第9話

病院の個室で僕はボーっとテレビを眺めていた。


金持ちの自宅訪問って言う下衆い番組がやっていた。


『見てくださいこの茶器!

なんと数十億はくだらないと言われている茶器だそうです!

このオーラ。

一目で他の茶器とは違うと分かります!』


リポーターが褒めちぎっているけど、なんの変哲も無い茶器にしか見えない。


『この茶器の素晴らしさを分かるとは、あなたは素晴らしい目をしている』


その家の主であるおっさんが、レポーターを褒めていた。


『戦国時代では茶器は一国の価値があると言われていたと言います。

まさに芸能界のドンと言われる猿金さんに相応しい品ですね!』


目の前のベットで動く気配がしたから、僕はテレビを消した。


「ん、ん〜」


寝ていた八枝がゆっくりと目を覚ました。


「おはよう。

体調はどう?」

「え〜と……

ここは?」

「病院だよ。

君は轢き逃げにあって運ばれたんだよ。

今先生呼ぶね」


僕はナースコールを押して看護師を呼んだ。


「轢き逃げ?

……そんな事無い!」


頭が回って来た八枝はガバっと勢いよく上半身を起こした。


「夢路君!

大丈夫なの!?」

「僕?

轢き逃げにあったのは君だよ。

僕は擦りもして無いよ」

「何言ってるの?

一星君にスタンガン当てられたじゃない!」

「なんの話?」


僕は首を傾げて惚けた。


「なんの話って、夢路君がスタンガンで気絶させられて、私は車に引き摺り込まれて……」

「なにそれ〜」


僕は大笑いしてみせる。


「ドラマの見過ぎだよ〜

君の場合は出過ぎかな?」

「そんな言う程出て無いわ!

って言わすな!」

「おー」

「拍手すんな!

じゃなくて、本当に――」

「轢き逃げだよ」

「そんな事無いって――」

「轢き逃げ」

「でも……」

「僕が目の前で見てたんだよ。

それに君の言う通りなら僕がここにいるのおかしいじゃん」

「それはそうだけど……」

「そんなのは漫才のネタにならないと思うよ」

「だから漫才師ちゃうわ!」


丁度先生が来て診察を始めたから話はうやむやに終わった。

そうこうしてる内に、彼女の父親が来たので僕は病院を後にする。


そして魔力で予告状を生成した。


『拝啓 猿金殿


テレビで自慢の茶器を拝見させてもらった。

残念ながら俺にはオーラを感じる事が出来なかった。


なので今宵。

二つの針が重なる時。

実物を拝みに伺わせて頂く。


怪盗 ナイトメア』



猿金家は鎮まり返っていた。


猿金は僕が予告状出したけど、警察は呼ばなかったみたいだ。

そのかわりガラの悪い連中に護衛を頼んだってわけだ。


そりゃあそうだよね。

自宅って見られて困る物があるもんね。


「これがテレビで自慢していた茶器か?」

「いつの間に!?」


僕はあっさり猿金こおっさんの自室に侵入して、茶器を眺める。

やっぱり実物見てもオーラなんて感じない。


「いつの間にかって?

ちゃんと訪問時間は伝えていたはずだぞ」


時計の針は予告状通り針が重なっていた。


「それにしても、実物を見てもオーラなんて微塵も感じんな」

「ハッハッハッハッハ」


おっさんはバカにしたように笑う。


「かの有名な怪盗ナイトメアも、物の価値が分からぬとは大した事無いな」

「そんなにこれに価値があるのか?」

「わからない者にはわからんよ」

「そうだな。

俺にはわからん」


そう言って僕は茶器を手放す。

茶器は自由落下して砕け散った。


「なんと!?

勿体ない!?」

「その割には驚きが少ないな」

「なあに。

高々数十億の話の方だ。

それぐらい稼ぐのは一瞬だ」

「流石上流国民は言う事が違う。

だからかもしれないな。

俺にはこちらの方がオーラを感じるよ」


僕はいかにもな木箱を見せた。

それを見たおっさんの顔色が明らかに変わった。


「おい、まさか、それは……」

「芸術を愛する者として考えている事は理解出来るぞ。

素晴らしい物はいかなる手を使ってでも手に入れたい。

そしていつでも楽しめる様に手元に置いておきたい。

だが、公には出来ない品々。

そこで思い付くのが秘密の鑑賞部屋」


僕は下を指差して見せた。


「そして地下に作るのが1番バレにくい」

「貴様!」


おっさんが机の引き出しから拳銃を取り出して僕に向ける。

その拳銃をリボルバーで弾き飛ばす。


「それにしても多趣味だな。

茶器だけに留まらず、絵画、宝石、貴金属。

しかし、そこまではまだ分かるがあの隠し撮りされた映像記録だけは理解出来なかった」


おっさんの顔色が見る見る青くなっていく。

それを見ながら僕は続けた。


「まあ、せっかくだから全て頂いて行く。

また集まったら奪いに来るからよろしく頼むよ」

「ふざけるな!」

「ふざけてなどいないさ」


僕は殺気を浴びせる。

その殺気だけでおっさんはたじろいだ。


「俺は奪うの専門なんだ。

そして欲しい物は必ず奪う。

何処に隠そうと無駄な事は今回で分かっただろ?」


僕はおっさんに背を向けて出口に向かう。

そして出口の前で立ち止まった。


「あと一つだけ言っておこう。

俺は美しい物が好きなんだ。

同時にそれを汚す者は嫌いだ。

嫌いな者には容赦はしない」


振り向いてリボルバーをおっさんに向けた。


「俺は奪う事に躊躇はしない。

例えそれがなんだったとしても」


僕のリボルバーから放たれた魔弾がおっさんのすぐ横を掠めて壁を破壊した。


腰を抜かしてへたり込んだおっさんを放置して、僕は夜の闇に紛れて消えた。

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