早朝。

 レジイナは銃と下着、そしてワイシャツがパンパンに詰まったリュックを背負い、両手に大きな紙袋に入ったユニコーンの椅子を抱えて持ちながらジャドとウィルグル、そしてカルビィンと共にユーフ町にある新しいアジトに向かう為、あえてスラム街や廃村を通って歩いていた。

「お前、やっぱりそれ持ってきたのか」

 飽きれながら溜め息と共にカルビィンはそう言ってレジイナの手の中にあるユニコーンの椅子に目をやった。

「当たり前じゃん」

「当たり前じゃねえよ。捨てろって俺は何度も言っただろうが」

 椅子を買った当の本人であるジャドはそう困った奴だと言いながら内心は喜んでいた。

 アジトにある物はほぼ処理し、自分達がいた証拠を無くすために作業していた時のこと。レジイナがユニコーンの椅子を丁寧に分解し、紙袋に直すのを見てジャドはゴミ袋を渡した。

「おい、これに入れろ」

「え、なんで?」

 そう聞き返してきたレジイナにジャドは少し考えてから、まさかこいつ、これを新しいアジトに持っていくつもりかと気付いた。

「お前さん、まさかこれを次のアジトに持っていくつもりか?」

「え、なんでそんなこと聞くの? 当たり前じゃん」

 そうあっけらかんに言ってのけたレジイナにジャドは頭を抱えた。

「俺の話を聞いてか? ここにある物は全部捨てるんだよ。ほら、これに入れろ」

 そう再びゴミ袋を差し出してきたジャドにレジイナは「やだ」と、即答した。

「我儘を言うな」

「嫌なものは嫌! やだやだやだやだっ!」

 五歳児のようにジタバタしながらそう駄々を捏ね始めたレジイナにジャドはまた新しいものを買ってやると言ったが、レジイナはそれを聞きれる入れることなく、頑固として椅子を捨てず、こうやって両手に抱えて持ってきていたのだった。

「次に行くアジトはビルの三階だ。前のとこと違って完全防音じゃねえから、今までみたいに騒ぐなよ」

 呆れた顔をしながらウィルグルは推定、精神年齢が五歳児のレジイナを見ながら声をかけた。

「だってよ、カルビィン」

「なんで俺なんだよ」

 そう話を振ったレジイナにカルビィンは目を細めながらウィルグルに目線を向けた。

「ちげえよ、レジイナに言ってんだよ」

「トゲトゲ、レジイナのお守り頼むぞー」

 カルビィンとウィルグルの会話を聞いてジャドは自身には見えない相手にそう声をかけながら手をヒラヒラとさせた。

「エエ、オレ様もこう見えて忙しいんだけど……」

 各々そう言ってレジイナを嗜めていた時、ムスッとした顔をしていたレジイナはハッとある気配を感じ、ポンッと狼の耳を出して足を止めた。

「レジイナ、方向は」

「三時の方向」

 同じく気配を感じとったカルビィンもポンッとネズミの耳を頭から出し、聴力を高めた。

「敵の数は?」

 早足に裏路地に向かって移動しながらそう聞くジャドにカルビィンとレジイナは顔を真っ青にしながら突然服を脱ぎ始めて鞄に服をしまい、ジャドとウィルグルに持たせた。

「おい、説明しろ」

「そんな暇ない!」

 レジイナはそう言ってから体長二メートル程の狼に獣化し、カルビィンはネズミに獣化した。

「二人とも私に乗って!」

「集合場所はどこにする?」

 カルビィンにそう問われ、レジイナはブラッドに連れて行ってもらったある寂れた町を思い出し、カルビィンに伝えた。

「ワープ国付近だな。分かった」

 そうカルビィンが返事したその時、聴力を高めれる能力がないジャドとウィルグルにも分かる程の地響きが聞こえ、地面が揺れた。

「早く乗って!」

「ぜってえ、死ぬなよ!」

 カルビィンのその言葉が合図かのように真下の地面が割れ、四人を襲った。

 ぐらりと揺れる地面を精一杯蹴り、レジイナはジャドとウィルグルを乗せて近くにあるビルに飛び乗り、ビルとビルの間を飛びながら走り出した。

 そしてネズミに獣化したカルビィンは近くにあったマンホールの隙間から体を滑り入れ、下水道の中を走ってレジイナが言っていた町を目指した。

 ワープ国の近くということは、ワープ国に内通するやつがいる可能性があるってことだ。

 今は巨大な力を持つ敵から逃げ、協力者を得る為に四大国に連絡を取ろうとカルビィンはネズミの体を大きくさせて全速力で走った。

 ——今までのは嵐の前の静けさだったのか。

 そう冷静に分析しながらジャドは全速力で狼の姿で走るレジイナの毛を掴んで落ちないようにしがみついていた。

「うわあああっ! レジイナ頼む! もう少し安全運転で頼むうううう!」

 ジャドは自身の後ろでそう声を上げて腰に手を回してギュッと抱きついてくるウィルグルにイラッとしながら声を張り上げた。

「おい、そんな抱きつくな。鬱陶しい!」

「し、しし仕方ねえだろうがっ!」

「二人とも喋らないで! 舌を噛むよ!」

「んなこと言ってられるか! 男に抱きつかれるなんて気味が悪い!」

「こんな時にそんなこと言うなよ! こっちとら加齢臭を我慢して同席してやってんだよ!」

「んだと、この若造!」

 レジイナはこんな状況でも自身に跨りながら言い合いする二人に呆れつつも、必死に崩れ落ちるビルとビルの合間を飛びながら聴力を高めて色んな方向に集中した。

 今は七時の方向。

 何か大きなもので地面を叩いてるのか?

 ゴンゴンっと鳴り響く音と地面がペキペキと地割れを起こす敵の様子を聞きながら、レジイナはかつてブラッドが教えてくれた下水道の抜け道へと向かっていた。

 ——ここの筋を曲がって、そこの壁を押すと隠れ扉が出てくる。そのから一時間程歩くとまた下水道に出る隠れ扉が出てくるからな。

 そう教えてくれたブラッドは情報屋をやっていく仲間内での秘密のルートだとレジイナに教えてくれていた。

 あそこならエアオールベルングズには知られていないはずだ。

 ここが廃村だからか、容赦なくベキベキと街中を破壊していく、見えない敵の攻撃から逃げながらレジイナは着実にその場所に近付いていった。

 思った以上に敵の足が速い。それに、この地割れと地響きは何か特殊な能力ではなく、倍力化によって地面を物理的に叩いているか? 

 そう考えていたその時、レジイナ達が走るビルが派手な音を立てながら崩れ落ち始めた。

「落ちる! 落ちてる、レジイナアアアッ!」

 ギャーギャーと騒ぐウィルグルを無視しながらレジイナはあえてそのまま下降し続け、地割れをして下水道へと続いている穴へとジャドとウィルグルを乗せたまま落ちていった。

 

 

 

 ——その様子を見ていた敵はニヤッと口の端を上げ、携帯を手にしてとある人物に電話をし始めた。

 

 

 

 スタッと軽やかに着地したレジイナは狼の姿を解き、ジャドとウィルグルを床に落とすように降ろした。そして近くにあった隠し扉を開け、急いで入るように二人を誘導した。

「し、死ぬかと思った……」

「尻が、尻が痛え……」

「文句を言わない。急いで向かうよ」

 死ぬかと思ったと言うウィルグルと、乱暴に降ろされたことを文句を言うジャドの二人を嗜め、レジイナは歩きながら器用に服を着始めた。

「ご主人様。オレ様、一旦外をミテキタ方がいいか?」

「いや、ここにいて。攻撃してきてたのは敵一人だったけど、仲間が隠れてる可能性もあるし、育緑化を持ってない可能性はゼロじゃない。トゲトゲがいくら姿を隠せるといっても敵の強さが未知数な時は下手に離れないで」

「……意外にも冷静でオレ様、アンシンしたぜ」

 トゲトゲの"意外"にもという言葉に片眉を上げたレジイナだったが、そのままスルーしてブラッドが教えてくれたルートを思い出しながら二人を連れてジャドの元同僚の情報屋がいる寂れた町を目指して歩き続けた。

 レジイナは目的地である居酒屋に入ると、すぐにジャドの情報を教えてくれた中年男が座る席へと向かった。そんな三人に気付いた中年男は一瞬驚いた顔をした後、ニヤッと笑った。

「ヒュー。何ともこんなきったねえ居酒屋に麗しきお嬢さんが再び現れるなんてな」

 いやあ、目の保養になるぜ、と三人を出迎えてくれた中年男はビールを片手にそう言い、いやらしくレジイナの胸元へと目をやった。

「金はジャドが払う。協力して」

「おい」

「今、突っ込む暇ねえから落ち着けって」

 レジイナの発言にそう突っかかるジャドを諭しながらウィルグルは酒で鼻を真っ赤にした中年男から目を離し、店内をぐるっと見渡した。

「おお、そばかすの兄ちゃん。探し人でもいるのか?」

「ああ。ここに銀髪の堅いの良い男は来なかったか?」

「いんや? 見てないが」

 中年男のその言葉にレジイナは顔をサッと青ざめた。

 カルビィンが来ていない……。

 グラっとその場でグラつくレジイナをジャドがサッと支えたその時、三人の元にスキンヘッドの小太りの男が近付いてきた。

「おい、おっぱいの姉ちゃん。あんたが探してるのはこいつか?」

 そう言ってレジイナに話しかけてきた小太りの男は肩に乗せていたネズミを腕をテーブルへ伸ばして降りるように誘導した。

 それに従い、中年男がビールを置くテーブルに降りたネズミはチューチューと鳴き声を上げながらレジイナを見上げた。

「おい、ゲビン。俺のテーブルに汚ねえドブネズミ乗せるなや、クソデブが」

「そう言うなよヤード。てめえの赤っ鼻を更に赤くしてやろうか?」

 そう睨み合いって言い合うジャドの元同僚である中年男のヤード、そして小太りのゲビンを横目で見ながらトゲトゲはレジイナの頬をツンツンと突いた。

「おい、ギンパツじゃねえのか? このネズミ」

 レジイナはトゲトゲのその言葉に目を見張ってから恐る恐る両手をネズミに差し出した。

「か、カルビィン……?」

 そう問われたネズミはレジイナの両手に乗り、コクッと頷いた。

「あ、ああ……。よか、良かった……!」

 ハラハラと涙を流して喜ぶレジイナの後ろでジャドとウィルグルもホッと胸を撫で下ろした。

 その時、この店のオーナーであろう無精髭を生やした男は騒ぐ六人に奥の個室を使えと乱暴に誘導した。

「助かる」

 そう言ってジャドはオーナーの横を通り過ぎる時に、その手に数万イェンの金を握らせ、これである程度は時間を貰えるだろうと思いながらジャドは次にどう動こうかと考えていた。

 個室に着いてすぐにカルビィンはウィルグルから荷物を受け取って服を着た。

「普通に考えて裸で人間に戻れねえし、携帯ないわって気付いてよ。店に潜入してどいつが信用できる奴か観察しようとした時にたまたま知り合いがいて助かったわ」

 そう言ってカルビィンはゲビンの肩に腕を回した。

「知り合いねえ。一度は俺を殺そうとした補佐殿がよく言う」

 パッと腕を乱暴に払ったゲビンにカルビィンは「おいおい、本気でそう思ってんのか?」と、肩をすくめた。

「殺そうとしたんじゃねえ、逃したんだろ?」

 以前、タレンティポリスとして働いていた元同僚であるゲビンにカルビィンはそう言いながら当時のことを思い出していた。

 長年働いていれば過ちを犯す同僚はどうしても出てきてしまうのがこの仕事。

 補佐という立場を使ってカルビィンはゲビンを殺すふりをしながら上手いことアサランド国に逃していた。

「それは結果論だろ? まあ、これで貸し借りなしだ。俺は帰る」

「待て待て、協力しろ」

 そう言って個室から出ようとするゲビンの首根っこをカルビィンは掴んだ。

「もう俺には用はねえだろ! それにあいつらが来る前に逃げねえと今度こそ殺される!」

「グズッ……。あいつら?」

 やっと泣き止んだレジイナは目を潤ませながらそう言ってカルビィンに目をやった。

 ちくしょう可愛い、抱きてえ。

 自身の身に危険が及んだのではないかと心配して泣いたレジイナにそうときめきながら、カルビィンは顔に出さずに説明し始めた。

「ゲビンの携帯からザルベーグ国に連絡を入れさせた。俺たち四人じゃ状況も掴めねえし、今までの敵とは比べもんにならないぐらい強いと考えて応援を頼んだんだ」

「俺も呼ぼう。ここからワープ国は近いから、

早ければ数時間で着くだろう」

 そう言ってジャドは携帯から自国のワープ国へ連絡を取り始めた。

「ん? ワープ国が近いから早く着くのは分かるけど、ザルベーグ国からここは結構距離があるから、応援が着くのは早くても夜になるんじゃない?」

 今だにワーワーと離せと騒ぐゲビンに目をやったレジイナにウィルグルも同意するように頷いた。

「いや、あいつならもうすぐ来るだろうな」

「あいつって誰だよ」

「そんなすぐ来れる人なんているの?」

 ウィルグルとレジイナがそう言って首を傾げた時、バンッと勢いよく部屋の扉が開いた。

「やあやあ、皆さん生きてて何より」

 ニヤッと笑いながらそう言って扉を開けた男は部屋の中を見渡しながら中へと進んできた。

「……ヴァンス・ホセ補佐?」

 そう言ってレジイナは男に話かけた。

 以前、ザルベーグ国での会議に出席しており、会ったことがあるヴァンスの元へと歩み寄った。

「おお、その桃色の髪はしゅんりか。大きくなったなあ」

 そう言って胸へと目線を移し、相変わらずいやらしい目で見てくるヴァンスにレジイナは片眉を上げながら「相変わらずいやらしい笑顔を浮かべていらっしゃいますね。お爺さまにそっくりだこと」と、嫌味を言った。

 ヴァンス・ホセはレジイナの倍力化のグレード3の昇格試験を担当したベニート総括の孫であり、かつてレジイナが訓練していた時、からかってきた人物であった。

「なんだ、知り合いか」

 カルビィンはそう言いながらレジイナの前に立ち、ヴァンスから隠すように自身の背に誘導した。

「……へえ、ふーん」

 レジイナを庇うように動くカルビィンに面白いおもちゃを見つけたかのようにヴァンスは口角を上げた。

「応援はヴァンス補佐だけ?」

 カルビィンの背から顔だけひょこっと出し、自身だけが来たのかと聞いてきたレジイナの一言にヴァンスは一瞬ムッとしつつ、額に浮かんでいた汗を甲で拭った。

「こんなマッハで走って来れる奴そうそういねえよ。後で俺の部下三人も来る。俺程速くねえが、倍力化を極めた奴らだからもうあと一時間で着くだろよ。あと俺はもう補佐じゃねえよ。総括だ、総括」

 倍力化の力で急いで走って来たと言うヴァンス総括にすごいなと驚く一同に反面、レジイナは「え、総括になったの……」と、嫌な予感がした。

「……爺ちゃんは死んだ。だから補佐だった俺がそのまま総括になった。そんだけだよ」

 先程までニヤニヤと笑っていたヴァンスがスッと笑顔を無くしたのを見てレジイナは顔を俯かせた。

 自身の倍力化の試験を受けてくれ、乱暴であったが、試験の最中に優しく頭を撫でてくれたベニート総括のことを思い出してレジイナは悲しい気持ちになった。

「そんな顔しなさんな。あんな無茶苦茶やってたくせに、爺ちゃんはベッドの上で安らかに死んだんだ。老衰だとよ」

「ふんっ、あんだけ殺しといて老衰かよ」

 ヤードがそう言ったのを横目で見ながらヴァンス総括は確かになそうだよなと、思いながら悲しそうに笑った。

「おいおい、お前さんら久しぶりの再会にウキウキしてんのはいいが、これからどうするか考えないとだろ」

 最年長であるジャドの言葉に一同、顔を引き締めた時、同じく最年長であるヤードがヒューと口笛を吹いた。

「流石だなジャド・ベルナール総括」

 そう茶化すヤードの背後に移動し、ジャドは腕を首に回してグッと締め、ヘッドロックをかけた。

「レジイナ、カルビィン。敵は何人いたと思う?」

「ちょ、ジャド、わ、悪かったって……!」

 ジャドの腕を叩いて降参するヤードを横目で見ながらカルビィンはジャドに返事した。

「攻撃してたのは一人じゃねえか?」

「ぐっ、苦しい、わかっ、勝手に喋ったこと謝る……!」

「他に敵がいたかもしれないけど、それを探る余裕はなかったよね」

「ぐっ、がはっ! た、たのむ……!」

 どんどんと顔を青くするヤードを見かねたのか、ウィルグルがジャドの腕をポンッと軽く叩き、「それぐらいにしとけよ」と、言って腕を解かせた。

「カハッ、カハッ! 助かったよ、そばかすの兄ちゃん……」

「まあ、貴重な戦力を一人でも減らしたくねえからよ」

 そうサラッと言ったウィルグルにヤードはヒュッと喉を鳴らした。

「お、俺は協力しやんぞ……」

「え? 聞こえねえな」

 そうあっけらかんに言ったウィルグルは小人にを出してツルを出し、ヤードと密かに逃げようとコソコソしてたゲビンを拘束した。

「これで俺らの勢力は十人だな」

「なっ!?」

「頼む、まだ死にたくねええええ!」

 そう嘆く二人を無視してレジイナはハッと顔を上げて近くにいるカルビィンの服の裾をグイッと引っ張った。

「ん? どした」

 そう返事したカルビィンにレジイナは切羽詰まった顔で「ブラッドの安否を確認しなきゃ!」と、声を上げた。

「確かにあいつも危ねえな」

 そうジャドも同意し、カルビィンは急いでブラッドに電話をかけた。

「ああ、あの兄ちゃんな」

 拘束されたままのヤードはそう言って窓からまだ明るい昼間の光景を見て、「今は繋がらんかもな」と、カルビィンに声をかけた。

「確かに繋がらねえな。でも、なんでだ」

「おや? 知らねえのか」

 驚いた顔をするヤードにジャドとウィルグル、そしてレジイナとカルビィンも確かに昼間はいつも用事があると言い、ブラッドは顔を出したことはなかったなと思い出した。

「兄ちゃん、毎日昼間は妹ちゃんの見舞いに行ってるんだ。だから逆に安心じゃねえか? 昼間は人の多い病院にいるんだからよ」

 そう他人のプライベートを簡単に喋るヤードに一同いい顔をしない中、レジイナは以前キキッグの町でチューリップの花束を片手に病院へと向かって行ったブラッドのことを思い出していた。

 それで金が必要だったのかと四人が顔を俯かせた時、ヴァンス総括は顎に手を当てながら考えていた。

「ヴァンス、どうした」

「いや、カルビィン。何か引っ掛かる気がしてよ……」

 かつては補佐同士であった為、それなりの仲であるヴァンス総括に声をかけたカルビィンも少し考え、嫌な考えに辿り着いた。

 そして多分、同じ考えに至っただろうヴァンス総括はカルビィンを真剣な顔で見合わせた。

「カルビィン、言ってもいいか?」

「待て、俺だけに言え」

 そうチラッとレジイナに目配りしたのを気付いてヴァンス総括は溜め息を付いた。

 しゅんりはここでも大切にされてんだな。

 会議での出来事を思い出しながらそう思ったヴァンス総括は真剣な眼差しでジャドを見た。

「そのブラッドという男。あんたら暗殺部の情報を売ったという可能性はないか?」

「おい、ヴァンス!」

 そう詰め寄ってくるカルビィンにしっしっと手を払いながらヴァンス総括はジャドに再度問うた。

「泣き虫しゅんりのことを考えてる余裕はねえよ。おいジャド坊、可能性はあるのか、ないのか、どっちだ」

 年下のヴァンス総括に"ジャド坊"と故人であるベニート総括と同じ呼び方をされて片眉を上げつつ、ジャドは少し考えてから「ゼロではない」と、返答した。

「ゼロだよ、ゼロ! ありえない!」

「しゅんり、黙れ」

「カハッ……!」

 ヴァンス総括はテレポートしたかと思われる程の速さでレジイナの前に移動し、その腹に拳を一発お見舞いした。

「いいか、今は一刻も争う。いつもみたいに可愛い可愛いされる時間はないと思えよ」

 いつもニヤニヤと人をからかうように笑っていたヴァンス総括から想像できないぐらい冷酷な顔つきをするその様子に痛みに膝を付いて顔を歪め、レジイナはヴァンス総括を睨み付けた。

「ヴァンス、やりすぎだろそれは」

「カルビィン、お前も黙れ」

 ヴァンス総括の圧と正論にカルビィンも口を閉ざし、レジイナの肩を抱きながらゆっくりと立たせた。

「ヴァンス総括は暗殺部の新しいアジトの場所、またかつての場所を知り、今日引っ越す予定だったことを知っている人物が俺ら暗殺部以外にブラッドしかいないって言いたいのか?」

 そうウィルグルが質問した問いにヴァンス総括は「そうだ」と、返事した。

「だからってブラッドが犯人だなんて決まっ……!」

 そう反論しようとしたレジイナの口をカルビィンは手を当て、再びヴァンスによる暴力による制止と話を拗らさせないようにさせた。

「いいか、今は大人しくしろ。俺たちもお前と同じ気持ちだから」

 カルビィンにそう諭され、レジイナは歯を食い縛りながら言いたい言葉を飲み込んだ。

「ふんっ。甘ちゃんになったあ、カルビィン?」

「どうとでも言え。で、ブラッドとの接触は早急にすべきだと俺は考えるがどうだ?」

 この場にいる者の顔を見渡しながらそう質問するカルビィンに一同頷いた。

「賛成だ。じゃあ二手に分かれるか。地面を叩き割ってきた奴を殺す班と、ブラッドを探す班だ」

 ジャドはそう提案し、顎に手を当てて班分けはどうしようか考えた。

「まず、レジイナと俺は分けよう。小人の方が移動速度は速いし、トゲトゲは特に早いから連絡手段は取っといた方がいい」

 ウィルグルの案にジャドは頷いた。

「そうだな。レジイナは狼の嗅覚でブラッドを探せるだろうから、ブラッドを探す班にしよう」

「ブラッドという男を探すのに人員を割く必要がある程、そいつは強いか?」

 そうブラッドの異能について聞くヴァンスにカルビィンは「あいつは魅惑化の異能に長けているが、個人的には戦力はない」と、カルビィンは説明した。

「魅惑化か……。厄介だな、それにコントロールさせられたら終わりだ」

「それならレジイナと同行するのは俺にする。俺なら遠距離からの攻撃はできるし、レジイナに付いてる小人は優秀だからなんとかなるだろう。ブラッドを探すのは俺とレジイナで事足りる。後は地面割り男を殺すのに全力を尽くして欲しい」

 そう提案したジャドにレジイナが目を向けると、ジャドはウィンクをした。

 レジイナはそんなジャドに「ブラッドは裏切ってない、俺に任せろ」と、言われているようで張り詰めていた息をフッと抜いた。

 そんなレジイナの様子にウィルグルとカルビィンもホッとしたところで、早速ジャドとレジイナ二人は居酒屋から出てキキッグにある病院に向かった。

「地面割り男、どうやって探して殺すんだろ」

 レジイナは再び狼に獣化し、背にジャドを乗せて走りながら下水道の中を走っていた。

「今はブラッドを見つけて保護することだけ考えろ。ブラッドに探させればいい」

 そうブラッドが裏切ってないと断言しているかのように返事したジャドにレジイナは嬉しく思いながら、四足歩行で全力で走り続けるのだった。

 

 

 

 ——人って、死ぬとこんなに冷たかったんだな。

 ブラッドは白い部屋の中で冷たくなった妹であるアイラの頬をスッと優しく撫でながら涙をポロッと一筋流した。

「よお。連絡したんだから出ろよ」

 ブラッドは背後からそう声をかけてきた人物に内ポケットに直していた銃を手に取り、銃口を向けた。

「おうおう、病院でそんな物騒なもん出すなよ」

 武強化と倍力化を持つ大男はそう言いながら、両手を上げて降参のポーズをとった。そんなことしなくても力で簡単にねじ伏せれるくせにそんな行動を取る大男にブラッドは額に血管を浮かせて怒り、そして涙で濡れた目で睨みつけた。

「ヒュー。イケメンはどんな表情をしても様になるねえ。でもお前がそんなにキレる資格があるのかねえ?」

 ヒュッと一瞬でブラッドの前に移動した大男はブラッドの手から銃を取り上げ、そして丁寧にスーツのポケットに直した。

「おら、あんたが手懐けてたあの姉ちゃんの形見の銃なんだ。俺に向けて壊されたくないだろ?」

 ポンッとポケットの上から銃を軽く叩いた大男を睨み続けていたブラッドは口を大きく開けて怒鳴りつけた。

「何が形見だっ! お前が三人を殺したんだ! そして、アイラも、アイラもお前があっ!」

 ブラッドは手を握り締め、大男の胸を何度も殴りつけた。

 堅いも良く、倍力化も持つ大男はそんなブラッドの攻撃が少しも効く訳もなく、涼しい顔でブラッドの攻撃を受けながら大男は溜め息をついた。

「妹ちゃんが死んだのは俺のせいか……。それはお門違いじゃねえの?」

「ふざけんなあっ!」

 そう叫んで、次は大男の顔に目掛けて拳を向けてきたブラッドの胸元を大男は片手で掴んで、病室の床に叩きつけた。

「そう声を上げんなよ。ここは病院だぜえ? それに騙されてお仲間さんの情報を売ったてめえがそう被害者ぶるのは間違いじゃねえのか?」

「くっ……!」

 胸元を締め付けられて苦しむブラッドの服は乱れ、ワイシャツが肌けた見えた左胸にはサソリに羽が生えたタトゥーが刻まれていた——。

 

 

 

 一週間前。

 ブラッドは大男に殺されると覚悟し、妹が一日でも安らかに生きて欲しいと神に祈ったあの夜。目の前にいた大男はブラッドを殺す事なく、ある提案をした。

 それは妹のアイラの病気を治す薬を提供する代わりにエアオールベルンクズの仲間になれとのことだった。

 今ここで断ればブラッドは自身が殺されることは理解していたし、四大国から支払われている金より倍以上支払われることを大男に約束された。

 何よりブラッドが欲しかったのはアイラの治療薬。

 どんな最新の技術を施しても治らなかったアイラの病気が治る薬など、喉から手を出しても欲しかったものだった。ブラッドはその場でエアオールベルングズに入るしか選択はなかった。

 今まで情報を売ってきた敵のシンボルであるタトゥーを胸元に刻み、今まで通りに暗殺部の元へ通って情報を手に入れ、エアオールベルングズの中心人物だと言い張る大男に情報を流していた。目的を聞かされていないブラッドであったが、せめて四人を殺さないよう言い、そして結果どうだったかなんて聞きたくもないとも言っていた。

 しかし仲間を裏切り、胸がキリキリと痛ませながら一週間過ごしたブラッドに訪れたのはなんとも最悪な結果だった。

 アイラの病気を治す薬なんて嘘っぱちであり、元々衰弱してきていたアイラは遂に亡くなってしまった。それに加えてブラッドは仲間を裏切って情報を流し、四人の命を危険に晒しただけだった。

 あんな幸せを感じた日々はもう戻ってくることはない。ただただ、今後待ち受けるのは地獄な日々だけだろう。

 アイラの死体を目の前にしてそう絶望していた所に大男はブラッドの前にやって来たのだった。

 

 

 

「なんの騒ぎですか?」

 バタバタと走ってやってきた看護師に大男はブラッドを抱き上げ、ポンポンと背中を叩いて見せた。

「いや、最愛の妹を亡くして錯乱する友人を慰めていただけです。お騒がして申し訳ない」

「そうだったんですね……。アイラちゃん、残念でしたね」

 そう悲しそうな顔をして看護師はアイラの死体に優しく布団をかけ直した。

「アイラちゃん、お兄ちゃんに会えるお昼の時間を毎日楽しみにしてて、私のお兄ちゃんは世界一かっこよくて優しいのって皆に自慢してましたよ。本当にアイラちゃん、幸せだったと思います」

 そう話す看護師にブラッドはその場で膝をつき、顔を覆って泣き始めた。看護師はそんなブラッドの背中をゆっくりと摩った。

 そんな慰めを受けてもブラッドは暫く泣き続けることしか出来なかった。

 

 

 

 夕暮れ。

 オレンジ色に染まるキキッグにたどり着いたレジイナとジャドはブラッドの妹が入院しているだろう病院の裏にあるマンホールから地上に出た。

「ここがブラッドの妹が入院している病院か?」

「そうだと思う」

 そう言ってからレジイナは既に獣化を解いていた自身の鼻だけを再び獣化させて、クンクンと周辺を臭った。

「うーん、ここら辺なんか変わった匂いするから難しい……」

 ツーンとする薬品の匂いや人間が集まって色々な体臭が集まる病院の周辺ではレジイナの鼻は役に立たなかった。

「ブラッドの家に朝いただろ。その方向まで少し離れよう」

 ジャドの案にレジイナは頷き、病院から少し離れた場所からブラッドの匂いを探した。

 裏路地で地面に鼻を近づけてクンクンと嗅ぎながらレジイナはゆっくりだったが、確実にブラッドの元へと近付いていった。

「むむ、ブラッドの匂いが濃くなってきた」

「てことはブラッドがさっきここを通ったってことか?」

「そうなるね。ジャド」

「分かった」

 ジャドはそう頷いてからレジイナと距離を取ってすぐに銃を取り出せるように後ろから見守ることにした。

 万が一、そう万が一だ。

 ブラッドが裏切っていた時の為にジャドは遠くから待機する作戦になっていた。

 ブラッドの体臭と香水が混じった匂いを嗅ぎながらレジイナは履いているパンプスのヒールをコツコツと鳴らしながらブラッドに向かって歩いていった。

 そして、人気のないある場所に着いた。

「よお。こんなとこまで来て、なんの用だ?」

 ブラッドは振り返ることなくレジイナにそう声をかけた。

 いつもシャキッとしているブラッドの背は夕日に照らされながら悲壮な雰囲気が漂っており、そんなブラッドの目の前にある十字架の石に刻まれている文字を読んでレジイナはハッと息を呑んだ。

「ハハッ、死んだんだ……」

 レジイナにそう言いながらブラッドはゆっくりと顔だけ振り返り、涙を流しながら悲しそうに笑っていた。悲しみにくれながら涙を流すブラッドの横顔は夕日に照らされ、とても綺麗だった。

「……今日、お葬式だったの?」

 だから連絡が取れなかったのか……。

 そう考えながらレジイナは墓石を見下ろすブラッドの隣に移動した。

「葬式なんてほど立派なもんではなかったが、そうだな、ちゃんと埋葬はしてやれたよ」

 フワッと二人の間に風が吹き、墓地に咲いていたチューリップがサワサワと音を立てながら揺れた。

「妹が、アイラが亡くなったらここに入れてやろうって元々、考えていたんだ。あいつは花が好きで、特に春に咲くチューリップを好んでた」

「そう……」

 レジイナはそんな悲しみに暮れるブラッドの背に手をやり、ゆっくりと摩った。

「……お前、優しいな」

「そんなことないよ。ブラッドの方が優しい。私、知ってるよ」

 レジイナはブラッドと出会った日から今日までのことを思い出していた。

 最初はなにかと嫌味を言ってきたり、自身を見捨てることもあったブラッドであったが、仲を深めるに連れてブラッドの優しさにレジイナは気付いていた。

「お裁縫とか出来て面倒見がいいし、周りに気配りできるでしょ? あと紳士的なとこがあるし、仲間思いなところもある。結構おしゃべり好きだし、寂しがりやなところあるからさ、相手に寄り添えるよね。それと……」

 指を一つずつ折って自身のいい所を言って慰めてくれるレジイナにブラッドは罪悪感から胸を痛め、ぎゅっと左胸の所を掴んだ。

「どうしたの? 胸が痛いの?」

 まだ使いこなせてはいないが、何か異常がないか療治化を使おうとしたレジイナの右手をブラッドは胸から手を離した左手でそっと掴み、指を絡めて握りしめた。

「ぶ、ブラッド……?」

 そんなブラッドの骨張った大きな手に握りしめられて頬を軽く染めるレジイナにブラッドはフッと笑ってから手を解き、一歩後ろに下がって距離をとった。そしてブラッドはネクタイを解き、ワイシャツのボタンを三つ外して左胸を大きく開けた。

「なっ、なんでっ……!」

 そこにはエアオールベンクズであることを示すサソリに羽が生えたタトゥーが刻まれていた。

「レジイナ、俺と賭けをしないか?」

 サーっと風が吹いて甘い香りが漂う中、ブラッドはレジイナにそう声をかけてから、ポケットに直していた銃を取り出してレジイナの手に握らせた。

「か、賭け……?」

「おう、賭け」

 そう頷いてからブラッドは「お前が勝てばこいつの情報を売る」と、自身の胸元に刻まれているタトゥーを親指で差しながら賭けの内容を伝えた。

「い、意味が分からない!」

「知りたくないか? 俺がなんでお前らを裏切ったのか」

 知りたい。でも、知りたくないともレジイナは思っていた。

 フルフルと二人で震えながらレジイナはブラッドに渡された銃に目を移した。

「銃弾は一発。いつものやつだ、ルールは分かってんだろ? 三歩進んで振り返ってからが勝負だ」

 そう言ってレジイナの返事を待つことなくブラッドは背を向けた。

 まさか水鉄砲でいつもやり合っている賭けを本当の銃弾ですることになるなんて思ってなかったレジイナは戸惑いながらも、何故かブラッドの言う通りに自身も背を向けていた。

「一」

 ザッと背後でブラッドの足跡を聞いてレジイナもゆっくりと一歩、前に進み出た。

「に、に……」

 カタカタと震える体を鼓舞しながらレジイナは"二"とカウントした。

「三」

「さ、さんっ……!」

 二人で同時にそう言って振り返る。

 そしてレジイナは引き金に手を当てながらブラッドを見た。

 そこには夕日に照らされながら悲しそうに微笑むブラッドの綺麗な顔があった。

 ああ、もう撃つしかないのか……。

 レジイナはブラッドのその笑顔に「頼む、殺してくれ」と、言われているような気がした。

 バーンッとブラッドから渡された銃から発砲音がするとともに、レジイナの左胸にベチャッと水がかかった。

 見事にブラッドの左胸にはレジイナが発砲した銃弾が当たり、レジイナはブラッドが発砲した水鉄砲の水が当たっていた。

 レジイナは安心した顔でフラッと後ろに倒れるブラッドと自身の水で濡れた左胸を交互に見てから、急いでブラッドの元へと駆け寄ってその場に座った。

「ブラッド、バカなの……?」

 元から自身を殺す気なんてなかったブラッドにそうレジイナは悪態を付き、涙を流しながら自身の膝にブラッドの頭を乗せた。

「てめえにバカ呼ばわりされるなんて、俺も落ちたな……」

 ハハッと笑ってからブラッドは震える手でレジイナの左頬を撫でた。

「初めて惚れた女に殺されるなんて、俺はなんてバカで幸せもんなんだろうな……」

 そう告白されたレジイナは更に顔を歪めて涙をポロポロと流した。その涙はブラッドの頬に落ち、まるでブラッドも泣いているようだった。

「……いいか、俺から、はっ、最後の情報だ。カハッ……!」

「ブラッド!」

 口からドボッと血を吐くブラッドにレジイナは名前を呼びかけたが、ブラッドはそれには返事をせずにレジイナにとある情報を伝えた。

「なっ!」

 目を見開き驚くレジイナに再びブラッドは残っていた力を振り絞ってレジイナの唇に親指で触れた。

「レジイナ好きだ、愛している……。すま、なかっ……」

 ブラッドは謝罪の言葉を言い切る間もなく、バタッと手の力がなくなり、地面に腕を落として、そのまま息を引き取った。

「いやあああっ! ブラッド、ブラッドオオオオ! なんでえええっ……!」

 ブラッドを抱きしめて金切り声を上げながら泣き叫ぶレジイナの元にジャドはゆっくりと近付いて行った。

「レジイナ……」

 遠くで全て見ていたジャドは二人の横に片膝をついてしゃがみ込み、レジイナ肩をポンッと優しく置いた。

「ブラッドを、ブラッドを、わ、私がころっ、殺しちゃった……!」

「ああ、見てた。仕方なかった」

 エアオールベルンクズに落ちたブラッドをレジイナが銃で撃ち抜く様子を思い出し、唇を噛むジャドと泣き叫ぶレジイナの元に近くで見守っていたトゲトゲがふわふわと飛びながら近寄り、声をかけてきた。

「ご主人様、ホストどうする? オレ様がクオウか?」

「ブラッドを、食べる……」

 レジイナはトゲトゲの提案を聞いてウィルグルの小人の中にいるカナリアのことを思い出した。

 それは魂だけだがブラッドを生き返らせれる手段の一つだった。

 しかしレジイナは迷った結果、顔を横にフルフルと振ってトゲトゲの提案には乗らなかった。

「ここにブラッドの妹が眠っている。一緒に眠らせてあげよう」

 そう言ってからレジイナは前腕を狼に獣化させて墓を掘り上げた。

 そして"アイラ・リードン"と刻まれている棺を見つけ、その横を更に掘ってそこにブラッドを寝かせた。そしてそれを横で見ていたジャドはそっとブラッドに近寄って開かされたままの瞼を閉じてやった。

 そして、掘り起こした土をブラッドとアイラにかけてレジイナとジャドは二人を埋葬した。それを終えてレジイナは血と砂に塗れた体のままふらふらと歩き出した。

「おい、待て。どこに行く?」

 ジャドはレジイナの腕を掴んでその歩みを制した。

「……ウィンドリン国」

「はあ? いきなり……」

 そこまで言いかけてジャドはまさか、と声を出した。

「ブラッド、敵がなんで私達を錯乱させようとしたか調べてたらしいの。それはウィンドリン国を襲撃するためだって」

「俺達への攻撃は囮で、本命はそっちだったってことか?」

 コクッと頷いたレジイナにジャドはやられたなと苛立ちながら携帯を手にしてとある場所に連絡した。

「行くぞ」

「どこに?」

 レジイナを追い越して早足に歩くジャドに続きながらレジイナは質問した。

「喫茶店だ。あそこで俺のバイクと武器を調達してからウィンドリン国に向かうぞ」

 ウィンドリン国に一緒に向かって共闘してくれると言うジャドにレジイナは「ありがとう」と、小声で返事し、急いで喫茶店に向かうことにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る