第12話 狙撃者は陸上自衛隊?(4)

 佐々木はパトカーの中で椅子に深く座りながら、警察無線を聴いて休んでいた。


 どうもまたおかしな事件だ。


 まず白煙もそうだが、そのあとの警護官を負傷させた武器がわからない。爆発物なのか銃弾なのか、それすらわからない。ただあのとき見えなかったが、警護官は重度の火傷もあって、いま搬送された総合病院で皮膚移植手術の準備もしているという。

 よくわからないその武器は警護官の展開したアタッシュケース型のケブラー・セラミック複合素材の防弾盾をなんと『貫通』しているという。

 最新のライフル弾ですら止められる防弾盾を貫いている。狙撃銃か? しかしホールの中は大臣が来る前に確認して銃どころかカッターナイフすらもちこめないようにしてあった。

 狙撃? もしそうするとしても撃てる射点はすべて事前に確認し、隠れそうな所には封印とGPSビーコンを設置して警戒していた。

 そして多くの聴衆が持って撮していたスマホの静止画と動画も調べているが、どれも白煙に巻かれて警護官被弾の瞬間はの詳細はほとんどわからないという。そのための白煙だったのか、と佐々木は唇をかむ。

 だが大臣は無事のようだ。それは救いだった。演説中の政治家に対するテロは民主主義国家日本そのものへの不遜な挑戦だ。絶対許すわけには行かない。


「佐々木さん」

 声が聞こえ、目を上げると、そこにあの鷺沢がいた。

「食べる? ジャムパンだけど」

 鷺沢が袋を見せる。

「こんなときに……だからキモイのよ」

 そう言うが、その佐々木のお腹が鳴った。

「頭を使うには糖分補給。脳には直にいかないとしても、血中ブドウ糖は神経活動を活発化してくれるし、脳内物資、ドーパミン報酬系やエンドルフィンに作用して脳をリラックスさせてくれるし、心理学的にも糖は多幸感をくれる。つらいときは甘くて温かいものに限るよ」

 そういって鷺沢は佐々木にホットの缶コーヒーとジャムパンを渡した。

「……ありがとう」

 佐々木は不承ながらもそれを受け取って口にした。

「しかしなー、あの警護官の盾をぶち抜くとしたら対物ライフルだよなあ。そんなもん撃つにはしっかりとした射点確保しなきゃ行けないし、それはうちの建物の中にはないよなあ。建物の外から特殊ガラスごとぶち抜いたわけでもないし。それでも建物の障害物を避けて精密に狙撃するとしたら……あとは戦車の戦車砲同軸機銃かなあ。あれならスタビライザもきいてるし。でもこんなとこの近くに戦車がいたらそりゃ先に大騒ぎになってるよね」

「なに私の警察無線勝手に聞いてるのよ! しかも戦車、って! 何めちゃくちゃな!」

「ジャムパン終わったらプリンもあるよ」

「ええっ」

「女の子に甘味は大事」

「なによ!」

 そのときだった。

「佐々木、大丈夫か」

 先輩刑事の声がインカムで聞こえる。

「はい佐々木」

「まいったな、これ」

「どうしたんです?」

「容疑者が自首してきたよ」

 それを聞いて、佐々木と鷺沢は声を揃えてしまった。

「ええええっ!!」

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