3
しゅんりは約一年半ぶりに制服に袖を通してルルと共にマールン学園へと足を踏み入れた。
以前通っていたタレンティーズ学園と違い、綺麗な校舎に生徒の人数も多い。
さすが私立なだけあるなと思いながらしゅんり達は目の前にいる中年の女性、担当教員となるヴァイオレット・バートンに連れられ、自分のクラスとなる教室へと案内されていた。
本当はルルと別のクラスにする予定だったのだが、ナール総括とブリッドが不安に思い、ルルと同じクラスにしたのだ。
私だって演技くらい出来るよ! と、言ったが二人はそんなしゅんりの言葉を信用することはなかったのだった。
「皆さん、席に着きなさい」
教室に入って第一声にそう冷たく言うバートン先生の声に騒がしい教室は一瞬で静まり返った。
「転校生二人を紹介するわ。さあ、自己紹介して」
「ルル・ムーアです。よろしく」
ぶっきらぼうにそう言うルルとは反対にしゅんりは満面の笑みで少し胸を張って自己紹介した。
「しゅんり・ホーブルです。よろしくお願いします!」
どうして上司の名前をファミリーネームにしてこうも堂々と言えるのよ、とルルは呆れながら隣にいるしゅんりを見た。
三人が潜入捜査する三日前。しゅんりとルルは用意された制服に袖を通して、ナール総括とブリッドと共にホーブル総監の部屋で最終調整を行っていた。
「うーん、キツイけど、まあいけるか」
そう言ってしゅんりは胸元のボタンを一つ取り、リボンタイを少し緩めた。
マールン学園の制服は紺色のブレザーには右の胸元には学校の紋章が刺繍され、スカートは赤のチェック柄。そして淡いピンクのシャツに真っ赤なリボンタイとなっていた。しゅんりとルルは黒のハイソックスとローファーも合わせて着用していた。
「嫌味かしらね、それ」
ボソッとそう言い、ルルは自身の胸としゅんりを見比べてから睨みつけた。
「ふん、お前のサイズに合わせてオーダーメイドしてやったんだ、感謝しろよ異常者が」
相変わらずの口調でそう言い、ホーブル総監はしゅんりを見て鼻で笑った。
「制服のご用意ありがとうございました。ほら、しゅんりとルルも礼を言え」
ブリッドはそう言って二人にホーブル総監に礼を言うよう促した。
二人は渋々、ありがとうございましたーと言い、ナール総括に目をやった。
「まあ、教科書などの用意も出来ておる。あとは行くだけだ」
「ふん、まだ準備はできておらん」
もう終わりかと思った時、ホーブル総監はしゅんりを指差した。
「しゅんり。お前、名前はどうするんだ?」
ホーブル総監のその言葉にしゅんり以外の者は「そうだった!」と、気付いた。
「名前? しゅんりですよ?」
「お前がしゅんりだっつーのは分かってる。ファミリーネームだよ、ファミリーネーム」
「ええ、いるー?」
しゅんりは孤児であり、ファミリーネームがない。異能者で孤児の者は多く、自分で決めて国に申請することが多いが、しゅんりはその手続きと、したいファミリーネームがないということでそのまま"しゅんり"という名前のみで生きてきた。
「いるわ、ボケ。なんでもいいから決めろ」
「そんな急に言われても」
しゅんりは腕を組んで、うーんと悩み始めた。
「なら、ガルシアにするか?」
ナール総括はしゅんりの頭に手をやって提案した。しかし、ブリッドはその提案を拒否した。
「それは俺が嫌です」
「何故、おぬしが嫌がるのだ」
「ズルい。ズルすぎる。嫌です」
ブリッドの言葉にその場にいた四人は馬鹿な奴、と思いながらブリッドを見た。
「ええ、ならオーリン? ムーア?」
「ふざけないでよ。なんで潜入する奴のファミリーネーム使うのよ」
「兄妹設定?」
「似なさすぎだろ」
しゅんりの提案もことごとく却下された時、しゅんりは目の前で座る人物を見て「閃いた!」と、ホーブル総監を指差した。
「ホーブルにする!」
まさかあの時ホーブル総監が「分かった、そう手続きしてやる」と、言ってそのまま話が終わるとは思わなかったわ、とルルは思い出しながら指定された席に座った。
ルルは窓際の席の前から二番目の席に座り、しゅんりは廊下側から二列目の後ろから二番目の席に座った。
ルルはチラッと窓から見える高層ビルに目をやった。
ここからでは見えないが、あそこにはタカラとトビーがこちらを見ているはず。なにか異常時はあそこから応援したくれる予定となっていた。
ルルは顔だけ振り返ってしゅんりを見た。今から二人はスクール生活を楽しむ訳ではなく、この学校にいるであろうエアオーベルングズを探さないといけないのだ。ピリピリと神経を張り詰めているルルに比べてしゅんりはバートン先生の話を真剣に聞いてうんうんと頷いていた。
はあ、先が思いやられるわ、と思いながらルルは項垂れた。
一限目後の休み時間。
「ホーブルさんだったよね、よろしくね」
そう言ってしゅんりの後ろの席にいた黒髪でおさげの女子生徒は声をかけてきた。
「よろしく! しゅんりでいいよ」
しゅんりはそう言って笑顔でその女子生徒と会話した。
「しゅんりちゃんね! 私、シャーロット・ヘイズよ。シャーロットって呼んでね」
真面目そうな容姿のシャーロットは見た目とは違い、キャッキャッと笑いながらしゅんりとの会話を楽しんだ。
優しい人がいて良かった、としゅんりは安心しながら久しぶりの学園生活を楽しんでいた。
チャイムが鳴り、二限目の開始の知らせが鳴ると、若い女性教員と共に二人と同じく潜入したブリッドが教室に入ってきた。
「皆さん、聞いてたと思いますが本日から敎育実習に来たブリッド・オーリン先生です。数学を担当されるので皆さんよろしくお願いしますね」
バートン教員とは変わり、人当たりの良さそうなその女性教員はニコッと生徒に笑いかけた。
「ご紹介にあがりましたブリッド・オーリンです。不慣れな点も多々あると思いますがよろしくお願いします」
いつもとは違ってきちんとスーツを着こなし、ピアスも外したブリッドの姿にしゅんりは笑いそうになるのをなんとか抑えながらルルの方をチラッと見た。ルルも肩を震わせながら視線を逸らして笑いを堪えている様子だった。
二人のその様子に「覚えておけよ、クソガキ共」と、心の中で思いながらブリッドは出来るだけにこやかに笑うようにしていた。
ブリッドは初日と言うこともあり、教室の一番後ろに立って授業を見学していた。
しゅんりとルルと違ってブリッドは実習生という立場を使えば様々なクラスに行くことができる。そのかわりにその場にいれるの時間も短いため、一回一回の授業にアンテナを張りつつ、かつ経験のない授業をしていかなければならない。できれば見学している今の内に怪しい奴を見つけておきたいもんだな……と思いながら生徒の行動を見ていた。
後ろから生徒一人一人を見ていく。チラチラと女子生徒がこちらを振り返って見てくる以外、何の変哲もない授業風景であり、違和感も感じなかった。
ここも外れかもな、と思っていた時、女性教員は「この問題わかる人?」と、生徒全般に問題の答えを質問していた。
この年頃の年代の子供が自ら手を上げて答えるなんてことはないだろ、と思いながらその様子を見ていた時、ある女子生徒が元気よく手を上げていた。
「はーい、はーい!」
「あら、貴女は転校生のホーブルさんね。元気でいいわねー」
女性教員はふふっと笑いながらしゅんりにはい、どうぞと答えを言うように促した。
その様子にブリッドは頭を右手で抱え、ルルは溜め息をついた。わざわざ目立つことをしてどうする!
「エックスイコール、十三です!」
簡単な問題を胸を張りながら言って外すしゅんりに教室はシーンと静まり返った。
「えーと。ごめんね、九なの……」
気まずそうにそう言う女性教員に教室はどっと笑いが起きた。
しゅんりはその皆の様子に席に座って頬を膨らませていた。
二限目が終了した途端、しゅんりの周りにはクラスの生徒が集まっていた。
「ねえ、しゅんりちゃんはどこから来たの?」
「ホーブルさん可愛いかったー! ねえ、連絡先教えてよー」
ワイワイと話しかけてくる生徒達にしゅんりは学生だった頃を思い出していた。
学生の時はしゅんりの机の周りには誰かがいて、いつもワイワイとしていたのだった。
「携帯持ってないの」
「えー、今どきそんなことあるの⁉︎」
「あるあるー。文通しよ、文通」
「なにそれ、しゅんりちゃん変わってるー」
この数時間ですぐに教室に馴染むしゅんりにルルは一種の得意分野よね、と思いながら廊下に出た。
トイレに行きながらすれ違う生徒一人一人に目をやる。当然といえば当然だが、制服から露出している所にタトゥーを入れている生徒は見当たらず、どちらかといえば大人しめの格好をしている生徒が多かった。
まあ、お嬢様、お坊ちゃん学校だから見えるところにタトゥーなんかしないか。
それでもルルは注意深く様々な生徒に目をやっていた。
三、四限目も特に何も無く過ぎた時、しゅんりは後ろの席にいるシャーロットを含めた数人の女子生徒に昼食を共にしようと誘われていた。
ルルはそれを見て、しゅんりはそうやって少しずつ輪を広げていく作戦でいいか、と思いながら聞き込みにでも行くかしらと教室を出ようとした。教室のドアを開けようとしたその時ルルは腕を掴まれ、驚いて後ろを振り返った。
「ルルちゃんもご飯行こよ!」
しゅんりは久々の学校生活を満喫してご満悦なのか、満面の笑みでルルを昼食に誘った。
馬鹿なの⁉︎ と、思いながらしゅんりを睨むが、後ろにいる他の生徒の存在に気付いてルルはすぐに作り笑いをした。
「え、ええ! 是非!」
あとでぶん殴ってやる、と心に決めてルルはしゅんり達と共に学食へと向かった。
その後、特になにも変哲もなく授業を受け終わり、しゅんりとルルはシャーロットの案内で寮へと向かった。
マールン学園は全寮制で女子寮と男子寮、そして更にエレメンタリース(六から十一)、ミドルスクール(十二から十四)、ハイスクール(十五から十八)の三つ、計六つに分かれており、全て四階建てとなっている。
学生三、四人で一部屋振り分けられており、食堂、洗面台、洗濯、シャワー、トイレなど全て共用だった。
しゅんりとルルは部屋は別々にされており、ルルは案内してくれてるシャーロットと同室となっていた。
「こんな感じかしら。他に分からないことある?」
丁寧に二人を寮内を案内し終えたシャーロットは二人に分からないことはあるか聞いた。
「広いからまだ全部覚えらなさそう……」
「ふふ、確かに広いよね。なにか困ったことあったらその階ごとにマップあるし、私に聞いてもらっていいからね」
しゅんりの言葉にシャーロットはそう返事した。シャーロットちゃん優しいなーと、しゅんりが思っていた時、ある女子生徒がこちらに近付いてきた。
「おう、シャーロット」
「あ、来た来た。しゅんりちゃん、ルルちゃん、この子はスカイラー・ハリスちゃん。しゅんりちゃんと同じ部屋の子よ」
「あんたが転校生か、よろしくな! 私、エレメンタリースクールからいるからなんでも聞きな! シャーロットもまだ来てから半年しか経ってないからシャーロットもなにかあったらあたいに声をかけてくれよな!」
ショートカットに程よくつけた筋肉に日焼けしたスカイラーはそう言ってしゅんりの背中をバンっと叩いた。
「おお」
「もうスカイラーったら、しゅんりちゃん華奢なんだから力加減してやってよね」
「あははっ、そうだな! ごめんな!」
声高々とスカイラーはそう言って、しゅんりの肩を抱いて、「ほら、ここからはあたいが案内してやるよ! 部屋に行こうぜ!」と、しゅんりを連れて行った。
もう、と言うシャーロットを見ながらルルは考えていた。
ナール総括からの話ではここ一年半の間に爆破事件があった学園は私立の学園でかつ、マルーン学園のようにエレメンタリースクールからストレートでハイスクールまである学園が対象だった。そして、この半年間、爆破事件は起こってない。
今から半年前となると丁度、四月の入学シーズンにあたる。
地球全体に地震が起こり、地球上の人間が半分死に、そして土地が全て一つになったのが四月と言われており、なにかと新年度の始まりは四月となっている。
となるとだ、ここマルーン学園に半年前に入学してきた生徒が犯人の可能性が高い。
エレメンタリースクールは年齢的に厳しいと考えて、ミドルスクール、もしくはハイスクールに今学年で入学してきた生徒を絞るのがベストね、とルルの中で考えがまとまったところでシャーロットがルルの視線に気付いた。
「ん? ルルちゃんどうしたの?」
「いや、シャーロットさんみたいにハイスクールから入ってくる生徒は多いのかしらと思って」
「ふふ、さんはいらないわ。そうねー、ここはエレメンタリーからエスカレート式だけど、ハイスクールから来る生徒は三割程増えるかしら。ルルちゃん達みたいに途中から来る子は珍しいけどね」
シャーロットの言葉にルルは内心ビクッとしつつ、表上は平然を装った。
「ま、家庭の事情よ」
「そうだったんだ……。ごめんね」
申し訳無さそうに言うシャーロットにルルは冷静に監視対象として見た。
「いや、謝らないで。それより私も部屋に案内してくれるかしら? 初日で疲れてしまったわ」
体力に自信があるルルでも、慣れない環境に加えて、しゅんりの行動に一日ハラハラさせられて精神的に疲労していた。
「そうよね、部屋へ行きましょう。そのあと食堂を案内するわ。ここの調理師さんのご飯美味しいの」
シャーロットはルルにそう笑いかけて部屋へと案内するため歩き出した。
しゅんりはスカイラーの案内で部屋に着いた。
二段ベットが二つ両側の壁際に置いてあり、その手前に机も二つずつ並べられていた。
しゅんりはスカイラーの下のベットが割り振られており、郵送しておいた荷物が既に置かれていた。
「食堂は朝六時から開くから、大体六時から七時の間に皆起きてるよ。それから始業まで身支度する感じだ。消灯は二十二時だからそれまでに夕飯とシャワーも済ませて置くといいよ。ただ混雑するから朝にシャワー浴びる奴もいるぜ」
「ほーほー」
スカイラーの説明にしゅんりはうんうんと頷き、荷解きをし始めた。
「あんた見た目通り可愛いやつだな! 人形持ってきたのか?」
しゅんりは荷物からウサギの人形を手に持っていたらスカイラーが話しかけてきた。
「持ってきたらダメだった?」
ルルに最後まで無駄な物は持っていくなと言われていたのだ。それでも普段、しゅんりは大量の人形に囲まれて寝ているため、一つでも持って行きたかったのだ。
スカイラーにそう言われてしゅんりはやっぱりダメだったんだと落ち込んだ。
「ダメじゃないぜ! ほら、あたいはこの子」
そう言ってスカイラーは自身のベットから可愛いらしいテディベアを胸に抱えてしゅんりに見せた。
「まあ、柄じゃないのは分かってんだけど、これないと落ち着かないんだ」
「そんなことないよ! それにわかる。なんか落ち着かないよね」
しゅんりはそう言ってウサギの人形の手を持ってふるふると手を振った。
「しゅんり、いい奴だな」
スカイラーもテディベアの手を持ってしゅんりと同じように人形の手を振った。
「たでーまー。お、噂の転校生いるじゃん!」
「噂通り可愛いー!」
茶髪のロングヘアと金髪のボブカットに眼鏡をかけた女子生徒は順にそう言って部屋へと入ってきた。
「おかえり! しゅんり、紹介するな! クロエとゾラだ!」
茶髪のロングヘアの女子生徒をクロエ、金髪のボブカットの女子生徒をゾラと指差しながらスカイラーはしゅんりに紹介した。
「初めまして……。あの、噂って?」
しゅんりは先程二人が言っていた噂が気になって首を傾げながら聞いた。
しゅんりの反応に二人は顔を合わせながら笑い始めた。
「うふふ、桃色髪の転校生はお馬鹿さんで」
「可愛いくておっぱいでかい女の子って噂なのよ」
特に男子の間で噂になってるわよーとクロエは言ってしゅんりに近付いて、その豊満な胸を人差し指でちょんっと触った。
「ひ、酷い……」
大してクロエは力を入れてないが、しゅんりは二人の言葉に衝撃を受けてそのまま後ろのベットに倒れた。
食堂で夕食を食べてからしゅんりはスカイラー、クロエ、ゾラと共にシャワールームに来ていた。
シャワールームは脱衣所で基本は服を脱ぎ、シャンプーなどの石鹸やタオル一枚を持ち、浴室に行くシステムとなっていた。シャワーは簡易的な仕切りが一つ一つあり、かつカーテンで開け閉めするような様式になっていた。生徒全員入れるようにシャワールームの数は多かったが、とても狭かった。
そのため、ほとんどの生徒は脱衣所で脱ぐようにしていた。しかし、中には中で着脱をする強者も数人いるらしい。
しゅんりは特に周りの目を気にすることなく脱衣所で裸になってシャワールームへと三人の案内してもらって目指した。スカイラーが前で歩いて案内している時、後ろからクロエとゾラがしゅんりに抱き着いてきた。
「きゃっ!」
「うわ、すごい柔らかいー」
「ねえ、しゅんりって何カップ?」
両脇から二人にしゅんりは胸を掴まれて驚きの余り、手に持っていた荷物を落とした。
「おお、すげえな!」
二人の手によって形変わる胸を見てスカイラーは感心していた。
「二人ともやめてよ! あん、ちょ!」
「やだー、可愛い声出しちゃってー」
ふふっとゾラはそう言ってしゅんりにニヤッと笑いかけた。
「ちょっと、二人ともやめてあげなよ」
そう声が聞こえて振り返るとシャーロットがいた。シャーロットは服を着用したままでパンパンにした防水の鞄を持ってシャワールームに来ていた。そのすぐ後ろにはルルがいて「何してんのよ」と、言いたそうな顔をしていた。
「はーい、分かったわよ」
「残念。委員長の言う通りにしますー」
そう言って二人はしゅんりから離れた。
「もう、委員長じゃないって」
「シャーロットって成績いいし、優等生って感じなんだからいいじゃないー」
クロエはそう言ってシャーロットの肩に手を置いた。
「もう、私濡れたくないから行くね。ルルちゃん、あそこ空いてるから」
「ええ、ありがとう」
そう言ってルルはゆっくりと歩きながら自分同様に裸のスカイラー、クロエ、ゾララの体をバレないように見た。そして、しゅんりもルルの目線の意味を理解して周りを見渡した。タトゥーがある女子生徒はいないか……。
そして帰りも他の女子生徒にもタトゥーがないかしゅんりとルルは確認し、部屋に戻った。
消灯二十二時。
意外と真面目にすぐに寝た三人を確認したしゅんりは三人を起こさないように部屋を出て、療の屋上へと向かった。
屋上は普通出入りできないようになっていたが、しゅんりは窓から出て這い上がるようにして屋上に出た。
「よお、どうだった?」
そこにはルルはまだ来ておらず、ブリッドとタカラが先に着いていた。
「今のところタトゥーをしてる生徒は見れてない」
「そんな簡単に拝めれるわけないだろ」
「そうね、どう確認するかよね」
どうするか悩む二人にしゅんりはシャワールームでほとんどの生徒の裸を確認できる状況を説明した。
「なるほどな。じゃあ毎日シャワーを浴びる時間をルルとずらしてみるか。そしたらどの女子生徒がシャワールームで着替えてるとか絞れてくるか?」
「名前と顔を一致させないとだから時間はかかるだろうけど、いけるわ」
そう言ってルルは少し遅れて屋上にやって来た。
「あと、まだ絞れることがあるわ」
「どうやって?」
タカラの質問にルルは半年前にマルーン学園に入学してきた生徒に絞れるのではないかと三人に提案した。
「なるほど。それに関しては学園長に言ってみるか」
ブリッドはそう言って昼間に挨拶に行った学園長を思い出した。
今回、タレンティポリスの三人を潜入させるにあたって事情を知ってるのは学園長のみであった。できればもう少し協力者が欲しかったのだが、余計に不安を煽ってバレる可能性があったため、学園長のみにしたのだ。
ブリッドが実習生として、担当してくれる数学の女性教員のレイラ・ヤングが紹介してくれた時、学園長は明らかにこちらに怯えており、様子がおかしくてヤング先生にバレないか不安で仕方なかったのだ。
これ以上不安要素を増やしたくないなと思い、ナール様経由で言ってもらおうとブリッドは決めた。
「あとしゅんり、お前目立ちすぎだ」
「本当よ! これ以上馬鹿しでかしたり、巻き込んできたらぶっ倒すから!」
ブリッドとルルはしゅんりを睨みながらそう言った。
潜入するにあたってはある程度の人脈は必要かもしれない。しかし、目立っては隠密に動けないし、敵にこちらがタレンティポリスだとバレやすくなる。
「普通だよ、いつもこんな感じだもん!」
「あのな、遊びに来てんじゃないんだ。任務だぞ、任務」
ブリッドの言葉にしゅんりは反論しようとしたがやめた。確かに自分は今日、当初の目的を忘れて普通に学生生活を楽しんでいた節があったと自覚していたからだ。
「まあ、しゅんりはそのままでいいんじゃないかしら? 下手に演技する方がバレるわよ。しゅんりは仲の良い生徒を作って情報を得る方が得策だと私は思うわ」
タカラはそう言って、落ち込むしゅんりの頭を撫でた。
「お前な、しゅんりを甘やかしすぎだ」
ブリッドはそう言って溜め息を吐き、隣でルルはうんうんと頷いた。
「あんたも人の事言えないじゃない」
ブリッドには言われたくないわ、と言ったタカラに今度もルルは頷いた。
「……お前、どっちの味方なんだよ」
どちらもの意見に同意するルルにブリッドは呆れながら質問した。
「別にどっちの味方じゃないわよ。しゅんりはそのままで行く事にしましょう。この馬鹿に期待はしないわ」
「酷い! ルルちゃん、本当に酷い!」
「そう思うなら何か情報掴んで来なさいよ。そしたら前言撤回してやるわ」
ふんっとルルは笑ってしゅんりを見た。そんなルルにしゅんりは口を膨らませた。
「そんな意地悪言うならお昼もう誘ってあげないから!」
「むしろ誘わないでほしいわ! 一緒に行動してたら潜入している意味ないじゃない!」
あーだーこーだーと騒ぐ二人をなんとかタカラは収めて、今回の情報共有は終わった。
「次は木曜日とかどうかしら?」
「そうね。それまでに何か新しい進展があればルルとブリッドは私に連絡を頂戴」
タカラはそう言ってブリッドの背に乗った。
「じゃあ俺達は行くから、バレないように部屋に戻れよ」
「やっぱり階段使ったら駄目かしら?」
ブリッドの背で恐怖に震えながらタカラはブリッドに提案した。
行きはブリッドがタカラを背に乗してジャンプしながら屋上に来ていた。普段そんなアクロバットなことをしないタカラはその高さや速さ、そして落ちないのかと不安で仕方なかった。
「駄目に決まってんだろ。おら、行くぞ」
タカラの意見を一切聞きれず、ブリッドは屋上から一気に地上まで降りて行った。
「ひいっ……!」
声を上げないようになんとかタカラは耐え、無事に地面に降ろされた時、余りの恐怖にそのまま尻餅を着いてしまった。
くう、これを木曜日にするのか! 木曜なんてもう来んな、と思いながらタカラは震える足を鼓舞してブリッドと共にマルーン学園を出た。
「タカラリーダー、大丈夫かな?」
その様子をしゅんりとルルは見て心配した。
倍力化を所持するものからしたらなんて事ない高さなのだが、タカラのように身体を倍増したり強化できない者からしたら恐怖でしかないだろう。
「慣れてもらうしかないわよ。ほら、私達も戻るわよ」
「そうだよね。うん、分かった」
そう言って二人は静かにお互いの寝泊まりする部屋に戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます