番外編 三十路の誕生日プレゼント
警察署近くにあるそのバーにはクラシックの音楽が流れて照明は程良く暗くされ、観葉植物やピアノなども置いてあり、とてもシックな雰囲気が漂っていた。
そのバーにはブリッドという青年が最近頻繁に来店しており、今はブツブツと何か喋りながらカウンターに顔を伏せていた。また、ブリッドから三席離れて座るタカラからはとても悲壮的な雰囲気が漂っており、マスターは困ったわねと、思いながら鼻ピアスを弄りった。
「ブリッドちゃん。お経みたいに呟くのやめてくれる? タカラちゃんもお酒はもっと楽しく飲んで欲しいわ」
堅いの良くてワイルドな見た目であるマスターはその容姿に似合わないオネエ口調で喋りながら二人を諭した。
すると、ブリッドは顔をゆっくりと上げて大きな溜め息を吐いてからおかわりと言って空になった酒をマスターに差し出した。
「ねえ、今日はどうしたの?」
マスターはどうせ好きだった女の子とやっと最近、同居できたのに自分から性行為をしないと宣言したのにも関わらず、悶々として辛いのだろうと察していた。
「……我慢の限界がきそうなんだ」
そう言って顔を両手で覆うブリッドにマスターは「やっぱり」と、言った。
「え、何が?」
たまたま今日居合わせたタカラはブリッドの何が限界なのかと首を傾げた。
「ブリッドちゃんね、彼女が魅惑化の修行を終えるまでエッチしないって宣言したのに、我慢がキツいのよ」
「へー、意外」
タカラは目を開いて驚き、つい数年前まではここで女漁りしてたくせにと思いながらグラスに残っていた酒を一気に飲み干した。
「あいつ、家で一緒になったら誘惑してくんだよ……」
昨日は以前潜入に使用したマールン学園の制服を着て、「ブリッド先生。保健の授業を教えて?」と、どこで学んだんだと言いたくなるような誘い方をしてきたしゅんりにブリッドは間一髪で我慢したのだった。
しゅんりが魅惑化の修行で悶々としてしんどいのは分かるが、終わるまでしないと宣言したためブリッドは手を出さずにいた。
「……それも意外だわ」
やけに積極的になっちゃって。
約五年前、しゅんりが自身のチームに配属された時はもうそれはもう可愛いくてたまならかった。
純粋かつ無垢で守ってあげたくなる程の可憐さは何処へやら。
そして、あれから五年経ったのかとタカラは気付き、バンっとカウンターに顔を伏せた。
「ええ、次はタカラちゃんどしたのよ……」
困った声で声をかけてくるマスターにタカラは鼻を啜りながら「私だけ結婚できずに三十路になっちゃう……」と、呟いた。
十歳差のしゅんりが二十歳になる年ということはタカラが三十歳になるということ。
それに嘆いてタカラはやけ酒を飲みにこのバーに足を踏み入れたのだった。
「なんなのよ。みんなして妊娠したり結婚したり。ルルに関しては二十歳になった日に籍入れましたとか。どんだけ一條君は独占欲強いのよ、きもいのよ」
「……きもいは酷いな」
ブリッドはそう言ってから苦笑し、確かに一條 翔はルルに対して独占欲が強すぎるなと、ブリッドも引いていた。
「そういえば誕生日はいつなんだよ」
そう聞いたブリッドにタカラは小さな声で「明日……」と、呟いた。マスターとブリッドは時計に目をやり、時計の針がが二十三時四十分を差しているのに気付いた。
「あと二十分ね」
「あと二十分だな」
二人にあと二十分で自身が歳をまた一つ取ることを知ったタカラは「消えたい……」と、呟くのだった。
それを見兼ねたブリッドはマスターにあるドリンクを注文した。
「……何これ」
程なくして出てきたのは苺のスムージーにウォッカを混ぜたカクテルにパイナップルが飾られたグラスには小さな花火が刺さって綺麗な花を咲かせていた。
パチパチと花火が音を出しながら綺麗に咲く様をタカラがボーっと見ている横でマスターとブリッドは合わせてバースデーソングを歌い始めた。
「虚しい……!」
顔に両手を当てて泣き始めるタカラにブリッドとマスターは「逆効果だったか」と、お互い顔を見合わせた。
「あ、あれだ。マスターは恋人は最近いるのか?」
「私? 最近はいないわね」
マスターに恋人がいないと知り、仲間意識が芽生えたタカラはそっと顔から手を離してマスターを見た。
「マスター、恋愛対象が男だろ? なんか苦労とかあるんじゃねえの?」
恋愛で困ってるのはお前じゃねえから大丈夫だと、何故か上目線に立つブリッドだった。しかしブリッドもこの前しゅんりに「え、ブリッドリーダーって私の彼氏? そんな話した?」と、言われたばかりであり、実は順調ではなかった。
そんなことは敢えて言わず、マスターに助け舟を出すブリッドに「いんや、私は両方いけるわよ」と、初めて聞く情報を耳にした。
「男性も女性も恋愛対象になるってこと?」
タカラの質問にマスターは「そうよ」と、返事した。
「それってどんな感じなんだ?」
想像できないと首を傾げるブリッドにマスターはそりゃもう最高だと豪語した。
「全員恋愛対象なのだもの。選び放題よ」
マスターの返答に二人は声を揃えて「へー」と、感心そう声を出した。
「マスターの恋愛感を聞きたいわ」
「いいわよー。今日はタカラちゃん誕生日だから奢っちゃう!」
「本当に? マスター、ありがとう!」
奢りだと聞いて喜ぶタカラにホッとしたブリッドは時刻が零時半を指すのを見て、そろそろしゅんりが寝た頃だろうと思って金を多めに払って店を出るのだった。
それからタカラは意識がなくなる程、マスターの奢りで恋愛の話に花を咲かせるのだった——。
タカラが次に目を覚ました時、見たことない天井が目に入ってドッと汗が全身から流れた。
ど、どこだここ!?
今まで酒の失敗などしたことなかったタカラはバッと起き上がって状況を整理しようとした。そして起き上がって次に目を移したのは裸で寝ていた自身の大ぴろっげになった胸であり、じわじわとくる下半身の怠さに更に汗が噴き出した。
や、やらかしたっ!?
明らか情事後の気怠さとこの状況に目が回りそうになった時、タカラの隣で寝ていた人物が起きた。
「んん、タカラちゃん? 早起きね……」
「ま、ままままっ!?」
そこにはオネエ口調で話すマスターがいたのだった。
「やーね、私はママじゃないわよ。マスターよ」
そう言ってからマスターは放心状態にあるタカラの手を引いて再びベットに寝かせ、その上に跨った。
「いや、今はフランキーって呼んでちょうだい」
そう言ってタカラの片手ですっぽりと収まる可愛いサイズの胸を揉み始めた。
「ちょおおおおっ!? タンマ、タンマッ!」
タカラは両手を突っ張ってマスター、フランキーと距離を空けた。
「なに? まさか私達があんなにも愛し合ったのを忘れちゃったの?」
不服そうな顔でそう聞いてきたフランキーにタカラはブンブンと顔を縦に振った。
「なにそれ」
タカラの反応に怒った顔をしたフランキーはタカラの両手を片手で拘束して頭上に持っていき、困惑するタカラを無視して無理矢理に口付けを落とした。
徐々に深くなるキスへの快楽に落ちそうになりながら断片的にタカラはフランキーとの絡み合いを思い出していた。
「……はあっ。タカラちゃん、可愛いわね。もうキスだけでお顔がとろんとろん」
耳元でそう囁かれ、タカラは思わず「んっ」と、声を漏らしてしまった。
「大丈夫。今からぜーんぶ、思い出させてあげるわ」
そう言ってフランキーは掛かっていた布団を乱暴に床に落とし、自身の引き締まった体を堂々とタカラに見せつけた。
三十歳の誕生日プレゼントがまさかこの人だったとは思わなかったわ。
沸々と体が熱に侵される感覚がする中、タカラはそう思いながらそのままフランキーに身を任せ、三十歳の誕生日を過ごすことにしたのだった——。
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