝は帰って行った。


絶対と言われたら気になって来た。

もし肩透かしだったらタダじゃおかないからな。



翌日、八枝の家の前に大きなトラックが止まっていた。


それを見ている僕に気付いた八枝が駆け寄って来た。


「おはよう夢路君」

「おはよう。

で、僕が絶対喜ぶ物ってなに?」

「実は私引っ越すんだ」

「僕が絶対喜ぶ物は?」

「お父さんの仕事の都合で東京に」

「僕が絶対喜ぶ物は?」

「私もこれを機にもっと女優業頑張ろうと思うの」

「僕が絶対喜ぶ物は?」

「もう!

ちょっとは話聞いてよ!」

「だって僕に関係無いし……」

「関係無い事無いでしょ!」

「なんで?」

「だって友達だもの」

「友達じゃないよ」

「友達よ」

「違うよ」

「違わない」

「違うって」

「うるさい!うるさい!うるさい!

グダグダ言うな!

私が友達って思ったら友達なの!」

「それは偽物の――」

「本当の友達!

だって夢路君は私と話す時は顔色伺わないし建前も言わないでしょ。

私だってそう。

それが本当の友達って夢路君が言ったのよ」

「いや、それを言ったのは君だったはず――」

「はい、これ」


八枝は僕の言葉を遮って、近所の地図を渡して来た。


「なにこれ?」

「近所の美味しいお店を印してるの。

夢路君へのお礼はこれが一番だと思って」

「やったー

これで僕の外食ライフが充実した物になるよ」


あのおっさんからたんまり現金も頂いたから、お金にも困らないしね。


「東京に来る事あったら連絡してよ」

「えー、めんどくさい」

「美味しいお店探しとくから」

「わかった」


八枝は何故か困った子を見るような目をした。


「ちゃんとスマホ持って来た」

「持って来たよ」

「貸して」


八枝は僕のスマホを取り上げると、隣に並んで僕とのツーショットの自撮りをした。

そして慣れた手つきで自分のスマホに送って、両方の画面を僕に見せる。

そこには全く同じ写真が映し出されていた。


「これ友達の証」

「勝手過ぎない?」

「いいの。

じゃあ、そろそろ行かないと。

ちゃんと連絡してよ。

私もするから」

「すぐにしなくなるよ」

「ならないわよ。

私をそんな冷たい人間だと思ってるわけ?」

「いいや。

でも、きっと君ならすぐに忙しくなって僕の事なんか気にしてる暇無くなっちゃうよ」

「なにそれ?

もしかして私がすぐに売れるって思ってくれてるの?」

「もちろん。

君のツッコミは世界を制するよ」

「だから女優だって言ってるでしょうが!」

「おー」

「拍手すんな!」


彼女のこれから進む世界は僕にはわからない世界だ。


だから一度でも悪い事が明るみになると、業界全体が白い目で見られる。

そして割を食うのは彼女のような真っ当な道を歩む善人達である。


圧倒的に悪党の方が少数派だと言うのに、全くもって理不尽な事だ。

理不尽だけど仕方ない事だ。

ならば僕は悪党として不都合な真実を奪い呑み込もう。


少なくとも彼女が本当に売れて、そんな噂なんぞに影響されなくなるほど大きな存在になるまでは。


僕は彼女が乗ったトラックを見送った。

そして完全に見えなくなった所でスマホを取り出した。


そして、先程の写真と♡尾崎♡八枝♡のデータを削除した。



「それからその子とは?」


スミレが更に密着度を高めながら食い気味に聞いて来た。


「何も無いよ」

「本当に?

全く?」

「しばらくは知らない番号からメッセージや電話が来てたから、それが八枝だったかもしれないけど、その内無くなったね」

「ふ〜ん。

そう」


なんかジトーとした目で見てくる。

そんな目で見られても、本当に何も無い物は仕方ない。


「そろそろ僕出ようと思うんだけど」

「何故?」

「それは……」


何故って僕の理性が限界だからだよ。

そんな事言えるか。


「私はもっとゆっくりしてたいわ」

「スミレはゆっくりしててもいいよ」

「なに?

私と一緒だと不満なわけ?」

「不満だなんて、とんでもない」

「ならいいでしょ?」

「いや、でも……」


僕は困っているのに、スミレは放してくれる様子は全く無い。

それどころか僕の耳元に顔を近づけて囁く。


「もちろん同意って事でいいのよ」


全身に走るゾクゾクとした感覚に理性が吹き飛びそうになった。


ヤバイヤバイヤバイ。

耐えるんだ僕。

今だけ耐え切ればいい。

後で部屋に帰ってミレイヌを使えばいいんだ。


「ありえないと思うけど、まさか私がここまで言ってるのにミレイヌで済まそうだなんて思って無いわよね?」

「ま、まさか〜

アハ、アハハ」

「そうよね。

だって今日はもう使ったものね。

少なくても今日一日は使わないわよね?」

「……はい」


どうしよう。

はいって言っちゃったよ〜

この後リリーナも来るかもしれないんだよ。


今日は人生で一番辛い戦いを強いられる日になるかもしれない。

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