→応じる【XX】まどろみのなかで

 体の芯が熱を持っていた。でも体表は冷たい。風を感じている。

 思考が溶けているのがわかる。あれからのことが全部ぐちゃぐちゃだ。

 考えないといけないことがあった気がする。守らなきゃいけない約束も。

「あ……はぁ……」

 だけど腰に溜まる熱が、正常な思考を溶かしていく。

「朝希くん……」

 未宇の声がする。その声は幸せそうで……おれの心もあたたかくなる。

「気持ちいいですか……?」

 反射のように頷くと、未宇は頬を真っ赤にして嬉しそうに笑う。おれの鼻や、口の端にキスをして、頬をすりつける。その仕草が可愛くて、愛おしい。どうしてもっとはやく、思い通りにさせてやらなかったんだろう。

 ずっと機械音が聞こえる。聞き覚えのある音だ。だけどよくわからない。記憶を探ろうとしても、未宇がそれを許してくれない。

 未宇の顔を追うと、唇にキスがもらえる。一回、二回、ついばむようにして、それから尖った舌が唇の合わせ目を撫でる。口を開けると控えめに侵入し、おれのそれに絡む。

 互いに舌を擦り合わせるのが未宇は好きだ。少しすりすりと撫でるだけで、つながったところがきゅんとする。それでおれはもっとほしくなる。根元までがっついてしまう。

 おれが何をしても未宇は応えてくれる。鼻にかかる声は苦しそうだ。でも目尻は満足げに緩んでいる。

 ぞくぞくする。

 キスをしているだけで……それ以外どこも触れてなくても、未宇の中はぎゅんぎゅんうねる。おれが好きだって、体中で言っている。

 おれもうれしい。きもちいい。

 なんてバカだったんだろう。どんなに考えたって、頑張ったって。これより好いものなんてない。今では、迷いなくそう思える。

「朝希くん」

 未宇がおずおずと鼻先を触れあわせる。指を絡ませ、おれの手をぎゅっと握る。

「もっと触ってほしいです。いっぱい……」

 そう言って、ねだるように口づける。また舌をすりあわせて、おれは未宇の腰を掴む。

 軽く表面に手を這わすだけで、彼女は震える。身をよじらせ……たまらないとばかりにおれのものを吸い上げる。未宇はすごい。気を抜くと全部持っていかれる。

 腹に力を入れて我慢する。おれがわかるぶん、未宇もわかるから……おれがそういうことをすると、未宇は腰を前後に揺らす。耐えているときにそういうことをされると、おれは声が出てしまう。そうすると、未宇の動きはもっと激しくなる。

「いっぱい声が聞きたいです。ね、出して……中に……」

「気持ちいいですか? わたしも気持ちいい……朝希くんの声、好きです……わたしで気持ちよくなってくれてるって、わかるから……」

「ね、いきましょ、一緒に、一緒に……どこにも行かないで、ここにいて……!」

「だいすき……朝希くん……だいすき……」

 虚脱感に包まれても、まだもぐもぐと食まれている。抜く気はないみたいで、ずっと未宇はおれの上にいる。一度終わればしばらくはじっとしている。おれの体の上で、しがみつくみたいにして抱きついている。でもいつしか、またキスが始まって。おれのも固くなってきて、同じことを繰り返す。

 すごい。

 こんなに続くものだろうか。飽きもせずにやっている。続けば続くほど、思考は形のないものになる。おれの体と同じくらいに、ぐずぐずに溶けていく。

「未宇……」

 未宇しか見えない。背後の知らない景色とか、たまにする知らない声とか。あるな、と感じるけど……それだけだ。気づくのだって未宇がいなくなるときだけだ。すぐに戻ってきてくれるから、何も感じないのと一緒だ。

 ときどき未宇は自分のお腹をさする。それを見ても、もう不気味とは感じない。腰の辺りが重くなる。もっとたくさん……この行為を……続けていたいと思う。

 未宇が望む未来をあげたい。腹が膨れて……へこんでも……何度だって繰り返す。重い腰を振ってほしい。幸せな顔をする……そんな未宇が見える。

 快楽の萌芽にずっと口づけられている。ふわふわと包む濡れた筒。切ない声に奥が締まる。魂が搾り取られる。

 夢を見ているみたいだ。

 口からは喘ぎと、未宇の名前しか出てこない。ずっとひとつになって、揺れ動いている。寝ているのか、起きているのかもはっきりしない。わかるのはおれたちがずっと、つながってるってことだけ。

「好きです、朝希くん」

 与えられ続ける愛。快楽。その代わりに失っていく何か。

「おれもすき」

 そう言うと、未宇は泣きそうな顔をする。あんなにいっぱい『好き』をくれるのに、おれが返すと悲しそうにするのだ。だけどそれをごまかすように、たくさん腰を振ってくれる。

 すきだ。だいすきだ。

 ずっとこうしていたい。昂揚して、果てて……キスして、射精して。きもちいいことをしていたい。一緒に、この場所で。

 このまどろみのなかで。

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