3
寒さが更に強くなって来た早朝、寒さに震えながらしゅんりは早朝から紙袋に入れた大荷物を持ちながら自身の職場に向かっていた。
ここ数日暖かい気候に恵まれていたが、昨晩から一気に気温が下がっていった。寒がりであるしゅんりはこの寒さは耐えられないと思い、自宅から電気毛布や小型のストーブなどを持って部署内で寒さを凌ごうとしていた。
裏路地に回り、とある廃墟ビルに入って地下へと続く階段へと足を踏み入れると、カードキーが設置されている扉の前に見慣れた後ろ姿が目に入った。
「うげえ」
「ああん? またお前か」
ブリッドは昨日同様に"うげえ"などと舐めた発言をするしゅんりに顔を顰めた。
「お前、俺が上司だっつー自覚あるか?」
「え、ブリッドリーダーは師匠でしょ?」
「なら余計敬えよ」
相変わらず舐めた口を聞くしゅんりの両手いっぱいにある紙袋に入った荷物を除いてブリッドは「確かに地下のあの部屋は寒いな」と、一人でに納得した。
「ねえ、早く開けてよー」
ムスっとそう言うしゅんりにいつも通り怒りそうになったブリッドは以前ナール総括に言われた言葉を思い出した。"おぬしがいつもしゅんりにしているのは感情任せに怒って怒鳴っているから響かんのだ。相手のことを思い、わかりやすく伝えるのが叱るだ。そこを履き違えておるからお互い成長さんのだぞ"と、言っていた言葉を脳内でリピートしてからブリッドはしゅんりを真っ直ぐに見た。
いつもはここで怒鳴ってパーンッと叩かれるのだが、予想とは違う行動をするブリッドに盛大に怒られるのかと思ったしゅんりは身構えた。そんな警戒するしゅんりにブリッドはフッと優しく笑いかけた。
「お前は自分の価値を分かっていてそういうことを言ってると思うが、お前は未成年と言っても既に社会に出て働いている。俺にそういう口を聞くだけならまだいいが最近は度が過ぎている。お前のそういうガキっぽい言動は回りに迷惑をかけたり、いい気分をさせないぞ。少しは大人になれ」
俺の言っていること分かるな? と、諭すように言ったしゅんりは一瞬ハッとし、しゅんと項垂れた。
「ごめんなさい……」
「分かればいい。少しずつでいいから改善しろ」
「分かった……」
ぽんぽんとしゅんりの頭を撫でたブリッドは「こういうことか」と、ナール総括の言ったことを理解した。しゅんりも馬鹿ではない。頭ごなしに言われてムキになり、言い返していただけ。ちゃんと説明すれば理解できる子なのだ。
ブリッドは両手いっぱいに荷物を持ったしゅんりの代わりに扉を開けようとカードキーをいつも直している財布から取り出そうと鞄から財布を取り出した。
「あ、そうだ。猫の飼い主見つけたぞ。デーヴの知り合いに前から猫を欲しがっているやつがいたんだ。早速、今日の昼休憩の時に受け渡す……、あれ?」
「本当⁉︎ ブリッドリーダーありがとうって……、うん?」
嬉しい知らせに先程まで項垂れていたしゅんりは一瞬喜び、徐々に焦り始めるブリッドに疑問を感じた。
「どうしたの? 早く扉開けてよ。寒い……」
「お前な、寒いならもっと暖かい格好しろよ」
財布をこと細く見た後、鞄を探りながらブリッドはチラッとしゅんりの服装に目をやった。デニム生地の短パンにショートブーツ、パーカーにナイロンジャケットを着用したしゅんりはあからさまに寒そうな格好をしていた。
「だって、マフラーは子猫に渡しちゃったもん……」
その前に短パンをやめろよ、と言いたいところだったがブリッドは鞄をしゅんりに渡し、内ポケットにタバコ以外ないか、ズボンのポケットも裏返して確認するが目当ての物はなかった。
「やべえ、どうしよう……。カードキーがない……」
「……っ!?」
余りの衝撃にしゅんりは声も出せず、口をパクパクとすることしかできなかった。
これは本当にやばいやつだっ……!
「言語道断だ!」
ブリッドはナール総括が出勤後、すぐにカードキーを紛失したことを報告しに総括部屋に向かった。
「おぬし、ことの重大さを分かっているな?」
鬼の形相でそう怒るナール総括にブリッドは「はい……」と、項垂れながら返事した。
世に混乱を招かないように厳重にタレンティポリスという組織を創設してから隠し通してきている。カードキーも紛失した時のため、所属番号しか記入していないから、存在を知らない者が拾っても簡単に露見することはない。だが万が一、この組織自体が知られた時はどうなるか容易に最悪な想像はできる。
「始末物じゃすまぬぞ! どこで無くしたっ!」
しゅんりは普段冷静に対応するナール総括から想像できないほど怒る声の様子に恐怖しながら、中の二人にバレないようにドアに耳を当てながら中の様子を聞いていた。
あのブリッドがまさかカードキーをただ単に無くすのかと信じられず、そして彼を心配して盗み聞きをしていたのだ。
集中して聞いていたせいか、自身の後ろに誰かが近寄る気配に気が付かなったしゅんりはとある人物に後ろ首を掴まれた。
「おい、しゅんりなにしておる」
「ほ、ホーブル総監!」
思っても見なかった人物にしゅんりは驚いてつい大きい声を上げてしまった。しまったと思って口を両手を塞いだがそれは遅く、中の二人に気付かれたようで、話し声が止んだ。
「入るぞ」
そんな嫌悪な雰囲気を無視してホーブル総監はドアを開けてしゅんりをドンと押して部屋の中へ突き飛ばした。
「うわっ!」
上手く踏ん張れなかったしゅんりはそのまま部屋の中で倒れ、横に立つホーブル総監を見上げた。
「なにを声を荒げているんだ、ガルシア」
「はっ! おはようございます、ホーブル総監」
ナール総括は予想外の人物の登場に驚きつつ椅子から立ち上がり、ホーブル総監に敬礼した。
「挨拶は良い。なにを声を荒げているんだ」
ナール総括に再度質問したホーブル総監であったが、「いや、その……」と、言いにくそうにするナール総括にホーブル総監は苛立ったのか、自身の横に座り込んだままのしゅんりの後頭部に銃口を当てた。
「ひっ!」
「三度目はないぞ。なにを声を荒げている」
冗談抜きですぐに発泡するホーブル総監に怯えるしゅんりを無視してホーブル総監が引き金に手を添えた時、「お、俺が言います!」と、ブリッドは焦った様子で声を上げた。
「俺が、その、カードキーを紛失した事を報告していたからです……」
歯切れ悪くそう言ったブリッドにホーブル総監は一瞬顔を顰めた後、考えるように銃を持っていない手で顎を撫でた。
「オーリン、お前がか?」
「は、はい……」
ナール総括に怒鳴られ、しゅんりの前で恥を晒し、そしてホーブル総監にまで知られてこのまま消え去りたい気持ちに駆られながらブリッドは小さな声で返事をした。
「ふむ……」
その後ホーブル総監は十秒程考えた後、しゅんりから銃を下げた。
「ほっ……」
やっと銃口が下がったことに安心したしゅんりはその場でゆっくりと立ち上がって、ホーブル総監から逃げるようにブリッドの側まで移動した。
「オーリン」
ホーブル総監はブリッドの名を呼んだあと、ある物を投げて寄越した。
「こ、これは!」
「俺のカードキーだ。使え」
「いや、でも、その間総監は……」
「俺は当分スペアキーを使う。見つかるまでそれを使ってろ」
ブリッドに自身のカードキーを渡すホーブル総監の行動に一同驚いて固まる中、ホーブル総監は「お前、昨日はどこで行動していた?」と、質問した。
「ブリッドリーダーは昨日、お友達とメインストリートにあるカフェにいましたよ」
「ああ、そうだな」
ホーブル総監の質問に代わりに答えたしゅんりに同意するブリッドに「その後は?」と、その後の行動も報告する様にホーブル総監は促した。
「え、その後……」
「ああ、その後もだ。ガルシア、お前のとこに武操化で固めたチームがあったな。街中の監視カメラを捜査させろ」
「はっ! 承知致しました。おい、おぬしはその後はどこに行った?」
話したくなさそうにするブリッドを三人でじーっと見る。
「その後、夕方までハブで飲んで、その、隣駅にあるクラブに行きました……」
「で、その後はおぬしはなにをした?」
「ナール様! ちゃ、ちゃんと俺は終電には帰りましたよ!」
「……なにを弁解しとるんじゃ」
呆れながらそう言うとナール総括はギロッとブリッドを睨んでこれ以上話させないようにした。
「お前の住むマンションに監視カメラはあるか?」
「あります」
「わかった。お前は詳細がわかるまで始末書でも書いて暇を潰せ」
ホーブル総監の"暇を潰せ"という言葉に引っかかりながら、ナール総括は新たにマオが移動した武操化と倍力化を使用するジェイコブ・フィッシャーリーダーが務めるチームを呼び出すようしゅんりに指示を出した。
部屋に到着するとぽっちゃりとしたフォルムに赤のチェックのシャツをデニムパンツに入れたスタイルをし、黒髪短髪に顔のそばかすが目立つ人物がしゅんりを迎えた。その人物、ジェイコブに任務を任せたいとしゅんりは伝えた。
「ああ、任務……。俺達は既に他の任務で忙しいんだけど……」
しゅんりが訪問し、ドアを開けると無表情でジェイコブはボソボソとそう文句を言った。
部屋にはメンバー全員揃っており、パソコンに齧り付くように見ながら皆でメモをとっており、部屋全体はどよーんとした雰囲気が漂っていた。その中には当然マオもおり、しゅんりを見た後、ははっと力なく笑った。そういえば昨日の休日も十日ぶりに取れたと言っていたなと、思い出しながらしゅんりは勢いよく頭を下げた。
「お願いします! 本当に、本当にお願いします!」
「なにがあったの……」
余りにもの勢いに断ろうと思っていたジェイコブはとりあえずしゅんりの話を聞こうと考え直した。
「じ、実は……」
しゅんりはジェイコブの耳元に顔を寄せて小声で事情を話した。普段ジェイコブは無表情で感情を読めない顔をしているのだが、あまりにも驚いたのか一瞬目を見開いたあと「はあ……」と、ため息を吐いた。
「分かったよ。事が大きいから仕方ないな……」
ジェイコブはマオも一緒に来るように言い、他の者はそのまま任務を続けるよう伝えた。
しゅんり、ジェイコブ、マオの三人がナール総括の部屋へ着くとブリッドは昨日、自身の行動した範囲、一緒にいた人物を紙に書いてまとめているところであった。
「来たか。すまぬな」
「いえ、事は事なので……」
ボソボソとそう言いながらジェイコブは部屋の中へ進んだ。
「本当にすまねえ……」
いつものように覇気がないブリッドの様子にジェイコブは「まあ、お互い様だ……」と、肩をポンっと叩いた。
そんなジェイコブにナール総括はブリッドが昨日移動した場所にある監視カメラを調べるよう指示を出した。
「あと、しゅんり。一時間後にブリッドを抜いたメンバーを連れて来い。おぬしらに任務だ」
「分かりました」
「では一度おぬしは下がれ。いいか、このことは他の誰にも言うなよ」
ナール総括はしゅんりにそう釘を刺したところで、ブリッドとジェイコブ、そしてマオに向き合い、カードキーを探す方法や手段について段取りし始めた。
後ろ髪を引かれる気持ちになりながらしゅんりは自身の部署に戻り、他のメンバーであるタカラ、ルル、そしてネイサンに新たに任務があることを伝えて、各々準備し始めた。
ルルはストレッチをし、ネイサンは余裕なのか優雅にコーヒーを飲む傍らでしゅんりと最近銃を携帯し始めたタカラは銃のメンテナンスをしていた。
しゅんりの暗い様子や、ブリッドの慌てた様子を見ていた三人は事情を聞こうとしたが頑なに話さない二人に少し疑問に思いながら何か事が大きいのかと勘ぐってはいた。
一時間経つ直前にブリッドが部屋に戻ってきた所で入れ替わるように四人はナール総括の元へ向かった。
「来たか。今回はタカラの指揮で動いてもらう」
「その前に質問いいかしら。ブリッドとしゅんりになにがあったのか教えて欲しいんだけど」
誰も思っていたことを質問したそんなルルにナール総括はチッと舌打ちをした。
「詮索無用」
そう言い切り、ルルの質問に答えず任務内容を伝え始めた。
そんなナール総括の様子に不満気なルルにタカラはナール総括に見えないように背中をポンっと軽く叩いた。
「では早急にかかれ」
「分かりました。じゃあ行くわよ」
タカラのその言葉でナール総括の部屋を出ようとした時、ナール総括は「おい、しゅんり」と、声をかけた。
「え、はい?」
何故自分だけ呼ばれたのか疑問に思いながら振り返ると、ナール総括は自身の下を指しながら「お前は別の任務を任す。残れ」と言った。
更に一時間程経過した頃。
ナール総括の部屋にはナール総括だけではなく再びホーブル総監が訪問しており、そこにブリッド、ジェイコブ、マオが揃い、ホーブル総監から話があると集められていた。
「カードキーの使用履歴を確認してきた。本日の深夜一時二分にこの施設にオーリンのカードキーで入った履歴があった」
ホーブル総監のその言葉に一同息を呑んだ。ブリッドのカードキーが悪用されたのだ。
「フィッシャー。その時間、オーリンの所在が分かる映像はあるか?」
「そうですね、ブリッドがマンションに到着したのが監視カメラの映像からは零時五十六分となっていましたね……」
ジェイコブは自身がメモをした内容を報告し、かつスーッとパソコンに意思を入れるイメージをした。そこから伸びる無数の電波の線。そこから目的地であるブリッドのマンションの監視カメラまで光の速さで飛ぶイメージをした。
「あ、ここですね……」
ホーム画面を映していたパソコンの画面がパッと変わり、ふらふらと機嫌良くマンションのエントランスを歩くブリッドの様子が映し出された。
「おい、オーリン。お前そこからここまで異能を使って走ったらどれくらいでここに着く」
「流石に二十分は掛かるかと思います……」
「どうだガルシア」
「ブリッドの言う通り、そのカードキーの使用時間までにここに到着するのは難しいと思われます」
「ならお前のカードキーが誰かしらに悪用されているということだ」
カードキーの使用履歴があることがあった時点で理解していたが、最も恐れていたことが起こっていることを知った一同はホーブル総監の言葉に一瞬時が止まった。
最悪、タレンティポリスは解散し、人間に知られた自分達は今まで通り生活できなくなってしまうだろう。
自分のせいでそうなる可能性があると思ったブリッドは気が遠くなりそうになりながらなんとかその場に踏ん張って立っていた。
「だがな、その時間に誰かが通った映像が監視カメラにない」
新たに報告するホーブル総監の言葉にハッとしたマオはブリッドのカードキーで入った時間帯の監視カメラをジェイコブと同じようにパソコンに映した。
それをジーッと見て、そして何かおかしな点はないかパソコンのキーボードを押して映像を確認した。
「荒いな。これ一時間前の映像を上書きしてますよ」
時間にしてみれば一分でマオはその時間帯の監視カメラの映像の異変に気付き、元の映像をその場にいる者全員に見せた。
「なっ!」
「フードを被っている二人組ですね。恐らく武操化グレード2程の実力者の仕業かと」
驚いて声を上げるブリッドにマオは淡々とそう説明した。
「グレード3だったらこんな簡単に見破れないし、グレード1だったらここまで操作はできないか……」
ふむ、と言いながらジェイコブはブリッドの昨日の行動範囲を記したメモを見た。
「この二人ともが武操化か?」
「いや、まだなんとも。今この二人を追って別の監視カメラも流していきますね」
ナール総括の質問にそう答えた後、マオはキーボードを操作しつつ、二人が映る映像を流し続けた。
「おいおい、そこは……!」
その二人が入っていった部屋を見てブリッドは思わず声を上げた。
「オーリン、黙れ」
険しい顔でそう言ったホーブル総監に部屋の中の空気が更にひりつく。
「……目的は今制作中のあの銃か」
とある部屋で二人は銃の製作書に加え、銃を鞄に入れてる様子がはっきりと監視カメラに映し出されていた。
「念のために監視カメラがある部屋に保管していたよかったな」
「不幸中の幸いですね。顔をなんとかクローズアップできないか解析します」
「パク、早急に取り掛かれ」
「はっ、分かりました」
マオはそう言い、その場で二人の顔を映し出そうと分析し始めた。
「ブリッド、質問いいか……」
「あ、ああ……」
予想を遥かに超える最悪の事態で目の前が歪んで見えてくる程ショックが大きい中、なんとかジェイコブに返事したブリッドは顔を上げた。
「その……。いや、大丈夫だ……」
言いにくそうにするジェイコブにブリッドが首を傾けた時、ナール総括が「変わりに言おう」と、ジェイコブの肩をポンっと叩いた。
「おぬし、昨日ずっといたデーヴ・サーバルとやらは我々に対して反抗意識はあったか?」
「……は? 何を言ってるんですか」
何故ここでデーヴの話が出るのかと思い、その一瞬でナール総括とジェイコブが言いたい事をブリッドは理解した。
「おいおい、まさかデーヴがその二人組の内の一人じゃないかって言いたいんすか?」
「いや、可能性の話で……」
はっきりと言わずフォローに入ろうとしたジェイコブをバッサリと切るように「そうだ」と、ナール総括は言い切った。
「なっ! 俺の友人を疑うってか!」
「事実、その可能性が高い。今回のこの銃は基本グレード2向けのものだ。奴らにも制作にあたって知らせておるし、協力を仰いでおる。それにおぬしだって知っておろう。グレード2の奴らが人間の警官どもにどのような対応を受けておるかなど」
ナール総括の言葉に反論しようとしたが、最後の言葉にぐっとブリッドは言葉を呑んだ。
異能者は人間に蔑まれる存在。そんな異能者が人間の警官の中で働く際、対等に扱われることなどないことぐらいブリッドは知っている。だから彼らは毎年のグレードの試験でなんとかグレード3まで上がってタレンティポリスになろうと必死に頑張っているのだ。部署によっては陰口程度で済むが、悪いところでは体罰があるという噂もある。
昨日のデーヴの言動に引っ掛かる点がいくつかあったことにブリッドはハッと思い出した。
「よくもまあ、俺の前で堂々と言ってくれるな? ガルシア」
「まあ、事実なもので。これでグレード2の仕業と分かれば職場環境を良くしてもらいたいものですな」
「ふんっ、異常者のくせに態度がデカイな」
ナール総括とホーブル総監の言葉を遠くで聞きながらブリッドは「デーヴにとにかく会いたい」と考えていた。
理由は一つ。デーヴの潔白を解きたい。
「ブリッドよ。とりあえず、ここにデーヴを連れて来い」
「嫌です」
「……何を言っておる」
ナール総括はブリッドの拒否につい怒りそうになるのを抑えながらブリッドに目をやった。しかし、その怒りもスッと消えるほどにブリッドの方が怒っていた。
「ぜってーにデーヴじゃねえ。もしデーヴだったなら俺が方を付ける。誰も手を出すんじゃねえ」
そう静かに怒りを露わにしたブリッドは行き先を誰にも告げずに部屋から出て行ってしまった。
「はあ……。まあ、そうなるとは予想しておったわ」
ナール総括はそう溜め息を付いたあと、手をパンパンと二回叩いた。
「ほら、出てこい」
犬を呼ぶかのようにそう呼ばれた人物はナール総括の机の下からひょこっと顔を出した。
「ええ!? しゅんりいつからいたの!?」
「ははっ、ずっと」
マオの驚いた声にしゅんりは苦笑いしながら返答した。
「いいか、しゅんり。先程言ったようにブリッドを尾行しろ。何かあればそのインカムでわらわに報告するように」
「えーっと、このボタンを押したらナール総括に繋がるんですよね?」
「おぬしな、機械が苦手とかいう以前の話だぞ。ほら、ここだ。ここを押しながら話すんだぞ」
「ほーほー」
こんな時にも呑気にインカムの使い方を聞くしゅんりにマオとジェイコブは力が抜けそうになった。
「分かりました! ブリッドリーダーを追いかけてきます」
「いいか。ブリッドは周りの気配に気付きやすい。一定の距離をあけるんだぞ」
「了解です!」
そう返事したしゅんりは急いでブリッドの後を追って行った。
「ほお、用意がいいじゃないか」
「まあ、女の勘というやつです」
「ふんっ。本当に女と異常者は好かんな」
そう吐き捨てて、「また何か分かれば報告しろ」と言い、ホーブル総監は部屋を出て行った。
ホーブル総監が出て行った後、ふーっと息を吐きながらナール総括は力が抜けたように自身の椅子に深々と座った。
「思った以上に最悪な方向に進んでますね……」
そんなナール総括にソファに座ってパソコンを操作しているジェイコブはナール総括にボソボソと声をかけた。
「……これ以上最悪な方向に進まないよう全力で取り組んでくれ」
「分かりました!」
「了解……」
ナール総括の指示のもと、マオとジェイコブは更に街中の監視カメラから情報を得られないか更に分析し始めるのだった。
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