第8話

山中を走っていたバンが停車した。

目的地に着いたのだろうか?


八枝の両サイドにいた男共以外が降りる。


荷台の扉が開いたと思ったら僕は乱暴に引き摺り落とされた。


そのまま足に何か括りつけられる。

横には大きな池。


なるほど。

どうやら僕はここに沈められるみたいだ。


男の一人が僕のポケットを漁って何か探している。


金目の物でも探しているのかな?

でも残念だね。

僕は手ぶらで出て来たんだ。


「おい!

早くしろ!」


一星がイライラと催促している。


「無いんだ!

こいつスマホ何処に入れてやがる!」


どうやらスマホを探しるみたいだ。

残念ながらそれも無いんだ。


でも、なんでスマホ?

そんなにスマホって金になるのかな?

僕の奴は安物だよ。


「こいつ持って無いんじゃないか?」

「そんな訳あるか!

いくらボッチの陰キャでも携帯ぐらいは持ってるはずだ!

探せ!

あれがあると場所が分かっちまう!」


そうなの?

スマホ持ってたら場所がわかるの?

スマホって凄いんだね。


「やっぱりこいつスマホ持って無いぞ。

それどころか、財布すら持ってねぇ」

「はぁ?

マジかよ。

こいつ頭おかしいんじゃないか?」


スマホ持って無いだけで酷い言われようだ。


「まあいい。

なら好都合だ。

捨てちまえ。

いや、ちょっと待て」


一星が車から金属バットを取り出す。

男4人で僕を持ち上げて無理矢理立たせた。


「こいつには一発やられたお返しをしないとな」


一星が金属バットを大きく振り返る。

そしてフルスイングして僕の顔面に炸裂した。


その勢いで僕は池にダイブした。


「よし、こいつも捨てとけ」


そう言うと男共は八枝の荷物も全て池に投げ捨てて元来た道を戻って行った。


……なんだよ。

僕は連れて行ってくれないのかよ。

つまんないの。

せっかく楽しみにしてたのに〜


僕は拘束を解いて池から上がってから大きく伸びをした。

ついでだから八枝の荷物も超能力で引き上げてあげた。


さて、行きますか。


『美学その7

恩には恩を仇には仇を、悪党には悪党を』


美味しいお店を教えてもらった恩があるからね。

それに、まだまだ八枝には美味しいお店を教えてもらわないと困るんだ。


僕の毎日の美味しいご飯を奪われてはならない。

だって僕は奪う専門だからね。


僕は車の走って行った方に向かって空を飛んで行った。



はい、みっけ。

あの雑木林の中を走るバンに間違い無いね。

魔力感知を使えば簡単に見つけられちゃうね。

スマホなんかいらないじゃん。


「はい。

今向かっています。

ですから例の件を……

はい!

よろしくお願いします!」


なんか一星が電話していた。


「よし!

これで俺達はスター街道まっしぐらだ!」


電話を終えた一星があげた喜びの声に車内が沸いた。


悲しき奴らだ。

悪党の進む道は悪党の道しか無い。

そしてその先は悲惨な最後でしか無いというのに。


僕はゆっくりバンの上に降り立つ。

先に急カーブが見えた所で超能力を使ってブレーキをロックしてからアクセルを踏み込んだ。


「おい!

何やってる!

スピードを落とせ!」

「ブレーキが固くて踏めないんだ!」


焦る男共。

スピードは増す一方のバン。

そして追加でロックされるハンドル。


その結果は……


ドーン!!!


はい、見事に道を外れて大木に衝突しました。

いくらエアバックが出たと言ったって、全員生きてるのが奇跡の大事故。

八枝なんて無傷。

衝撃すら感じて無いはずだ。


なんたって僕が保護したからね。

だってこれで死んだら僕のお楽しみ無いじゃん。


呻き声を上げながらバンから降りて来る男共。


「このバカが!

尾崎に怪我させて猿金さんを怒らせたら、俺達終わりなんだぞ!」


なんか叫んでる僕は一星を見下ろした。


「やあ、一星 輝明君。

さっきぶりだね」

「な、な、な、なんで!?

ま、ま、まさか幽霊!?」

「幽霊じゃないよ。

ほら、ちゃんと足も付いてるでしょ」


僕は気力で強化した足で後部座席のスライドドアを蹴ってぶっ飛ばした。

その光景に小さな悲鳴が漏れる。


「ば、化け物!」

「おっと、逃がさないよ」


運転席側から這い出た三人が逃げ出したから、バンだけを横に滑らして三人をぺちゃんこにした。


僕はゆっくり降下して、浮かしていてその場に残った八枝をお姫様抱っこした。


「あ、あ、あ……」

『動くな』


声にならない何かを発しながら後ろに下がっていく一星達を言霊で止めてから、ゆっくりと道路脇に移動して八枝を下ろした。


「ん、ん〜」

『おやすみ』


意識が戻りかけていた八枝も言霊で再び夢の世界に誘ってから、一星の元へゆっくり歩いて行く。


「あっ、そうだ」


僕は他の二人に視線を移してからにっこり微笑む。


「君達は逃げていいよ。

ただし……」


超能力でバンの助手席のドアを千切ってから持って来て、片手で持ち上げてみせる。


「これを一回だけ投げるから。

二人同時に違う方に逃げたらどっちかは助かるかもね。

じゃあ準備はいい?

よーいドン」


二人の言霊が切れて、同士に違う方向に逃げ出した。

僕はその片方目掛けて投げる。


回転したドアが一人を真っ二つにして上半身と下半身を分離させる。

そのドアが大きく弧を描いてもう一人も真っ二つにしてから戻って来た。


「残念。

二人共ダメだったね」


僕はキャッチしたドアを適当に投げ捨てて一星の元に行く。

一星は歯をガタガタ鳴らして怯えていた。

そこにはイケメンの見る影も無い。


もしかして、この短時間で老けた?


「僕に当てたスタンガンってこれ?」


車内にあったスタンガンを超能力で引き寄せて一星に見せる。

一星は震えたまま反応が無い。


「ねえ、聞いてるんだけど?

君は痛い想いしないと質問にも答えられないの?」


一星はブルブルと首を横に振った。


「じゃあもう一回聞くよ。

僕に当てたスタンガンってこれ?」


今度は首を縦に振る。


「そうなんだ。

これって結構威力高いよね?

違法レベルに。

えい」


僕は首筋にスタンガンを押し当てる。


「あわわわわわ……」


バチバチと言う音に合わせて面白い声を出しながら痙攣し始めた。


なにこれ。

面白い。


もちろん気絶しないように適時治療している。


しばらく楽しんでからスタンガンを適当に捨てる。

まだ一星の痙攣は止まっていない。


そんなの気にせずに、今度は金属バットを引き寄せた。


「僕、野球した事無いんだ。

だってボッチの陰キャだからね。

だからスーパースターで陽キャの君にスイングを見て欲しいんだ」


僕は金属バットを構える。

何を打つかは一目瞭然。


「た、た、た、助けて、て、て」

「あはは。

痺れて何言ってるかわからないや」


僕は思いっきりフルスイングする。

見事に一星の首から上だけをホームラン出来た。


「どうだった?

ってこれだと見れないか。

まあ、ホームラン出来たって事は完璧なスイングだったって事だね」

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