しゅんり達を乗せるトラックは難民地から急いで警察署へと向かって走っていた。窓から見える光景を見てワールは震えた。あの広大な砂漠地帯が炎に包まれていたからだ。燃えるものもないのにまだ光合しているあの中にいれば一瞬で死ぬだろう。顔を上げて空を舞う生物を見る。あれが噂の一条総括の獣化した不死鳥の姿。この強さを勝る異能者はいないと噂されている。見たものは長年タレンティポリスにいる総括レベルの者しかいないと言われていた。まさかタレンティポリスに所属して三年しか経っていない自分がお目にかかれるとは思ってなかったと少し感激しながらワールは窓の外の光景を見続けていた。

 それに反してしゅんりは窓から見える光景に収まりつつあった震えが更に強くなった。あの時もそう、こんな酷い戦地であった——。

 

 

 

 十五年前、しゅんりは戦争真っ只中の街に産まれた。街は荒れに荒れ、スラム街と化していた。それでも両親に愛されていたとしゅんりは記憶していた。まあ、でもよくある話だ。そんな両親はある男に目の前で殺されたのだ。街の中、殺されていく人、軍人、人、人、死体、人、死体、軍人。

 幼いしゅんりも容赦なくこの男に両親の後を追うように殺されそうになったまさにそんな時、中年の男がしゅんりを庇う様に前に出て、しゅんりを殺そうとした男を殺したのだった。それは誰だったのか、名前も顔もはっきり覚えてないが彼が使用した武器ははっきり覚えてる。しゅんりが今使用しているこのアンティーク調の銃であった。

 それからしゅんりはその男に連れられ、異能者であったしゅんりを異能者を教育する学校へと入れた。幼さ故か、両親が目の前で殺されたショックのせいか、自分が誰か名前も忘れたしゅんりに男は"しゅんり"と名前を付け、生活できる場所と自身の両親の仇を打った銃を与えてくれた。それはしゅんりにとって残酷な記憶でもあり、かつその中年の男は心の支えになり、親にも近い感情すらもっていた。なにか辛くなった時いつもしゅんりは中年のあの男を思い出し、貰った銃を抱きしめた。

 今回もそうだ。脳内にはあの中年の男のことを思い出し、車内の端でポロポロ涙を流しながら自身の銃を胸に抱えた。

「おじさん……」

 ボソッと呟いたしゅんりをオルビアは見た。オルビアとタカラはしゅんりがこうなる可能性はあると予測はしていた。しゅんり自ら過去の事を伝えてきたのは一緒に任務をこなしてきて半年程経った時だろうか——。

 ウィンドリン国リーシルド市、大型ショッピングビルにて大規模な爆発事故が起きた。ビル全体が炎に包まれ、消防士とともに協力しながら鎮火活動と人命救助を行っていた。次々とビルから人々が避難する中、亡くなってから運び出される人も当然いた。しゅんりはそんな光景を目の当たりにし、震えながらその場にしゃがみ混んでしまったのだった。その様子を見たオルビアとタカラ、マオはしゅんりを現場から引かせ三人で任務を続けたのだった。その後、しゅんりから過去にトラウマとなるあの出来事を聞くこととなったのだ。

 当時十四歳の少女が自身の悲しい過去を体を震わせながら三人に話した。もともと人間から蔑まれる異能者は悲しい過去を背負い込んでいることは珍しくない。しかし、両親を目の前で殺され、自分が本当は誰だったのか分からなくなったしゅんりに三人は胸が痛んだ。それからオルビアとタカラはしゅんりに生死の関わる任務を避けるようになった。タレンティポリスとある以上、そのような任務をするのはいつかは避けれなくなる。しかし、もう少し、身体的に、そして精神的にも大人に近付いてから慣らしていこうとオルビアとタカラは考えていたのだが、それが逆に裏目に出てしまった。

 震えるしゅんりにオルビアはそっと近付き肩を抱き締める。しゅんりは一瞬目を見開いてオルビアを見た。優しい眼差しで自身を見てくるオルビアにしゅんりは顔を歪めてその胸に飛び込んで更に泣いた。

 そんな様子を他の療治化の異能者は呆れる者もいれば同情する者もいた。

 数分後にはしゅんり達を乗せたトラックは目的地、警察署に無事に辿り着いた。到着後すぐにトラックの後ろのドアが開かれ、翔がいた。

「しゅんり、大丈夫?」

 翔は真っ先にしゅんりの元に向かった。上半身裸の上にボロボロのジャケットを辛うじて着ている翔の体は所々に傷を負っていた。そんな翔の姿を見てしゅんりは顔を歪めた。自分が戦力になっていれば翔はそんなボロボロな状況にならなかったかもしれない。不甲斐ない自分に情けなくなり、しゅんりは顔を伏せた。

「しゅんりは大丈夫よ。それより翔君は私達を迎えに?」

しゅんりに代わりオルビアが返答する。未だに元気のないしゅんりに翔は不安な気持ちになりながら未だに意識のない大柄な男を見た。

「いや、僕はあの男を回収しにきました」

「そう、助かるわ。ここにはこの男を今運べる異能者はここにいないもの。じゃあお願い。私達もナール総括のところへ行くわ」

「はい。あとオルビアさん、ルルが負傷しているので治療お願いできないでしょうか?」

 翔は大柄な男を抱えながらオルビアに療治化の依頼をした。そんな翔の言葉にしゅんりは目を見開く。ルルちゃんが負傷? ああ、私のせいだ……。

 しゅんりはふらっとよろめきオルビアに体重を預けた。その様子を見た他の療治化の異能者が「オルビアさん、私が負傷者の手当をします」と言い、先に本部室へと向かった。

 オルビアはしゅんりの肩を抱き、なんとか歩かせて、全員でナール総括達のいる本部室へと向かった。

 

 

 

 しゅんりはオルビアに支えられながらなんとかナール総括達のいる本部室へ到着した。先に難民から戻っていたブリッドは本部室へ入ってきたしゅんりを見ると、勢いよくしゅんりに向かっていった。

「おい、こらしゅんり! お前なにふざけたことしてくれてんだ! 場合によっては相手を殺すことも考えておけって言われてだろう!」

 あの不利な状況の中、敵を殺すことへ躊躇い、かつ戦闘不能になったしゅんりに対しブリッドは怒っていた。一條総括が来たからこそ全員生きて戻って来れたが、一條総括がいなければ全滅だったのだ。しゅんり一人でも抜けたのは三人にとって大打撃だったのだ。

「ブリッドリーダー、落ち着いてください!」

 翔は大柄な男を抱えていない腕でなんとかブリッドを制した。そんな翔にブリッドは睨みつけながら怒鳴った。

「落ち着いてられるかボケ! 一発殴らせろ!」

「女の子相手になんてこと言ってんですか!」

 翔とブリッドが言い合いしてる中、しゅんりはどうしたらいいのか戸惑っていた。そんな時、しゅんりは頬に強い衝撃を受けた。まともに受身をとれなかったしゅんりは本部室の奥へと転がっていった。騒がしかった部屋がシーンと静まり返る。一瞬のことでその場にいた全員理解できず、倒れているしゅんりを皆見ていた。

「わらわは言ったはずよ、場合によっては相手を殺すことも考えておけと。なのにおぬしはそれが出来なかったと言うのか?」

 低い声でしゅんりにそう言い、入り口付近に立つナール総括を皆して見る。しゅんりを殴ったのはナール総括だったのだ。ゆっくりとしゅんりに向かって歩くナール総括をみて、同じチームであるタカラ、オルビア、マオはしゅんりを庇うよう前に出た。

「ほお、おぬしらわらわに逆らうのか?」

「め、めめめっそうもないです!」

 怒りを露わにするナール総括に震えながらマオをそう言った。それに続いてタカラが一番前に出てナール総括へと目を合わせた。

「ナール総括、大変申し訳ございません。これは私の教育不足だったのが原因です。敢えて今まで生死に関わる任務を避けてました」

「それは何故そうした。申してみよ」

「いや、ここでは……」

 タカラは周りの様子を見る。こんな大人数いる中、しゅんりの過去を晒すことはできない。一向に理由を話さないタカラにナール総括は溜め息をついた。このチームはなんと愚かで、優しすぎるのだろうか。

 しゅんりを殴ろうとしていたブリッドは目の前でナール総括に殴られたしゅんりを見る。別に本気で殴るつもりはなかったのだが、手持ち無沙汰になった握られた右手を見てからブリッドは翔を見た。

「なんですか、見ないでくださいよ」

 しゅんりがナール総括に殴られたところを見た翔は阻止できなかったやるせなせでいっぱいだった。そんな時男に見られていい気分などになれるはずない。

「いや、お前のこと一発殴る約束してたよなって思って」

「……してない、してない」

「いや、したした。殴らせろ」

「あんたね、こんな時に何言ってんですか。空気読んでくださいよ!」

「うっせー、空気読んでなんの得になんだよ」

 また騒ぎ出す二人にナール総括は近くにあったパイプ椅子を投げつけ黙らせた。

「うわ!」

「ぐっ…!」

 見事にクリーンヒットした二人はうめき声をあげる。そんな二人をナール総括は睨みつけた。

「こんな時に騒ぐなど愚の骨頂。おぬしら二人ともわらわに殺されたいのか?」

 ドスを効かせながらナール総括はそう言い、二人を黙らせると、ナール総括は再度四人に向き合った。

「タカラ、おぬしのリーダー職を剥脱する。タカラチームは解散じゃ」

「な! 待ってください! 処罰は私だけでお願いします!」

 床に座り込んでいたしゅんりは目に涙を浮かべながらナール総括に懇願した。私しか悪くないのに三人にも迷惑がかかるなんてダメだ。そんなしゅんりにナール総括は舌打ちをし四人を睨んだ。四人ははそんなナール総括に体を震わせる。普段のナール総括とは違い、別人のように冷たく、今にも殺しにかかるような表情であった。

「これ以上なにかわらわに何か申してみよ。……分かるな?」

ドスを効かせながらそう言うナール総括に四人は言い返す事ができなかった。

「ジーム警視長! 大変です、侵入者です!」

再び静まり返る本部室に慌ただしく警官が勢いよく入室してきた。

「こんな時になんなんだ!」

 異能者達のそんな様子を見て恐怖していたジーム警視長とループス大将は身を寄せるように部屋の端にいた。声を震わせながら異常事態に困惑しながら警官に問う。警官はそんな様子に気付く余裕なくジーム警視長に報告した。

「大柄の男がこちらに向かってきてます! こちらの攻撃が通用しません!」

 警官の言葉を聞き、皆して気付く。異能者だ。

 まさかあの炎の中から生存者がいるとは思わず油断していた。ナール総括は心の中で舌打ちし、その場にいた者に指示した。

「動ける者はわらわの後に続け!」

 ナール総括の言葉にブリッド、タカラ、翔と続き、魅惑化の三人はナール総括に続いて本部室から出ようと入り口に向かった。

「おぬし、敵の特徴を言えよ」

「え、特徴……」

 異能者の圧倒的な威圧感に警官は口籠もる。そんは警官にナール総括は胸倉を掴み、再度問いただした。

「今わらわは余裕がない。早う言うことだ」

 感情を剥き出しにするナール総括にブリッドは横に立ち、男に「なんかあんだろ? 何か武器を使用してるだとか、尋常じゃない力を使うとか」と、ナール総括の言葉に補足した。男は二人の気迫に恐怖しながらなんとか返答した。

「が、ガタイが良い男でこちらの銃が効かない!」

 その言葉にブリッドは顔を歪める。倍力化か。なにか銃などを使用していればタカラの武操化など使えたのにと考えていた時、警官は侵入者の特徴を更に話した。

「あ、あと侵入者は裸だ!」

 その言葉にその場にいた者全員理解できず思考が止まった。裸? 何故そんな無防備な格好をしているのだ、と。そんな中、翔だけがその人物が誰か理解した。

「えーと……、はい、質問いいですか?」

 翔は申し訳無さそうな顔をしてながら控えめに手を挙げ、警官に声をかけた。

「その侵入者、黒髪のオールバックで顎髭を生やしてますか?」

「そ、そうだ! 何故見てないお前が分かるのだ! はっ、お前まさかあいつと同じ敵か!」

 そう言うと警官はナール総括から勢いよく離れて翔に銃を向けた。そんな警官の銃を持つ手をブリッドは軽く叩いて発砲を阻止する。その場にいた全員は翔を再度見た。顔を両手で隠しながら翔は困惑する警官に消え入る様な声でお願いをした。

「すみませんその人、僕の父です。服を貸してあげてください……」

 

 

 

 その後、囚人服を着用した一條総括が本部室へ入室した。腕を組み、堂々と立つ姿にブリッドは困惑した。あの難民地を炎の海にした人物が裸体で警察署に入り、今は囚人服を着ているのだ。どんな人物なのか気になっていたが拍子抜けた気持ちになりながら翔を見る。翔は恥ずかしい気持ちになりながらブリッドからの視線を外した。何も言わないで欲しい。

「父さん、服はどうしたの」

 獣化すると服が破れて着れなくなることは多々ある。そのため獣化する前に脱いで置き、再度着用するよう翔はいつも心掛けていた。しかし一条総括はそんなことを気にせず獣化する事が多かったのだ。

「む、服か。急いでいたのでな、本部で脱いで飛んできた」

「な! まさかあの姿できたの!?」

 あの不死鳥の姿で本部から来たと言うのか。あの姿を一般の人間が見たら大騒ぎ所ではない! 

 驚きの余り声を荒らげた翔に対し、一条総括は何を思ったのか息子に親指を上げ、グッドサインを出した。頭を抱える翔を無視し、一条総括は周りを見渡した。

「誰も死者はいないか、それは良かった」

 一條総括はそう言いゆっくり頷いた。そんな一條総括にナール総括は近付き頭を下げた。

「一条総括、わらわ達だけではこの任務果たせは出来なかった。感謝する」

「いや、この人数では無理だっただろう。間に合ってよかった」

 ナール総括は一条総括を見て頬を赤く染めた。いつ見ても素晴らしい獣化に圧倒的な力。憧れの存在とまた任務をできたことにナール総括は喜びを感じていた。

「ちっ」

 獣化に対し憧れを持ち、一条総括に頬を染めるナール総括の様子にブリッドは舌打ちをした。ナール総括は以前、一条総括の部署に所属していた。実は今から二年前に総括へと昇進したばかりであった。

 一条総括はブリッドをチラッと見た後、本部室で今だに気を失なっている大柄な男を見て、近付いた。

「おい、久しぶりだな」

 大柄な男の頬を何度か叩き、目を覚まさせる。目を開いた大柄な男はゆっくりと瞬きしながら目の前の人物を見て呟いた。

「翼翔か……?」

「ああ、フリップ」

なんと二人は知人だったのかと周りは驚きを隠せずにいた。そして一条総括は男の服を破き始めた。

「な! 父さん、何してんだよ」

「翔、黙って見とけ」

 焦る翔に対し、一条総括は息子に淡々と返答し、大柄な男、フリップの上半身を裸にした。

「おいおい、こんな所で俺を犯す気かよ」

「残念ながら俺にはそんな趣味はない」

 フリップの裸を皆して見る。左胸には手のひらサイズのサソリに羽が生えている気味の悪いタトゥーが彫られていた。

「皆して見ておけ。戦った敵は今回で全員ではない。敵は自分達のことを"エアオールベルングズ"と名乗り、仲間の証にこのタトゥーを体のどこかに刻んでいる」

 一条総括の言葉にその場にいた者全員に戦慄が走る。そうではないかと思っていたことが確信になった。異能者首謀の戦争が始まったのだ。

「そこまでバレてるってことは他もしくじったみたいだな」

他人事のようにくくっと笑うフリップを睨み、一条総括は思う。かつて同志として共に戦った男がここまで堕ちるとはな。私情に任せて殴りたい気持ちをなんとか抑え、本部からの伝達をこの場にいる者へ伝えた。

「今より今任務は終了し、本部へ帰還する。フリップとそこにいる軍人は重要な情報を持っているため殺すな。本部で事情聴取する。そして四大国合わせて緊急会議を明後日から一週間行うこととなった。本国、ウィンドリン国からは俺とガルシア、そして魅惑化の総括のルビー・クラークが代表して出席する。翔、お前は俺の補佐として来い。では帰るぞ」

 一条総括はそう言い、フリップに一発入れ、再び気を失わせた。それに合わせ他の者も本部へとの帰還するため準備を始めた。

 "補佐"とは総括の跡を継ぐ者の事を指す。獣化はもともとその能力を持つ者も少なく、翔は一条総括の息子の為、補佐となるのは必然であった。ブリッドはそんな翔を羨ましく思いつつ、いつか自分もナール様の補佐になってやると心に決めて、帰還の準備を他の者と一緒になって進めていた。

「では、しゅんり。わらわの付き人として会議に来い」

そんなブリッドの思いを砕くようにナール総括はしゅんりに声をかけた。

「え? 私ですか!?」

困惑で声を上げたしゅんりにその場にいた者がしゅんりを一斉に見る。こんな失態を犯したしゅんりをまさか補佐に任命したのかと。

「ナール様! それは納得できません!」

 いつもナール総括の言うことをいつも従順な犬のように聞いてきたブリッドであったが、さすがに今回は反論した。

「ほお、わらわに反論するかブリッド」

 目を細めブリッドを見るナール総括。今気が荒立っているナール総括は何するか分からない状態にあったが、そんなことを臆することなくブリッドはナール総括に勢いよく近付いた。

「さすがのナール様の判断であっても納得いかねえ! なんでしゅんりが補佐なんなんだよ! しかも倍力化はグレード2だ!」

 ナール総括より身長が高いブリッドはナール総括を見下し、捲し立てる様に声を上げた。そんなブリッドにナール総括は溜め息を付く。

「わらわは"補佐"とは言っておらん。"付き人"と申したのだ。お前の耳は節穴か?」

「え? ああ確かそう言っていたような……」

ナール総括の言葉を思い出そうとするブリッドにナール総括は睨み、次にしゅんりに目を向けた。

「明後日から始まる会議に来い、しゅんり。そして今わらわ達が置かれる現状を知り、その甘い考えはもう通らないといことを理解せよ」

「わ、かりました……」

 しゅんりも自分が補佐として選ばれたのかと勘違いしてしまい、少し恥ずかしい気持ちになった。ブリッドはしゅんりが補佐に任命されていた訳ではない理解したが今だに納得がいかずにいた。

「ナール様、俺も行きたいです、会議!」

「はあ?」

 子供の様にナール総括にお願いするブリッドにナール総括は顔を歪める。

「おぬしはバカか。連れて行く訳なかろう」

「俺、絶対役に立って見せます! ここにいた侵入者を見つけたのも、現場にいたのも俺です!」

 そう力説するブリッドにナール総括は頭を悩ませた。確かにそうだが二人も付き人として連れていくのは如何な物か。

「ブリッドリーダーがナール総括につくなら僕もナール総括に付いて行きます!」

 翔はブリッドとしゅんりが二人になるのを避けるため声を挙げた。ブリッドはしゅんりに対して怒りの感情がある。二人きりにしてたまるか、そう思いブリッドを睨みながら翔は自身の父ではなくナール総括に付くと意見した。

「お前、一条総括の補佐で行くんだろうが!」

「ブリッドリーダーが行くなら僕はそっちに付く!」

「はあ!? 何訳分かんねえこと抜かしてんだ!」

「はい、はい! 私も会議行きます!」

 再び言い合いを始める二人にタカラも続けて会議へ出席したいと申し出た。今のしゅんりの精神的フォローをしたいと考えての行動だった。

「なんだい、何か楽しそうじゃないか。僕も行こうかな。どうだい、ミアとカミラも行くかい?」

「そうね、あっちの男とは遊んだ事ないし行きたいわね」

「まあ、あの侵入者から話を聞いたのは私ですし、行かなきゃいけないなら行きます」

 またまたそれに続き魅惑化の三人もその場のノリに乗って会議へと出席すると手を上げた。わちゃわちゃと賑やかになる状況にナール総括は頭を抱えた。ピクニックに行くのと勘違いをしているのではないか此奴らは。困ったナール総括は助けを求めて一条総括を見る。ナール総括の目線に気が付いた一条総括は親指を立ててグッドサインを出した。こんなにも元部下であるナール総括が部下に好かれている姿を見て一条総括は嬉しさを感じていた。いや、そうじゃないのだがと呆れてナール総括は溜め息を付いた。

 マオはそんな周りの状況を見て、自身も手を挙げるべきかと悩んでいた。いつも鈍臭いと言われ、周りのペースに着いて行けてないとよくバカにされていた。ここは皆に合わせて手を挙げないといけない感じなのか、そうじゃないのか。悩んだ末、手を挙げようとした時、オルビアがマオを制した。

「いやいや、乗らんでいい、いいから」

「あ……、はい」

 また僕は空気を読めなかったのかと少し悲しくなったマオであった。

 そんな時、ナール総括の携帯が鳴る。開くと本部から明後日行われる会議の詳細が送られてきた。今回出席する総括のメンバーを見て笑みを浮かべた。

「おぬしらいい加減に黙らんか」

 ドンっと床に足を下ろし、ナール総括はその場にいる者に声をかける。一度床に足を下ろしただけでビル全体が軽く揺れた。ナール総括の怒りに触れたかと再び静まり返る部屋。しかし、不気味に笑みを浮かべていたナール総括に皆、動揺した。

「今回、わらわの付き人として連れていく者を決めた。しゅんりとブリッド、おぬしら二人だ」

「よっしゃあ!」

 ナール総括の言葉にブリッドはガッツポーズをし、翔は反論した。

「な! 僕、僕もナール総括に付いていきます」

「翔、おぬしは父親について行け。タカラ、おぬしはブリッドが不在の間、ブリッドのチームを任す。魅惑化はルビーに聞け」

 タカラリーダーは一緒に来ないのかと肩を下ろすしゅんり。この一週間不安だなと思ってた矢先、ナール総括の言葉で不安から恐怖に変わった。

「だがブリッドよ、タダでは連れて行かん。おぬしは会議の一週間の間にしゅんりの倍力化のグレードを2から3へ上げよ。出来なければ二人とも何かしらの罰を与えようよ」

 ナール総括の言葉にしゅんりとブリッドの二人とも開いた口が閉じれなかった。一週間でグレード2から3にあげるなんて無茶すぎる。

「反論は認めぬ。ふふ、会議が今からとても楽しみだのう」

ナール総括はそう微笑みながら二人に反論すらさせる暇なく部屋を退室した。

 

 

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