第7話
うん、上手くいった。
前世と同じぐらいに力を使いこなせるようになって来ている。
とても綺麗なフィニッシュだ。
僕は元の姿に戻りながらも、美しい光景に満足しながら天を仰ぎ続ける。
夜空とオーロラのかけらとコラボレーションが素晴らしい。
前世ではこんなに綺麗な星空は滅多にお目に掛かれなかったからね。
そう考えるとこの世界に来れたのは幸運だった。
月夜の挑戦者には感謝だね。
「お疲れ様。
とても綺麗ね。
私なんてまだまだね」
ワイバーンから降りたスミレも大空を見上げている。
「スミレもそのうち出来るようになるよ」
「ええ。
必ず出来る様になってみせるわ」
僕も負けるつもり無いけどね。
まだまだ高みを目指す。
前世の自分を超える程の力を。
大型のワイバーンが僕の前に降りてくる。
彼には敵意は無い。
降り立つと同時に首を垂れた。
「君の悪夢も覚めたかい?」
僕は頭を撫でながら言った。
すると肯定するようにグルッと鳴いた。
「そうか、それは良かったね。
もう自由だよ」
ワイバーンはもう一度だけ短く鳴いて飛び立った。
残りのワイバーンも続くように飛んで行く。
彼らがどこに行くかはわからない。
人の味を覚えた彼らは、もしかしたら人を襲うようになるかもしれない。
そうなったらそうなった時だ。
食物連鎖だから仕方ない。
人間と違って必要な分しか獲らないはずだ。
「あいつ如きにあのワイバーンを使役出来る程の力があるとは思えなかったけど、魔道具だったのね」
スミレがワイバーンを見送りながら言った。
その手には傭兵団の1人が持っていた杖があった。
それはいつか公爵が作った剣とは比べ物にならない程の魔力を放っている。
この世界には魔道具と言う物がある。
それを持つ物は自身の力以上の能力を使えると言う。
誰がどのように作ったか謎のままだ。
強力な物になればなるほど貴重な物になり、高価格で取引されている。
所謂この世界のお宝だ。
「まあ、何でもいいじゃないか。
僕には関係無いことだ」
「あなたはいらないの?」
「いらないね」
そんな力が無くても、僕は欲しい物を必ず自分の力で手に入れる。
そんな物は場所を取るだけで邪魔なだけだ。
「スミレが欲しいなら持って行ってもいいよ」
「あなたがいらない物は私もいらない」
スミレが真上に杖を投げた。
「バンッ」
僕は指先から放った魔力の弾で粉々に粉砕した。
そうだよね。
ああいう物は正義の元に集まる物だ。
悪党が持つと碌な事にならない。
でも興味はあるね。
是非また対峙してみたい。
今回みたいなしょぼい力じゃなくて、もっと世界を揺るがすような力を持った魔道具と。
きっとそんな時が来たら、それが僕の年貢の納め時になるんだろうな。
「さて、今日は帰ろうか」
「そうね」
「え!帰るんですか!?」
帰ろうとしたらサラが驚いて近づいて来た。
いや、僕の方が驚くよ。
もう用事終わったし帰るよ。
「そりゃ帰るよ。
もう夜も遅いし」
「あの……報酬は?」
「そんなの明日に決まってるじゃん。
明日の朝迎えに来るよ」
「え!?朝ですか!?」
「もしかして夜の方がいいの?」
「いや、その……
一般的には夜の方が多いと思うんですけど……」
「そうなのか。
確かに夜景の方が綺麗かもしれないね」
「屋外ですか!?」
「え?屋内とかあるの?」
ん?話が噛み合わないぞ。
なんで?
なんかスミレは横でクスクス笑ってるし。
「ごめんなさい。
私初めてなので何も分からないんです」
サラが顔を真っ赤にして頭を下げる。
初めて?
この子は一体何を言ってるんだ?
「サラがアンヌを案内したんだよね?」
「え?何の話ですか?」
今度は顔をあげてキョトンとしている。
僕もキョトンとした顔になる。
「何の話って、報酬の話。
アンヌが気に入った景色を案内してくれるんでしょ」
「もしかして体でって……」
「当たり前じゃない。
労働で払うって意味よ」
呆然とするサラにスミレが笑いを噛み殺しながら言った。
サラの顔がみるみる赤くなって、恥ずかしさに耐え切れず両手で顔を隠す。
「ごめんなさい!
私てっきり、その……夜のお相手とばっかり……」
「えー。そんなわけ無いじゃん。
スミレがややこしい言い方するからだよ」
「そう?
何も言わずに了承したから、てっきり伝わってると思ってたわ」
そう言いつつ上品ながらも愉快そうに笑っている。
僕も伝わってると思ってたよ。
でも、この感じからしてスミレは誤解してるの分かってたな。
「で、どうするの?
せっかくだしこの子の貞操貰っておく?」
「冗談じゃない。
僕は素晴らしい景色が見たいよ」
「そうですよね。
よく考えたら私みたいな体で満足する訳無いですよね」
なんでそんな悲しそうな顔する訳?
良かったじゃん。
貞操が無事で。
「そう言う意味で言った訳じゃないよ。
君は充分可愛い魅力的な女の子だよ」
「可愛いですか?
ありがとうございます」
また顔が赤くなっていく。
コロコロ表情が変わる子だ。
「ならやっぱり貰っといたら」
「だから、そう言う問題じゃないの。
分かってて言ってるでしょ」
「もちろんよ。
あなたの事は昔から見て来たもの」
まったく……
帰ろう。
なんかドッと疲れた気がするよ。
「とりあえず今日は帰るよ。
明日迎えに来るから案内よろしくね」
「はい。
お待ちしています」
サラと約束出来た事だし帰るか。
「本当に昔と変わって無くて良かった」
スミレが何か小さく呟いた。
「何か言った?」
「いいえ」
いや確かに何か言ったはずなんだけど……
まあいっか。
今日は帰って寝よう。
◇
今夜は楽しかったな〜
王都に来て初日にこんな楽しいイベントに遭遇するなんて僕はついている。
これも日頃の行いが悪いからだな。
さて、宿に着いたし今日は寝よう。
なんたって明日は楽しい絶景巡りだからね。
せっかく苦労……はしてないけど、手に入れた報酬だからね。
「明日の観光の後時間ある?」
「そうだね。
明日の予定はそれ以外無いから空いてる……ってなんでいるの?」
僕の部屋にスミレがいる。
宿の外で別れなかったっけ?
「何故って?
普通に付いて来ただけよ」
……そういや別れて無いや。
それでも、普通そのまま付いてくる?
「で、明日は空いてるのよね?」
「まあ、そうなるね」
そのまま話進めちゃうんだ。
僕は今日の余韻に浸って寝たいんだけど……
「なら明日帰りの足で私達のギルドを案内するわ」
ギルド?
そういや、そんな話になってたね。
すっかり忘れてたよ。
「いいよ」
まあ、なんでもいいや。
僕はすっとベットに潜り込んだ。
「みんな待ち侘びてるわよ」
みんな?
みんなって、あのみんな?
そうか、まだみんな仲良くやってるのか。
それはいい事だ。
数少ない身内は大切にしないとね。
「ねえ、聞いてる?」
「聞いてるよ〜」
もう半分夢の中だけどね〜
「ナイトメア・ルミナスはあなたが望んだ物になってるはずよ」
僕が望んだ?
非合法のギルドを?
全然記憶無いけど?
「後処理はこっちでやっとくから心配しないで大丈夫よ。
あなたは明日の観光の事だけ考えといたらいいわ」
なんか良く分からない事ばっかり言ってるな〜
別にいいや〜
僕には関係無いみたいだし。
言われたように明日を楽しみにしていよう。
「明日は報酬の観光も楽しみだろうけど、こっちも楽しみにしていてね」
あれ?なんか声が近くなったような気がする。
心なしかベットが少し沈んだような……
「おやすみなさい。
ヒカゲ」
もう殆ど夢の中に行っている僕の耳元でスミレの声が聞こえた。
やがて、すぐ隣で静かな寝息が聞こえて来るのと同時ぐらいに僕は眠りについた。
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