翌朝、しゅんりはゾラに起こされ、クロエ、ゾラの三人で一緒に食堂へ向かった。

「ねえ、スカイラーは?」

「あいつ、陸上部で朝練よ」

「朝から元気よね。私は無理」

 二人はそう言いながら朝食を受け取りながらしゅんりに説明した。

 なるほど。だからあんなに日焼けしてたのか、と思いながらしゅんりも二人に習って朝食を受け取り、席についた。

 その後、再び部屋に戻って各々歯磨きしたり、化粧したりなど時間ギリギリまで身支度をして学園に向かった。

「にしてもさ、しゅんり可愛いんだからお化粧したり髪の毛いじったらいいのに」

 クロエはそう言って朝から巻いた髪をしゅんりに見せた。

「私、不器用だからそんなの分かんない」

「じゃあお化粧から教えてあげるわ。また放課後ねー」

 しゅんりの返事にゾラはそう言って自身のクラスに向かっていった。

「やったじゃん。ゾラすごくセンスいいのよ」

「ゾラちゃん、確かにお洒落だし、お化粧上手だもんね」

 まだ一晩しか一緒にいないため良く分かってないが、ゾラの私物や部屋着は流行りの物で揃っており、そして朝から見ていたが化粧の仕方が素人のしゅんりから見たらプロのように手際が良かったのだ。

「じゃあ、私も行くねー」

「うん、また放課後ね!」

 クロエとも別れ、しゅんりは昨日割り振られた席に座った。

「しゅんりちゃん、おはよう」

「シャーロットちゃん、おはよう!」

「ふふ、朝から元気ね」

 なんかお姉ちゃんみたい。

 優しげな顔で見てくるシャーロットにしゅんりはそう思った。

「シャーロットちゃん、ゾラちゃん達が言う通り委員長って感じだね。年上に見える」

「ええ、老けてるってこと?」

「まさか。大人っぽいってことだよ」

 そんな日常会話に花を咲かせている内にチャイムは鳴り、担任のバートン先生による社会史の授業が始まった。

「……であり、この時起こった戦争を……」

 頬杖をつきながらしゅんりはボーッと黒板を眺めていた。

 眠い……。

 しゅんりは学生時代、勉強嫌いから常にサボり気味だった上に、単位など取る必要のないこの授業に力が入らず、眠気が襲ってきた。

 こくり、こくりと遂には船を漕ぎ始めて頭を動かすしゅんりに周りの席の生徒はまさか一限目から居眠りかと、内心驚いてしゅんりを見ていた。

「ん? ホーブルさん! 貴女、聞いてるんですか!?」

 まさか転校二日目でその態度を取るのかとバートン先生はそんなしゅんりに怒りを露わにした。

「しゅんりちゃん、しゅんりちゃん。起きて」

 未だに返答のないしゅんりにシャーロットは後ろの席からなんとか起こそうと肩を叩いた。

「……ふえ? もう授業終わり?」

「なんて失礼な子なんでしょう! 廊下に立ってなさい!」

 ふざけた態度のしゅんりに怒ったバートン先生はしゅんりを無理矢理に腕を引っ張って廊下へと出した。

「あちゃー」

 一年半前も同じ感じだったなと思い出しながらしゅんりはそのまま廊下に出ていることにした。

 にしてもただ突っ立てんのも暇だなと、少しも反省する様子もなくしゅんりは学校内を探索しようと廊下を歩き始めた。

 クロエ達が言うには既にしゅんりは学園内で有名らしいし、隠れる必要もないかと堂々とサボることにしたのだ。

 以前爆破事件があった学校の爆破場所は人気の少ない倉庫や準備室、そして裏庭の排気口などに設置されていたらしい。

 マルーン学園は学区毎に校舎は別で三棟となっており、寮と同じく四階建てとなっている。二階には通路があって全て繋がっている構造となっていた。

 しゅんりのクラスは一階にあり、同じ階には理科室とその準備室もあった。とりあえず裏庭と理科室の準備室に行ってみるかと考えてしゅんりはふらふらと歩いていた足を理科室に向けて歩き始めた。

 一限目から流石にしゅんりみたいにサボっている生徒はおらず、誰にも会わずにしゅんりは理解室の隣にある準備室までたどり着いた。

 運良く理科室で授業はやっていないらしく、しゅんりはポケットに忍ばせていた安全ピンで錠を開けてスッと中に入った。

 見たことがない薬品の入った棚を開けたり、フラスコなどの器具が置かれている机の下などを覗いたりして確認するが爆弾だと思わしき物は今のところ見当たらなかった。

「ハズレか……」

 長居する必要もないため、しゅんりは周りに誰もいないか確認してから準備室から出て、外した錠を再び閉じた。

 今度から学園長に各教室の鍵を借してもらうようブリッドに言おうと思いながらしゅんりは裏庭を目指して歩き出した。

 窓から降りて裏庭を散策する。木や草が生い茂っており、余り手入れがされていないようだった。裏庭は体育館の裏側にも面しており、キュッキュッと学生がシューズを擦る音や、ワイワイとする生徒の声が響いていた。

 ここもそんな長居できないな、と思いながらしゅんりは校舎の排気口近くまでよじ登り、排気口の蓋をパカッと開けた。

「……っ!」

 思わず声が出そうになったのをなんとか抑えて、しゅんりは排気口の蓋をゆっくりと閉めた。

 排気口の中には爆弾が入っていた。ということはこのマルーン学園には異能者、エアオーベルングズがいるのは確定となった。

 これはすぐにでもルルかブリッドには伝えなければならないと思ったしゅんりは校舎に戻り、教室に向かって歩き出した。

 早くなる心拍数をなんとか抑えようとゆっくりと呼吸させる。見る限りまだ起動はされていないようだった。それにすぐにそれを取り出してしまうと敵にもバレる可能性がある。さて、どうしようかと考えている時、「あれ、ホーブルさん?」と、自身を呼ぶ声がした。

 振り返ると数学の教師、ヤング先生がいた。

 昨日同様に若々しくて優しそうな目をしているヤング先生は驚いた顔をしてこちらを見ていた。そしてそのすぐ後ろにはブリッドリーダーがいた。

「あ、おはようございます」

 しゅんりは教師二人に声をかけられたことをなんともない事のように挨拶だけしてその場を去ろうとした。ヤング先生いなかったら報告できたのに、と残念がるしゅんりの首元を誰かが掴んでしゅんりの足を止めた。

「え? なんですか?」

 振り返るとブリッドがしゅんりの制服の首元を掴んで見下ろしていた。

「なんですか、じゃないだろ? ホーブルさんよ」

 目元をピクピクさせながらブリッドは叩きたくなる気持ちをなんとか抑えた。

 あれ程目立つようなことするなと言った矢先こいつは!

「そうよホーブルさん。今は授業中よ!」

「あー、トイレです」

「明らかトイレから遠いだろが。職員室に来い」

「ひいっ!」

 鬼の形相で本当の教師のように怒ったブリッドにしゅんりは逆らうことが出来ず、ずるずると引きずられながら職員室へと連行された。

 

 

 

「本当になんていう人なんですか、貴女は!」

「……すみません」

 一限目終了後、しゅんりは授業を終えたバートン先生から職員室で説教を食らっていた。

 くそう、こんな口うるさい人だと思わなかった、と思いながらしゅんりは口を尖らせた。

「なんですか、その顔は! 転校早々から貴女は……」

「……はい、はい」

 とりあえずこの場をなんとかやり過ごそうと思いながらしゅんりはバートン先生の言葉に"はい"とだけ言っておくことにした。

 にしてもだ、わざわざ職員室まで連れて来なくても良かったじゃんか、と思いながら同じく職員室にいて優雅にコーヒーを飲むブリッドを睨んだ。

「ホーブルさんたら、全く反省してないわね」

「そのようですね」

 ヤング先生は頬杖をつきながら隣に座るブリッドにそう言ってチラッと見た。

 ブリッドはそんなヤング先生に目を向けるとあからさまにこちらの視線に頬を軽く染めて目を逸らした。

 めんどくせえなと思いながらブリッドはズズズっとコーヒーを飲んだ。

 普段から俺が怒っても全く反省しないのはこういうことか、と思いながらブリッドはしゅんりを見た。学生の頃から我儘でかつ非常識、そして子供。あれの世話を今後も見なくてはいけないのかと心の中で項垂れていた時、チャイムが鳴った。

「バートン先生、次の授業がありますし、今回はその辺で。ほら、ホーブルさん、次は私の授業だから一緒に行きましょうね」

「そうですわね。ホーブルさん、次はないですからね!」

「あーい……」

 疲れ切った顔をしたしゅんりはそう言ってヤング先生、ブリッドに続いて教室を目指した。

 しゅんりは前を歩くヤング先生に見えないようにブリッドに声を出さずに口の動きだけで「ほ、う、こ、く、あ、る」と伝えた。それを見たブリッドはただサボってた訳ではないのかと気付き、「こ、ん、や、お、く、じょ、う」と、ブリッドも口だけを動かしてから頷いた。

「ホーブルさん、ほら、早く席に着きなさい」

「はーい」

「もう」

 悪びれもなく後頭部に両手を組んで歩くしゅんりの姿にヤング先生は溜め息をついた。

「ちょっと、しゅんりちゃん!」

「ただいまー」

 ヘラヘラと笑いながらそう言って席に着くしゅんりにシャーロット同様に呆れる者もいればクスクスも笑う者もいた。

「ほら、静かに! では教科書の六十二ページ開けてー」

 これ以上騒ぐのもあれだな

 そう思ったしゅんりは今度は大人しく授業を聞くことにしたのだった。

 

 

 

「あはは! しゅんりったらすごいわね」

「やば、面白すぎて手が揺れる!」

 部屋でクロエとゾラにしゅんりは化粧を教わりながら学校中にも回った噂で話は持ちきりになっていた。

「うわ、なみなみ線みたいになった!」

「あはは、ダメ! アイライン引けないっ」

 ゾラの手が思うように動かず、しゅんりの瞼に引いていたアイラインがぐちゃぐちゃになったところで、今日はゾラによる化粧講座は終了した。

「あのバートンに目をつけられたら大変よー。マジであいつヒステリックだから」

「うげえ、失敗した」

「真面目に授業受けるという選択肢はなかったのかいっ」

 クロエの突っ込みがしゅんりに出た所で部屋のドアが開いた。

「ただいま! 皆ご飯行こうぜ!」

 スカイラーがそう言って部活の服装のまま部屋に帰ってきた。

 その後、しゅんりは三人と共に食堂で食べ、シャワーを浴び、次はスカイラーを入れて四人で部屋でワイワイとしていた。

「ふへへ、ロイヤルストレートフラッシュ!」

「また!? しゅんり、強すぎ!」

「私、運良いんだー」

 トランプで遊んでいた四人はしゅんりの勝利が確定するや否や、手に持っていたトランプを落とした。

「ポーカーはダメ! オールドメイドしよ!」

「次も勝っちゃうよー。ねえ、クイーン一枚抜く感じでいい?」

 オールドメイド、一枚カードを抜くか、足すかして最後に同じカードのペアが作れずに一枚残ったカードを持っていた人が負けというシンプルなゲームをしようとしゅんりがトランプを組もうとした時、部屋のドアがノックされた。

「やっほー。遊びに来ちゃった」

「シャーロットにルルじゃん! 今オールドメイドしようとしてたとこなんだ! どうだ、やるか?」

 来訪者はシャーロットとルルであった。スカイラーは元気良く二人をオールドメイドに誘った。

「やるやるー。ルルちゃんもするよね」

「ええ」

 ルルはそう言ってしゅんりの向いに座った。ルルはしゅんりが異常に運の良い奴ということは知っており、隣にいれば絶対勝てないと分かってて敢えてそこに座った。

「じゃあカード配るね」

 しゅんりがカードを配っている時、「そういえばいつからトランプしていたの?」と、シャーロットはいつからトランプしていたか四人に聞いた。

「ご飯食べてからずっと」

「そんなにしてたの? テスト勉強は大丈夫なの?」

 テスト勉強という言葉を聞いてしゅんりは手に持っていたトランプを落とした。

「……え、なに知らないの?」

 しゅんりの反応にゾラは恐る恐るしゅんりに聞いた。

 そういえば昨日三人ともずっと机に向かっていたことを思い出して、しゅんりはゆっくりと頷いた。

「来週から休み明けのテスト期間なんだけど、まさか転校前に聞かされてなかった?」

「聞いてない……」

 動揺するしゅんりと同じく、いつも表に出さずにポーカーフェイスを気取るルルもこの時は明らかに動揺した。

 き、聞いてねえ!

「嘘、可哀想。どうする、今から勉強する?」

 そう言ってクロエはトランプを直し始めた。

「まあ、ルルちゃんは勉強できそうだけど、しゅんりちゃんは……」

 その場にいる者全員、しゅんりを見て溜め息をついた。転校二日目にしてしゅんりは授業中に簡単な問題も外し、そして今日は一限目から居眠りに加えて堂々とサボったのだ。

「わ、私だってやればできるよ……」

「こんな信用のならない返事初めて聞いたわ」

 そう言ってゾラは溜め息をついた。その時、スカイラーはピコンッと閃いたのか、自身の机にあった鉛筆をカッターナイフで削り始めた。

「しゅんり! お前、運だけは良いんだろ!?」

「運だけ!?」

「そうね、運だけは良さそうよね」

 スカイラーの言葉にしゅんりは反論したが、それをすかさずルルは同意した。

「うちの学校はどの教科も全部マークシートなんだ! だからこれを使えばお前ならいけるはずだ!」

 そう言ってスカイラーは六角形の鉛筆の一面一面に一、二、三と一つずつに数字を掘った鉛筆をしゅんりに渡した。

「こ、これは!」

「これを転がして出た数時を黒く塗りつぶせばしゅんりだったら赤点にはならないぜ!」

「すごい! すごいよ、スカイラーちゃん!」

 キャッキャッと笑い合う二人を見て四人は呆れて溜め息を付いた。

 そんなのでいけるなら全国の学生は勉強などしないだろうと思いながら何も言わずにその場はお開きなったのだった。

 

 

 

 昨日同様にしゅんりとルルは同室者が眠りに付いてから屋上へと向かった。

 屋上に着くと、そこにはブリッドとトビーのみでタカラの姿はいなかった。

「あれ、タカラリーダーは?」

「今日は訓練」

「ふーん」

 残念、と思いながらしゅんりは裏庭に排気口に爆弾を見つけたことを四人に報告した。

「しゅんり君、偉いですよ。でも授業はサボってはいけません」

「ラミレス先生も説教?」

「君には学生の時に散々してきたので今日はしませんよ。それよりその爆弾、敢えて回収せずに起動できないように細工しておきましょう。案内お願いできますか?」

 今回収して爆弾がないことに気付かれては危険なため、爆弾そのものは排気口に置いたままにし、トビーが起動できないように細工することにした。

 しゅんりの案内で四人は裏庭に行き、トビーは爆弾を武操化し、その間三人は誰も来ないか見張りをした。

 トビーによって無事に爆弾の細工が終わったとこで本日はお開きとなった。

 既に時刻は深夜一時を回っており、早々にしゅんりはベッドに戻って眠った。

 流石に明日は大人しくしないとと思いつつ、授業そっちのけでもいいから爆弾の発見に集中したいとも考えていた。

 

 

 

 それからしゅんりとルルは毎日交代で消灯時間に交互に起きては校舎内を探ることにした。ブリッドに頼んで貰ってきたもらっと鍵を使い、一部屋一部屋ずつ探す。そして校舎内の地図に見てきた箇所はバツ印をつけて翌日渡し合うようにしていた。

 あれから爆弾は三つ見つかり、タカラはまだ爆弾処理をしたことないためトビーにその都度、爆弾を処理してもらっていた。そんなまともに睡眠をとれない日々を過ごす二人にもテスト期間がやってきた。

 英語、社会史、理科、地理、そして数学の五つの項目があり、二日に分かれてテストは行われた。

 ブリッドはテスト期間二日目となる日、ヤング先生と共にしゅんりとルルのいる教室で生徒達の監視役をしていた。担任が担当クラスを全てするのではなく、ランダムに回ってやるシステムらしい。

 ブリッドは特になにもする事なく、生徒の周りをゆっくりと歩いている時、カランカランという音がずっと鳴っているのに気付いた。

 テスト中に何の音だと不審に思ったブリッドはその音のなる方へ向かうとしゅんりが鉛筆を転がしてはマークシートに数字を塗り潰すという行為を繰り返していた。

「お前、何やってんだ……?」

 余りにも驚いてブリッドはついしゅんりにそう声をかけてしまった。鉛筆をよく見ると数字が彫ってあり、その出た目を記入しているようだった。

 しゅんりは顔を上げ、親指を上げてグッとサインをし、そしてウィンクしてブリッドを見た。

 そのしゅんりに生徒達はどっと笑い、ブリッドは呆れて声も出なかった。

 まさか、今までのテスト全部そうしてきたのか。

「これは没収だ。ちゃんと自分の実力でやれ」

 何故か自分の中にある正義感が勝ったのか、ブリッドはそう言ってしゅんりからその鉛筆を取り上げた。

「ぶり、いやオーリン先生! 返して!」

「テスト中は静かに」

 ブリッドは手に持っていた出席簿をしゅんりの頭にポンッと置いて黙らせた。

 あんのバカ!

 そう思いながらしゅんりはほとんど一番を黒く塗り潰して数字のテストを終えるのだった。

 それから更に一週間、爆弾は二つ見つけることはできたが、犯人はまだ特定できないまま時間だけがただ過ぎて行った。

 そして生徒達は一週間前にしたテストが次々と返って来ており、キャッキャッと学生らしく毎時間騒いでいた。

 昼休み。しゅんりは教室でいつもいるメンバーのルルとシャーロットと数人の女子生徒に同室者のスカイラー、クロエ、ゾラを含めて大人数で昼食を食べながら自慢気にテスト用紙を見せていた。

「なんでよ、意味わかんない。全部平均いってんじゃん」

「すげーな、しゅんり! やっぱりお前は運はいいんだな!」

「へへーん」

 スカイラーの言葉にしゅんりは得意げに胸を張った。

「全部じゃないわよ」

 気分を良くしていたしゅんりを落とすようにルルは数学の答案用紙をヒラヒラとさせながらいやらしく笑った。

「数学は三点よ」

「言わないでよ……」

 しゅんりはそう言ってテーブルに顔を伏せた。あの鉛筆をブリッドがしゅんりから取り上げた為、数学はほとんど点数を取れなかったのだ。

「むしろしゅんりの実力が三点という方が私はびっくりよ」

「うんうん」

 シャーロットの言葉に一同は頷き、クロエがポンとしゅんりの肩を叩いた。

「でもいいじゃーん。赤点とったのしゅんりだけなんでしょ? 教育実習生のオーリン先生の補習とか羨ましいわー」

 そしてクロエは両手を組んで頬を赤らめた。

「オーリン先生、本当に格好いいわよね。キリっとした目に数学の教師とは思えない程に引き締まった体。そしてよく見たらピアスの穴があるのよ。ちょいワルの感じがたぎるわー」

 しゅんりとルルはそんなクロエの言葉に揃って「うげえ」と、声を出した。

「確かにオーリン先生、モテそうよね」

「私もオーリン先生、好きかも。告ろうかなー」

 口々にブリッドを褒め、かつ乙女の顔になる生徒達にしゅんりとルルはブフッと笑った。

「あんたら二人はお子ちゃまねー。オーリン先生のフェロモンを感じないわけ?」

「フェロモン!? あはは、ないない、ないよそんなもの」

「あり得ないわよ、あんな教師」

 分かってないわね、とクロエが言った時、ゾラはしゅんりの髪に手を通した。

「お子ちゃましゅんりちゃんも、もしかしたらこの補習でオーリン先生にときめくかもしれないし、お洒落しましょうかね」

 そう言ってゾラはしゅんりの桃色の髪を編み込んで後ろにまとめ始めた。

「ゾラやめてよ。本当にオーリン先生がしゅんりに惚れちゃうじゃない」

「あり得ないから」

 顔を歪めてそう言ったしゅんりにゾラは首を右前にあるテーブルに座る男子グループへと向けた。

 チラチラとしゅんりを見ていた男子生徒達はしゅんりと目があった途端、分かりやすい程にパッと目線を外した。

「しゅんり、モテモテなのよー。自覚ないの?」

「知らない……」

 嫌悪感丸出しで言うしゅんりにゾラはクスッと笑ってゾラは自身が付けてた髪飾りをしゅんりの後頭部に付けて後ろに編み込んだ髪をまとめた。

「はい、完成!」

「わあ、ゾラちゃんありがとう!」

 しゅんりはシャーロットに借りた鏡を見て感動した。

「ゾラちゃんすごいよね!」

「ありがとう。美容師になるのが夢なんだよね。機会があればしゅんりの髪切らせてね」

「もちろん!」

 そうしてる間に昼休みは終わり、午後の授業も終えてしゅんりは放課後、ブリッドによる補習が始まった。

 教室にしゅんりはブリッドと二人きりで向かい合ってテスト範囲の復習をさせられていた。

「なんでブリッドリーダーなの? ヤング先生は?」

「こら、オーリン先生と呼べ。ヤング先生は用事があるんだとよ」

 普段通りに呼ぶしゅんりの頭を軽く叩いてブリッドは先生と呼ぶように修正させた。

 ブリッドはいつもよりお洒落をして補習を頼んできたヤング先生を思い出した。ブリッドに気があるように見せておいて他の男の所に行くヤング先生を見て、本当に女って訳わかんねえなと考えていた。

「もう、ゾラちゃんにしてもらったのに髪が崩れるじゃん!」

 しゅんりはブリッドに叩かれた場所を触り、ゾラにしてもらった髪が崩れてないか確認した。

「……別に仲良くするなとは言わない。でも情を移すな。後で辛くなるぞ」

 真剣な顔で言ってくるブリッドにしゅんりはハッとした。そうだ、この中に敵がいるかもしれないし、敵が見つかればしゅんり達はこの学園から去らないといけないのだ。

「……わかってるよ。でも、もし異能者じゃなかったらって考えてしまうの」

 異能者でなければ今のように自分は学生でこうやって友達とワイワイとしてるだろうと考えてしまっていた。それはしゅんりだけではなくルルもだった。最初は任務に集中して周りと関わらないようにしていたが、今ではクラスメイトと話して笑う姿が見られていた。

「そっか」

 そう一言だけ言ってブリッドはしゅんりの頭をポンポンと優しく撫で、今度は髪が崩れるなどと騒がずにしゅんりは大人しくブリッドに撫でられた。

 ブリッドも本当は大学に行って勉強したかったなと思い、二人の間には沈黙が続いた。

 しゅんりは今だと思い、窓に向けて指を差して「あ、ナール総括!」と、声を出してから教室を走って出ようとした。

「え、ナール様ってなるかバカ!」

「ぐえっ」

 補習から逃げようとするしゅんりの制服の首元を掴んでブリッドは阻止した。

「二度も引っかかるかバーカ」

「うう、お願い。オーリン先生……」

 上目遣いでブリッドを見ながらしゅんりはそう言った。首を締められて丁度うるうるとした瞳で見られたブリッドは何故かいけない事してる気分だと思ってしまった。

「ああ! しゅんり、逃げちゃダメじゃないー」

 そんな二人の所にブリッドに思いを寄せているクロエがやってきた。

「おい、今補習中だぞ」

「オーリン先生、わかってますー。しゅんりが逃げないか私が見ときますからー」

 腰をくねくねしながら上目遣いでブリッドを見て、甘えるような声を出すクロエにブリッドはふむ、と考えてからクロエがいる事を許した。

「じゃあ、頼む。ホーブル、ほらさっさとその問題解け」

「そんなー」

 クロエの恋心に負けてしゅんりは大人しくブリッドからの補習を受けることとなってしまった。

 その日の夜。しゅんりとルルは寮の屋上に行き、ブリッドとタカラ、トビーと共に現状報告をした。

「今のところ、今年入学した生徒と女子生徒のうちでシャワー室で裸を見れてない生徒をまとめてみた」

「女子生徒はかなり絞れてきたわね」

 タカラはそういって十数人に生徒名に目を通した。その中にシャーロットの名がある事にしゅんりとルルは胸を痛めながら、男子生徒のリストに目をやった。

「男子が絞れてないのがちょっと厳しいわね」

 ルルはそう言って、どうやって男子生徒の裸を確認できないか考えた。

「しゅんり、ちょっと胸を男子達に見せて来なさいよ。簡単にあいつら脱ぐわよ」

「はあ!? なにそれ!」

 余りにも酷い作戦にしゅんりは思わず声を上げてしまった。

「しゅんり、声大きいって。ルル、それにそれはダメよ。任務でそんな事をする必要ないわ」

 タカラはそう言ってルルを咎めた。

「じゃあどうするのよ。モテモテのホーブルさんなら簡単にできる話なのに」

「別にモテてなんかないよ。ねえ、ブリッドリーダーもラミレス先生もルルに言ってやってよ!」

「まあ、しゅんり君が嫌ならダメでしょうね」

「そうだな、嫌なら仕方ない」

 そう言ってルルの作戦を全否定しない二人にしゅんりとタカラは顔を歪めた。

 それはしゅんりがいいならいいというのか。

「ていうか生徒ばかりに絞ってたけど、教員の可能性はないわけ?」

 そう言ってタカラはブリッドを見た。

「ない、ことはないな」

「ならブリッドはそこも調べないとでしょう」

「そうだな。分かった、やろう」

 ルルの言う通り、裸を見たいなら見せるべきかとブリッドは考えていた。

「とりあえず、次は三日後の日曜日にしましょうか」

「そうね、とりあえず早く寝たいわ」

「うん、寝たい……」

 交互に日を変えてると言っても、夜の間に起きて校舎内を調べてるしゅんりとルルは欠伸をして早く部屋に戻って寝たいと思った。

 

 

 翌日の金曜日、ブリッドは相変わらずこちらに気があるように見せてくるヤング先生を飲みに誘った。

 優しそうな雰囲気をさせて生徒に人気のあるヤング先生は学校と違ってキャッキャッと笑いながらブリッドにやたらと飲み屋でボディタッチを仕掛けてきた。

 まあ、狙い通りというところか、と思いながらブリッドは酒の力も借りてモーテルへと向かった。そのまま二人はお互い裸になり、絡み合いながらブリッドはヤング先生の至る所にキスをしながらタトゥーはないか確認した。

「やだあ、オーリン先生。そんなとこまで舐めないでよお……」

 ベロっとブリッドはヤング先生の足の裏を見ながら指を舐めた。

「やだじゃないだろ? 感じてる癖に」

 ニヤッと笑ってブリッドはそのままヤング先生に自身のモノを挿入させてさっさとこの行為を終わらせようとした。タトゥーがなかったこの女にはもう用はない。

 高々と声を上げるヤング先生の声に耳を痛くしながらもブリッドは律動を早めていった。

 程なくしてお互いイッたところで早々にブリッドはヤング先生から自身を取り出し、ベッドの縁に座って処理を始めた。

「すごいわ。オーリン先生のそのガツガツとした若々しいセックス、癖になりそう」

 チュッと背中にキスをしてきながらそう言ってくるヤング先生に「どうも」と、返事をしてからブリッドはタバコに火をつけた。

「ふふ、すましちゃって。これでも褒めてるのよ? 貴方、あの中でダントツで一番よ。数学が専攻とは思えないぐらい綺麗な体だし」

 ブリッドはヤング先生の"あの中で"の言葉に引っかかった。そして背にしていたヤング先生を振り返って見ると、ふふっといやらしく見てくる姿を見て気付いた。この女、学園中の男を漁ってるのか。

 ヤング先生に見えないようにブリッドはニヤッと笑ってからまだ長いタバコを消した。

「へえ、俺が一番なんだ」

 そう言ってブリッドは再びヤング先生の上に跨って右手で髪を撫で始めた。

「ふふっ。何、嫉妬でもした?」

 ブリッドを自身に振り向かせれたことに成功したと思ったヤング先生は舌を出してブリッドからのキスを要求した。

 それにブリッドは従って舌を絡めてキスをしてやった。

「嫉妬するな。なあ、他に誰とヤッたのか教えてくれよ、先生」

 ブリッドはそう言って焦らしながら徐々にヤング先生に刺激を与えていった。

「んん、トミー先生と、ヤーリス先生と、ああん! イク、イク!」

「駄目だ、まだイカせない」

「やだあ、もう意地悪……」

 そうやって焦らしながらヤング先生が今まで行為をしてきた教員の名前を全て聞き終えたところでブリッドは再び自身をヤング先生の中に挿入した。

 下で喘ぐ女を見てブリッドは内心引いていた。学園長と教頭以外の男教員を全てとこの女は関係があった。

 流石にそれは真似できねえわ、と思いながらブリッドは更にヤング先生に質問した。

「なあ、俺が一番上手いか?」

「うん、一番よ! あん、そこそこ、イク、イク!」

「はーい、まだダメだ」

「やだ、もう無理……!」

 ヤング先生が果てそうになる直前にブリッドは律動を敢えて止めた。

「俺の体は綺麗だっつーのも本当?」

「本当よ、本当!」

 焦らされすぎて限界に来ていたヤング先生は必死の形相でブリッドに返事した。

「他の先生の裸はどんなのだった? なにか変わった奴いた?」

 ここでブリッドは一番聞きたかった質問をした。誰か男性教員の中でタトゥーをしてないか聞くのが目的だったからだ。

「中年のおじさんばかりよ、デブばっか」

「タトゥーとか、大きな傷とかは?」

「え? タトゥー? そんなのした人いなかったし、違反だわ。教員も生徒もタトゥーを入れるのは校則違反なの」

 ブリッドはヤング先生から聞きたかったこと聞け、褒美として再び律動を始めた。

 何故そんなことを聞いてくるのかと疑問に思っていたヤング先生だったが、ブリッドから与えられる快楽に溺れ、そのまま果てて気を失うように眠りについた。

 ヤング先生の締め付けにブリッドも遅れて果てて、処理後に携帯のメモにヤング先生から聞いた内容を記入しておいた。

 学園長と教頭はもう十何年もマルーン学園に勤めているためほぼ白と確定している。ヤング先生も他の男性教員もタトゥーがないため、教員の中でまだ可能性があるとしたら他の数人の女性教員となる。そしてその女性教員も二年以上マルーン学園に勤めているため可能性は低い。唯一可能性のあった若いヤング先生も白と確定したわけだ。教員の中にはエアオーベルングズはいないと考えて良さそうだな。

 そう考えをまとめてからブリッドはヤング先生の隣に寝転んで眠りにつくのだった。

 


 

 日曜日。しゅんりとルルは外出することなく寮内を散策していた。

 歩いていれば寮内にいる女子生徒から自然としゅんりは声をかけられるため、交友関係を広げられるからだ。

 その中でなにか不審な点はないか、変わった生徒いないかなど噂好きの女子からはこちらがなにもせずとも情報を得ることができる。

 しかし、今日もなにも成果がなかったなと思いながら二人はしゅんりの部屋でクロエ、シャーロット、ルル、クラスで仲良くしている生徒数人で雑談をしていた。

「おお、今日も賑やかだな!」

 外出していたスカイラーは部屋に戻るとそう言って鞄を下ろして部屋着に堂々と着替え始めた。

「スカイラーおかえり。なに、今日はどこにデート言ってたのよー」

 クロエはそう言ってニヤニヤしながらスカイラーに声をかけた。

「スカイラーちゃんって彼氏いるの?」

 意外だと驚いてしゅんりはスカイラーに話しかけた。

「まあな、あはは」

 恥ずかしいのかいつもみたいに覇気なく返事するスカイラーにしゅんりとルルは瞬きした。

「スカイラーの彼氏は同じ陸上部の先輩なのよ」

「スカイラーが倉庫で高い所にある物を取ろうとして、物を落としそうなった時に先輩が助けてくれたのがきっかけなんでしょ?」

 クロエ同様に同じクラスの女子生徒はニヤニヤしながら二人にスカイラーの彼氏との馴れ初めを教えてくれた。

「やめてくれよ、恥ずかしい」

 顔を赤く染めてこちらの輪に入って座るスカイラーにしゅんりは目を爛々とさせた。

「恥ずかしくないよ! いいなー、羨ましい!」

「しゅんりちゃんだってよりどりみどりじゃない」

「そうよ。この前、見ちゃった。隣のクラスの男子がしゅんりに告ってるのを!」

「また!?」

 しゅんりの話題でキャッキャし始めるシャーロット達にしゅんりはスンッと笑顔を消した。

「なにがそんなに嫌なのよ」

 クロエはしゅんりの反応に前々から疑問を感じていた。

「……だって、どの男子も私じゃなくてコレ目当てでしょ?」

 そう言ってしゅんりは自身の胸を抱きしめるように隠した。

「あんないやらしく見られてばっかじゃ嫌になるの」

 なるほど、と思って一同が頷いた所でスカイラー同様に外出していたゾラが帰ってきた。

「ゾラおかえりー。ギリギリだったじゃん」

 門限ギリギリに帰ってきたゾラに女子生徒一人がそう声をかけた。

「いや、予約してたのに混んでてさー」

 そう言いながらゾラはスカイラー同様に堂々と着替え始めた。

「予約?」

 なんの予約かと疑問に思ったしゅんりはゾラに話しかけた。

「脱毛よ、脱毛」

「さすがゾラちゃん、大人だー」

 そう言うしゅんりとルル以外の者はクスクスと笑い始めた。

「え? 何かおかしい?」

「いや、しゅんりちゃん可愛いなって思って。皆じゃないけど脱毛なんて今時普通よ?」

 そう言うシャーロットにしゅんりとルルは目を見開いた。

 今時の学生は脱毛が普通なのか! 

「まあねー。ある意味マナーよね、マナー」

 そんな感覚なのかと驚ろく二人に更に新たな衝撃な事実を知った。

「今日はどこしたの?」

「デリケートゾーン」

 シャーロットの質問にゾラはさも普通かのように言った。

「で、デリケート!?」

 余りの衝撃にいつも動揺しないルルは声を出してしまった。

 そのルルの反応に周りにいたしゅんり以外の者はニヤニヤとし始めた。

「なにー? ルル、興味あるの?」

「べ、別に……」

 恥ずかしいのか顔を逸らすルルと驚いて固まるしゅんりにゾラは「つるつるの方がセックス気持ちいいからおすすめよ」と、伝えた。

「せ、せ、せ!?」

「な、な、何それ!」

 二人の反応にスカイラーとシャーロット以外は大爆笑した。

「やばい、初すぎー! なに、二人ともまだなの?」

「え、え、逆に皆もう済んでるの!?」

 今時の学生はそこまで進んいるものかとしゅんりとルルは驚きを隠せずにいた。

「えー、私はまだよー」

「私も」

「残念ながら私も」

 そう言ってクロエと二人の女子生徒はそう言ったことに二人は安心しつつ、他のメンバーを見た。

 まさか大半は経験済みなのか!

「ちょ、スカイラーちゃんもパイパンなの!? 気持ちいいものなの!?」

 ぐいぐいと質問するしゅんりにスカイラーは余りの恥ずかしさで顔を真っ赤にして黙ってしまった。

「ふふ、しゅんりちゃんってなんでも興味深々なのね」

 そう言って笑うシャーロットにルルはクイッと服の端を引っ張った。

「しゃ、シャーロットはどうなの?」

 上目遣いで恐る恐る聞いてくるルルにシャーロットはニコッと笑って「そりゃあ、毛はない方が気持ちいいわよ」と、返答した。

 あんな大人しそうなシャーロットも下の毛はなく、経験済みだということを知った二人は衝撃でそのまま固まってしまった。

 

 

 

 悶々とした気持ちの中、しゅんりとルルはいつも通りに消灯後に部屋から抜け出して屋上へと出た。

「おう、お疲れさん」

「お疲れ様……」

 ブリッドの言葉に本当に疲労しているルルはそう返事した。

 今日は授業はなかったが何かあったのか?

 そう思いつつブリッドはその場にいるしゅんりとタカラにも目をやった。

「教員には敵はいなさそうだ。ヤング先生は確実に白。他の男性教員も白だろう。それに入職時期を考えると他の女性教員も可能性が低い」

「あら、こんな短期間ですごいわね。どうやって調べたの?」

 タカラはブリッドの報告に驚き、調査方法を聞いた。それに対してブリッドは「企業秘密」と、訳が分からない事を言って目を逸らした。

 その態度にタカラとルルは五秒程考えて気付いてしまった。

 こいつ、まさかヤング先生とヤッたのか⁉︎

 ヤング先生は生徒内では有名な程のビッチであった。本人は隠してるつもりかもしれないが生徒からしたらバレバレなのだ。その事実を知らないタカラでもブリッドの反応を見れば一目瞭然だった。

「さすがブリッドリーダー! 師匠、尊敬しますぜ! ねえねえ、どうやったのー?」

「あー、秘密?」

「勿体ぶらないでよー」

 肘でグリグリとブリッドの腕を当てるしゅんりの耳をタカラが、目をルルは塞いだ。

「この獣! しゅんりに近寄らないで!」

「最低不潔遊び人!」

 タカラとルルがそう暴言を吐くとブリッドは「ルルの案を採用しただけだ」と、あっけらかんに言うのだった。

「ねえ、もうやめてよ!」

 その事実を知らないしゅんりは二人からの拘束から自力で逃れた。

「なんなのよ!」

 顔を膨らませて怒るしゅんりにタカラは抱きしめて「綺麗なしゅんりは知らなくていいのよ」と、頭を撫でた。

「けっ」

 そんな二人の様子にブリッドは不満気な態度をとった。

 頭を撫でてくるタカラにしゅんりは先程まで部屋で話題になっていた話を相談しようと小声で話かけた。

「ねえ、タカラリーダーって脱毛したことある?」

「え、脱毛? まあ、あるけど」

 突然そんな事を聞いてくるしゅんりにタカラは驚きつつも返答した。

 それを近くで聞いていたルルはグイッとタカラに近付いて「デリケートゾーンは脱毛してる?」と、しゅんり同様に小声で質問した。

「へ? ああ、まあ……」

 ある程度は綺麗に整えようと何回か脱毛したことあるタカラはそう返事すると、今度はしゅんりがグイッ顔を近付けた。

「ね、ねえ。毛がないと、え、エッチって気持ちいいの?」

「はあ!?」

 何を言い出すんだと驚くタカラに容赦なく二人は「ねえ、どうなの!?」と、返事を急かした。

 一体、学校でなに教わってんの! 

 そうタカラは驚いて思わず二人から離れた。

「逃げないで教えてよ!」

「タカラ!」

 タカラは動揺しつつ二人にガシッと両腕を掴まれてしまった。

「ちょ、落ち着きなさいよ。急にどうしたの!」

「いいから教えてよ!」

「こっちも恥ずかしいのよ、さっさと言いなさい!」

 内容は分からないが騒ぐ三人を見てブリッドは溜め息をついた。学園に行き始めてからしゅんりとルルが前より仲良くなったのはいい事だが、よく話を脱線させるようになってしまってブリッドは困っていた。

「はい、もう今日は終わりだ。次は水曜日な」

 そう言ってブリッドはタカラを無理矢理に横に担いで屋上から降りて行ってしまった。

「ちっ、逃げられたか」

「今度こそ聞いてやる」

 二人は逃げるタカラ達に大人の意見を知りたいという欲求が更に高まっていった。

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