その翌日の朝。

 ネイサンが任務な為、代わりにブリッドが朝食と共にしゅんりの監視にやって来た。

「ほら、飯」

「……どうも」

 トーマスとの件で怒ったままのしゅんりはキッとブリッドを睨みながら荒々しく食事をもらい、テーブルの上に置いてソファにどかっと座った。

 しゅんり、いい子にしとくんだぞ。

 昨日、ジャドに言われた言葉を思い出しながらしゅんりは意を決してフォークを手に取り、勢いよくサラダを刺して口に持っていき、パクッと口に含んで咀嚼した。

「うええええ、やっぱり美味しくないいい」

 そう言いながらダラッと口からサラダをこぼすしゅんりを見ながら監視に付いているブリッドとメイジーは「あー、もう」と、口を揃えて呆れた。

 ブリッドはメイジーに牢屋の鍵を開けさせ、しゅんりの横に座った。

「なに」

「なに、じゃない。ほら口開けろ」

 ブリッドはフォークを手に取り、サラダを刺してしゅんりの口元に持っていった。そんな子供にするようなやり方にしゅんりはブリッドをキッと睨みつけ、フンッと鼻を鳴らしながら顔を背けた。

「こーら、逃げんな。ジャドさんに言われたんだろ?」

「うっ、ジャドの名前出すなんてずるい……」

 大好きで慕っているジャドの名前を聞いて食べないわけにもいかなくなったしゅんりは目をぎゅっと瞑りながら意を決してサラダを口にした。

 もぐもぐと咀嚼し、ゴクッと無理矢理に飲み込んで水を飲む。

「うう、なんでこんな美味しくないの……」

 うげえ、と舌を出すしゅんりにブリッドは困った顔で笑いながらその頭をポンポンと撫でた。

「へ……?」

 頭を撫でられて驚くしゅんりにブリッドは満面の笑みを浮かべ、「よく出来ました」と、誉めた。

 ぽぽぽっと効果音が出そうなくらい頬を赤らめたしゅんりは次々とブリッドに差し出される食事を親鳥から与えられる雛のようにパクパクと素直に食べ続けた。

「ごちそうさま……」

「はい、お粗末でした」

 ニコッと笑ってそう言うブリッドにキューンと胸が高鳴ったしゅんりはこれ以上だらしない顔を見られまいと顔をフイッとブリッドから背けた。

 ナール様の言う通りだったな。

 しゅんりが綺麗に食べ終わった皿を見ながらブリッドは今朝、倍力化の総括部屋でした会話の内容を思い出していた——。

「思ったんだが、しゅんりは赤ちゃん返りしてないか?」

 しゅんりの監視から帰り、もしものために部屋で待機していたブリッドとタカラ、そしてルルと翔が心配して訪問したその時、その場にいた一同にナール総括はそう話し出した。

「母さん。赤ちゃん返りっておかしくない? しゅんりはもうすぐ二十歳になるんだよ?」

「いやいや、おかしくないぞ。おぬしだって十一歳の時、愛翔が生まれた時にママ、ママって赤ん坊のように甘えて来てただろう」

「へー。その話、もっと聞きたいわ」

 もっと話しを聞きたいと身を乗り出したルルに翔は顔を赤くした。

「いや十歳だよ! てか、そんな昔の話やめてよっ! ルルもやめてっ!」

「いいじゃない、ケチ」

「そうだぞ、ケチ」

 わーわーと騒ぐ三人を横目に見ながらタカラとブリッドは真剣にナール総括の言っていたことを考えていた。

「赤ちゃん返りまでいかなくても、幼児化はしてるわよね」

「すぐ癇癪起こすし、前よりすぐ泣くしな」

「原因はストレスよね」

 顔を見合わせてお互い溜め息を吐く。

 こりゃ、更に厄介な話になってきた。

「しゃーない。私だけじゃ頼りないけど今日はネイサンが任務だし、代わりに監視は私がするわ」

 そう立ち上がったタカラをブリッドは制した。

「いや、俺が行く」

 そう言ったブリッドをタカラとルルが「ダメに決まってんでしょ!」と、一喝した。

「このセクハラ野郎」

「マジで訴えてやろうかしら」

 軽蔑した目で見てくる二人にブリッドが背を丸くして小さくなった時、ノック無しにいきなり倍力化の総括部屋のドアが開いた。

「オーリン! まだ来ないのかっ!」

 そこにはイライラした様子でやってきたホーブル総監がいた。

「ホーブル総監、お言葉ですがブリッドはわらわの部下だ。そうこき使わないで頂きたい」

 キッと自身の上官を睨むナール総括にホーブル総監は余裕なさげな様子で舌打ちをした。

「フンッ。なら、お前が俺の元に付くか?」

「なにふざけたことを。わらわ達はわらわ達しか出来ぬ仕事がありますゆえ、無理ですなあ」

 バチバチと火花が散りそうなぐらい睨み合っていたその時、「ホーブル総監? どこかしらん」と、色気付いた声でホーブル総監を呼ぶ声が聞こえてきた。

「奴が来た……!」

 そう焦った顔でこちらを見てくるホーブル総監にブリッドは苦笑しながら背に担いで急いで部屋から出て逃げた。

「あれー? ここにホーブル総監はいなかったかしらん? 声がしたのだけどん」

 ホーブル総監とブリッドが部屋から出てすぐ、そう言いながらルビー総括が顔を出した。

「……気のせいだな」

「そうん? もう、どこかしらん」

 ナール総括の言葉を疑うことなくルビー総括はそのまま部屋を後にしてホーブル総監を探しに歩き出した。

 それを影で見ていた二人はこっそりと倍力化の部屋に戻ってきた。そしてソファに座って項垂れるホーブル総監に一同、同情の目を向けた。

 ウィンドリン国がエアオールベルングズに襲来された時。

 ブリッドが戦場に応戦する時、代わりにホーブル総監の護衛になったルビー総括は強引に自身の腕を引っ張っていくホーブル総監に惚れたらしく、「あーん。あんなに強引に連れて行かれたの初めてだわん」と、欲情した目で語っていた。

 そして御法度である魅惑化を使って誘惑してはいけないルールを堂々と破り、何としてでもホーブル総監を自分のモノにしようと動いていたのだ。

 こんな緊迫した状況でそんなふざけた理由で総括という役職をルビー総括から奪うことは叶わず、ホーブル総監はブリッドを引き連れてルビー総括から逃げる日々を過ごしていたのだった。

「……はあ、分かりました。分かりましたとも。護衛につきましょう」

 友人でもあるルビー総括のせいで参っている上官を見て見ぬふりできなかったナール総括はそう投げやりに言い、不眠不休の体を鞭打ってホーブル総監の護衛に付くことにした。

「ほ、本当か……」

 いつも威厳のあるホーブル総監とは思えない程に安心しきった顔に一同苦笑している中、ブリッドは「じゃあ、俺はしゅんりのとこ行ってくるわ」と、ルルとタカラの制止を無視して食事を持ってしゅんりの元にやって来たのだった——。

 にしてもこいつ、俺とキスしたこと分かってるのか?

 歯磨きしながらふんふんと鼻歌を器用に歌うしゅんりの背をブリッドはソファに座りながら眺めていた。

 もしかして忘れられている……?

 そう気付いてブリッドはショックな気持ちになった。

 必死だったとはいえ、あれはあれで勇気を出した行為であり、一生守ると告白したのだ。

 そんな一世一代の告白をなかったことにされていると気付いたブリッドはガクッと項垂れた。

「ブリッドリーダーどうしたの? お腹空いた?」

「え、いや……」

 そんなブリッドの思いを知らない当の本人であるしゅんりはベッドサイドのテーブルの上にあるお菓子の箱をいくつか腕に抱えて持ってきた。

「マオがチョコとクッキーとあとポテチも持ってきてくれたの。何か食べる?」

 純粋そうな笑顔で気遣うしゅんりにブリッドは以前と同じように関わってきてくれる様子にほっこりしながら、しゅんりとお菓子を食べながらトランプで遊び始めた。

 一時間程そんなことしていた時、ふわあっとブリッドはあくびをした。

「眠い?」

「いや、大丈夫だ」

 正直、相当眠い。

 しゅんりが心配で普段の業務とホーブル総監の護衛に加えて、ずっと警察署に寝泊まりをする日々に実は疲労が限界に達しそうだった。

 そんなブリッドの様子にしゅんりは「私のせいだよね……。ごめんなさい」と、顔を俯かせた。

「しゅんり……」

 そんな健気に謝る様子にブリッドがしゅんりへと手を伸ばしそうになったその時、しゅんりはバッと顔を上げて「任せて!」と、声を上げた。

「は?」

「マッサージしてあげる! お世話になってるお礼!」

 そう意気揚々としゅんりは立ち上がり、ブリッドの背に回ってソファの背もたれ越しに立った。

「お客さーん、凝ってますねー」

「おお、上手いな……」

 疲労に加えてマッサージで目がとろんとしてきたブリッドを見てしゅんりは心のなかでヒッヒッと不敵な笑みを浮かべた。

 しゅんりはジャドとの会話で脱走は諦めて、皆んなの信頼を得ることと体を万全にするために努力はすると決めた。

 それは自身の身もそうだし、自身のために動いてくれている皆んなを裏切らないようにしようと心に決めたからだ。

 でもどうしてもタバコだけは諦められない!

 ここに閉じ込められて二週間以上経つのだから、体からニコチンは抜けているはずなのに喫煙という欲求だけは抜けきれなかった。

 ブリッドが朝食を食べさせてくる時、しゅんりは嗅覚を強めてどこにタバコを直しているか探っていた。

 ほお、今度は前の右ポケットか……。

 後ろは油断した時取られるし、ワイシャツの胸ポケットもパッと奪われやすいだろう。

 右利きであるブリッドが何かあった時、タバコを死守できる場所はそこになるということだったのだろう。

 しかも膨らみがそこまで大きくないことから数本だけケースにでも入れて保管しているらしい。

 私にタバコを吸わせたくないくせに、自分の喫煙欲は我慢できないとかバカだねえ。

 そう思いながらしゅんりはニヤニヤとブリッドの後ろで笑いながら、アサランド国でジャドの機嫌取りと金を貸してもらう手段として磨きあげたマッサージを全力でブリッドに披露した。

 ダメだ……、目が落ちてくる……。

 監視役として失格であろう睡魔と戦うブリッドの腕を引いてしゅんりはベッドにボフッと押し倒した。

「なっ、な!?」

 ブリッドがそう困惑して体を起こす中、しゅんりはフワッと布団を上げてブリッドに被せた。

「へ?」

「はい、ねんね」

 そう言って布団の上からポンポンと叩くしゅんりにブリッドはピンク色の想像をしてしまったのを反省した。

「ねんねって、寝れるわけねえだろ」

 そう頑なに寝ようとしないブリッドにしゅんりは少し考えてからブリッドが寝るベッドに自身も体を滑り入れた。

「ちょ、しゅんり、それはダメだっ!」

 ジトっとした目で見てくる警務官のメイジーを見ながらブリッドは焦ったようにベッドから出ようとした。

「なんで? 前も同じ部屋で寝たことあるじゃん」

「その言い方は語弊がある!」

「いいじゃん、一緒にお昼寝しようよ。私も寝るんだから大丈夫、大丈夫」

 ニコッと笑うしゅんりにブリッドは脳内で自身の欲求と戦いながらなんとしてでも手は出さないようにと腹を括って目を瞑った。

 落ち着け、落ち着くんだ。寝たフリすればいい。

 これはそうだ。しゅんりが少しでも機嫌を損なわず、少しでも情緒が安定するためだ。

 そう言い訳しながらブリッドはしゅんりと同じベッドに入るこの状況に嬉しく思っていた。

 そして体は正直らしく、目を瞑ってすぐにブリッドはスースーと寝息を立て始めて寝てしまった。

 それを見たしゅんりはブリッドに向き合うように体を横に向け、スースーとわざとらしく寝息を立てた。

「はあ、なんちゅう奴らだ……」

 メイジーはそう溜め息を吐き、イライラしたような様子でこっちを睨んできた。

 まあ、見られてても布団の中で少し動いてもバレはしないだろう。

 しゅんりは布団の中で慎重に動きながらブリッドの右ポケットに手を入れた。

 ほお、予想通りケースに入れてるね。

 細い筒状のタバコケースから六本ある内、二本だけしゅんりは盗みんでから右ポケットにタバコを直し、火はないと困るのでジッポだけは預かっておいた。

「ふわあ、よく寝たー」

 約一時間後。タバコを無事ゲットしたしゅんりはそうわざとらしくあくびをして、ブリッドを起こした。

「ハッ! 俺、寝てた!?」

「私も寝てたー。ブリッドリーダーおはよう」

 こてんと首を傾げ、微笑む。

 自身が一番可愛いく見える角度で見上げると、ブリッドは軽く頬を赤めてコホンッと咳払いした。

「お、おはよう……」

 可愛いとこあんじゃん。

 照れるブリッドの様子に機嫌をよくしたしゅんりは「シャワー浴びよっと」と、言ってからシャワーを浴びる準備をし始めた。

「しゅんり、俺がいるの分かってんのか! ダメだ!」

「えー、だって寝汗かいたんだもん。ダメ?」

 悲しそうな顔をして打診する。今のブリッドなら絶対にダメとは言わないはずだと確信したしゅんりの言う通りにブリッドは「早く済ませろよ!」と、焦ったように言って牢屋から出て背を向けてパイプ椅子に座った。

 チョロすぎ。

 ニヤニヤとしゅんりは笑いながらタバコ一本はベッドのサイドテーブルの引き出しに隠し、残りの一本とジッポを隠し持ちながらシャワー室に持っていった。

 そして、着替えとタオルをスケルトンのシャワー室にある手すりにかけて死角を作り、その影でこっそりと二週間振りとなるタバコを口にした。

 ぷはあっ! 幸せえええええっ!

 天国にでも上がりそうな程の幸福を味わいながらしゅんりはシャワーの水量を上げて中での音をかき消し、そしていつもよりシャンプーやボディソープをたくさん使って匂い消しに全力を尽くした。

「ふう、気持ち良かったー」

 語尾にハートマークが付きそうなほど満足気な顔をするしゅんりとは反対に悶々とするブリッドを見ながらメイジーがイライラする中、ガラガラとなにかを引きながらやってくる人物に三人は気付いた。

「あー、いたいた。噂通りまだ牢屋に入れられているのね」

 そう言いながらしゅんりの元にやって来たのは魅惑化所属のミアだった。

「やっほー。元気?」

 綺麗な栗色をふわふわと揺らし、相変わらず露出の多い服に身を纏ったミアはしゅんりに手を振った。

「ええと、まあぼちぼちと。ミアさんはどうしてここに?」

 二回だけ任務が一緒になっただけの仲であるミアが何故、自身のとこにわざわざ来るのかと疑問に思う中、ミアはキャリーケースを開けて中の荷物を牢屋に入ってるしゅんりの代わりにブリッドに渡した。

「あんたの荷物を持ってきてあげたのよ。ほら、アサランドに全部置きっぱなしだったでしょ?」

「アサランド!? なんで、ミアさんがアサランドにある私の私物を持ってるの!?」

 まさかウィンドリン国にカルビィンかウィルグルが届けに来てくれたのかと柵に手を伸ばし、前のめりで聞くしゅんりにミアは「おおっと、怖いって」と、後ずさった。

「聞いてないの? あんたの代わりの私が暗殺部になったのよ」

「へ……。あ、そっか……」

 すぐに暗殺部に戻れると勝手に思っていたしゅんりだったが、それがいつになるか分からない状態に加えて、上は元々自身を暗殺部に戻すつもりはなかったのかと理解したしゅんりは顔を俯かせた。

「いやー、にしてもあんな素晴らしい職場にいたなんて羨ましいわー」

「え? あんな危険なとこ……」

 毎日死と隣り合わせな国での仕事を素晴らしいと豪語するミアにしゅんりは顔を顰めた。

「なに言ってんのよ。男ばっかの職場なんて最高! しかもやいのやいの言う上司もいないからヤり放題よ。まあしゅんりもそれなりに楽しんだんだから交代ってことで。そんな悲しまないでよ。今、暗殺部全員であんたの潔白証明しよって全力で頑張ってるんだから!」

 パチンッとウィンクしながらそう言ったミアにしゅんりはまさかと顔を青ざめながらミアを凝視した。

「や、ヤり放題って……」

「そんなのセックスのことしかないじゃない。ウィルグルはそんなデカくないけどテクニックはあるし、それにそう! カルビィンは最高よ! あんな素敵なモノあるなんて見た目に寄らずいい男よねー」

 さもしゅんりも二人と関係はあっただろうと勘違いしているミアは二人と既に関係があることを堂々と伝えてきた。

「うそ、うそ……。カルビィンがそんな……」

「え、どうしたのよ?」

 うるうると目に涙を溜め、ショックで立っていられなくなったしゅんりはその場に膝をついた。

「そんなに泣くほど嬉しいのね。安心して大船に乗った気で朗報を待っててよ! あんたの潔白は私達がすぐに晴らしてあげるから!」

 ちがうううううっ!

 内心そう思いながらも、涙で声が出せないしゅんりにミアはグッと親指を立てて「このミアお姉様に任せておきなさい!」と、肩をポンッと叩かれ、それにしゅんりは更に涙を流した。

「そうそう、これウィルグルから。あんたの好きなチョコなんでしょ? あと頼まれてからほら、写真撮るわよ。はい、ピース!」

 ミアは柵越しに泣くしゅんりとツーショットを撮り、満足気に笑った。

「もう、笑いなさいよねー。まあ、二人には泣くほど喜んでたって伝えとくね! じゃあ、私は一週間の休暇楽しんでくるわ」

 ミアはそう言って嵐のように去って行ったのだった——。

 なんだこの敗北感に苛まれた感覚は。

 ブリッドはベッドの上でシクシクと泣き続けるしゅんりと同じくベッド上に座りながらそれを眺めていた。

 ええ、分かっていた。分かっていたとも。

 ブリッドは半ば投げやりになりながらしゅんりがカルビィンを好いていることを認めた。

 ショックで落ち込む二人にメイジーは居心地悪く、ゴホンと咳払いした。

 そんなメイジーの咳払いにしゅんりは顔を上げ、ウィルグルからとミアに渡されたチョコに目を移した。

 これ、よくジャドとカルビィンが買ってきてくれたチョコなんだよね……。

 しゅんりに甘い二人は何かと色々と買ってきてくれることが多く、しゅんりはこのチョコがその中で一番気に入っていた品物だった。

「うう、カルビィン……」

 カルビィンの顔が脳内で浮かんだしゅんりはチョコの箱をぎゅっと抱きしめた。

「しゅんり、お前はその、カルビィン・ロス補佐のことが好きなのか……?」

 恐る恐ると質問してきたブリッドにしゅんりは顔を上げた。

「うん、好きだよ。大好き」

 ガーンと効果音が鳴りそうな程、自分から聞いたくせに落ち込むブリッドにメイジーは片手で顔を隠し、「バカじゃねえの……」と、呆れながら呟いた。

「じゃ、じゃあ俺は……?」

 往生際悪く自身のことはどう思ってくるブリッドにしゅんりは首を傾げながら、知ってるくせに何故聞いてくるんだと思いながら「好きだけど」と、悪気なく返事した。

 どっちも好きだと本人の前で堂々と宣言するしゅんりのデリカシーのなさにメイジーが「なにこのバカ二人……」と、呆れる中、ブリッドはパッと顔を明るくした。

「それは恋愛対象としてか?」

「そうだよ、悪い? 大丈夫、彼女持ちを狙う趣味はないから安心して」

 そう投げやりに言い切ったしゅんりはグズッと鼻を啜ってブリッドを睨みつけた。

「彼女なんて俺にはいない」

 グイッと顔を近付けてそう言ってくるブリッドにしゅんりはドキッと胸を高鳴らせた。

「え、でもシュシュっていう人は……」

「あいつとは付き合ってない。そう、付き合ってない!」

 数回、体の関係がありつつも付き合ってないのだから嘘ではないと、少し罪悪感を持ちつつもそう宣言したブリッドにしゅんりは驚きながら、「え、あ、本当……?」と、聞き返した。

「本当だ」

 そう言ってブリッドはベッドの上でしゅんりの腕をグイッと引いて近寄った。

「ブリッドリーダー……」

「しゅんり……」

 お互い見つめ合い、顔が近付いていく……。

「あああーっ! てめえら、ここが牢屋だっつーこと分かってんのか!」

 我慢の限界に達したメイジーにハッと正気に戻った二人はバッと離れ、罰が悪い顔で恐る恐るメイジーを見た。

「監視カメラ見てる奴、来いっ! 交代だ、交代!」

 監視カメラに向かって声を上げるメイジーにブリッドは「悪かったから落ち着け」と、話しかけながら牢屋を出たが、メイジーは「落ち着いてられるかっ!」と、騒ぎ、その後はメイジーの希望通りに監視カメラを見ていたジェイコブはニヤニヤと笑いながらブリッドと交代した。

「……面白かったのに」

「面白くありません!」

 メイジーのイライラがこれ以上溜まらぬようジェイコブはそれ以降は感想を言うのを止めた。

 うう、人前で何てことを……!

 しゅんりが覚えてないだけで本当はもっとブリッドと恥ずかしいことをしているのだが、本人はそれを知ることなく、シーツを頭から被って先程のブリッドとのやり取りを思い出しながら当分の間、顔を赤らめることしか出来なかったのだった。

 

 

 

 ブリッドがしゅんりの監視に付くことを禁止されてから三日後。

 アサランド国にいる暗殺部からしゅんりの出生にまつわる情報とアサランド国での行動をまとめられた資料を提出され、潔白を証明されたしゅんりは約三週間振りに牢屋の外に出ることができた。

「んーっ! シャバの空気は美味いですなあ!」

 囚人服からいつものスーツを着用し、スーハーと深呼吸して伸びをするしゅんりの隣でマオは「それ、意味分かって言ってる?」と、呆れながら牢屋にあった荷物を一緒に持って歩いていた。

「分かってるよ。三週間も耐えた私、偉い」

「耐えた? あれが?」

 しゅんりの監視を巡って二転、三転とルールが変わったり、振り回されていた側のマオからしたら何が耐えれたのかとイラッとせずにはいられなかった。

「ほら、ホーブル総監のとこ行くよ」

「……行かなくちゃいけない?」

 嫌そうな顔で聞いてきたしゅんりにマオは腰に手を当てながら、「またビンタされたいなら行かなくていいけど?」と、返事した。

「くう、分かったよ。行くよ……」

 ガクッと頭を下げながら諦めたように返事したしゅんりにマオはクスッと笑いながら、我儘な親友の背を押してホーブル総監の元へとついて行ってあげた。

「フンッ、猛獣が解き放たれたか。いいか、厄介ごとを起こすなよ」

「あいあいさー」

 "猛獣"と呼ばれて機嫌を悪くしたしゅんりはホーブル総監を睨みながらふざけた返事をした。

「ほお、躾が必要なようだな?」

「いやはやホーブル総監、本日も凛々しくカッコいいですね! 惚れ惚れしちゃうっ! わたくし、本日から頑張ってお仕事させていただきます。ええ、そうさせてもらいますとも!」

 両手をごまをするように摩りながらホーブル総監の機嫌を取るようにしゅんりの必死な様子にマオが笑うのを堪える中、後ろに控えていたタカラがある物を手に持ち、しゅんりに近寄った。そして、同じく後ろに待機していたブリッドがしゅんりの背に回って動かないように羽交い締めをした。

「え、え、なになに! もう躾とかいう罰⁉︎」

 何をされるのかと怯えるしゅんりの首元にタカラはある物を付けた。

「はい、いいわよ」

 何がいいのかと首を傾げながら自身の首元に手をやってからしゅんりは怪訝そうな顔でタカラを見上げた。

「え、なにこれ」

 手触りからして金属性の何か輪っかのようなものがしゅんりの首に嵌められていた。

「犬には首輪をつけるものだろう?」

「はあ? 私は犬じゃないし、獣化する生き物は狼なんだけど」

 首輪をつけるものだとふざけたことを言ってくるホーブル総監に言い返しながらそれを取ろうとした時、ブリッドに制止された。

「おい、取るなよ」

「はあ? 取るにきまってるわ! なにこれ!」

 グイッと引っ張ろうとしたしゅんりの耳元でタカラは「バーンッ!」と、大声を出した。

「バ、バーン!?」

 タカラが放った効果音に顔を青ざめながらしゅんりは恐る恐る首輪から手を離した。

「それは私特製のGPS付きの防水完備の首輪。ちなみに無理矢理に外そうとしたり、ウィンドリン国から出たら爆発するわ」

「な、なんて危険な物をっ!」

 そんな危険な物を何で付けられないといけないのかと顔を青ざめるしゅんりにホーブル総監は鼻で笑ってから説明し始めた。

「しゅんり、お前がエアオールベルングズに寝返ってないことは証明された。だが、お前がのこのことアサランド国に戻る可能性があると考えての行動だ」

「ちょっ、寝返ってないならこんなこと納得いかない!」

「ふざけるな。いいかお前のこの三週間の振る舞いを思い出せ。これは納得いく処分だと理解できると思うがな」

「ぐぬぬぬっ……」

 確かになにかと問題行動を起こしてきた自身を信用しろなどと言えないと反論出来ないしゅんりにホーブル総監は「これはお前を敵から守る方法だ。納得いかんならまた牢屋に戻るか?」と、鬼のような選択を提案した。

「戻りたくないです……」

「なら、大人しくここに居ることだな。ちなみにお前の居場所はオーリンが管理する」

「ええ、ブリッドリーダーなの……」

 自身と同じ、もしくはそれ以上に速く走れてスタミナもあるブリッドには逃げきれないなと諦めたしゅんりに「こいつ、やっぱりアサランド国に行くつもりだったか」と、一同は呆れた。

「当分の間は任務はなし。倍力化か俺の事務作業の手伝いをしろ」

「はーい。自分で言うのもなんですが、事務作業なんてまともにできたことありませーん」

 舐めた口調で手を上げて開き直るしゅんりにホーブル総監は銃を手にして額に当てた。

「いいか? これ以上舐めた真似すると撃つぞ」

「ああん? やんのかジジイ」

 まさか首輪をつけられるとは思っておらず、自由になれずにイライラするしゅんりにブリッドは「俺、しゅんりに事務作業を教えてきます!」と、しゅんりの腕を引いて逃げるように部屋から立ち去っていった。

「お前なあ、頼むからああいうことはやめてくれ……。寿命が縮む」

「へー。じゃあ縮めば?」

 やっと自由の身になれると喜んだのも束の間。

 再び拘束される身となって機嫌を悪くしたしゅんりはカツカツとパンプスのヒールを鳴らしながら歩いてブリッドを追い越し、エレベーターの下の階にいくボタンを押した。

「待て待て! どこに行くんだ?」

「ハッ! GPSで見たらいいんじゃない?」

 ギロッと噛み付かんばかりに睨み付けられ、ブリッドはかつてしゅんりに噛まれた右肩の痛みを思い出して咄嗟に動けなかった。

「ま、昼までには戻りますんで」

 ヒラヒラと手を振りながらエレベーターの閉まるボタンを押してしゅんりは降りて行ってしまった。

「うわあ、初日からボイコットか……」

「またジャドさんに説教してもらおうかしら……」

 二人を追いかけてきたタカラとマオの二人はそんなしゅんりの自由さに呆れながらブリッドを見た。

「……はあ。どうしたらいいんだ」

 両手で顔を覆って嘆くブリッドの肩をポンッとタカラが手を置いて「とりあえず仕事しましょう」と、言ってブリッドをその場から補佐部屋へと誘導するのだった。

 

 

 

 しゅんりは警察署の地下に入り、かつて使われていた裏口から外に出た。そしてウィンドリン国にある繁華街の路地裏にまで移動し、ブリッドから盗んでいたタバコ一本とジッポを使って一服をした。

 タバコとジッポを盗んだあの後、ブリッドがジッポがないないと言っているとジェイコブから聞いていたがしゅんりは知らんふりをし、「お昼寝した時に落としたのかな? 探しとくね」と、誤魔化してずっと持っていたのだ。

 どのタイミングで返そうかと考えてながらしゅんりは自身の頭上を見上げた。

「トゲトゲ、人の気配ないから大丈夫だよ」

 しゅんりがそう言ってすぐにポンッという効果音と共に紫色の体をし、口から黒い涎を垂らす小人が姿を現した。

「フー。ご主人様、ヒサシブリだな」

「久しぶり。そう言ってもなんやかんやで私の周りで隠れてたんじゃないの?」

「カクれてたり、ドッカに行ってたり」

 微かに気配がする時もあれば、全く感じない時もあったなと思いながらしゅんりはトゲトゲに手を伸ばし、自身の胸元に持っていって抱きしめた。

「ずっと会いたかった」

「オレ様もだゼ」

 しばらく久しぶりの逢瀬を堪能してからしゅんりは本題を話し始めた。

「アサランドには行った?」

「ああ、一回行ったぜ。行き帰り含めて四日かかったがな」

「優秀。で?」

 トゲトゲならやってくれると思っており、それを褒めたしゅんりは何の情報を得られたのか尋ねた。

「マズ、ご主人様がテキさんのムスメだと言うのは本当ダ。そして、故郷にあったご主人様のイエはなかった」

「はあ? 私の家は残っていたはずだけど」

 しゅんりはアサランド国に来てすぐにジャドに故郷に連れていってもらってシャーロットに頼まれたペンダントを埋めに行った際、しゅんりは自身の実家に足を踏み入れていた。

「イヤ、燃やされたのかなんなのか、スミと化していた」

「わざと一旦、私に実家に寄らせてから証拠を隠滅したと……」

 短くなったタバコの吸殻を排水溝の溝に捨てたしゅんりは耳を澄まし、周りに警戒した。

 見張られている気配はないか……。

「アドルフ。あいつは?」

「イヤ、オレ様は会ってない」

「オレ様は?」

 一回開きかけた口を閉じたトゲトゲにしゅんりは眉を寄せて睨んだ。

「何を隠してるの」

「いや、ソノ……」

 歯切れ悪く話そうとしないトゲトゲをぎゅっと強く抱きしめて何を隠しているか吐かそうとしたその時、一瞬にしてしゅんりの背後に誰かが現れた。

「レジイナお嬢様。御出所おめでとうございます」

 バッと振り返るとそこには膝を地面に付き、頭を下げるアドルフがいた。

 なんなんだ、こいつ……。

 今まで人の気配など一切してなかったのに、テレポートしたかのようにやって来たアドルフにしゅんりは額から汗を垂らした。

 タバコはないが、愛用している銃は先程マオから受け取っている。

 スーツの内ポケットに手を伸ばしたその時、アドルフはニヤッといやらしく笑いながらしゅんりの首にある首輪を指差した。

「バーン」

「……てめえはストーカーか? 気持ち悪い奴め」

 何故この首輪が爆弾だと知っているのかと理解出来ず、しゅんりは今思いつく悪態をアドルフに吐いた。

「ストーカーなんて人聞きの悪い。俺はレジイナお嬢様の執事なのでお側に控えるのは当然です。覚えてないですか?」

 五歳までの記憶など儚いもの。それに加えてしゅんりは目の前で両親を殺されたトラウマにより、より一層記憶が曖昧になっていた。

「てめえみたいなクソ汚ねえ男なんて覚えてるわけねえだろ。今すぐにぶち殺してやるよ」

 ガルルルッと牙を生やすしゅんりにアドルフは「ハハッ、面白いことを」と、潮笑った。

「賢くて麗しいレジイナお嬢様なら気付いているはずですよ、俺には到底敵わないと」

 アドルフの言葉にしゅんりは「んなこと分かってるわっ!」と、心の中で叫んだ。

 今まで周りから強い、天才だと言われてきたしゅんりはアサランド国で過ごして痛いほど理解していた。

 私は弱い。

 その事実にしゅんりは歯を食いしばり、アドルフを目で殺さんばかりに睨みつけた。

「どうしても俺を殺したい、そしてセルッティ旦那様が作り上げたエアオールベルングズを潰したいなら強くなりなさい」

 真剣な眼差しでそう言ってからアドルフは二本の指を立てた。

「選択肢は二つ。一つ目は今から俺に付いてきてエアオールベルングズの長になるために俺が修行をつける。二つ目はこんな生温いお国で修行し、七つの異能を全て使いこなすようになること。どちらがいいです?」

 ニッコリと笑って問うアドルフにしゅんりはふーっと息を吐きながら二つの選択肢に悩んだ。

 正直、前者のアドルフに付いていく選択肢はしたくないが一番手っ取り早い。常にアドルフと居れるなら寝首を噛むチャンスはある。しかし、今まで自身を守ってくれたウィンドリン国の仲間と暗殺部に残ってしゅんりの潔白を証明してくれたカルビィンとウィルグルを裏切ることになる。

 どうしようか、それとも三つ目の選択肢として命をかけて今すぐ戦闘を開始しようかと悩んでいたその時、トゲトゲがまるでしゅんりを守るかのように前に出て手を広げた。

「なんとも。俺と同じくらい素晴らしい従順な下僕がいて俺は安心ですよ。なあ、トゲトゲ君?」

「な……!?」

 トゲトゲが見えてる!?

 倍力化、武強化だけでなく育緑化の異能も持っているのかと驚くしゅんりの前でトゲトゲは額から黒い汗を流した。

「トゲトゲ。さっき俺とお前がアサランド国で出会ったこと、何故レジイナお嬢様に伝えなかった?」

「トゲトゲ、どういうこと!?」

「イヤ、それは……」

 トゲトゲとアドルフが接触していたことをなんでさっき伝えなかったのかしゅんりが問おうとした時、「いや、出会ったというのは語弊か」と、アドルフが口の端を上げて笑った。

「正しくは俺とカルビィン・ロスが接触していた時、お前がそれを見ていた。これが正しいな」

 衝撃的な内容にしゅんりが一歩後退りする中、トゲトゲはゆっくりと呼吸し、「やっぱりオレ様がミエテタノカ」と、震える声で呟いた。

「ああ、はっきりくっきりと」

「テメエ、ナニモンだ」

「ただの執事だが?」

 トゲトゲとアドルフのやり取りを見ながらしゅんりが困惑していた時、こちらに向かってくる気配にアドルフが気付いた。

「チッ、タイムオーバーだな」

 そう言ってアドルフは足に力を入れてビルの屋上まで飛んだ。

「レジイナお嬢様。時期が来た時にまたお迎えにあがります」

「待てっ! 逃げんな下衆野郎っ!」

 しゅんりの制止の声は虚しく路地裏で響き渡るだけで、アドルフは一瞬にして姿を消したのだった。

「ちっくしょう……! ちくしょうがっ!」

 しゅんりがその場で地団駄を踏んでいた時、路地裏にブリッドが姿を現した。

「しゅんり。こんな所でなにしてる? 戻るぞ」

 タイミングが悪い奴め。

 しゅんりはブリッドが今来たことを恨めしく思いながら、今はこのウィンドリン国で大人しくし、かつ信頼を取り戻すのが最善だと考えてその場は大人しくブリッドの後に続いて警察署に戻ることにした。

 そして再び姿を消したトゲトゲに苛立ち、しゅんりはブリッドのポケットにあるタバコを奪い取って、ジッポで火をつけてすぐに吸い始めた。

「あ、こら! ダメだろ! てか、それ俺のジッポじゃねえか!」

「頼むから吸わせて。冷静になりたい」

 気迫迫る顔でそう言われ、ブリッドは口を閉じ、溜め息を吐きながらしゅんりを止めずに見ることしかできなかった。

「……一本だけだぞ」

「はいはい」

 適当にそう流してしゅんりは髪をぐちゃぐちゃと撫でながら先程したアドルフとの会話を脳内で繰り返した。

 ダメだ、理解できないっ!

 感情がぐちゃぐちゃと渦巻き、冷静に判断できずに苛立つしゅんりを見て、ブリッドは警察署に向かっていた道を引き返して繁華街へと戻った。

「はあ? 戻るんじゃないの?」

 ブリッドの行動に理解出来ず、その場に立ち止まったしゅんりの腕をブリッドは引いた。

「いや、気分転換しよう」

 急にそんなことを言い出したことに眉を寄せるしゅんりに「悪かったな」と、ブリッドは謝り始めた。

「せっかく牢屋から出れたのに首輪なんて、そりゃ嫌に決まってるよな」

 理由は違えど自身を気遣ってくれているブリッドにしゅんりは安堵し、今はその好意に甘えることにした。

「私、金ない」

「気にするな。なんでも買ってやる」

「へー、なんでもか」

 顎に手を当て、しゅんりは真剣に何を勝って貰おうかと考えた。

「ワンカートン」

「それ以外で」

「ロケットランチャー」

「……もっと可愛いらしいものを言えないのか?」

 呆れた顔で振り返るブリッドにしゅんりは拗ねたように口を尖らした。

「嘘つき。なんでもって言った」

「いや、言ったけどなあ……」

 そう困惑するブリッドと一緒にしゅんりが繁華街へと向かって歩く後ろ姿を遠くからアドルフは慈しみの目で見ていた。

「レジイナお嬢様……」

 この想いは叶うことはなくていい。

 ただあの人達の思いを俺は受け継ぐだけだ。

 心を鬼にし、アドルフはある目的を達成するため、再びアサランド国へと戻っていった。

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