レジイナはその翌日、日本に向かった。

 翔に大翔へ行くと伝えるよう願い、首輪を置いてブリッドの制止を無視して出発した。

 レジイナはハングライダーに乗って日本にたどり着くとすぐに大翔の元へ向かった。大翔はレジイナが何しに来たのか分かっていたのか、何冊かのアルバムを用意して待っていた。

「久しぶりじゃな、しゅんり。また大きくなったのう」

「久しぶり、大翔じいちゃん。身の話をしてる暇はないの分かってるんでしょ? どうせ奴から連絡あった様子だし」

 レジイナは積み上げられたアルバムを横目に見つつ、ジョニーから貰った銃を大翔に見せた。

「これに見覚えあるでしょ」

「ああ、あるとも」

「こいつのこと教えて」

「いいさ、教えてあげよう。サイトウはここの生まれでワシの弟子じゃ」

 大翔の言葉にレジイナは唇を噛んだ。

「なにそれ、じゃあ全部分かっててあいつらのしてること見て見ぬふりしてたってこと?」

「まあ、そうなるのお」

 大翔の言葉にレジイナは怒りで顔を真っ赤にした。今すぐにでもその首を掻っ切ってやりたい気持ちを抑えてレジイナは大翔に質問を続けた。

「どういう意図であいつはこんな戦争を起こしてるの?」

「それはサイトウから聞いただろう」

「……質問を変える。どうしてあんな事をするの?」

 大翔の言葉に苛つきながらも質問し直したレジイナに大翔は目を閉じて、昔の事を思い出しながら話し始めた。

「ここ日本はな、しゅんりのように逃げてきた異能者の避難所としても機能しておる。サイトウはそんな異能者とこの日本にいる娘とできた子供じゃった。ここ日本では異能者と人間を差別する風習なく、お互い協力して生きておるが、外は違うじゃろ? サイトウはその環境に悲しみ、日本同様にお互い平等に生き合う世の中を作りたいと思って、結果あの仕事をしておる。お前と同じじゃよ、しゅんり。いや、"レジイナ・セルッティ"じゃったか?」

 レジイナはわざわざ名前を言い直した大翔に舌打ちをした。

「どこが。実際あいつらのせいで一体どれくらいの異能者が殺し合って、死んできたと思うの。それにエアオールベルングズなんてもんに入ってやがる」

「それはあいつも分かっておるし、苦渋の選択の中で選んだ結果、組織に入ったんじゃ。そうじゃのう、ここに二隻の船があるとしよう」

 大翔は近くにあったアルバム二つを横に並べてレジイナに見せた。

「もう片方は一人の船員しか乗っていない。しかし、こちらには百人もの船員と乗客が乗っている。どちらしか助けられない状況ならどちらを助ける? どっちもなんて選択などないぞ」

 大翔の話にレジイナは顔を顰めた。

 そんなの百人の船に決まっている。しかし、そんな事を軽々しく言えるわけない。

「この世はなんでも綺麗事では済まされない事が多い。それはアサランド国にいたお前なら分かるはずだ。アサランド国には四大国に居ることが出来ずに流れた者や、能力を使って悪さする者が多い。異能者の逃げ場として必要であったため作られた国じゃが、今のこの状況ではただの邪魔でしかない」

 大翔は船員が一人しかいない例えた船のアルバムを軽く叩いた。

「これには消えてもらうしかないのだ」

「それしかないの……?」

 レジイナは拳を握り締めて顔を伏せた。

 本当にそれしかないのか。他には方法はないか考えるが、今のレジイナには見当が付かなかった。

「さあな。ワシには分からんが、エアオールベルングズの創設者の娘であるレジイナ・セルッティなら導き出せるかもしれん」

「へ?」

 思っても見なかった言葉にレジイナは伏せていた顔を上げた。

「お前はサイトウに命を助けてもらったんじゃろう? 次はお前がサイトウを助ける番じゃないのか?」

 大翔の言葉にレジイナは息を呑んだ。

 私がジョニーを助ける番だと? 

 そんな事が出来るのだろうか。

「まずはあいつを知りなさい。そしてお前が本当にしたいことはなんなのか見つめ直すことじゃな」

 そう言って大翔はレジイナにアルバムを渡して部屋を退室したのだった。

 レジイナは大翔の言葉を脳内で繰り返しながらアルバムを開いていった。そこには若かりし頃の大翔とまだ幼いジョニーが写っていた。

 ただただ、笑顔でここに暮らしていただけのジョニー。どうしてあそこまで非道な決断ができるのかまだ分からないでいたが、レジイナはジョニーの事を知ろうと何度も何度もアルバムに目を通すのだった。

 

 

 

 レジイナはその後タレンティポリスを退職し、ジョニー・サイトウ大統領のボディガードとして一緒に行動することになった。

 最初は補佐か秘書として雇うとしていたが、あまりにもレジイナに学がないことを知ったジョニーはまずはボディガードとして雇い、少しずつ勉強させることにしたのだった。

 そう決定されて不服そうな顔をしながらジョニーが用意したグレーのパンツスーツとフリルが施されたシャツを着たレジイナは国会議事堂から出たジョニーの後ろを歩き、用意された車へと向かっていた。

「どうぞ」

 頸までの長さがあるグレーの髪をワックスで綺麗に後ろに流し、黒のスーツをパリッと着こなした運転手の男は車から降りて後部車席を開けた。

「どうも」

「待て」

 しかし、男はなぜかジョニーが車に入ろうとするのを止めて男にしては大きい綺麗な二重の目でレジイナを見て手を差し出してきた。

「どうぞ」

 再び車へと誘導した男をレジイナはマジマジと見てから、自身の手のひらの上に拳をポンッと置いた。

「ああ、ボディガードが先に入らないといけないってこと?」

 そんなルールがあるのかと疑問に思いながらレジイナは運転手の言う通りにジョニーより先に車に乗ろうと頭を下げた。

 その時、チラッと運転手の男の顔を見てレジイナジイナは「ふうん。イケメンじゃん」と、少し頬を赤らめた。

 運転手は後部座席の入り口の上部を手で押さえて頭をぶつけないようにとレジイナに配慮した。そんな紳士的な行動をする運転手にレジイナが気分を良くした時、「レジイナお嬢様、頭元お気をつけください」と、運転手が声をかけてきた。

 レジイナお嬢様だと?

 レジイナは目を見開き、自分より上にある顔をマジマジと見た。

「てめえ、アドルフかっ!」

 レジイナは牙を狼に獣化し、目の前にあるアドルフの首に噛みつこうとした。しかし、一瞬にして獣化したレジイナより速くジョニーが動いてその顔を地面に叩きつけ、レジイナの攻撃を防いだ。

「ふう、しゅんり。ここは議事堂の前だ。大人しくしなさい」

「んだと、この下衆野郎共っ……!」

 歯を食いしばり、痛みに耐えるレジイナを掴むジョニーの腕を次はアドルフが掴んでギシギシと骨が軋むほどの強さで握った。

「ジョニー。レジイナお嬢様から手を離せ、この腐れ外道」

 自身を殺そうとしたレジイナから守ったジョニーに殺気を放つというおかしな構造の中、レジイナが学がないおかげでクビにならなかった秘書であるワルバルト・ビビートは「何の騒ぎですか⁉︎」と、こちらに駆け寄ってきた。

「アドルフ殿! 大統領になんて無礼をしてるんですか、離しなさい!」

「いんや、レジイナお嬢様から手を離すのが先だ」

 今にも殺さんばかりの殺気を放つアドルフにジョニーは溜め息を吐いてからレジイナの頭から手を離した。

「おかしいと思わないのか? 私は君を殺そうとした彼女から助けたんだよ?」

「俺はレジイナお嬢様が望むならいつでも死んでもいいぜ」

「それは困る。君と私の志しは一緒のはず。まだ死ねないはずだが?」

 レジイナは二人の会話に理解出来ずにハテナマークを頭上で浮かせながら、騒ぐ四人の周りに集まってきたギャラリーを見て、「やり過ぎたか」と、反省していた。

「とりあえず早く車に乗ることにしよう」

 ジョニーは周りに集まってきたギャラリーに向かってにこやかに笑ってから手を振り、レジイナを乱暴に車の後部車席にねじ入れ、その後に自身も車に乗り込んだ。

「ジョニー、覚えておけよ……」

 ボソッと怒気を含んでそう言いながらアドルフは運転席に座り、助手席にはワルバルトが乗った。

 ジョニーが暴れるレジイナにシートベルトを無理矢理につけたのを見届けてからアドルフは車を発進させた。

「ちくしょうがっ! んだよ、アドルフも使ってそんなに私をどうしたいんだよっ!」

 敵であるエアオールベルングズの幹部であるアドルフ、そしてこの国を統治する大統領であるジョニー二人で囲まれ、レジイナは混乱していた。

「使うなんて人聞きの悪い。彼の希望でウィンドリン国に来たんだよ? 本当は今まで通りアサランド国を統治して欲しかったんだけどね」

 ジョニーは口を尖らせてバックミラー越しにアドルフを睨んだ。

「てめえみたいなヨボヨボにレジイナお嬢様を任せられるか」

「ヨボヨボとは酷い。これでも私はまだ六十代なんだよ?」

 やれやれと両手を上げるジョニーにレジイナは二人を睨みつけた。

 一体、どういう関係性なんだ……。

 そう探るようなレジイナの視線に気付いたのか、ワルバルトはゴホンとわざとらしく咳をして隣で運転するアドルフを見た。

「んだよ、秘書さん。説明した方がいいって顔すんなよ」

「説明した方がいいと思ってしたんです。この教養のない娘がまた暴れる前に説明してあげて下さい」

 ワルバルトは顔を振り返って次にレジイナを睨んできた。

「ああん? 殴られたいのか?」

 シートベルトを外そうとしたレジイナを今度はポンッという効果音を出して出てきたトゲトゲが止めた。

「ご主人様、今はハナシを聞くべきダゼ。アドルフとこのジジイ二人相手にカテないダロ?」

「うっ」

 トゲトゲの正論にレジイナは苦虫を噛んだような顔をし、それを見たジョニーは声高々に笑った。

「んー、やはり君は優秀すぎる小人だな。欲しくなる」

「ケッ。オレ様はムリヤリにする奴はもう懲り懲りダゼ」

 ジョニーの誘いを断り、トゲトゲはレジイナの肩に乗って頬擦りをした。

「レジイナお嬢様への無礼は後でこのアドルフが償わせますので今はお我慢を。では、説明致しましょう」

 そう前置きをしてからアドルフは話し始めた——。

 レジイナの父親であるサミュエル・セルッティはエアオールベルングズの創設者であり、表立ってなかったがアサランド国を統治する人物だった。

 もともとアサランド国というのは人間より出生率の低い異能者の為に作られた国であり、四大国がいいように利用して放置されていた土地であった。

 それをサミュエル・セルッティは天性の強さを持って統治し、少しずつ国としての機能をもたらせていた。

 しかし、異能者の避難場所としても機能させ、かつ四大国との利害の一致を継続させるためにサミュエル・セルッティはあえて大統領として就任するわけではなく、エアオールベルングズという組織をわざわざ創設し、当初はアサランド国にいる異能者が四大国に被害を出さないようまとめていた。

「セルッティ旦那様は異能を完璧に七つ使いこなして強かった。あのお方に敵う方など、もう今後出てくることはないでしょう」

「……そんな強い奴がなんで死んだの」

 眉を寄せて自身の父の死因を聞くレジイナにアドルフは悲しそうな顔をした後、「順を追って説明しましょう」と、言ってから話を続けた。

 サミュエル・セルッティは二十歳という若さでエアオールベルングズを創設してから二十年後、四十歳の時に妻のエラとの間に娘であるレジイナが誕生した。

 アサランド国が国として機能し、ブルース市のような繁栄した街もできてエアオールベルングズが順調に成長してきたその時、組織内である者が裏切りを行った。

 それは五年の年月もかけて入念に計画され、レジイナが五歳の誕生日の日に事件は起こった。

 裏切り者である男は同じ信念を持った者達と一緒にサミュエル・セルッティとエラをレジイナの目の前で殺したのだ。

「待って。サミュエル・セルッティは強かったんでしょ? なんで殺されたのよ」

「流石のセルッティ旦那様でも千人もの敵には勝てませんでした。それに貴女様を盾にしたんです」

 レジイナはハッと、潮笑った。

「なにそれ……」

 ジョニーに拾われた日を"しゅんり"の戸籍上、誕生日と過程して今まで生きてきたがそれは本当の誕生日と同じであり、かつ両親の命日だと知ったレジイナは歯を食いしばって、溢れそうになる涙をなんとか堪えた。

 そんなレジイナを見て口を閉ざすアドルフの代わりにジョニーが説明を続けた。

「裏切り者は四大国の要求を飲み、アサランド国を秩序ある国として機能することを反対していた半端者だった。今のエアオールベルングズの大半は奴らと同じ考えている者が多い」

 説明し始めたジョニーに目を移したレジイナはポロッと涙を流した。

「それを始末させるためにタレンティポリスが動いていたの……?」

「……概ねそうだね。サミュエルは裏切り者の存在が出てくることなど創設当初から予想してたんだ。そのため四大国のタレンティポリスと既に協力関係にあったんだよ」

「そして、タレンティポリスは父親の裏切った奴らを殺してたってことか……」

 レジイナは自身が知らずのうちに両親の仇をとっていたのかと知ったその時、車は止まって官邸についた。

「着いたな」

「ええ、着きましたね。部屋に行きましょう。紅茶でも淹れさせます」

 話の途中で着いたことにアドルフがそう呟くと、ワルバルトが気を利いたことを言ってきた。

「ほお、珍しい。いつもは仕事しろとうるさいのに」

「それは貴方がいつもサボるからでしょうに。まあ、それよりこの娘が自身の立ち位置を理解する方が優先順位が高いと判断したまでです」

 先程から失礼なことばかり言ってくるワルバルトをレジイナは指を差し、「ねえ、こいつさっさと解雇してよ」と、ジョニーに話しかけた。

「うーん、しゅんりが言うなら解雇しちゃう?」

 レジイナのお願いなら聞こうかと言わんばかりのジョニーの返事にワルバルトが「そんなバカな話がありますかっ!」と、騒ぐ中、アドルフはこれから毎日こんなどんちゃん騒ぎになるのかと、ハンドルに顎を乗せて溜め息を吐いたのだった。

 その後、急須係が淹れた紅茶とクッキーを嗜みながらレジイナはアドルフから先程の話の続きを聞いた。

 当時十七歳であったアドルフはサミュエル・セルッティが命をかけて守ったレジイナとサミュエルと妻のエラが持つアンティーク調の黒色と白色の拳銃二丁を託された。

「頼む、レジイナを、レジイナだけは……」

「ああ、命に変えても守ります! このアドルフにお任せくださいっ!」

 しかし、その齢からしたら驚異的な強さを持つアドルフであってもこの大人数からレジイナを守ることは困難を要した。

 そんな時、レジイナの誕生日にわざわざウィンドリン国から来ていたジョニーとジョニーの後輩である男はアドルフにある提案をした。

「一体、ウィンドリン国に逃そう。新しい戸籍も居場所も私が作る」

「……それしかないのかっ!」

 尊敬し、かつ命の恩人で師でもあるサミュエル・セルッティの娘を手放すことをアドルフは本当はしたくなかった。

 自分の手で安らかに育てていきたい。

 でも、でも……!

 アドルフは苦渋の選択の上、ジョニーとその男にレジイナと拳銃二丁を預けて二人が逃げるのを手助けをしたのだった。

「二人は私の命の恩人だったのね……」

 口の周りにクッキーの屑をつけたレジイナはそう言いながら悲しそうな顔をした。

「もう、口周りを拭きなさい。そんな顔してては雰囲気ぶち壊しですよ」

 ワルバルトはそう言ってハンカチでレジイナの口周りを拭いてやった。

「ん」

 レジイナは抵抗することなくワルバルトの好意に甘えてから地面に座って頭を下げ、土下座をした。

「レジイナお嬢様! そんな、汚い所に頭をつけないでください!」

「そうだ、しゅんり。君はいずれかどちらかの国で上に立つものだ。そんな軽々しく土下座なんてするものではない。たく、大翔さんはなんてものを教えたんだ?」

 日本特有の土下座を大翔に仕込まれたのかと思ったジョニーは溜め息を吐いてからレジイナの腕を引いてソファに座らせた。

「オイ、なんでジジイはそんなにサミなんとかにカタヲ持ち、エアオールベルングズになったんだよ」

 レジイナと同じく話を聞いていたトゲトゲは疑問に思って二人に質問した。

「私達セブンタレンティズがエアオールベルングズになったのはお互いの利害が一致しているからだね。四大国に被害をもたらす輩を排除したいのは同じだし、我らセブンタレンティズは皆サミュエルに借りがある。それに私はもともとタレンティポリスでね。アサランド国でザルベーグ国との戦争中、サミュエルに助けられたんだ」

 アサランド国は異能者の逃げ場であり、治安が悪い。よく他国同士の戦争の戦場に使われることが多く、サミュエル・セルッティはその戦争からよく民間人を守っていた。

「それから私はサミュエルには恩を感じてね。彼の目指すものも理解し、ウィンドリン国に戻ってからは彼の協力をよくする仲となったんだ」

「ふうん。父さんと仲間だったってこと?」

「仲間……。うーん、しっくりこないな。そうだな、友達とも言おう」

「セルッティ旦那様と友達なんておこがましいことを言うなよ、ジョニー」

 そう言って睨んでくるアドルフにジョニーはハハッと笑った。

「君は相変わらず生意気な子供だね。アドルフ君は昔からサミュエルと仲良くする者がいたら嫉妬丸出して噛みついてきたんだ。可愛いだろ?」

「可愛いっつーか……」

 イケメンだよね。

 程よく筋肉がついて堅いがよく、目も大きくしていて顔立ちが整っている。

 以前の汚らしい格好から想像できないぐらい格好良かった。

「そんなにアドルフ君を見つめて、惚れてしまったかい?」

「バッ……! んなわけない!」

 頬を軽く染めて否定するレジイナにアドルフは少し残念に思いながら、「レジイナお嬢様にはれっきとした彼氏がいます。おちょくんなこのジジイ」と、擁護した。

「あー、彼氏かー。うん、そだねー」

 ブリッドのことを思い出してレジイナは頬杖えをついて溜め息をついた。ブリッドのことはレジイナだって好きだが、正直重いなと思っていた。

 なにかと今からどこにいくやら、誰と会っていたなどとしつこく聞いてきて束縛の強いブリッドを思い出してレジイナはお腹いっぱいだと感じていた。

「私は正直、あのブリッド・オーリンという男よりアドルフ君か、カルなんとかという男の方がいいなって思ってるんだが」

「……カルなんとかじゃなくてカルビィンね。いきなりカルビィンの名前出てきてビビるわ」

 思い人の一人であるカルビィンの名前が出てきてレジイナは肩をビクッと震わせた。

「俺とレジイナお嬢様なんて恐れ多いっ! それにあのブリッドという奴は優秀なのでは?」

「まあ、優秀は優秀。ただ、すっげー重い」

 てか、なんで私の話になってんだ。

 話をもとにもどしてよ、と心の中で思いながらレジイナはトゲトゲに目を移した。

「オレ様もカルビィン派だ」

「お前っちゅう奴は! 話をもとに戻さんか!」

 相変わらず自身の言うことを聞かない小人のトゲトゲの両頬を摘むレジイナを見てワルバルトはパンパンと手を叩いた。

「はい、一旦この話は終わって各々仕事に戻りましょう」

「ええ! まだ話は終わってないっ!」

「細かいことは後日でいいでしょう? ほら、大統領は仕事に戻って貴女は表に出てボディガードとして立ちなさい。アドルフ殿は車の整備に行くこと」

 ワルバルトの的確な指示にレジイナとアドルフは渋々動き出し、ジョニーはワルバルトがヒステリックを起こす前に素直に仕事をしようとすぐ様に机に着くのだった。

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