例のカジノがあるアサランド国の一番栄えている都市、ブルース市。レジイナがかつて他国と協力して任務をし、人間の前で異能を使って日本へ逃げることになったブルースホテルがある街にカルビィンとレジイナはタクシーに乗って向かっていた。

 タクシーから見える街並みを見ながらレジイナはあの日の事を思い出しながら顔を歪めた。

「懐かしいもんだな」

 同じくその場におり、事情もある程度知っているカルビィンは顔を歪めて外を見るレジイナに声をかけた。

「本当にね。嫌になる」

 自分の人生を変えさせたと言ってもいいあの日のことを嫌になると言ったレジイナにカルビィンは「そうか」と、短い返事した。

「"キャサリン"そろそろ着くぞ」

 カルビィンはレジイナをキャサリンと偽名で呼んで、見えてきたカジノを顎で指して降りる準備をするよう声をかけた。

「分かったわ、"トム"」

 レジイナも同じくカルビィンをトムと偽名で呼んでパーティバックから金を出した。

「釣りはいらないわ」

 多めに金を出し、レジイナはタクシーから出て後から出てきたカルビィンの腕に自身の腕を絡めた。

「行くわよ、ダーリン」

「ああ、行こうかハニー」

 いつもの汚らしい言葉使いから二人は出来るだけ上品に喋ろうと努力し、カップルとしてカジノに潜入した。

「ようこそ」

 カルビィンとレジイナは店員にそう向かい入れられ、扉を開けてもらった。

「ありがと」

 レジイナは微笑みながら店員の顔を見た。そんなレジイナの笑顔にほんのりと顔を赤らめながらいやらしい手つきでボディチェックをしてくる店員にレジイナは心の中で舌打ちをした。そしてカルビィンも無事にボディチェックが終わってレジイナはコートを預けてから店内に足を踏み入れた。

「ていうか私、カジノとか来たことないんだけど、何をすればいいの?」

 そもそもどう振る舞えばいいかなんて考えて来なかったレジイナは小声でカルビィンに話しかけた。

「奇遇だな。俺も分かんねえ」

 そう言ったカルビィンとレジイナはお互い顔を見合わせてからハハッと笑った。

「もう、トムったらおバカさんね」

「ハッハッ、それはキャサリンもだろ?」

 会場のど真ん中で二人は笑い合い、そして睨み合った。

「私があんなにも頑張ってあれこれしてたんだから考えてきなさいよ」

「俺に教養なんてもんある訳ねえんだから、てめえが考えて来いよ」

 小声で言い合う二人を周りの客が「なんだ、痴話喧嘩か?」などとクスクスと笑い始めた時、テーブルに着いて現在進行形でゲームをしていたふくよかな男性が二人に話しかけた。

「おいおい。喧嘩してんならその姉ちゃん、貸してくれよ」

 ビール片手にそう言ってきた男はちょうどルーレットをしており、大量のチップがテーブルに積まれていた。

「残念だが、俺の女を貸す予定はない」

 グイッと腰を抱いてそう言ったカルビィンをレジイナは軽く睨みながら演技しなければ、と思ってそのまま我慢した。

「じゃあ、その胸を揉ませてくれたらこのチップやろう」

 勝負に勝って調子に乗っているのだろう、男は下衆い条件を出して十枚積み上げられたチップを二人に差し出してきた。そんな男にレジイナは少し考えた後、カルビィンの手を振り払って男の手を掴んだ。

「ん?」

「はい、もみもみ」

 レジイナは驚くことにその男の条件通りに自身の胸を揉ませてやったのだった。

「これでいいかしら?」

 こてんと首を傾げて男を見たレジイナにカルビィンは口を開けて驚いた。

 俺が触ったときはガチギレだったじゃねえか……。

 精神的にも強くなったレジイナの大胆な行動に男はガハハッ、と笑ってレジイナに十枚のチップをレジイナに渡した。その際、自身の青色のチップとは違う赤色のチップに変えてもらうようディーラーに頼んだ。

「ねえ、ルール教えて」

 レジイナは驚いて突っ立ったままのカルビィンの手を引いて男の隣に座った。

 ディーラーはレジイナに少し引き攣った顔をした後、真顔になってからルーレットのルールを説明した。

 難しくてカルビィンとレジイナにはよく分からなかったが、とにかくディーラーが投げた玉がどこに入るか予想すればいいらしい。

「俺らあんま金ないんだがら、負けたらすぐスロット行くぞ」

 小声でカルビィンはそう言い、レジイナにさっさとこの場を終わらせようと指示した。

「任せてよ。私、運良いのよ」

 違う解釈をしたレジイナにカルビィンは溜め息をつきながら自分はハエの操作に集中しようと頭を切り替えた。

 目をチラッとさせながら辺りを一瞬見る。

 ハエはあちこち飛んで客一人一人の服の中に入り、タトゥーがないか確認する。もしあればレジイナのバックにあるシャドウに足をつけ、その者の体のどこかに付けるのが今回の任務内容だ。

 知能がそこまで高くないことからその一つ一つの作業には時間がかかる。レジイナとカルビィンは少ない金でこの場に長く滞在できるかが重要になっているのだ。

「俺は一から十二に十枚賭ける。姉ちゃんはどうするんだい?」

「んー。手始めは赤のチップだし、赤にかけるわ」

 レジイナはチップ十枚を一気に赤に賭けた。

「おいおい、そんな面白くない賭け方するなよ。姉ちゃん、それ外したらゲーム終了じゃないか」

「それも運ですわ。おじ様を楽しめるようキャサリン、頑張りますから」

 ふふふ、と普段ではありえない笑い方をしてレジイナは「さあ、ルーレットを回して」とディーラーに指示を出した。

 ディーラーはレジイナの指示通り、玉をルーレットの中に滑り出してクルクルと回転させた。

「ドキドキする……」

 はじめてのカジノにレジイナは任務のことを忘れて心から楽しんでいた。

 たくっ、まだまだガキだな。

 そんなレジイナを面白くないと思いつつも、カルビィンは客としてちゃんと潜入出来たことにも安堵していた。

 玉は徐々に失速し、カランカランと音を立てて赤の三十に入った。

「オーマイガー」

「やった! 見て見てカ、いやトム!」

 レジイナへは思わずカルビィンと言ってしまいそうになったのをなんとか堪えて見事、赤に玉を入れれた喜びを伝えた。

 内心カルビィンも驚きつつも「ハニー、嬉しいのも分かるがはしたないぞ」と、レジイナに落ち着くよう諭した。

「あら、失敬。つい嬉しくて」

 ヤバいヤバいと思い、落ち着こうとしたレジイナの元にディーラーから二十枚のチップを渡された。

「二倍だね」

「二倍だな」

 こんな簡単に金が増えて行くことにアドレナリンが出てきた二人は次は何に賭けようか真剣な考えた。

「色、奇数か偶数、前半か後半の番号に賭ければ二倍だろ? そこを攻めるか」

「たしかに無難ね」

 少しずつ、そして時間をかけていこうとする二人に先程負けた男は「それじゃあ、面白くない」と、二人を煽った。

「姉ちゃんと兄ちゃんは小さいな。俺の金なんだ。もっと俺を楽しませててくれよ」

 グイッとビールを一気に飲み干し、男は山積みになったチップを二人に見して煽ってきた。そんな男に短気な二人はメラメラと男に闘争心を抱いた。

 やってやろうじゃねえか。

「じゃあ、三倍だ」

 先程、男が賭けたやり方と同じ様にしようとカルビィンはレジイナに提案した。

「オーケー」

 そう言ってレジイナは少し考えて十三から二十四までに玉が入るように十枚のチップを賭けた。

「俺は六点賭けだ」

 男は六個の数字内にどれか入れば勝ちという六点賭けをし、十枚のチップを三十一から三十六に入ると賭けた。

「では、ゲームスタート」

 ディーラーのその言葉と共に再び玉が転び始める。

「お、おっ!」

 カランカランと二十四のポケットと二十五のポケットで揺れる玉にカルビィンは興奮して声を上げた。そしてカラン、と音を立てて玉は二十四のポケットに見事入った。

「おお! 二連続とか姉ちゃんすごいな」

「わたくし、運良いの」

 以前、学校に潜入した際にテストを鉛筆を転がしてほとんど平均点以上出したレジイナは鼻高々にそう言ってのけた。

「わあ、もう四十枚だ」

 ちなみにこのチップは男がレート一枚千イェンで賭けており、既にレジイナとカルビィン二人はタダで四万イェンを手に入れたことになる。

「面白くねえな。次は赤に二十枚賭ける」

 あんなに煽ってきておいて二択の選択に賭けた男にレジイナは「おいおい」と、思いながら二十枚を、十一、十二、十四、十五の真ん中に置いて四点賭けをした。これが入れば九倍だ。

「よし! 赤の二十七だ!」

「そんなあ……」

 見事に男は二倍のチップ四十枚を手に入れ、レジイナ達は二十枚を損して手元には半分の二十枚しか残らなかった。

「まあ、初心者はそんなもんよ。潮時かー?」

 男のその言葉にレジイナはカチンとし、まさかの二点賭けの十九と二十の間に残りの二十枚を置いた。これが当たれば十九倍で返ってくるが、外れば終わりだ。

「おいおい」

 なにムキになってんだと、言いた気にカルビィンはレジイナの肩に手を置くがレジイナはそれを振り払って男を睨んだ。

「おもしれえ。じゃあ俺も二点賭けだ」

 そう言って男はレジイナと同じく二十枚を二と三の間に置いた。

「では、ゲームスタート」

 ディーラーが投げた玉をレジイナと男は目で追う。

「いけっ、そこだっ」

「まだ、回れ回れ!」

 男とレジイナが前のめりになり、ルーレットを見ながら声を上げる。カランカランと玉は見事にレジイナが賭けた十九のポケットに入っていった。

「よしっ、いや、やったですわ」

 いつも通りに声を上げてガッツポーズを取ろうとしたレジイナはその手をなんとか下げてお嬢様言葉を使ってその場を喜んだ。

 そんなレジイナの元に二十枚の十九倍のチップの山がやってきた。

「ちくしょう! 面白くない! 俺は全てを賭けるぞ!」

 そう言って男はテーブルにある全てのチップを黒に賭けた。

「なら私は一点賭けだ!」

 そう言ってレジイナはチップを全て七に賭けた。

「おまっ、ちょ!」

「ラッキーセブンよ」

 ピースしてニヤッと笑ったレジイナにカルビィンは頭を抱えた。

「おお、なんだ。なんだ」

「面白え、全部一点賭けかよ」

 ヒートアップする勝負に周りの客も集まり、注目の的になっていくこの場にカルビィンは冷や汗が出た。

 目立ってどうすんだ、バカ!

 大人しく、目立たず、そして長時間いることを目的としていたのにどんどんと目立ってきたレジイナにカルビィンはハラハラしていた。

「では、ゲームスタート」

 周りの客もハラハラする中、レジイナの頭の中はアドレナリンで溢れてきた。

 金、金、金が増えていくっ!

 カランカランと音を立てて徐々に失速していく玉。

「いけっ! 進め!」

「そこだ、そこに入れ!」

 玉が六と七の間で一瞬止まり、跳ねる。そしてそのまま追いかけるように玉が転がっていった。

「いよっしゃー!」

 そのまま玉はスポッと赤の七のポケットに入り、レジイナは声高々にガッツポーズをした。そんなレジイナの元には見事に三十六万イェン分のチップが千二百九十六万円分のチップへと増えていった。

「ちくしょう!」

 そしてチップ全てを黒に賭けた男はディーラーから全て取られていった。

「そろそろここから離れるぞ」

 見事に勝ったレジイナを周りの客が拍手をする中、カルビィンは小声でそうレジイナに指示した。

「あはは……。ごめん」

 ムキになって目立ってしまったレジイナはそう謝ってディーラーにゲームを終了することを告げた。

「待てよ! 勝ち逃げなんてないぜ、姉ちゃんっ」

 そんなレジイナを男はそう言って腕を掴んで制した。

「ええ……」

 倍力化を使って振り払いたい気持ちを抑え、レジイナはどうしたらいいのかカルビィンに目で訴えた。

「あー。いや、そうだな……」

 人の金で大勝ちし、そして貰った相手は大負けという気まずい事態にカルビィンも頭を悩ました。

「お客様。他のお客様に迷惑行為されるならご退場いただきます」

「な、やめろ!」

 堅いのいい強面の男二人に男は連れられ、カジノから強制退場されて行った。

「なんか、申し訳ないな……」

「いや、本当に悪いことしたね……」

 そんな男を見て二人は心を痛めながらその光景を眺めていた。

「お客様、少しお時間よろしいでしょうか?」

 一枚百万円の価値があるチップに交換してもらっていたレジイナとカルビィンの元に、高級そうなスーツを身に纏った中年の男性が後ろに黒いスーツの男を二人引き連れて二人の元に現れた。

 二人は顔を見合われた後、「ええ、ありますよ」と、カルビィンが困惑しつつもそう返事した。

「先程の勝負、お見事でした。とても胸躍る瞬間を見させていただき、お礼をしたく声をかけさせて貰ったのです」

「いや、そんな。逆に騒いでしまい申し訳なかったです」

 レジイナはそう言って謙遜しつつ、何が目的なのか勘繰りながらその男を見た。

「ああ、自己紹介が遅れました。私、ここのオーナーのダン•リーと申します」

 レジイナの勘繰る様な顔を見て男はそう言いながら名刺を渡してきた。そんなダンにレジイナとカルビィンは息を呑んだ。このカジノのオーナーはエアオーベルングズであり、今夜あるエアオーベルングズが集まっているだろうパーティを取り締まっている男だ。

 いきなりラスボスの登場かよ。

 こいつは絶対に殺らなければならないな……。

 オーナーであるダンの登場に戸惑い、二人はその場で固まってしまった。

「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ」

 二人の反応を見て、自身の登場に緊張させてしまったと勘違いしたダンは親しみやすそうな笑顔を浮かべた。

「ミスター•リー、すまなかった。こういうのに俺らは慣れてねえんだ。それで話ってなんだ?」

 このままダンに付いて行けばエアオーベルングズの集まり、裏カジノにまで到達できるのではと考えたカルビィンはダンの話を聞こうとした。

「実は今夜、私が選んだ方のみをお誘いしているパーティを開催してまして、あなた方お二人を誘いたくお声をかけさせてもらいました」

 小声でそう話した明らかに怪しいその誘いにレジイナはこれは裏カジノのことだなと、気付いた。

「あら、とても嬉しいお誘いだわ。ぜひ、行きたいわね」

「では、こちらへ」

 レジイナの言葉を聞いてダンはニコッと笑いながら二人を連れて"スタッフオンリー"と書かれたドアを開けて奥へ進んでいった。

「目立って正解ね」

「なに言ってんだボケ」

 小声でレジイナがそう言った言葉にカルビィンは同じく小声でそう返した。

 今回は上手くいったが下手したら敵に正体が知られていたのだ。

 できるだけ目立たないように獣化の能力を使っているものの、敵も異能者。いつバレてもおかしくない状況な為、少しも油断はできない。

「ねえ、ここは禁煙かしら?」

 レジイナはパーティバックからタバコを出して目の前を歩くダンに話しかけた。

「ハッハッ。レディ、喫煙可ですよ。どうぞ」

 そう言ってダンはタバコを吸うことを許可し、レジイナが口に咥えたタバコに自身のライターから火を出してつけてあげた。

「ありがとう」

 ウィンクしてお礼を言うレジイナにダンは「どういたしまして」と、言って目の前にあるドアに目をやった。

「ここです」

「パーティっつうのに静かだな」

 ドアの向こうから何も聞こえないカルビィンが素直に感想を漏らした。それにダンは「一部の方しかご案内しないルールのため、完全防音にしてるんです」と、答えた。

「では、よい夜を」

 ふーん、と思った二人にそうダンが言ったのを合図かのようにドアは開き、ドンっと二人は後ろにいた男に背中を勢いよく押された。

「なっ!」

「なにしやがんだ!」

 よろめきつつも部屋に進んで倒れずに済んだ二人が後ろを振り返ろうとしたとき、部屋の中にいた男二人に拘束された。

 その拘束を振り解こうとしたレジイナだったが、異能者であることを悟られないように一旦は大人しくし、状況を把握しようと周りを見渡した。

「な、なにこれ……」

 目の前に広がる光景にレジイナは目を張った。

 薄暗い部屋にはステージとソファが幾つか設置され、そしてテーブルもあった。しかし、どの者もソファに座ることなく床に直接座るか寝ており、獣の如く性行為、いや交尾をしていた。

 そしてテーブルの上や床には注射器が転がっており、一人の女性を複数人で犯していたり、男性はボコボコにリンチされて見せ物にされていた。

「ハハッ、パーティってそういうことかよ……」

 金のある者をパーティだと誘い、なにかしら薬を盛って無防備になったところで異能者が集って道具として遊ぶ場だったのだ。

 カジノに見事に勝った二人を金持ちだと勘違いしたダンがパーティに誘い、金を奪ってボロボロにして遊ぶ予定だったのだ。

「そうだぜ。恥ずかしいお写真とってやるから、バラされたくなかったら毎月、金をよこせよ、金持ちさん」

「安心してくれ。ちょっとチクッとしたらすぐに気持ち良くなれるからな」

 注射器を持って刺してこようとしてくる男に抵抗しようとするカルビィンを見て、レジイナは口に咥えているタバコの煙をふーっと大きく吐いてこちらに注目させたした。

「トム」

 目で「任せて」と、真っ直ぐ見てくるレジイナにカルビィンは覚悟を決めて目を瞑った。

 わかったよ、てめえに任せるからな!

「はーい、チクッとしまーす」

 予想外に大人しく受け入れる二人に一瞬、戸惑いつつも男は二人の腕に注射器の針を刺した。

 それを見てレジイナは薄らと煙で輪っかを作り、自身とカルビィンの腕を締めて薬液が体に回らないように駆血した。そしてレジイナは意識を失ったフリをしてガクッと力を抜いてその場に倒れ、それを見たカルビィンもレジイナと同様にその場にわざと倒れ込んだ。

「へへっ、これすげえ速攻性あんな」

「飲む媚薬を体に直接刺してんだ。そりゃあすげえことなんぜ」

 そう言うことかとレジイナは思いながら、うつ伏せになって敵に見えないようにやっと最近使えるようになってきた療治化を使用して、注射された場所に手を当てて薬液を取り出した。

 よし、次はカルビィンだ。

 レジイナは「俺が巨乳をやるんだ」、「いや俺だ」と、揉める二人の目を盗んで先程と同じように療治化を使ってカルビィンの腕から薬液を取り出す事に成功した。

「いや、まずは二人が獣のようにヤッてるとこを写真に納めてから犯そうぜ」

「だな。その後、こいつの前で女を犯そうぜ」

 そう決めた男二人はまだ気を失ったフリをするレジイナとカルビィンを近くにあるソファにどさっと座らせた。

「目が醒めるまで時間かかるだろ。他の奴で遊ぼうぜ」

 そう言ってから二人の側から離れる男二人、そして周りにいる者との距離をレジイナは倍力化で聴力を高めて聞きながら測った。

 一番近くて十メートル程先に女と男二人。

 女性の方が一方的に犯されてる感じね……。

 女の悲鳴に近い喘ぎ声を聴きながら、心を痛めたレジイナは薄らと目を開けて横でお互いもたれるように体を預け合っているカルビィンを見た。

 同じくカルビィンも薄らと目を開けてレジイナを見ていた。カルビィンに意識がある事に安心したレジイナだったが次の瞬間、レジイナはカルビィンによって押し倒されてしまった。

 まさか失敗したか!

 カルビィンが媚薬に侵されてしまったと思ったレジイナは右手から療治化のオーラを出し、カルビィンから薬液を急いで取り出そうとした。

「俺は正気だ。それを収めろ」

 耳元でカルビィンはそう言ってレジイナの右手を押さえた。

「いいか、今この会場にいるやつの判別を急いでしてる。分かるか?」

 レジイナはチラッと辺りを見渡し、会場の右半分にいる者に育緑化しか見えない仄かな光が灯っているのに気付いた。レジイナは自身に覆いかぶさって至近距離にあるカルビィンの顔を見て小さく頷いた。

「全て判別できたら俺は服を脱ぐ。それを合図に敵を殺せ。俺は人間の保護にあたる。それまで俺としてる演技しろ」

 そう言ってカルビィンはゆっくりと時間をかけてレジイナの長い丈のワンピースを捲っていった。

「フリってどうすれば……」

 性行為を行ったことないレジイナはそう戸惑いながらカルビィンを見た。

「適当に喘いでおけ」

 そう言われてレジイナは恥ずかしい気持ちを抑え、「あ、あー」と、棒読みの喘ぎ声を上げた。

 下手すぎて勃つもんも勃たねえ……。

 そう呆れながらカルビィンはゆっくりとスカートを捲り終わってから、レジイナの体全体を隠すように抱きしめた。

「銃、取り出せるか?」

「う、無理そう……」

 行為を始めたな、と気付いた敵一人が二人に近付いてきており、その敵に気付かれずに銃を取り出すのはこの体制では難しいとレジイナは判断した。

「じゃあ、俺が出すぞ」

「んっ、んあっ……」

 そう言ってカルビィンはレジイナの胸に手をやって少し揉んでから谷間に手を入れた。

「背中に入れとくからな」

 そう言ってカルビィンはレジイナの谷間から出した銃をレジイナの背中に隠し、次にレジイナの首を舐めて耳元に口を近付けた。

「いっー! くびい……っ!」

 不覚にも感じて声を上げるレジイナに構わずカルビィンは「判別したぞ」と、小声で報告し、上体を起こしてレジイナを跨ぎながら器用に服を脱ぎ始めた。

 そしてカルビィンが脱ぎ終えたその時、敵一人がカメラを二人に向けようとこちらに向けた。その瞬間、レジイナは背中に隠しておいた銃を取り出して敵の額目掛けて風を鋭く出した。

 その攻撃に即死した敵を見てカルビィンは三メートルほどの大きさのネズミに獣化し、十メートル先にいた人間の女性目掛けて飛び、口に咥えて部屋の隅に連れていった。

「なっ! 異能者だったのか!」

「敵だっ! 敵が侵入したぞ!」

 目の前で犯していた女性がいなくなったことに驚く男二人をレジイナは素早く銃で撃ち抜いた。

 そんな二人に混乱状態になる会場。それは二人にとっては好都合であった。混乱に乗じてレジイナは次々に敵を殺し、カルビィンは一箇所に人間を集めて保護していった。

 華麗に飛び跳ねてスカートをなびかせながら敵を次々に撃つレジイナはまるで風に舞う花びらのように美しく、それに見惚れて止まる敵をレジイナは容赦なくアンティーク調の白い銃で撃ち抜いていった。

 カルビィンは敵の始末をレジイナに任せて、人間の保護を急いで行っていた。レジイナがどんなに優秀で強いと言ってもこちらに誤射する可能性がある。

 なんとか無事に人間を一箇所に集めれたカルビィンは無駄かもしれないが、テーブルとソファであり合わせのバリケードを作った。

「よくもやってくれたなあああっ!」

 ほとんどの敵を殺し終えた時、そう叫んで体を筋肉で膨らませて体を強化したのはダンだった。倍力化を使いこなすダンは筋肉をも倍増させて硬化と力の増強を同時に高めた。

 一瞬の速さ殴りかかったダンの攻撃にレジイナは見事に受けてしまい、その場に倒れ込んでしまった。

「ガハッ!」

「チューッ!」

 それを見てカルビィンはレジイナの援護をしようとダンに向かった。

「このネズミ野郎!」

 ブンッと音がなる程にダンが手を大きく振ったのを見て、カルビィンは一歩後ろに下がって、その攻撃から逃げた。

 危ねえっ! 当たってたら即死だったな。

 レジイナは大丈夫かとカルビィンが目をやると、レジイナは服を脱いで裸になっていた。

 こちらを見て頷くレジイナを見て、カルビィンはネズミの顔のまま口の端を上げた。

「かかって来いー!」

 ダンのその雄叫びに合わせてレジイナは瞬時に三メートル程の大きさのオオカミになって、カルビィンとタイミングを合わせてダンに飛びついた。

 レジイナはダンの胸元に、カルビィンは腰に大きな口を開けてガブリと噛み付いた。

「うごおおおおおっ! 離せええええっ!」

 ダンは倍力化として強い。しかし、天才的な強さを持つレジイナと補佐を務めたことがあるカルビィンからしたら弱かった。

 ギチギチと体が裂ける音がし、二人はダンの体を噛みちぎって真っ二つに分裂させた。

「ボスが、ボスが殺られたぞー!」

「に、逃げろっ!」

 ダンが二人に殺されたのを見て、次々に敵は会場から逃げるように走り出し、レジイナはその敵を追いかけてカジノの会場に追いやった。

「キャーッ! 異能者よ!」

「殺される前に逃げろ!」

 カジノの会場にいた客も狼に獣化したレジイナを見て恐怖し、外に出て逃げて行った。それを見たレジイナはカジノ内で「アオーンッ!」と、外に聞こえるように遠吠えをした。

「へいへい。残りは任せろ」

 その時、近くの商業ビルの屋上からカジノを見下ろしながら待機していたジャドはそう言い、横にいるウィルグルに目をやった。

「二時の方向、赤のワイシャツを着てる男。その横にいる金髪の女。九時の方向、紺色のスーツを着た男……」

 ウィルグルはカルビィンの操作するハエがつけた育緑化の印がついた者がいる方向と特徴を次々にジャドに伝え、それを聞いてジャドは狙撃銃を両手に持って次々と敵を撃ち抜いていった。

 カジノの内にまだいたレジイナとカルビィンは育緑化で生やしたツルで獣化したままの自身達の背に人間達を担ぎ、カジノから一旦出た。

「ここでいい。降ろすぞ」

 カルビィンはカジノから少し離れたところで人間を降ろすようレジイナに指示した。

「分かった」

 そう言ってレジイナは小人にをして人間をゆっくりと下ろした。

「燃やすぞ」

 そう言ってカルビィンは自分達がいた証拠を消すため、再びカジノに戻ってネズミのまま器用に建物にライターであちこちに火をつけていった。

「待って! 銃を拾わないと!」

「急げ! 敵の仲間が来たら逃げ切れねえぞっ!」

 レジイナは急いで狼の足を使ってパーティ会場に向かい、口に銃を加えて建物に火を付け終えたカルビィンと共にカジノから出た。

 外には警察と消防車のサイレンが鳴り、二人は敵のエアオーベルングズ、そして人間からも逃げるようにそこを後にした。

 レジイナは裏路地に入ってすぐにその場で高く飛び、屋上についてから獣化を解いて裸のまま全速力で走り、カルビィンはネズミの姿を小さくしてマンホールの下に入って下水道の中を走って逃げた。

 また、私は人間から逃げなきゃいけないのか……。

 敵の血で真っ赤に染まった体を隠すことなく、急いで逃げるレジイナはかつてブルースホテルであったことを思い出し、悲しみに包まれながら走ってアジトを目指した。

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