第6話 目撃者はイージス艦?(6)
「自衛隊の人だったのか。自衛隊の身分証は紛失が許されない。だから隊員の多くはチェーンで体とつなげることが多い。もしなくして海に落とした可能性が出たら捜索のために自衛隊のダイバーが出動するぐらい」
鷺沢がそう言いながらカルピスウォーターを飲んでいる。
「でもこうなると、一気にきな臭くなっちいますね」
「国際的・政治的な動機も出てくる。スパイ絡みとか」
「だから捜査本部の中でも秘密にしてたんでしょう。一つ納得したけど、その代わりに一気に難しくなった」
「しかも遺留品のプラスチックの破片。神奈川県警の鑑識はしっかり仕事してるよ。ドローンのローターの破片だと断定している」
「てことは、ドローンで爆発物を運んで爆殺?」
「いや、もしかすると自爆ドローンかもしれない。コマンドを受けたら、そのコマンドに従って自律飛行し、ターゲットに突入して自爆攻撃するタイプ」
「そんな。今戦争してるウクライナじゃない。ここは日本ですよ」
佐々木はまたあきれる。
「公式には日本のドローン規制は厳しいですからね。ありえないと思う。それでも暴力団の事務所でサブマシンガンや対戦車ロケット砲が押収されたこともある。非公式に密輸するルートは全くなくせはしないってことだろう」
「でも、自爆ドローンが突入するなら何で防犯カメラにその兆候が全くないのか」
「さあ。でも今の技術なら、ドローン一つならいないように動画を加工することは難しくないだろう。AI使って実在の人があり得ない話してるように偽装する技術のある時代だもの」
「ディープフェイク、ですね」
「多分、収集した防犯カメラの動画、県警のデータベースに集めたところで、一気に都合の悪いドローンの襲撃シーンを上書きしちゃったんだと思う。本物無加工の動画はどこかに隠してあるだろうけど」
「それがどこにあるかは見当もつきませんね。物証と紐づいてるデータならまだ糸口はあるのに」
「あとは防犯カメラ以外にここら辺を監視してるものを証拠にするしかない」
「気象庁のお天気カメラとか、ウェブ用のライブカメラなんかはどうだろう」
「君たち現場の人間がそれを見落とす?」
「あ」
「優秀な君たちだもの。それはもう当たってて、そして収集されたそれはもう隠蔽作業受けてるだろうね」
「なんてこと……」
「ただ。……あそこは横須賀ですよね」
「ええ」
「一つ、警察が簡単には照会し隠蔽できない目撃者、と言うか監視者がいることはいる」
「何ですか、それ」
「普段はこんな街中ではなく、外洋にいて、大気圏外から落ちてくる弾道弾や海面スレスレを這ってくる巡航ミサイルを監視してる監視者」
「……イージス艦!?」
「そう。調べるとこの日、入港してたのは逸見岸壁に『くまの』A桟橋に『むらさめ』B桟橋に『まや』『ときわ』警備隊地区に『YDT-03』と『はしだて』。そのうち『まや』がイージス艦」
「でもイージス艦が入港中にレーダーなんか使ってるんですか?」
「使うわけないです。あの艦橋についてる特徴的な六角形のSPYレーダー、電子レンジ並みにものすごく電波が強力だから、使ってる時は危ないから甲板に人が出ちゃダメってなってたりする。そんなもんこの街が迫る横須賀の港内で使えばとんでもない惨事になっちゃいます」
「じゃあ、なんでイージス艦が」
「イージス艦には自分からレーダー波を出すアクティブセンサー以外のセンサーがどっさりある。敵の出してるレーダー波を傍受して分析する電子戦装置ってのがその筆頭。レーダーは電波を出してる側よりも傍受する方が遠くから察知できる。パッシブセンサー、逆探知装置。この「まや」にはNOLQ-2Cがついてる。日本電気が開発担当してる逆探知装置の国産品」
「それでドローンって探知できるんですか」
「ウクライナの戦争でロシアのでかい巡洋艦が沈められたけど、あれはドローンとミサイルをうまく組み合わせた攻撃の結果だって話があった」
「それは沖合でのことでは」
「それが最近は入港中の艦艇が予想外の攻撃をされるパターンが出てきてる。2000年にイエメンで小舟が入港中の米駆逐艦『コール』に自爆攻撃した。駆逐艦は予想外に深傷を負って、そういう攻撃がバカにできないことが認知された」
「じゃあ今はイージス艦や空母なんて」
「そんなわけない。ちゃんと防御できるようにイージス艦や空母には小型艇やドローンの接近攻撃に対応する機銃の増設と、その運用訓練がそのあと常識になった。それだけのこと。ちゃんと対策してる。もちろんそれらの接近を察知するように逆探知装置も工夫されてるだろうね。公式には言われてないけど、当然されてると思う」
「ドローンのなんらかの兆候は護衛艦『まや』も察知してたのかな」
「ただしそれを海上自衛隊に照会するのはすごく難しいだろうね。そういう機械の性能を明らかにするってのは弱点を明らかにするのと同じだから」
「ですよね……。ここで行き止まりか……」
佐々木はふーっと息を吐いた。
「でもね。そうとも限らない」
「えっ」
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