ブルーノート

まほろ

第1話

手のひらに掬った海が青ければ恋を疑う事も無かった


桜散る空き地に錆びたドラム缶四月の雨に満たされるまで


木漏れ日は頬を擽る笑い声まためぐり逢う葉桜の頃


六月の灰色の雲間に歪む35.5度の太陽


太陽が昇れば地下は雨の中鮮やかなのは傘の色だけ


夕立が銀の星屑ばら蒔いて道に描いたあの日の夜空


水平線に咲く雲は夕立の向こうに消えたスカートの色


太陽を抱いて君は逆光の中で生身のロザリオになる


御座なりに引き寄せた肩黄昏は焼けた素肌も少し冷たい


面影に触れた月夜の掌にコンクリートがなま温かい


飲み干した瓶詰めの夜空に混じる遠い未来の切なさの種


懐かしいシャンプー香る浴室の鏡の前にボトルが五本


星達が水平線に飛び込んで銀の鰯の群れ泳ぎ出す


水面に置き去りにした満月を見上げて聴いた心臓の音


茅の穂も揺らさず昇る満月に羽を焼かれた蝶が降る夜


頬に積む雪も融かさず野良猫は目抜通りの讃美歌を聴く


初恋の匂いの残るセーターを膝掛けにしてやり過ごす夜


君が見る夢の隣で雨粒を全部数えて銀色の朝


冬の朝結露が編んだクモの巣に囚われたまま沈めない月


限り無く広がる純な青空に夜の名残の白い満月

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