第2話

あれから月日は流れて、僕は10歳。

もちろんヒナタも10歳。


結局あれはヒナタが自分の魔力でやったって事で落ち着いた。


僕の両親はとにかく楽観主義者。

それはもう常にデフォルメキャラに見えてしまいそうなぐらい。

特に子育てには度を越す程お気楽。


実質的な子育ては乳母さんがするから問題無いが、とにかく親バカ。


普通才能がある方だけ可愛がりそうな物だが、分け隔て無く僕らを育てた。


そのおかげで僕が助かっているのだから文句は無い。


ただ、分け隔て無く育てると弊害が出て来ることもある。

それは教育。


2人のレベルを合わせるには低い方に合わせるしか無い。

つまり僕に合わせる事になる。


せっかくのヒナタの才能が腐ってしまう。


それは僕のせいでヒナタの可能性を奪う事になる。

美学に反する。


だから僕はヒナタに魔力の使い方をさりげなく教えた。

剣術もヒナタのレベルに合わせてギリギリ負けること少しずつ鍛えていった。


努力に甲斐あってヒナタは天才少女と呼ばれるほどになっていた。

逆に僕は――


「お兄ちゃん!

いつまで休憩してるの!

早く相手してよ!」

「まだやるのか?

もう今日は終わりにしようよ」

「何言ってるの?

もうすぐ大会があるんだよ」


妹に毎日ボコボコにされるポンコツ息子になっていた。


ヒナタが言ってるのは王国全土で年に一度開催される剣術大会。


10歳になる子供を集めて東西南北と中央の五箇所で同時開催される。


この大会は貴族の子供は全員参加しないといけない。


いくら剣の刃は殺すとは言え鈍器には変わりない。

それを使って10歳の少年少女に強制的に試合させるとかいい具合に狂ってるよね。


ただ、各地域の上位二名は王国一の魔法剣士学園の特待生クラスの推薦枠を得る。


そのまま卒業出来れば本人は一生生活に困らないと言われているだけで無く、その子を排出した領主の王国内での評価も大きくあがる。


「ヒナタなら優勝出来るよ」


ここ王国西区にヒナタに勝てるような貴族の子はいない。

それは調査済みだ。


「違う!

お兄ちゃんが勝たないといけないの!」


え?僕?

勝つつもりなんて微塵も無いよ。

大会とはいえ、大衆の面前で善人をボコるなんて悪党の美学に反する。


「僕には無理だよ」

「無理じゃない!

お兄ちゃんは悔しく無いの?

凡人以下とか、間違えて産まれて来たとか、私のオマケとか言われて」

「全然悔しく無いよ」

「悔しいの!」

「えー、なんでヒナタが決めるんだよ」

「お兄ちゃんは私より凄いんだから!」

「そんな事無いよ」

「そんな事あるの!

とにかく今回の大会で見返してやるの!

私とお兄ちゃんの2人で魔法剣士学園に行こうね」

「勘弁してよ」


僕はそんな所に行きたくはない。

学園生活なんて窮屈なだけだ。


それにしても何故かヒナタだけは僕に対する評価が高い。

双子だからなんとなく手を抜いてるのがわかるのだろうか?



夜です。

これから悪党の時間です。

今日も僕は一仕事します。


僕は魔力でナイトメアスタイルを生成して、聳え立つ山にレッツゴー。


この高い山の頂上が国境。

だから勝手に登ってはいけない。

だけど、そんなの悪党の僕には関係無い。

なんたってこの山は宝の山だ。


税関があるこの山は貿易の為の馬車が良く通る。

つまりそれを狙う盗賊共も良くいる。

だからこの山の治安は最悪だ。

そこら辺に盗賊のアジトがある。


もちろん両親も取り締まりを強化している。

商品を運ぶ商人も護衛をしっかりつけている。

そんな盤石の状態でもお勤めを完遂できる悪党だけがこの山に集まる。


つまりここは悪党達の甲子園だ。

その頂点に僕はなる。


広大な山だけど、盗賊を見つけるのは簡単。

なんたって多少なりとも魔力が使えるエリート盗賊ばっかりだ。

魔力感知すれば一瞬で見つけられる。


おや?噂をすれば楽しそうに宴会してる盗賊発見。

今日の獲物はこいつらにしよう。


お宝だけ頂戴してもいいんだけど、ここは親孝行の為に討伐してしまおう。


僕は魔力で刀を生成して宴会場のど真ん中に突撃する。


あえて親分っぽいのを外して弱そうな下っ端を一刀両断する。

だって、僕は好きな物を最後に食べるタイプだから。


「貴様!何者だ!」


ザ・親分が脇に置いてた剣を取る。

さっきまで陽気だった盗賊達もすぐに剣を取って構えた。


流石エリート悪党。

反応が早い。


「俺はナイトメア。

今宵、悪夢へ誘う者」


決まった。

この台詞は前世でも評判だったんだよね。

SNSで常にトレンド入りだった。


「は?何言ってるんだ?」

「頭おかしいんじゃないか?」

「変な仮面付けてるし」

「良く見たらガキじゃねぇか」


世界が変われば価値観も変わる。

それは仕方ない事。


……悔しく無いぞ。

この体の震えは武者震いだ。


「なんだ?

ガキが正義の味方ごっこでちゅか?

ボウヤ、震えていまちゅよ」


ザ・親分はバカにした様に笑う。

周りの子分共も笑い出した。


相手を見た目で判断する。

ダメな奴の典型的なパターンだ。

これはハズレかな?


「正義の味方?

違うな。

俺は悪党だ」

「世の中の理不尽おちえてあげまちゅね。

お前らやっちまえ!」


一斉に盗賊共が切りかかってくる。

エリート悪党だけあって統率もとれている。

だけど僕の敵では無い。


「教えてくれよ。

この世の理不尽を」


この世に僕以上の理不尽があるのならね。


1人また1人と切り捨てていく。

そこにザ・親分の一撃。

僕は刀で受け止めるが、思いっきり振り抜かれる。

軽い僕の体が後方に飛んで木にぶつかって止まった。


「ガキにしては出来るようだが、所詮はガキだ、軽すぎる」

「魔力のこもったいい一撃だ」


僕は手を叩いて賞賛する。

本当に素晴らしい一撃だった。


ザ・親分なかなかやるね。


「このガキ!

バカにしやがって!」


何故か怒り出したザ・親分が突進して来る。


おかしいな?

褒めたんだけどな?


僕はザ・親分の一撃をひらりと躱して空中に停止する。


「と、と、飛んでる!」


エリート悪党共が目を丸くしてこっちを見る。

何人かの下っ端が腰を抜かしている。


この光景は前世でも良く見た光景だ。


魔力とは心に宿る想いの力。

気力とは体に宿る生命の力。

霊力とは魂に宿る存在の力。

超能力とは脳に宿る思考の力。


それらを全てコントロール出来れば宙を浮くなど簡単な事だ。


「力の一端を見せてやろう」


今日は気力のコントロールを充填的に練習しよう。


僕は気力を巡らせて肉体を強化して、最速でエリート悪党の間を駆け抜ける。


一瞬にしてザ・親分以外を切り捨てた。


「な、な、な」


完全に戦意消失している。

もはや声も出ないらしい。

今日の鍛錬はここまでだな。


僕は最後に残ったザ・親分をサクッと切り捨てた。



さーて、今回のお宝は?


おや、今日は当たりだな。

かなり溜め込んでいる。

早速僕の秘密基地へ運ぼう。


綺麗に仕分けすると、サンタさん6人分。

僕は超能力で運べるから一回で運べるけどね。


山の山頂に隠してある秘密基地に向かう。

当然一瞬で到着する。


しかし、また音速を超えられなかったな。

まだまだ鍛錬が必要だ。


今日のお宝を宝物庫で椅子に座って超能力で仕分けしていく。


この時間が至福の時。


宙に舞うお宝を見るのは楽しい。

この宝物庫もかなりいっぱいになって来たな。


僕が堪能していると秘密基地の外が騒がしくなって来た。


こんな夜更けになんだろう?


一旦仕分けを中断して外へと見に行く。

どうやら国境の向こうが騒がしい。


僕は真っ直ぐ上空に上がって山を見下ろす。


夜の山が昼間以上明るく見える程の灯りが見える。


これは山狩だ。

それもかなり大掛かりな。


国境付近でこんな大規模な山狩は外交問題になりかねない。

それでもやっていると言う事は相当切羽詰まっている証拠だ。


一体何を狩っているんのだろう?


僕は興味半分で山を見渡す。


人間とエルフがいる。

エルフ狩りかと思ったけど、そういうわけでは無いみたい。


エルフも人間も狩る側にいる。

じゃあ一体……


ああ、あれだ。


僕はボロボロの布切れ一枚だけ纏ったエルフの少女を見つけた。


ろくに食事を取れて無さそうな異常に痩せた少女はスミレ色の髪を靡かせて、必死に逃げている。


後ろから数人の大人が追いかけていた。


大の大人が大人数で追いかける程の少女。

一体どれ程の悪事をしたらこうなるのか?


僕だって前世で山狩された事なんか数える程しかない。


少女は真っ直ぐ国境目指しているようだ。

国境さえ越えれば逃げ切れると思っているのか。


無理だろうね。

ここまでの山狩りをするほどだ。

少し越えた程度なら追いかけて来るだろう。


それにそのまま真っ直ぐ行けば僕の秘密基地にぶつかる。


僕の秘密基地は結界を張ってある。


魔力、超能力、霊力、気力の全てをコントロール出来なければ突破は難しい僕だけが通れる結界。

それに弾かれて狩られるな。


もし結界まで辿り着いたら……


あの追手達に結界の存在がバレるな。

そうなったら面倒だから殺してしまおう。


どんな理由があるとしても、幼気な少女を大人数で追い回す奴が善人な訳無いからいいだろう。


さあ頑張れ頑張れ。


だんだん追手との距離が縮まっていく。

狩られるのが先か?

結界に弾かれるのが先か?

結界まで来たら追手を道連れに出来るよ。


どっちも命掛けの追いかけっこだ。

レースは佳境を迎えております。


しまった。

ドリンクとおつまみでも持ってこれば良かった。


こんな見せ物なかなか無いよ。


あのエルフもよりにもよって僕の秘密基地に向かってくるとは運が悪い。


ついに追手達の剣が抜かれた。

結界はもう目の前。

さあどっちだ。


追手の1人が振り抜いた剣が少女の背中を無慈悲に切り裂く。

背中から血飛沫が上がる。


結果は……

狩られるのが先でした。


おめでとう。

死なずに済んだね。


あれはかなり深く入ったな。

確実に致命傷だ。


少女の体は勢いのまま僕の結界に近づいて来る。


おっ?これはまさかのセカンドチャンス到来。


どうなるどうなる?


はい、大当たり。

見事に結界に……あれ?


少女の体が結界をすり抜けて中で倒れる。


おかしいな?

結界の不具合か?


しかし、追手達は1人残らず弾かれた。

結界はきちんと作動している。


うーん……

とりあえずあいつらは結界の存在を知ったから殺すか。


僕は生成したナイフを投げて、追手達を1人残らず始末した。


さあ、エルフの死体を処分しに行こう。

僕の秘密基地で腐敗したら嫌だからね。


でも面白い見せ物だったからね。

あのエルフには立派な墓を作ってやろう。


僕は秘密基地に降りて切られたエルフの元へ向かう。


「うわー、めんどくさー」


倒れているエルフの背中には僕の見立て通り、深く切られていた。


布に染み込みきらなくなった血が床に血溜まりを作って、スミレ色の髪の毛先が浸かっている。


だけど、不思議な事にまだ生きている。

意識は無く、かなり浅いが息もしている。


凄い生命力だ。

だがもう手遅れだ。

もうどうしようも無い。

僕以外には。


でもどうしようかな?

ただ助けるのは僕の美学に反する。


『美学その8

他人に施しをしてはならない』


個々の能力には正当な対価が必要だ。

優れた能力には必ず何かのプロセスがあっての結果だから。


それを可哀想だとか、困ってるからだとか、くだらない理由で他者へ施せと言う人間は沢山いる。


自ら施す者は紛れもなく善人。


でも、それを他人に強要するのは傲慢以外の何者でもない。


僕は悪党だから施しはしない。

よって、この子を助けるのなら対価が必要だ。

この子にその対価が払えるとは思えない。


でもな〜

この子がここで死なれるのもな〜


僕のテリトリーで見殺しにしたとなると僕が命を奪うって事だろ?

もし善人だったら美学に反する。


いっそ死んでたら良かったのに。


……仕方ない。

とりあえず助けるか。

それで対価を払わないようだったら悪党だ。

心置き無く殺してしまおう。


僕が魔力と気力を駆使して幼女の傷を治療すると呼吸も安定してきた。

傷跡が残らない様にしっかり治療をした頃には穏やかな寝息を立てている。

この様子だとしばらく起きないだろう。


僕は宝物庫まで連れて行き魔力で寝巻きと布団を生成して着替えさせてから寝かせる。


もし起きた時の為に食糧の場所だけ書置きしておくか。

では今日は帰ろう。


明日来ていなかったら報酬を払わない悪党って事にしよう。


そうしたらエルフ狩りだ。

追いかけて殺すとしよう。

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