【25】孕ませエイリアン!-BADEND-

「あ、起きた」

「ホント?」

「長かったですね……」

「テメーの甘毒がキツすぎるんだよ」

「脳みそ壊してないだけ感謝してほしいけどね」

 アハハ、と笑う声。聞き覚えがあるけど、脳が理解を拒否している。

 人が立っている。ひとり、ふたり、さんにん。もっといる気がするけど、目がかすんでよく見えない。

「結局ここに落ち着くんなら、最初から協力してればよかったな」

「こっちは不本意なんだよ。お前の邪魔が入らなけりゃうまくいってたんだ」

「ごめんねえ」

「思ってもないことを」

「本当にうるさいな。程度が知れる……」

 聞き覚えのある声だけじゃない。男の声や……知らない声も混ざっている。

 目の前の影が立ち上がる。それがうしろを向いて……軽やかだった空気がしんとなる。

「始めるぞ」

 凜とした声。影がいくつか遠ざかる。立ち上がった影はもう一度かがみ、徐々に大きくなっていく。おれに近づいてくる。

「朝希……朝希。起きて。見える……?」

 そこにいるのは涼子だった。緩くウェーブのかかった黒髪。優しい顔つき。少し垂れた目。おれの好きな子。

「りょ……こ……」

 おずおずと手を伸ばすと、涼子はそっと握ってくれる。それをぎゅっと胸に抱き、こちらに身を寄せてくる。

 涼子だ。でも、いつもと違うにおいがする。

 コツ、とこめかみに額がぶつかる。耳元で声が優しくささやきかける。

「そうだよ、アキちゃん……もう大丈夫。なんにもしなくていい。なんにも考えなくていいから……」

「所有権は我らがギヤシニーに。対価としてそちらの船に技術提供……全面的に協力を約束します。そして用済みになったこの土地は“星喰い”に」

「いい落とし所だね。パートナーにきみを選んでよかった」

「私がマヌラスを保護していたこと……残りのみなさまに高く評価していただけると嬉しいですね。一応お知らせしておきますと、私のパートナーからは満足するだけの報酬をいただいておりますよ」

「私お金ないんですけど」

「あなたに関しては後払いか……私に手を出さないと約束してくれるだけで充分ですよ」

「俺たちは?」

「キャッシュでください」

 いつしかおれは泣いている。なぜかははっきりしない。だけど、とても悲しい。

 おれの隣にいる涼子は、空いた手で反対側の耳を塞いでくれる。彼女はあやすように体を揺らす。赤ん坊にするみたいに。そうして意識を、別のところへ逸らしてくれる。

「聞かなくてもいい。私のことだけ見てたらいい……」

 ぬくもりにまどろみかけたとき、目の前に影がふたつ立つ。「そういうわけにはいかないですよ」と片方の影が呟く。もう一方の影は膝を折り、おれの顔をのぞき込む。

「そうだよ。ちゃんとこっちも見てもらわないと」

 そこまで近づかれても、おれにはそれが誰だかわからない。

「よろしくね、オトーサン♡」

 腕が伸びてくる。それまでは涼子だけだったのに。何本もの手に触られて、ただでさえあやふやだった輪郭が、ますますわからなくなっていく。

 溶ける。溶けてしまう。おれがおれでいられなくなる。

「……やっぱり、私が一番優しかっただろ」

 耳元で涼子が呟いて、胸の底がぎゅっと痛んだ。




 ▽ちきゅう は めつぼう して しまった!

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どきどき♡孕ませエイリアン!-BADEND- 5z/mez @5zmezchan

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