第7話 目撃者はイージス艦?(7)

「その身分証持った海自の人の身元、まだしっかり調べてないですよね」

「……そうです」

「これ、推理としてはまだ全然ガタガタですよね。事件のフーダニット(誰が)、ハウダニット(どうやって)、ホワイダニット(なぜ)の推理三分類のうち、ハウダニット、殺害方法については調べたけど、動機も誰がやったかもまるで調べられてない。そりゃ本部がせき止めて全然調べさせなかったから仕方がないんだけども」

「あ」

「そう。ここから、君たち刑事の腕の見せ所だよ」



「と言うわけなんですよ」

 県警庁舎の休憩室で佐々木は同僚たちに説明した。庁舎には立派な会議室もあるのだが、佐々木たちはそれをこういうときには使わない。

「その鷺沢ってほんと、変なやつだなあ」

「私も同感です」

 同僚刑事たちも頷く。

「でも、本部は俺たちを信頼してない。それなら、俺たちも本部を信頼する謂れはない。こっそりその自衛隊員の周りを洗ってみる。いったい何が出てくるかわからんけど」

「ビビってる?」

「もちろん、そりゃそうさ。でも」

 先輩刑事はニヤリと笑った。

「敵が大きいほど、俺、燃えちゃうんだよね」



「国際スパイ事案の可能性、各方面とあたってます」

「北朝鮮、中国。周りにやばい国はいくらでもあるからな」

「あと個人的な金の流れも」

「借金で抱き込まれるパターンも多いもんな」

「あとは自衛隊内での人間トラブルの可能性も」

「自衛隊さんは自分たちの中に警務隊がある。それで調べて外にできるだけ出さずに済ませようとするだろう。とはいえ直接的には調べられないとしても、人1人死んでるんだ。誤魔化されてたまるか」

「しかし」

 先輩刑事が吐いた。

「どうして毎回こういう『第二捜査本部』作る羽目になるんだろうな。我が県警は」

「それがうちの病理の一つかもしれません」



 佐々木は県警本部の剣道場に剣道着になって座って、集中力を高めていた。竹刀を交える相手はいないが、こうしている時が一番落ち着くのだ。

 鷺沢のこと、捜査に当たっている先輩刑事のことを考えて、それをまた無心になってかき消す。

 そして竹刀を独り構えて、すっと素振りをした。

 その時、期待した通り、彼女の脳裏に『それ』が降りてきた。

 そうだ。そうなんだ。


 やっぱりそうだった。

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