第7話

八枝の言うお店にはハズレが無い。

僕は確信したね。


今回のうどんも超美味しい。

僕は満足だよ。


「ごめんなさい。

変な事に巻き込んで」


八枝が明らかにしょんぼりしていた。


「まあ、美味しいうどん食べれたからチャラにしてあげるよ」


正直どうでもいいしね。

僕は今うどんを堪能するので忙しい。


「彼氏がいるってわかったらすんなり諦めてくれると思ったの」

「それは甘いね。

甘すぎるよ」

「どうして?」

「だって僕だよ。

そりゃなんとでもなると思うわけだよ」


八枝は僕をじーっと見る。


「なに?」

「別に夢路君はそんなに見た目は悪く無いわよ」

「見た目なんてなんとでもなるよ。

問題は中身」

「確かに夢路君は変わり者かもしれないけど、そこまで酷くは無いと思うわよ」

「それは八枝の見る目が無いんだよ」

「そうなのかな〜?」


まだ納得いかないようで、八枝は首を捻っている。


まあ別に細かく説明する義理も無いし、僕はうどんに集中する事にしよう。


「私の母も女優だったの。

それも若くして成功を収めた女優だったわ」


なんか自分語りを始めた。


まあ、適当に聞き流すか。


「これからもう1段階伸びようとした時、ある誘いが来たの。

それは枕営業だった。

母はそれを毅然と断ったわ。

だけど相手が悪かった。

それから干されてしまったわ。

それっきり母は女優を続けられなかった。

幸い当時から結婚前提で付き合ってた父の稼ぎが多かったから生活は何も困らなかったし、母は専業主婦となったわ。

でもね、その生活は耐えれなかったみたい。

2年前、突然と書置きだけ残して忽然と消えてしまったの」


僕は店員さんにうどんのおかわりを注文した。


特盛じゃ足りなかったよ。


「だから私は決めたの。

実力だけで大女優になってみせるって。

そして母は正しかったって証明するの」


やったー

うどんのおかわりが来た。

うどんは早くて美味しくて安い。

最強だね。


「……聞いてないわね」

「え?

とっても美味しいよ」

「まあいいわ。

そう言う所は夢路君っぽいし」


そのまま八枝は僕が食べているのをずっと見て待ってた。

そんな事など一切気にせずに、僕は美味しいうどんをゆっくり堪能した。



うどん屋の帰り道。

当然方向が一緒だから送って行く形になった。


「夢路君はなんでそんなに自分に自信があるの?」


突然八枝が変な事を聞いてきた。


「自信?

なにそれ?

別に普通だと思うよ」

「そんな事ないわ。

だって今日だってあいつに散々言われたのに意に返さずって感じだったじゃない」

「別に誰にどう思われようと、どうでもいいからね」

「それって自分に自信があるからでしょ?」

「う〜ん。

ただ単に自己中なだけじゃないかな?」

「いいえ。

だって同調圧力で普通そんな事出来ないもの」

「その同調圧力ってのがわからないんだよね」

「それは夢路君が自分をしっかり持っているからよ。

だって中学一年生の時――」


突然僕は後ろから走って来た男にスタンガンを当てられた。

普通に避けられたけど、なんかイベントかもしれないから敢えて受けてみた。


中々強烈なスタンガンだな〜

下手したら死ぬよこれ。


しかも長いな〜

これ僕が倒れるまでする気?

仕方ない。

気絶したフリしようっと。


僕は迫真の演技で倒れ込む。


「きゃ!?

なんなの!?」


八枝の驚きの声は横付けされたバンの急ブレーキの音に掻き消される。

そして中から出て来た男共が八枝を中に引きずり込んだ。


「おい!

そいつも積み込め!」


僕も男共に乱暴にバンの荷台に放り込まれた。

そのままバンは走り始めた。


「そいつの手足をキツく縛っとけ!」


助手席の男が命令して僕の手足は結束バンドで縛られた。


おや、この声は一星ではないか。

ここに来てまさかの悪党ムーブだ。


でも、言ったら悪いけど八枝にこんなにリスクを犯しす価値があるとは思えないんだけどな〜


「ちょっと!

何するのよ!

放しなさいよ!」


八枝が暴れるが両サイドの男がガッチリ後部座席に抑えつけている。


「大人しくしてろよ」

「一星!

どう言うつもり!」


八枝もやっと気づいたみたいだ。


「なあに。

デートだよ。

最高に楽しく気持ちのいいデートにしてやるよ」


車中に男達のニヤニヤした笑い声が聞こえる。


「ふざけるな!

これは立派な犯罪よ!」

「いいんだよ。

俺は未来のスーパースターだからな」


なるほど。

スーパースターなら悪党でも許されると思っているらしい。


なんてバカな奴。

何者であっても悪党は悪党でしか無いのに。


「なにがスーパースターよ!」

「まあ、時間までゆっくり寝てな」


喚き暴れる八枝の口にハンカチが当てられる。

何かの薬品が染み込まれていたのだろう。

すぐに八枝は大人しくなって気を失った。


さてさて。

これは一大イベントの予感だね。

果たして何処に行くのか?

一星の言う最高に楽しく気持ちのいいデートとはどんなのだろう?


楽しみだな〜

ワクワクが止まらないよ。

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