第5話

あーあ、行っちゃたよ。

お父さんを見つけたって本当かな?

確かにハイキングしてる人達いたけど、夜みんなでハイキングするなんて変な人達がサラの村人なの?

ちょっと頭おかしいよね。


まあ、彼女も急に震え出す変な子だしな。

可能性はあるな。

急に動かれると落としそうになるから、次は初めから魔力で固定しよ。


「スミレ。

本当にあの子の父親だと思う?」

「知らない」


あれ?なんか素っ気ない。

王都出るまでは普通だったのに……

疲れたのかな?


「どうしたの?

少しスピード上げすぎた?」

「別に。

早く追いかけるわよ」


そう言ってさっさと行ってしまった。


やっぱりスミレの機嫌が悪くなってる。

どうして?

とりあえず追いかけるか。


「あの……スミレ。

何か怒ってる?」

「怒ってない」


怒ってはいないのか。

じゃあ拗ねてるのかな?


「もしかして拗ねてる?」

「拗ねてない」


拗ねてもいないらしい。

うーん、わからない。


「別にお姫様抱っこする必要無いじゃない」


スミレが小さな声でなんか必要無いって言った。


「なんか言った?」

「言ってない」


いや言ったよね?

何が必要無いって言ったんだ?


……そうか、金貨だ。

あれだけしか貰わなかったのに不満なんだ。


確かに貰える物は貰っとくべきだったかもしれない。

僕の分いらないから全部あげよう。

それで許してくれないかな?


「お父さん!

どうしてこんな所に!?」

「サラ!

お前こそ何で!?」


どうやら本当にお父さんだったらしい。


夜中のハイキングがサラの村では流行ってるのかな?



サラに追いついて話を聞いてみたけど、夜中のハイキングでは無かった。

なんか逃げて来たんだって。


「そんな……

じゃあナムさん達は死ぬつもりで村に残ったって言うの!」


サラが父親に詰め寄っている。

父親は辛そうな顔をしている。


あぁ出た出た、そう言うパターンね。

くだらない。


「急がないといけないな」

「はい!

急がないとナムさん達が……」


僕の独り言を聞いたサラが同意しているけど、そのナムさんとやらはどうでもいい。


「そんな死に損ないはどうでもいい」

「なんですと!」


今度はサラの父親が僕の独り言に反応して声を荒げる。


気の短いおじさんだな。

そんなに怒る事?


だってお涙頂戴パターンでしょ。

僕そういうの嫌いなんだよね。


「くだらない」

「なにがくだらないんだ!」


激昂したサラの父親が僕の胸ぐらを掴む。

本当に気が短いな。


後ろにいた村人達も口々に僕を罵倒している。


くだらない物をくだらないと言って何が悪い?

僕は美学その2に則って善人を尊敬している。

でも自分の命を犠牲にする奴は善人では無い。


自分すらも救えない奴が他人を救えるはずが無い。


結局そんな事をする奴は、世の中のルールには馴染めず、だからと言って歯向かう訳でも無く、善人にも悪党にもなりきれない、ただ自分の命に価値を見出したい愚か者だ。


そしてそれを美談のように思い、この男のように英雄視する奴も愚か者だね。


「黙れ!」


僕の凄みのある声で村人達は一瞬で静かになった。


「それだけ俺に文句を言う暇があったら、なぜお前らを虐げる者に向けて声を上げない?」


僕の問いに答える者はいない。

それどころか項垂れるだけだ。


これだから愚か者は嫌いだ。


「己の無力さを俺にあたるな」


僕は掴まれている手を強引に払い除ける。

勢い余ってサラの父親は倒れた。


サラが慌てて駆け寄って行く。


「行くぞスミレ。

せっかくの美しいこの地が愚か者の血で汚れては台無しだ」

「ええ、そうね」

「サラ。

早く案内しろ」

「は、はい!」


倒れた父親を気にしながらも僕の元へ来ようとするサラの腕を父親が掴んで止めた。


「待つんだサラ。

あんな奴について行くな。

あいつはあの傭兵団と一緒の人種だ」


人を見る目はあるみたいだね。

確かに僕は傭兵団と一緒で悪党だ。


「でもあの二人は報酬を先に提示してくれました」

「一体何を要求されたんだ?」

「一握りの金貨と私の体です」

「な、何だって!」


父親は今日一大きな声をあげた。

他の村人達も口々にサラを止めようとする。


確かに体で払ってもらうけど、その言い方だと誤解を生むよ。

まあ、誤解を解いてる時間も勿体ないしいっか。


「早くしろ」

「はい。

お父さん、これは残りの金貨です。

みんなの物なのでお返しします」


サラは金貨の入った袋を押し付けて父親を振り払って僕の元へ走ってくる


「サラ!

ダメだ!」


僕の元まで来たサラはもう一度父親の方へ振り返った。


「お父さん。

王都でギルドに頼んだら金貨が足らないと言われました。

騎士団に頼んだら時間がかかると言われました。

だけど、この二人だけは今の私にも出来る最善の方法を教えてくださいました。

私はこの人達にかけてみます」


サラは父親と村人達に深く頭を下げて僕の方を見た。


「お願いします」

「ああ」


僕は再びサラを抱えて空に舞い上がった。



この世界ってとにかく空が綺麗なんだよね。

きっと科学が発展してないから汚れて無いんだね。


その中でもここら辺は空気が澄み切っていて格別綺麗だ。

アンヌが気に入ったのにも頷ける。


「お父さんがごめんなさい」


僕の腕の中でサラが謝る。

別にどうでもいい。

どうでもいいけど、サラが謝る事ではない。


「お前の父親は正しい。

俺は悪党だ。

お前の村を占拠した奴らと何も変わらない」


そう僕は根っからの悪党だ。

今も村人を助けようと言う気持ちなど一切無い。

報酬を手に入れる為のプロセスの結果、勝手に助かるならそれでいい。

それだけだ。


その証拠に――


「ナイトメア。

どうするの?」


スミレも当然気付いている。

彼らの計画は既に破綻している。

だけど……


「放っておけばいい」


僕には関係ない。

それが彼らが選択した道だ。


ん、待てよ。


「おい、サラ。

お前はあいつらの避難先は、アンヌに案内した場所か?」

「え?はい。

避難場所のすぐそこに一箇所綺麗な滝があります。

水も綺麗な場所なので、そこに避難する事にしたんだと思います」


やっぱりそう言う事か。

水は大切だもんね。

はぁー、仕方ない。


「スミレ。

頼めるか?」

「ええ」

「わかっているな?」

「もちろんよ。

あなたの望み通りに」


スミレは方向転換をして飛んで行く。


「スミレさんはどちらへ」

「奪いに行くのさ。

餌場を」

「はぁ……」


サラは意味がわからないのか、首を傾げた。

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